八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

文字の大きさ
30 / 79

30休息閑話

しおりを挟む
 いつもの朝と同じく、コハクは自分の部屋で寝ている。そしてシロガネに起こされた。
 寝ぼけたまま起きて、ある事に気がついて、シロガネを見た。
 驚くのは仕方がない。
 コハクの記憶はシロガネと一緒にいた時のままなのだ。
 その様子にシロガネが笑えば、コハクがむくれた。
「また、一緒に過ごせばいい」
「ほんと?!」
 シロガネの言葉に、コハクがすぐさま反応する。
「それじゃねっ」
 コハクが愛らしい小指をシロガネの前に差し出した。
「約束だよ」
「あぁ、約束だ」
 シロガネはコハクの小指に自分の小指を絡めて約束をした。
 何でもない小さな約束だが、二人にとっては大切な物となる。
 コハクの思慕が、シロガネの心を潤わせる。

 その後、支度整えて二人は町に出かけた。
 何度も町に来ているが、コハクは、まだ行ったことのない店がたくさんあった。
 それはシロガネも同じだった。なぜなら、欲しい物が手に入る店しか、訪れる必要がなかったからだ。
 しかし、コハクと一緒に町に来るようになって、興味がなかった店にも訪れるようになる。
 今まで、一人だった頃にはあり得ないことだ。コハクと一緒だからこそ、色々な店を見て周り、色々な物を手にとる。
 そして、色々な食べ物を食す。

 コハクが以前から入ってみたいと言っていた店の前に二人はいた。
 店の外観は、色鮮やか、または派手ともいう。客層は若い女性が多い。店頭販売と店内で食べることも出来るようだ。
 店頭に並ぶ菓子も店同様に色鮮やかだ。
「これが菓子なのか」
「そうだよ! なんだかワクワクするねっ」
「そっ、そうだな。これを食べたいのかい」
「うん!」
 色鮮やか過ぎる菓子は、シロガネからすれば未知な物だった。
 玩具ではなくて、本当に食べ物なのかと悩むところだ。
 シロガネ一人ならば絶対に訪れることがなかっただろう。
 しかし、コハクが食べたいというのだ。その願いは叶えたい。
 二人は店内に入った。店内もやはり派手である。若い女性の笑い声が響いて賑やかだ。シロガネは場違いではないだろうかと思いながらも席についた。
 コハクといえば、店内を見回して楽しそうだ。
 メニューも鮮やかだ。
 店頭販売の菓子とは別に、他にも色々な菓子や飲み物が載っていた。
 鮮やかな色合いに、シロガネの思考は止まる。目が滑って文字が追えなかった。
「シロガネはどれがいい?」
 品書きを見ながら、コハクが無邪気に尋ねてくる。
「コハクが食べたい物でいいさ」
 もはやシロガネには、どれも同じように見えるので、コハクに任せることにする。それが無難で間違いないからだ。
「やったー」
 コハクが品書きを真剣に何にするか選んでいる。シロガネは、コハクが喜んでいるのならば全て良しと考えた。
 店員に品書きを見せて、コハクな指を差して注文する。

 そして、色とりどりの菓子が二人の前に並んでいる。
 赤や黄に緑と派手な色をした小さくて丸い形の菓子にクリームを挟んだもの。
 大きな輪になっている菓子に桃や白、茶色の甘いカカオがかかったもの。
 虹色の層になっている洋菓子。
 青や紫、緑と赤色の飲み物。
 などなど、シロガネの目が眩みそうだった。
「すっ、すごいな……」
「ほんと、すっごいねー。目がクラクラしちゃうね」
「そうだね」
 シロガネは自分だけではなくて、コハクも同じなのだと知って少し安心した。

 まずは、鮮やかな小さな円形の菓子にクリームが挟まれた菓子を食べた。
 外はサクッと、内はねっとり。今まで味わったことのない食感だ。色によって味も違った。
「おいしー、こんなの初めてー」
「色はともかく美味い」
「この色が楽しくて良いんだよ!」
「確かに意外性はある」

