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三章
1.出征
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アナベルに充てがわれた寄宿舎の部屋は、二階の中庭に面した陽当たりのいい部屋だった。飾り気はないが、木を基調とした落ち着く内装で、アナベルは後宮よりも好きだと思った。
中庭には木が植えられていたが、何だかそれだけだと寂しい気がして、故郷から持ってきた花の種を植えた。
その後、真新しい隊服に袖を通し、髪を後ろで一つに結んでからアナベルは騎士団本部に向かった。
騎士団本部は高い天井の、広い部屋だった。
部屋の中央には大きな円卓が置かれており、そこには騎士団の兵士と思われる者が数名座っていた。その中の一人、オーディスはアナベルを見つけると、すぐにアナベルを呼び寄せた。
「アナベル!今日からよろしくお願いします。あなたは新人であるし一旦『部隊長見習』として私につく事になりました」
こちらへどうぞ、とアナベルを席に座らせてからオーディスは身体をぐいと寄せてきた。
「ああ、隊服が似合っています。先日採寸させた仕立て屋に特別に作らせました」
「特別に?!」
アナベルは恐縮した。やはり、側妃だったと言う事で気を遣われたのだろうか?それはなんだか申し訳なく感じた。
「あなたに合う大きさの隊服がなかったのです。私が作らせましたが、支払いは殿下がされました。先日の買い物も全て。先日の服はもう着ることが出来なくなったと……」
オーディスは面白くない、という様な顔をしている。アナベルが「すみません」というとオーディスはアナベルに更に近づいて囁いた。
「あなたに謝っていただく必要はありません。ただ、あの後、あなたの秘蕾に殿下自身が何度くらい、もつれたのか。それだけ教えていただければ結構です」
「…もつれた?」
「絡まったともいいます。しかし、アナベル。髪を結っていいのですか?」
「えっと、規則ではまずいのでしょうか?」
「いえ、私は好きですよ。よく頸が見える」
そういうとオーディスはアナベルの頸に息を吹きかける。咄嗟に身を捩ると、後ろから声をかけられた。
「おい、いい加減にしろ、オーディス!」
声の主ははエメルソンだ。
すぐに「敬礼!」の声がかかり、立ち上がり扉の方を見ると、ギルフォードがちょうど部屋の中に入って来るところだった。
ギルフォードはチラともアナベルを見ずに、円卓の中央に座る。
「ダルムアインの状況が良くない。先程の軍議でエメルソンに行ってもらう事が決まった。隊の編制はエメルソンに一任する」
ギルフォードはそれだけ言うと、席を立って行ってしまった。
「はぁ!?また国王軍におしつけられたのですか?」
オーディスが不満を露わにすると、エメルソンは「滅多な事を言うな」とたしなめた。
その後、部隊の編成の話になると、アナベルは部屋を追い出されてしまった。「見習い」と言われたが、暫く役に立ちそうにない。
(仕方なかったとはいえ、いきなり昇進はやはり無理があった)
気を取り直して、アナベルは騎士達の訓練に混じった。身体を動かしていると、無心になれる。雑念を振り払い訓練に没頭した。
昼休憩の時間になり、昼食を取るため騎士団本部へ戻る道の途中、エメルソンが歩いて来るのが見えた。エメルソンはアナベルに気付くと、走って近づいて来る。
「アナベル、お前…!ちょっとこっちを向け!」
エメルソンはアナベルを後ろ向きにして、髪を解く。今度は向き合い、肩に垂らした髪を斜めに結うと「この方が幾分マシだ」とため息混じりに言う。
「朝、服を着替えたら、姿見を確認してこい。お前の頸……どんな虫だか知らないが、酷いぞ」
「え?」
「はぁー、疲れる。なんて鈍感なんだ!お前の首元、兄上に噛まれた痕だろう?!」
「!」
アナベルは慌てた。
(朝から髪を結っていたから、それでオーディスも絡んで来たのか…!)
