哀歌-miele-【R-18】

鷹山みわ

文字の大きさ
3 / 52
エンカウンター

エンカウンター-2-

しおりを挟む
ライブ終わりは達成感と高揚感で体が熱い。
熱気がまだ籠もっていて、誰にも触られたくなかった。際どい部分に触れたら一瞬で失神しそうなくらいに。
汗だくの衣装を脱いで、この後のファンサービスのためのライブTシャツに着替える。

「今日は女性三人と男性一人、親子一組。時間は五分。いつも通りでよろしくお願いします」
「はーい」

マネージャーの言葉に剛史は頷く。
バランスが良かった。女性ばかりだと気疲れするし、後で不公平だとSNSで言われることがある。
公平にするために、ライブの最中にチケットの半券を無造作に引いて、その座席の人をツアーに招待しているだけなのに、意図的ではないかと以前古参のファンに叩かれたことがあった。
面倒くさかった。こちらは何も考えずにやっているのに。

どうして少数は間違った方向に捉えてしまうのだろう。

夢を与えるアイドルなんかではないのに。どこまで理想を押し付けるのか、身勝手なファンに嫌悪感すら持っていた。
程よい距離を考える内に、自分の何かにも蓋をした。
元からコミュニケーション力が高いだの、みんなから愛されているだの優しい言葉で褒められていたが、本来の自分は多分もっと違っているだろう。……まあ、元から出すつもりはないけれど。

今回もそうやっていつものように楽しく話した。
泣いていた女の子にはサイン入りのハンカチをあげて、男子とは好きな絵の話をして、親子には漫画やゲームの話をして、露出度高めの狙っている女性はほとんど無視をして。




小さくため息を吐いた後、彼女は現れた。

「は、初めまして」
「……」

しばらく彼女を見つめていた。目が離せなかった。

ライブ限定の黒のロゴ入りTシャツは少し汗ばんでいて、でも柔軟剤の香りがほんのり漂ってきた。
茶髪は肩まで伸びているふわりとした髪の毛、色白の肌、長めの睫毛、頬は上気して赤く、唇はとても柔らかそうで、濃い青色のスラックスを履いていた。
彼女の体を一つずつ覚えようとする自分の体。

何故か、答えはすぐに分かった。
視線を合わせた瞬間に下半身が急速に力を付けたから。欲情した。まるで甘い蜜に引き寄せられる虫のようで。

ファンサービスという概念が頭から離れていた。
ただ、彼女を眺める。
じっとりと、それに気づかれないように。

「あの……剛史、さん?」

新曲が入ったアルバムCDを持ったまま棒立ちになっている彼女に、我に返って剛史は手を伸ばしてCDを受け取った。

「名前教えてくれる?」
「あ、くるみです。よろしくお願いします」
「……可愛い名前」

小声で呟いた声は彼女に聞こえたようで、さらに顔を赤くして感謝を伝えてきた。
いつもは数秒でサインを書き終えるが、漢字を聞きつつゆっくりと時間をかけてペンをジャケットに走らせる。
“胡桃”
そう何度も心の中で呼んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...