56億7千万年

シキ

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第7話

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安の登場によって脱線してしまった話題を戻すことにした一同。2対2の向き合うような位置に座り直し、再び本題へと入った。カコン、鹿威しの音が外から聞こえてくる。


「んで、弥勒よ。手前は今が2023年だと言ったな」
「まあ、そうですね…?」


分かりきったことに念を押すように強調して確認する政宗。弥勒は、怪訝な表情を隠すこともなく疑問符を付けながら答えた。


「それは、西暦だな?」
「西暦ですけど?むしろどう答えろと…年号ですか?」
「年号、久しぶりに聞く単語だな。懐かしくてたまらねえ。そういうやあったな、そんなもん」
「私も今思い出しました。いやはや懐かしい!」
「いや年号を久しぶりに聞くって何…?」


弥勒は宇宙を垣間見た。日本に住んでいて年号を聞かない日なんかあるのだろうか。カレンダーには必ず表記されているし、日常の至るところで見聞きするだろう。スマホなんかの予測変換だって、一文字打てば出てくるレベルである。
なつかしい、なつかしいと遠い過去を思い出すような表情をした政宗と小十郎の二人に、弥勒は疑心を隠さない。
隣の安は、顔が見えないから論外だし、弥勒は自分だけが異なる常識の世界から来たと錯覚しそうだった。振り回す側の自分が、人から振り回されるなど、トイレに入る前までは思いもしなかったというのに。


「あのー、結局何を確認したいんです?日付とか確認する意味あるんですか」
「大いにある」


弥勒の言葉尻を遮るような勢いで断言した政宗。その気迫の籠もった一言によって、口から出ていこうとした言葉たちはたちまち引っ込んでいった。


「…お二人共、簡潔にお話したらどうです?回りくどいし寄り道ばかりで一向に話が進みません。さっさと結論を言ってやってくださいよ」


弥勒は思わず安を拝んだ。常識人のありがたみが骨身に染みるばかりである。
迷惑そうにしつつも、文句を言わない辺りこちらを気遣っているのが察せられた。自分から苦労背負い込みそうなタイプだ。



「結論から言えば、ここは”再歴3698年”」
「さいれき?」


西暦ではなく?と弥勒が首をひねる。

ーー政宗は、そんな弥勒を哀れだと思った。思うだけ、だった。
弥勒の運命は既に知れている。自分はそれを妨げることも、サポートしてやることもできないということだって知っていた。それを告げるには、まだまだ時間が足りないし本人が受け入れられないだろう。自分だって、かつて奥州を治めていたこの伊達政宗とて受け入れがたい事実。

なんとなく話すのが嫌で脱線し、なかなか本題に入ることもなかったが。それでも忠臣のん一人、安は政宗が逃げに入ることを許しはしない。視界の端で小十郎が哀しげな顔をしてるのが見えた。

ああ、本当に


「そうだ。ーー人類が滅び、再び誕生した未来だよ」


哀れなりや。
そんな感情は、決して表に出しはしないけれど。

告げられたその言葉を、弥勒は理解することができなかった。
呆気にとられて、少しだけ揺れた政宗の目にも気づかず。


その時。
ーーシャン、シャン
弥勒は薄らと、鈴の音が何処かで聞こえた気がした。

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