 次は大きな輪になっている菓子だ。
 一つを半分に分けて、シロガネが口する。
「揚げてあるものに桃色のチョコを塗ってある。ふんわりして美味いっ」
「ボクのはココアの味で白のチョコの上に小さないろんな色がいっぱい、くっついて楽しい」
 シロガネは、周りの他の客たちが食べている同じ菓子で他の種類を見つけた。
「粉砂糖やココアの粉など、色の違いや風味の工夫をして、色んな種類を作っているようだ」
「全部、美味しそうだね」
 コハクも周りを見渡す。
「コハク、食べるかい」
 シロガネが残りの半分をコハクに渡せば、コハクは喜んだ。そして、同じように半分に分けていたものをシロガネに渡した。
「はい」
 二人は半分こして同じ味を楽しんだ。
 次は飲み物だ。青と紫色の層になっている炭酸水がシロガネで、緑と赤色が層になっている炭酸水がコハクだ。
「色が違うから味も違って、混ぜたらまた違う味になるんだって!」
「なるほど……」
 コハクがストローで下の赤色を吸った。瞳を開くと、次は上の緑を吸った。
「あのね! 赤が林檎で緑が甜瓜」
 コハクが楽しそうに味を知らせて来た。その後、シロガネをジッと見つめて来るのは、次はシロガネの番だと催促しているわけである。
 目の前にある未知なる飲み物をシロガネは見つめた。魔物と対峙する時でさえも緊張などしないが、今、シロガネは緊張していた。
 ええいままよ。っと、コハクのためにストローで下の紫を吸った。
「葡萄だ」
 次に上の部分にストローを移して吸う。
「薄荷だね」
 意を決して挑んだが、色はともかく普通の甘い飲み物でシロガネは安堵していた。
 コハクはシロガネの反応を見て楽しそうに笑っていた。
 二人は甘い匂いと賑やかな雰囲気を堪能した。

「明日から、また訓練を始めるが大丈夫かい?」
「大丈夫!」
 シロガネは、度が過ぎる訓練が負担になってはいけないと考えていた。訓練の予定を入れていたが、明日でなくても良かった。
 今日も気分転換と休息を兼ねて、コハクの体調を気遣ってのことだ。
 その甲斐あってか、コハクの元気な様子だ。
「なら、次はナデシコとスミレはどうだい?」
「いいけど、ナデシコは光だよね?」
「ザクロとかぶると言いたいのかな」
 そうそうと、コハクが何度か頷きながらシロガネの話しを聞いている。
「心配無用さ。ナデシコはザクロと違って攻撃よりも補佐、補助に力を発揮する。そして、スミレは闇属性で攻撃力は強い。しかも光と同じ補助が出来る。対比を体験が出来るのは良いと思う」
「確かに、光と闇の対比がわかり易くなるね」
 シロガネの案にコハクも賛成した。

 甘いものを堪能した二人は店を後した。
 コハクが、まだ食べてない菓子があるので、また行きたいと言う。
 一度行ったことで、勝手も分かったシロガネは快く承諾した。
 さてさて、次はどんな色のどんな菓子を食べることになるのかと考えれば、シロガネは楽しくなった。
 それもこれも全てはコハクが一緒にいるからこそ思える気持ちなのだと身に沁みるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます

めがねあざらし
BL
死に場所は、薄暗い娼館の片隅だった。奪われ、弄ばれ、捨てられた運命の果て。けれど目覚めたのは、まだ“すべてが起きる前”の過去だった。 王国の檻に囚われながらも、静かに抗い続けた日々。その中で出会った“彼”が、冷え切った運命に、初めて温もりを灯す。 運命を塗り替えるために歩み始めた、険しくも孤独な道の先。そこで待っていたのは、金の瞳を持つ竜帝—— 「お前を、誰にも渡すつもりはない」 溺愛、独占、そしてトラヴィスの宮廷に渦巻く陰謀と政敵たち。死に戻ったΩは、今度こそ自分自身を救うため、皇妃として“未来”を手繰り寄せる。 愛され、試され、それでも生き抜くために——第二章、ここに開幕。

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...