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珍しい獲物

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話は戻って…、王子は詳細を伏せながらも、過去の過ちを国民へキチンと公表し、対処をする事で、民の信頼を得ることと、同じ過ちをこの繰り返さない自戒を促せているのではないかと伝えたと。

まず貴族の意識を徹底的に矯正したら、上の者の背中を見る民の意識も変わった、って事なのかな?
基本的に真面目で素直って、お国柄もあるだろうけど、俺個人としては頭の隅に【姉貴の造った女性向けゲームの世界だから悪意が少ないのでは】って考えがある。

まあ、何はともあれ、問題が少なく住み良い世界なのは大歓迎だ。


王子が聞いたハルモリ達の国の話も聞かせてもらった。

一つの国になったからって、人種も違えば思想も違うから、小さなトラブルは尽きないそうだ。

だからこそ若者が冒険者として、色んな国から学べる物事を吸収し、これからの国の運営に役立てる、そういう意味も有って、多数の冒険者が色んな国へ向かっているんだって。

うちも他国の失敗談は反面教師の材料の一つにしているよ。
でも内陸部の国だから、海を渡った他国まで行くことなんて、まずないからね。
こうして海を渡って来た人達や、留学生からの話は聞けるだけ聞きたいってのが、王子達王族の考えだろう。

アキチカ達とどういう話をしたかも聞かれたけど、詳しい話はおじさんが書状で報告するだろう。
お互い情報を引き出して国に報告するのは、当たり前のことだよね。

でもその情報を悪用しないのがうちの国の良いところだと思う。


一通り情報交換した後で、王子は客室で休むこととなったので、俺とリズヴァーンも部屋に戻った。

俺はソファーにもたれかかり、色々考えているうちに寝てしまったようだ。
マリアンヌに起こされた時には、ハルモリ達が戻った後だった。
何だか眠くなることが多いよなぁ、気が緩んでるのかな?

賑やかな声に誘われて庭に出てみると、狩りに行ったメンバーと別行動だった筈のおじさんとハルモリ達、それに王子、リズヴァーンに加えて、屋敷に勤め人も庭に集まっていた。

何事かと俺も近づいてみると、そこでは狩って来た獲物を解体していたので、Uターンしようかと思ったんだけど、獲物の姿が目に入ったと同時に足が止まった。

「え?緑猫?」
思わずこぼれた声に、近くに居た庭師のおじいさんが頷きながら答えてくれる。

「凄いですわな、緑猫を捕まえる人なんて、初めて見ましたわ。
見てくださいよ、あの毛艶、あれは高く売れますよ」
おじいさんの声が聞こえた人達も、うんうんと頷いている。

緑猫……正式名称は【グリーン パンサー】と呼ばれているけど、実はこいつ猫でも豹でもない。

豹柄の大型種なんだけど、毛の色は名前の通り緑色で、肉食獣らしい鋭い爪を持っているのに、実は草食。
しかも木の葉が主食で、鋭い爪で地面を走る早さで木を駆け上り、しなやかな体で木から木へと飛び移る。
見た目と行動が猫っぽいので、色違いの豹だと思われていて、名前がつけられたと。

しかも基本木の上で生活しているので、捕まえるのに一苦労。
矢も魔法も、木の枝に邪魔されて届かない。
しかも地面の上と同じくらい、縦横無尽に木の上を移動するから、捕らえるのは困難だ。
老衰や病気などの理由で木から落ちた死体を、見つけられたらラッキーくらいの動物なのだ。

だからこそ毛皮は高値で取引される。
でも死体から剥いだ毛皮は、肉食獣に食い荒らされた後だったりするので、細切れ状態だったりする。
それでも、たとえ継ぎ接ぎでも、めちゃくちゃ高値なんだよね。

そうなると、このどうやって捕らえたのか、傷一つなさそうな毛皮…しかも3頭分なのだから、一体いくらになるのか想像もつかない。


俺は毛皮にばかり考えがいってたんだけど、リズヴァーンは違ったようだ。

「どうやって捕らえたのですか?
見た感じ剣で切った形跡もないですし、矢傷も見当たらないようですが」
「魔法で仕留めましたよ」
ハルモリが答えるけど、魔法を食らった跡もないよね?

「魔法は届かないと思いますが」
「だよね、木の枝が邪魔だし、逃げ足早いし。
だから魔法を合わせたんだよ」

チムチムリーの説明によると、最初は双子が、風魔法と水魔法を当てようとしたけど、やはり木の枝が邪魔で全然当たらず、こちらを挑発するように、矢が届くか届かないかの所を行ったり来たりしていたそうだ。

そこで、チムチムリーが拘束の魔法をかけて、ハルモリが水魔法で緑猫の顔を覆い、溺死させたと。
落ちて来た死体はなるべく傷を付けないように、アッスルムが受け止めた、と。

「それを2
匹繰り返した結果がこちらです」
深夜の通販番組みたいな口調で言うのはアキチカだ。
兄の功績にドヤ顔をしている。
逆にミヤミヤムーは渋い顔だ。

「しかしこの大きさで質の良い毛皮だと、この領での買取は難しいだろう。
ハルモリさん達はこの毛皮どうします?
持っていかれますか、それとも売って現金にして行かれますか?
売られるのなら、私が買取させていただきます。
現金でも良いですし、宝石などと等価交換しますか?」

おお、流石王子、このとてつもなく高価な品を買える金を持ってるのか。

冒険者達で話し合った結果、一匹分は宝石と交換して、残りは持って行くことになった。

現金だと国が違えば使えないけど、宝石や貴金属って、どの国へ行こうとも換金できるからね。
一匹分は土産に、残りの一匹分は、旅の途中で何かあった時に換金して、旅費の足しにすると。
何もなかったらそのまま国へ持って帰ることにするそうだ。

緑猫の毛皮なら、どこでも高額が付くし、うちの国より高値がつくところも当然あるだろうから、換金アイテムには良いかもね。

いやー、でも拘束魔法からの溺死とは、素材を傷めず獲物を獲れる良い方法を聞いたよね。
………犯罪者にも使えそう、なーんて考えてしまったけど、この国にはそんな極悪犯はいないからね。
魔獣や獣に使って欲しい。

因みに緑猫の肉は、牛すじのような感じの肉で、くにくにのトロトロになるまで煮込んで、美味しくいただきました。





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