八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

文字の大きさ
25 / 79

25スイセンとシロガネの出会い

しおりを挟む
「少し休憩を致しましょう」
 スイセンが、コハクの前に胡座をかいて座った。コハクは、そのらしくない姿に驚いた。そして、何故か少し沈んでいる気がした。
 どこか、シロガネが困っている時にする表情と似ている気がした。
 そんな事を考えれば、シロガネが仕事をしている時に、ぼやいている姿を思い出す。
『スイセンに怒られる……』
 主であるシロガネに対して、スイセンが厳しい言葉で接するからだ。
 それは、シロガネの事務作業が丁寧過ぎて仕上がりが遅いせいである。
 こうなると、仕事が溜まってくる。段々と億劫になって仕事を放り出してしまうからだ。
 それを見つけたスイセンが、つかさず叱咤するのだった。
 または、退魔後の反省会を強制的に行なって、シロガネに対して戦略や戦術の在り方を説く。つまり、ダメ出しをするのだ。
 他の諸所諸々、目につくこと全てに口を挟むのは効率重視と真面目さゆえだろう。
 口では色々と言うが、最終的にはスイセンが手伝って終わらせるというのが、いつもの二人の様子である。
 仕事場の片付けは、コハクのおかげで、それなりに片付いたのでスイセンは喜んでいた。
 だけど、シロガネのコハクに甘い過ぎる態度を見る度に表情を厳しくして「嘆かわしい」とぼやいた。
 色々と思い出してコハクは、ふと疑問に思った。
 どうして、シロガネはスイセンを式神にしたんだろう。
 そもそも何故、スイセンは、シロガネに仕えているのか。
 コハクは、二人の出会いが気になった。
 すると、さっきまでの怒りはどこかへ飛んで行って、自然と涙は止まった。
「ねえ。スイセンは、どうしてシロガネの式神なの?」
「唐突ですね。それはどういう意味ですか?」
「シロガネの式神になった理由が知りたいっ」
「それを貴方に教える必要性を感じませんね」
「もうっ。教えくれたら、ボクの記憶も戻るかもと思ったのに……」
「その根拠がわかりませんね」
「だって、ボクにも守護する式神がいるんだよ。だったら、式神になった話しを聞けたら、何か思い出すかもしれないよ。そうしたら、シロガネは喜ぶんじゃないかな? そう、記憶が戻って訓練なんてしなくても良くなるかもしれないね。あっ、そうだ。シロガネに聞いてみようかなぁ」
 咄嗟に思いついた理由はそれなりのものになった。しかもコハクは、スイセンが非協力的だと言わんばかりの口ぶりだ。
 すると、はぁーっとスイセンが大きな溜め息をつく。
「皇を煩わすのは、おやめなさい。仕方ありませんので、簡潔にお話ししましょう」
「詳しくがいいー」
 少し機嫌がよくなり、コハクの様子がいつもの調子に戻って、スイセンは安堵した。
 スイセンは、自身の事でシロガネに迷惑をかけたくなかった。まぁ、それも本心であるが。
 それよりもシロガネが、何をどんな風に話しをするのかわからない。根も葉もないことを適当に、誇張するのではないかと思えば、必然と自ら話しをすることになる。
 それに、今は休憩中である。
 久しぶりに、懐かしい昔話を思い出すのも悪くはなかった。そんな風に思うのは、きっとコハクだからなのだろう。
「長くなりますよ。過去に色々ありまして、私は、ある陰陽師に卑劣な手で囚われてしまいました。そして、式神として使役されいてのです」
「過去の色々って何! スイセンは神使いの式神なのに捕まったってどうしてなの?」
 過去の色々が気になる様子で、コハクの琥珀の瞳にある虹彩異色がキラキラしている。
 スイセンは、無邪気なコハクに溜め息を吐きたくなったが、我慢して話しを続けた。
「色々は色々です。その時、私はまだ神使いではありませんでした……」
 スイセンが話しを続ける。

