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アスデモス領へ

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母とリズヴァーンと3人で馬車に乗って東へ。

家を出るまではゴタつきました。
何がって、兄以外にないでしょう。
俺に残れと散々ごねましたよ。

流石に自分が主体となっている大和の国の菓子屋の出店を置いてまで、領地へ戻るとは言わなかったけど、残れ残れの誘惑が……。

「キャシー、ほらカネダさんが豆煎餅を作ってくれるそうだよ」
「見てごらん、きなこ棒という菓子だって」
「カルメ焼きって不思議なお菓子だねぇ」
「キャシー、ソーカさん達に新しい菓子の案を聞きに行こう」 

それに便乗して、どんなお菓子でも美味しく食べる俺を2ヶ月近くも側から話したくないらしいカネダさん達も、次から次へ新しい菓子を出してくるし、面白がってなのかヤスハルまで、

「流しそうめんと言う物をやろうと思っているんだけど、家へ遊びに来ない?」
「おばあちゃん特製の白玉あんみつ、とっても美味しいんだよ」
「はもの湯引きってあっさりして暑い時期でもさっぱりとして美味しいんだよ。
夏野菜の素揚げも良いよね~。
でもキャスティーヌ様はどんな物が知らないよね?
気にならない?」

どれも知ってるよ!
知らないフリしなきゃいけないけど、全部食べたことあるから想像できるよ!
それに最近マジ太ってきたから、甘い誘惑(いろんな意味で)はや~め~て~!

そんな誘惑を何とか振り切って、今は馬車の中です。

よくよく考えると、物心ついた頃から今まで、こんなに長く兄から離れたことないんじゃないのか?キャスティーヌは。

元々リズヴァーンは無口だし、俺も脳内会話は活発だけど、あまり口を開くとボロが出るから率先して話さない。
母が居てくれなかったら、十日間の馬車の旅が、通夜の様になっていただろうね。

王都からうちの領地で一旦止まり、祖父母に挨拶をして、祖父母も共にリズヴァーンの家へ向かう。
そこで祖父母と母は一泊して戻る。
俺はそのまま父や兄が領地へ戻るまで、リズヴァーンの家で過ごし、残りは自分家で過ごす予定だ。

約一月、リズヴァーン家で無事に過ごせると良いんだけどね。

道行は、夏だから北ルートで、冬に帰宅した時と違う北方の美味しいものを目一杯堪能しました。
うん、ご飯が美味しく食べられるのは良いことだよね。
でも、食べ過ぎて何度も気持ち悪くなったのは自業自得かな。

家に到着して、祖父母に挨拶したら、暫し休憩。
サロンでお茶を飲みながら、卒業式の様子やその後の謝恩会で兄が大人気だったことを話すと、祖父母は大喜びだ。
兄が携わる店の経緯も興味深く聴いてくれた。

「大和の国か、オリモノと呼ばれる布地は見たことあるけど、独特な柄と感触だったな」
「私は以前ユトウフと言う料理をいただきましたけど、柔らかくほんのり味がついてさっぱりとした、不思議な食べ物でしたわ」
「後輩のタカナシ様を通じて、色々な種類の食べ物をいただきましたけれど、どれも美味しかったですわ。
お兄様は2年の内にお店を軌道に乗せて、領地から指示できるような体制を整えたいと仰っていて、今頑張っていらっしゃいます」

俺が卒業するまでの二年間は、騎士団にでも入ろうかなど言ってたけど、お店を遠い領地からでもオーナー業務ができるように、色々考えたりなんたりして過ごすみたい。
で、俺が卒業したら領地へ一緒に戻る……予定だったけど、このまま行くと俺は卒業と同時に嫁入だよな。

まあ隣の領地だし、兄なら馬を飛ばして日帰りできる距離だから、ちょくちょく顔を合わせるだろう。
そう考えると、この一ヶ月が兄と一番離れている期間になる。

本人には言わないけど、実はちょっと心許なかったりするんだよね。
だって兄のこと嫌いじゃないし。
シスコンだけど。

姉はいたけど、兄が欲しかったから、ちょっと嬉しかったってのもあるし。
シスコンだけど。

しかも頭も性格もよく、運動も出来る出来過ぎ君な兄だし、コンプレック持つより純粋に「スゲー」って思える。
美少女フェイスのシスコンだけど。

そんな兄は両親は勿論、祖父母にとっても自慢の孫だ。
兄のスゲー話を聞くのがとても楽しそうだ。

そして、隣に座るリズヴァーンも楽しそうだ。

一通り話をして再び馬車へ。
二台に分かれてリズヴァーンの領地へ移動です。

「キャスティーヌちゃん、待ってたわ!
もう、ワクワクしちゃって昨日はうまく眠れなかったくらいよ」
「いらっしゃい、キャスティーヌ。
いや、これからはお帰りになるのかな?」 
トーマおじさんも、マギーおばさんも大歓迎だ。

大人同士も挨拶を交わして、屋敷へ通される。
一ヶ月間宿泊する部屋は、いつも来た時に泊まっていた一階にある客室ではなく、二階の部屋だった。

おおー、部屋の中は【いかにも女の子の部屋】って感じで、壁紙やカーテンは、明るい色の小さな花柄で、ベッドは淡いピンク、可愛い鏡台にテーブルとソファーのセット。

生前に泊まったホテルなどと違うのは、クローゼットは無く(メイド達がドレスなどを管理してるから、自分で準備しないので、部屋には服や靴は置いていない)各部屋にバストイレは無い。

貴族の屋敷だからお風呂は有るけど、各部屋になど付いていない。
元々毎日風呂に入る習慣があまり無い。
洗浄の魔法をかけるか体を拭くかで、清潔さを保っている。
風呂は趣味で入るって感じなのかな?

トイレも一階にしか無い。
ちゃんと水洗だ。
ボットんではないけど、個室が3個並んだ、男女兼用なお手洗いだ。

この世界は、平民の家にトイレはなく、共同トイレが町中に何箇所か有るらしい。


俺用の部屋には出入り口のドアと別に後二つドアがある。
開けてみると、一つはお付きの控え室で、小さな机と椅子が一つ、それにお茶の道具や水の入った壺?やタオルなどが有る。

もう一つのドアは……リズヴァーンの私室だった。
え?何?これはアレか?
廊下に出ずに夜這いが出来る、新婚さんやカップルに対しての親切設計なのか?

いやいやいやいやまて!
一応婚約はしてても嫁入り前の娘だぞ!
既成事実を作らせようとしてるのか?
既成事実は既に有るっちゃあ有るけど、それは儀式だし。

しかも鍵が付いていない……だと…?

これはもう、リズヴァーンの良心にかけるしかないか。






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