八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

文字の大きさ
38 / 79

38式神たちの魔物討伐

しおりを挟む
 森の採取を終えて、コハクとシロガネは帰宅した。
 コハクは、片付けをしながら、取り留めもなくシロガネと楽しそうに話をしていた。
 しかし、それは前触れもなく起きた。
 突然、シロガネが手を上げてコハクの話を遮った。今まで一度もこんなことはなかった。
 耳澄まして遠くを見つめるような様子に、コハクは不安になる。
「何があった」
 ポツリとシロガネが声を出す。
 ここで、コハクは式神の誰かとシロガネが念話をしていると理解した。
 しかし、シロガネの険しい顔と声色、言葉から良くないことが起きていると察した。
「わかった。少し待て」
 シロガネは目を閉じて念話に集中している。
「行けるか。では、後は頼んだ」
 念話を終えたシロガネが目を開ける。声を高らかに召喚の言葉を紡いだ。
「我が名はシロガネ。参れシオン、アヤメ」
 パチンとシロガネが指を鳴らせば、シオンとアヤメが現れた。
 瞳に映る二人の姿に、コハクは血相変えて、大きな声を上げた。
「アヤメっ!!」
 シオンが悲痛な表情で、アヤメを抱き抱えていた。アヤメは大怪我をして血を流している。
「申し、わけ、ありま……。あるじ、さ……」
「何も言わなくて良い」
「わ、わたしの、私のせいです。私が失敗して、それを、それを庇って……」
 シオンが、シロガネに訴える。瞳を潤ませながら涙を流すまいと耐えていた。
 シロガネは、回復の呪術を発動させて、アヤメの傷を治していく。しかし、傷が塞がらない。
「血が止まらないな。呪われたか」
「呪い?」
 コハクは、どういった呪いなのか確かめる為にシロガネに尋ねた。
「回復が出来ない呪術をかけられているようだな」
「呪いを解かなきゃ」
「そうだな……」
 シロガネは術式発動の呪文を唱える。そして九字を切れば、空に術式が展開した。
「炎は灰に」
 すると、小さな炎が現れた。
「炎炎は無に」
 小さな炎が赤から青になる。
「聖なる浄化の焔になりて」
 青い炎が大きくなる。
「燐火の灼熱にて悪しきモノを烏有に帰せ」
 青い炎がさらに大きなった。
「解呪」
 シロガネは球体となった燐火を掴み持つと、それをアヤメの体の中に押し込んだ。
 燐火がアヤメの体に吸い込まれる。
「あぁーー、っぅ……」
 アヤメは体を上下に動かして気を失った。
 つかさずシロガネが、回復の呪術を発動させれば、アヤメの体の傷はみるみると塞がり血が止まった。
「よかった」
「よ、良かった、です」
 コハクもシオンも息をついて安心した。
「すごいや、シロガネ。今のは朱雀の力を借りたんだね」
「アヤメは朱雀の眷属だからね」
「こんなの初めて見たっ……と思う」
「初めてだろうね。これは私にしか出来ないからね」
「そうなんだ」
 コハクは、シロガネの凄さ改めて実感する。
 四神に麒麟といい、神々の力を易々と使えるシロガネの力に圧倒される。当然なのだと知っていても驚いてしまう。
 シロガネは、コハクが炎を朱雀の力だと見抜いたことに納得する。性質を見極められる能力に優れていると知っていても感嘆した。
 二人は互いのことを良くわかり合っていた。
「あるじ、さま……」
 アヤメの意識が戻った。
「大丈夫か」
「助けていただき、まして、ありがとうございます」
「礼は要らぬ。お前は我が式神だ。しかも、私と酒を呑める数少ない者。失うわけには、いかぬだろう」
 シロガネが、戯けてアヤメの憂いを晴らす。気にする事はないと労わった。
 アヤメが、シロガネへと片手を伸した。シロガネは、その手を取って握った。
「主様、愛しております」
「ありがとう、アヤメ」
「シオン。主様の元に連れて来てくれて、ありがとう……ございます、わ」
「な、何をおしゃるの、ですか。礼など……わたしが、私こそ、アヤメさんに礼を言わなければなりません。いつも、ご迷惑をおかけして……助けてもらってばかりで」
 シオンは、涙を流してアヤメを見つめた。
「あらあら、泣かせてしまっては、主様に叱られましてよ」
 アヤメがフフっと笑いながら、今度はシオンの頬に手を添えて涙を拭った。
「叱らないぞ」
 つかさずシロガネが答えた。
「あなたを泣かせていいのは、私だけ」
「そ、そうですよ。そうなんですよ」
 シオンが、泣きながら笑っている。
 アヤメとシオン、二人の間には強い絆がある。そして、アヤメとシロガネにも深い絆がある。
 コハクもシロガネと確かな絆が結ばれている。だけど、コハクには記憶のない。記憶が戻った時は、どうなるのだろうと思えば、不安になってくる。
 すると、式神たちとシロガネの絆が羨ましくなって、物哀しく寂しさを感じてしまう。
 これは、我がままなのだとわかっているから、静かに心を隠した。