「俺の身にもなってくれ。これから出征するのに、お前と兄上を二人にしてしまう。ああ嫌だ。アナベル、私について来てくれるか?」
エメルソンは真剣な顔をしていたので、アナベルは「はい」と頷いた。
「ははっ!なんで即答なんだ!まだ入ったばかりの奴を連れて行ける様な場所じゃない!冗談だ!」
「なにかお役に立ちたいと思ったんです。先程も追い出されてしまって」
アナベルがしゅんと項垂れると、エメルソンは笑顔になった。
「では、あれが欲しい。兄上に贈った、アナベルの『お守り』。あれがずっと羨ましかったんだ」
アナベルは、お守りをエメルソンに渡す約束をして、その日は別れた。
約束通り、アナベルはエメルソンにお守りを渡して、エメルソンは出征していった。
アナベルのお守りは兄達や、モール領の人達には「よく効く」と人気だった。だから、全く想像していなかった。渡した相手に何か起こるなんて。
……エメルソンが王都を立って 一ヶ月後、「エメルソンが大怪我を負った」という知らせが、騎士団に届いた。
中庭には木が植えられていたが、何だかそれだけだと寂しい気がして、故郷から持ってきた花の種を植えた。
その後、真新しい隊服に袖を通し、髪を後ろで一つに結んでからアナベルは騎士団本部に向かった。
騎士団本部は高い天井の、広い部屋だった。
部屋の中央には大きな円卓が置かれており、そこには騎士団の兵士と思われる者が数名座っていた。その中の一人、オーディスはアナベルを見つけると、すぐにアナベルを呼び寄せた。
「アナベル!今日からよろしくお願いします。あなたは新人であるし一旦『部隊長見習』として私につく事になりました」
こちらへどうぞ、とアナベルを席に座らせてからオーディスは身体をぐいと寄せてきた。
「ああ、隊服が似合っています。先日採寸させた仕立て屋に特別に作らせました」
「特別に?!」
アナベルは恐縮した。やはり、側妃だったと言う事で気を遣われたのだろうか?それはなんだか申し訳なく感じた。
「あなたに合う大きさの隊服がなかったのです。私が作らせましたが、支払いは殿下がされました。先日の買い物も全て。先日の服はもう着ることが出来なくなったと……」
オーディスは面白くない、という様な顔をしている。アナベルが「すみません」というとオーディスはアナベルに更に近づいて囁いた。
「あなたに謝っていただく必要はありません。ただ、あの後、あなたの秘蕾に殿下自身が何度くらい、もつれたのか。それだけ教えていただければ結構です」
「…もつれた?」
「絡まったともいいます。しかし、アナベル。髪を結っていいのですか?」
「えっと、規則ではまずいのでしょうか?」
「いえ、私は好きですよ。よく頸が見える」
そういうとオーディスはアナベルの頸に息を吹きかける。咄嗟に身を捩ると、後ろから声をかけられた。
「おい、いい加減にしろ、オーディス!」
声の主ははエメルソンだ。
すぐに「敬礼!」の声がかかり、立ち上がり扉の方を見ると、ギルフォードがちょうど部屋の中に入って来るところだった。
ギルフォードはチラともアナベルを見ずに、円卓の中央に座る。
「ダルムアインの状況が良くない。先程の軍議でエメルソンに行ってもらう事が決まった。隊の編制はエメルソンに一任する」
ギルフォードはそれだけ言うと、席を立って行ってしまった。
「はぁ!?また国王軍におしつけられたのですか?」
オーディスが不満を露わにすると、エメルソンは「滅多な事を言うな」とたしなめた。
その後、部隊の編成の話になると、アナベルは部屋を追い出されてしまった。「見習い」と言われたが、暫く役に立ちそうにない。
(仕方なかったとはいえ、いきなり昇進はやはり無理があった)
気を取り直して、アナベルは騎士達の訓練に混じった。身体を動かしていると、無心になれる。雑念を振り払い訓練に没頭した。
昼休憩の時間になり、昼食を取るため騎士団本部へ戻る道の途中、エメルソンが歩いて来るのが見えた。エメルソンはアナベルに気付くと、走って近づいて来る。
「アナベル、お前…!ちょっとこっちを向け!」
エメルソンはアナベルを後ろ向きにして、髪を解く。今度は向き合い、肩に垂らした髪を斜めに結うと「この方が幾分マシだ」とため息混じりに言う。
「朝、服を着替えたら、姿見を確認してこい。お前の頸……どんな虫だか知らないが、酷いぞ」
「え?」
「はぁー、疲れる。なんて鈍感なんだ!お前の首元、兄上に噛まれた痕だろう?!」
「!」
アナベルは慌てた。
(朝から髪を結っていたから、それでオーディスも絡んで来たのか…!)
「俺の身にもなってくれ。これから出征するのに、お前と兄上を二人にしてしまう。ああ嫌だ。アナベル、私について来てくれるか?」
エメルソンは真剣な顔をしていたので、アナベルは「はい」と頷いた。
「ははっ!なんで即答なんだ!まだ入ったばかりの奴を連れて行ける様な場所じゃない!冗談だ!」
「なにかお役に立ちたいと思ったんです。先程も追い出されてしまって」
アナベルがしゅんと項垂れると、エメルソンは笑顔になった。
「では、あれが欲しい。兄上に贈った、アナベルの『お守り』。あれがずっと羨ましかったんだ」
アナベルは、お守りをエメルソンに渡す約束をして、その日は別れた。
約束通り、アナベルはエメルソンにお守りを渡して、エメルソンは出征していった。
アナベルのお守りは兄達や、モール領の人達には「よく効く」と人気だった。だから、全く想像していなかった。渡した相手に何か起こるなんて。
……エメルソンが王都を立って 一ヶ月後、「エメルソンが大怪我を負った」という知らせが、騎士団に届いた。
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