 その陰陽師の悪事が、遂に白日の元になり、陰陽師としての身分を剥奪されて追われる身になった。なかなかの手練れで、簡単に捕まえることが出来ない。
 その時、白羽の矢が立った一人の退魔士がいた。本来ならば陰陽師の件は陰陽寮で解決するのが常であるが、そうも言ってられない状況だった。
 依頼を受けた退魔士は、悪事を働いた元陰陽師を追いつめた。
 追いつめられた身だというのに、元陰陽師は、所詮は退魔士と馬鹿にした。
 呪法対決となるも、実力は退魔士の方が上だった。
 それは、赤子の手を捻るまでもなく、息をする間もない。太刀打ちできない元陰陽師は、呪法だけでは勝てないと判断した。
 そして、元陰陽師は式神を召喚する。
 それが、スイセンであった。
「あの退魔士を倒せ」
 スイセンは元陰陽師との契約に縛られてて命令に抗うことが出来ない。どんな理不尽な命令であっても不本意に太刀を振しかなかった。
 スイセンが退魔士に立ち向う。
 スイセンの太刀は、退魔士の術式で跳ね返された。呪力と技を見定めた退魔士がスイセンに問う。
「本気で戦わねば滅するぞ」
「やれるものならばやってみろ」
 退魔士の挑発にスイセンは乗った。スイセンは、この退魔士ならば、それも可能であると対峙した一瞬で理解した。
 そして、それでも良いと思った。
 しかし、戦うならば全力で負けたいと思う。
 だから、先ほどよりも力を込めて戦うが、退魔士には届かない。ヒラリヒラリとかわされる。
「勿体ないな。力の持ち腐れとはこのことだぞ。おい」
 退魔士が元陰陽師に向けて声をかける。
 戦いの真っ最中だ。元陰陽師は何事だと驚いている。
「もっと力を解放してやれ、これでは話にならんぞ」
 元陰陽師は目を見開いて驚いている。
 それは、力など全て解放していたからだ。それでも、なけなしの呪力を使いスイセンの力を引き出そうと呪法を強めた。
「さっさと倒せ」
 元陰陽師がスイセンに戦うように命じた。スイセンが退魔士に再び立ち向かった。
 退魔士は動かない。
 討ち取ったと、元陰陽師は思った。だが、スイセンは違うと分かっていたが、命令には逆らえない従うしかない。
 退魔士がパチンと指を鳴した。
 すると、簡易術式が退魔士とスイセンの間で発動すれば、覇気を感じる小柄な男が瞬時に現れた。
 シャキンっと金属が重なり合う音が響く。
 スイセンの太刀が退魔士に届く直前に、小柄な男が短刀と脇差でスイセンの太刀を押さえた。 
 スイセンと小柄な男が、眼光鋭く見合う。
 互いに間を取り合った。再び、刀を交えて戦う。小柄な男がスイセンを押している。
 退魔士がその様子を見て呟く。
「式神の強さを引き出すのも術者の素質の一つだろうに、情けない。興が冷めたぞ、もう良い」
 退魔士は、冷たい眼差しと凍りつく声で告げるなり、元陰陽師に向けて呪を唱えた。
 不本意とはいえ契約している以上、スイセンは主人である者を助けなければならない。
 しかし、小柄な男と刃を交えているので、すぐに動けない。
 元陰陽師は退魔士によって、いとも簡単に捕縛された。
 捕まった元陰陽師は退魔士の力の凄さを今更ながら痛感して怯える。
「命だけは……」
「お前の命などどうでも良いが、生きて捕縛するように依頼されている」
 それを聞いて元陰陽師は安堵する。
「ただし、式神たちを全て解放しろ。嫌ならその命を奪って解放する。依頼など、無駄な抵抗をしたゆえにと報告すれば問題ない」
 退魔士の非情さに元陰陽師は恐れ慄く。
「わかった、わかった」
 何度も頷きながら連呼して、式神たちとの契約を破棄した。
 そして、元陰陽師は陰陽寮に引き渡された。

「故に、私は解放されたのです。その時の退魔士が言わずもがな、皇だったのです。皇は、私の行いを咎めもせずに、また助けたのにもかかわらず、何の見返りを求めなかった。使役されて、無理強いとはいえ、悪事の加担をして、皇に刃を向けた。その私を罰することはしなかった。その恩を返さなけれならない。私はそうしなければ気がすまない性質でしてね。私自身から式神の契約を結びたいと願い出たのですが、結んで頂けなかった」
「えっ、じゃあ、どうしたの?」
「青龍の元へ赴き、神使いになりました。そして、青龍の命によって、私は皇の式神となったのです」
「す、すごい! 自ら神使いになって、シロガネのところに押しかけたんだ。でも、どうやって神使いになれたの?」
「使役される以前に、青龍からの誘いはあったのですが、興味がありませんでしたから断っていたのですよ。しかし、皇の役に立つ者として側にいるには、この方法しかありませんでした」
「スイセンにとって、シロガネの存在は……」
「後にも先にも、私の意思によって忠誠を誓い、仕える唯ひとりの方は皇のみ。青龍の神使いでありますが、青龍もそれを是としています」
「スイセン! すごくカッコいいよ! 教えてくれて、ありがとう」
「何を……言うのです」
「だって、シロガネのために神使いになったんだよ」
「コハク殿にも、私と同じような者がいてるようですから、早く思い出してあげなさい」
「えっ! 同じって何?」
 キョトンとしているコハクにスイセンは、溜め息を吐きながら頭を抱えた。
 記憶がないコハクだが、本質はきっと変わらない。純粋で無垢、それは鈍感とも言うのだ。
 スイセンは我が身を振り返り、似た者同士であるがゆえに、心から同情した。
「休憩は出来たでしょう。話しは終わりにして、訓練の続きを始めますよ」
「あっ、うん。ボクも頑張って、シロガネの役に立ちたい!」
 スイセンの話しを聞いて、気分転換になったようだ。コハクの機嫌はすっかり良くなっている。しかも、やる気も出たようだ。
 単純明快。
 二人の思いは同じ、シロガネのために精進しようと誓い合う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪魔はさせない

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 病棟で知り合った2人。生まれ変わって異世界で冒険者になる夢を叶えたい!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

処理中です...