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6話
続
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「ーーそんで、俺がここに連れてこられた理由はなんですか」
ごくん、最後のひとくちを終えて早速弥勒は切り出した。膳の中身はキレイに食べ尽くされており、米一粒とて残されていない。米一粒にも神様が宿っていると幼い頃から言い聞かせていた賜物だろうか。弥勒は、案外礼儀作法をきっちりとするのだ。どれもこれも神社の坊主がねっとりと言い聞かせたものだが。
弥勒は少し遠い目をした。
「理由ねぇ…」
「俺早く帰って駄菓子屋のばーちゃんにトイレのドア弁償しないといけないんですよ。俺のせいじゃねーけど。また珍妙なオブジェにならないように、きちんとしたヤツ付けないと迂闊にトイレ行けねえし、怖すぎるんで。」
「自分のせいじゃねーのに弁償か、律儀なことで」
「俺のせいじゃ無いけど、自分で弁償して取り付けた方が今後使う時に安心だと思ったんで。」
だから早く話せ、そして早く帰せ。隠しもしない感情を全力で表情筋に乗せながら弥勒は早口でそう言った。
ああ友人たちよ、俺を駄菓子屋に置いていった薄情な友人たちよ。この状況から逃れられるのなら君たちに熱いキスをすることも吝かではない。弥勒は帰りたいあまりに狂ったことを考え始めた。
「気に入っちまったから、じゃ駄目か?」
「むしろその回答でいいと思う?」
弥勒は淡々とした声でツッコんだ。なんなら顔が死んでいる。小十郎が二人のやり取りに肩を震わせているが気にしない。というか絶対笑ってんだろ、弥勒は若干キレていた。
イケメンだから許される言葉を、正しくイケメンに言われようとも弥勒の心には1ミリたりとて届かない。むしろ心の距離は一気にかけ離れたことだろう。
弥勒は思う。こ、こいつ俺をおちょくってやがる…!と。心の声は迫真に迫っていたが、一切表に出ない。顔は死んだままだ。
「真面目に答える気が無いならさっさと帰してくれませんかねー?」
「真面目に答えたつもりだが」
「気に入っただけで腹部殴打で意識刈り取って誘拐すんの?世紀末か?」
「そういうとこだよ」
政宗はサラリとそう宣い、口を噤んだ弥勒をじっと見やった。小十郎も、先程の肩の震えは何処へ行ったのか、ただただ静かにそこに座している。弥勒は、空気がザワッと一瞬のうちに変わったことを肌身に感じた。
「弥勒、手前を気に入ったっつーのは本当だ。…だが、それだけじゃねえ。」
これは俺の勘だがな。そう前置きした政宗は、鋭い光を孕んだ瞳で、弥勒を捉える。弥勒はこの時、自分の意識が政宗以外を排除したことに気づかなかった。先程までの苛立ちも、いつも通りうるさい内心の呟きも、今や弥勒の中にはない。異様な程の集中を、政宗に向け、紡がれる言葉を耳にする。
4拍程の無言、そして
「ーー56億7千万年、永遠とも言える長い年月が、ようやく意味を成す時が来た」
低く、深刻さを帯びた声音が、弥勒の鼓膜を震わせた。
ごくん、最後のひとくちを終えて早速弥勒は切り出した。膳の中身はキレイに食べ尽くされており、米一粒とて残されていない。米一粒にも神様が宿っていると幼い頃から言い聞かせていた賜物だろうか。弥勒は、案外礼儀作法をきっちりとするのだ。どれもこれも神社の坊主がねっとりと言い聞かせたものだが。
弥勒は少し遠い目をした。
「理由ねぇ…」
「俺早く帰って駄菓子屋のばーちゃんにトイレのドア弁償しないといけないんですよ。俺のせいじゃねーけど。また珍妙なオブジェにならないように、きちんとしたヤツ付けないと迂闊にトイレ行けねえし、怖すぎるんで。」
「自分のせいじゃねーのに弁償か、律儀なことで」
「俺のせいじゃ無いけど、自分で弁償して取り付けた方が今後使う時に安心だと思ったんで。」
だから早く話せ、そして早く帰せ。隠しもしない感情を全力で表情筋に乗せながら弥勒は早口でそう言った。
ああ友人たちよ、俺を駄菓子屋に置いていった薄情な友人たちよ。この状況から逃れられるのなら君たちに熱いキスをすることも吝かではない。弥勒は帰りたいあまりに狂ったことを考え始めた。
「気に入っちまったから、じゃ駄目か?」
「むしろその回答でいいと思う?」
弥勒は淡々とした声でツッコんだ。なんなら顔が死んでいる。小十郎が二人のやり取りに肩を震わせているが気にしない。というか絶対笑ってんだろ、弥勒は若干キレていた。
イケメンだから許される言葉を、正しくイケメンに言われようとも弥勒の心には1ミリたりとて届かない。むしろ心の距離は一気にかけ離れたことだろう。
弥勒は思う。こ、こいつ俺をおちょくってやがる…!と。心の声は迫真に迫っていたが、一切表に出ない。顔は死んだままだ。
「真面目に答える気が無いならさっさと帰してくれませんかねー?」
「真面目に答えたつもりだが」
「気に入っただけで腹部殴打で意識刈り取って誘拐すんの?世紀末か?」
「そういうとこだよ」
政宗はサラリとそう宣い、口を噤んだ弥勒をじっと見やった。小十郎も、先程の肩の震えは何処へ行ったのか、ただただ静かにそこに座している。弥勒は、空気がザワッと一瞬のうちに変わったことを肌身に感じた。
「弥勒、手前を気に入ったっつーのは本当だ。…だが、それだけじゃねえ。」
これは俺の勘だがな。そう前置きした政宗は、鋭い光を孕んだ瞳で、弥勒を捉える。弥勒はこの時、自分の意識が政宗以外を排除したことに気づかなかった。先程までの苛立ちも、いつも通りうるさい内心の呟きも、今や弥勒の中にはない。異様な程の集中を、政宗に向け、紡がれる言葉を耳にする。
4拍程の無言、そして
「ーー56億7千万年、永遠とも言える長い年月が、ようやく意味を成す時が来た」
低く、深刻さを帯びた声音が、弥勒の鼓膜を震わせた。
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