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香水
香水-5-
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ベッドの脇に香水が慎ましく立っていた。
中に入っている液体は二人を変貌させた薬だったくせに、とぼんやり眺める。
「もう、それを付けて外に歩くなよ」
「……どうして?」
不思議そうに首を傾げる彼女に、剛史はあからさまに大きなため息を吐いた。
こんなになって自覚なしとは。
「発情した動物は狙われる。なんせどの男も獣だからな。俺のように理性を無くして近づいてくる輩がいるんだ。
……それを見るのが気に入らない」
「で、でも、せっかく貴方から貰ったのに――んぁ」
中にいる彼がゆらりと動いて掠れる。感じてしまった自分が恥ずかしくて彼を睨んだ。
「だめ。使うのは俺とベッドにいる時だけ。胡桃を悶えさせていいのは俺だけだよ」
「……」
“嫉妬”
剛史が抱いている感情を理解して、胸が高鳴った。嫌じゃなかった。寧ろ嬉しくてにやけてしまいそうだ。
あの青いフラワーボックスを思い出して、剛史は顔をしかめた。あれを見た時から既に感情が芽生えていた。
たとえ胡桃にとってただの友達が贈ったものだとしても、薔薇を渡している事が気にくわない。
この香水も同じだ。最初は自分の匂いを纏って欲しいと思っていたが、これで他の奴が彼女を狙ってくるなら外で使う必要なんてない。二人しかいない箱の中で使えばそれで十分だ。
「胡桃」
「……はい」
「誕生日おめでと。望むなら、今度はじっくり愛してあげる」
隙間がないくらいに密着させている体はまだ元気だった。
「ありがとうございます……。愛してください、剛史さん」
「うん」
微笑んで一緒に目を閉じる。
海底に沈んでいくように二人は快楽に身を任せていった。
目を覚ました時、カーテンから光が差し込んでいた。既に誕生日が過ぎている。
モノクロの部屋。ほとんど私物が置かれていない彼の寝室。ベッドサイドに置かれたプレゼント達。
胡桃は体を起こした。脱ぎ捨てられた服から自分のものを探す。どれだけ愛し合ったか分からない。プラスティックのグレーの箱には破られたゴミが多く捨てられていた。
持ってきたTシャツに着替えて、台所を借りる。お礼を兼ねて朝ご飯を作ろうと思っていた。
ただ、昨夜の運動のせいか足下が覚束ない。ゆっくり歩いて向かう。
必要最低限のものしかない居間。それでも次の収録の番組資料とか台本とかレコーディングのための発声練習の本とか、彼が自分と違う世界にいる人間だと嫌でも分かってしまうものがあった。
彼の隣に立つ事を認めてもらいたい。
今は難しくても、大学を卒業して自立した大人の女性になれたら……そんな淡い期待を抱く。
あと二年が長くて辛い。
それでも、満たされた体は「大丈夫だ」と言ってくれているような気がした。
中に入っている液体は二人を変貌させた薬だったくせに、とぼんやり眺める。
「もう、それを付けて外に歩くなよ」
「……どうして?」
不思議そうに首を傾げる彼女に、剛史はあからさまに大きなため息を吐いた。
こんなになって自覚なしとは。
「発情した動物は狙われる。なんせどの男も獣だからな。俺のように理性を無くして近づいてくる輩がいるんだ。
……それを見るのが気に入らない」
「で、でも、せっかく貴方から貰ったのに――んぁ」
中にいる彼がゆらりと動いて掠れる。感じてしまった自分が恥ずかしくて彼を睨んだ。
「だめ。使うのは俺とベッドにいる時だけ。胡桃を悶えさせていいのは俺だけだよ」
「……」
“嫉妬”
剛史が抱いている感情を理解して、胸が高鳴った。嫌じゃなかった。寧ろ嬉しくてにやけてしまいそうだ。
あの青いフラワーボックスを思い出して、剛史は顔をしかめた。あれを見た時から既に感情が芽生えていた。
たとえ胡桃にとってただの友達が贈ったものだとしても、薔薇を渡している事が気にくわない。
この香水も同じだ。最初は自分の匂いを纏って欲しいと思っていたが、これで他の奴が彼女を狙ってくるなら外で使う必要なんてない。二人しかいない箱の中で使えばそれで十分だ。
「胡桃」
「……はい」
「誕生日おめでと。望むなら、今度はじっくり愛してあげる」
隙間がないくらいに密着させている体はまだ元気だった。
「ありがとうございます……。愛してください、剛史さん」
「うん」
微笑んで一緒に目を閉じる。
海底に沈んでいくように二人は快楽に身を任せていった。
目を覚ました時、カーテンから光が差し込んでいた。既に誕生日が過ぎている。
モノクロの部屋。ほとんど私物が置かれていない彼の寝室。ベッドサイドに置かれたプレゼント達。
胡桃は体を起こした。脱ぎ捨てられた服から自分のものを探す。どれだけ愛し合ったか分からない。プラスティックのグレーの箱には破られたゴミが多く捨てられていた。
持ってきたTシャツに着替えて、台所を借りる。お礼を兼ねて朝ご飯を作ろうと思っていた。
ただ、昨夜の運動のせいか足下が覚束ない。ゆっくり歩いて向かう。
必要最低限のものしかない居間。それでも次の収録の番組資料とか台本とかレコーディングのための発声練習の本とか、彼が自分と違う世界にいる人間だと嫌でも分かってしまうものがあった。
彼の隣に立つ事を認めてもらいたい。
今は難しくても、大学を卒業して自立した大人の女性になれたら……そんな淡い期待を抱く。
あと二年が長くて辛い。
それでも、満たされた体は「大丈夫だ」と言ってくれているような気がした。
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