「さて、敵を仕留めたようだぞ」
「それは……他の誰かが戦っていたの?」
 コハクの問いに、シロガネが口元を軽く上げて答えた。
「我が名はシロガネ。参れザクロ」
 指を鳴らしてシロガネは、ザクロを召喚した。
 立ち姿で片手を胸に頭を垂れたザクロが現れた。ザクロは多くの傷を負っていたが、戦いに勝利した勇姿がそこにはあった。
「ご苦労であった」
「はっ」
 シロガネが、声をかけながらザクロに回復の呪術を施す。
「三人一緒に戦っていたの?」
「いいや」
 コハクの質問にザクロが答えた。
「シロガネ殿から念話で連絡があってな。アヤメとシオンが召喚された後に引き継いで戦った」
「ひとりで、大丈夫だったんだ。すごいよ、ザクロ」
 ザクロがニッと笑う。
「それもこれもコハクのおかげだ。教えてくれた技を試せるよい機会であった。まだまだ足らぬところも多いが、効果は抜群にて上手くいったぞ」
「でも、怪我してるよ」
「それは、まぁ仕方がない。アヤメほどの者でも手こずった相手だからな。俺が討伐出来たのもアヤメが先に打撃を与えていたおかげだ」
「ザクロ様、ご謙遜を。私の力など貴方様の力に到底及びません。力及ばず後始末をして頂きまして恐縮次第でございます」
「同じ式神同士だ。他の皆と同様に接すればよいものを。お前といい、あの姉妹といい、いつまでたっても堅くるしいぞ」
「それって……。姉妹って、ナデシコとスミレだよね」
「あぁ、誰かさんに面倒を押しつけられてな。その縁、ゆえにだ」
「そうか? お前ならば困っている者がいれば分け隔てなく力を貸すであろうよ」
 シロガネとザクロが、互いに含み笑い合う。
 コハクは、ザクロから聞いた話しとナデシコとスミレから聞いていた話しを思い出す。

 その後、アヤメの体調を気遣うシロガネは、ユリを召喚した。シロガネの回復は応急処置に過ぎない。ユリの回復術でアヤメを万全にすることを依頼すれば、二人はこの場から離れた。
 今回の討伐の報告をシロガネは、シオンとザクロから受ける為に仕事部屋へ向かった。
 その間コハクは、片付けの続きと夕食の準備をしてシロガネたちを待つことにする。

 夕食の支度を終えて、コハクは考える。
 退魔士という仕事は、庶民の魔物の討伐依頼になる。シロガネの神使いの式神たちならば簡単にこなせるはずだ。
 にもかかわらず、アヤメは大怪我をした。
 それほどまでに強い魔物が、庶民の討伐依頼として来るはずがない。
 ならば、シロガネたちは、何と戦っているのだろうか。
 コハクは今まで、シロガネの仕事について、詳しく聞いた事はなかった。
 特訓が終わった暁には、力を使えるようになれば、シロガネの仕事の力になれるだろうか。
 窓の外の夕暮れをぼんやりと眺めながら、コハクは考えに耽ていた。
 人の気配がして顔を上げようすれば、頭を撫でられた。
「シロガネ、終わったの」
「終わったよ。待たせたね」
「別に、待ってないし」
「ほう、そうなのか」
 シロガネの瞳が、違うだろうと訴えてくる。
「えっと、大変な事が起きて大切な話しをしていたんだ。だから、僕のことは気にしなくていいんだってこと」
「コハクの事なら、どんな時でも気になるさ」
「それは、過保護っていうの」
「そうかもな。皆もそう言うしな」
「えっ、皆んなに、そう思われているの!?」
「気にする必要はないさ」
「恥ずかしいよ……」
「私は、コハクを思う気持ちを恥じたりしない。誰に何をどう思われてもかまわない。例え、コハクが私のことを何とも思ってないとしてもね。でも、寂しくは思うかな」
「ちょっと! まってぇ」
 シロガネに寂しいと言わせてしまって、コハクは慌てる。
 その後、なんて言えばいいのだろう。
 少し冷静になれば、まるでシロガネが、コハクに気にして欲しいと言っているようだった。
 コハクが、シロガネの事を何も思わないはずがない。
 そんなこと、シロガネだって知っているはずなのにと、気がつけば先に続いて、それ以上の恥ずかしさが増した。
 だけど、誤魔化したくないから小さな声で伝えた。
「いっぱい気にしてる。思っているよ……」
 シロガネが、また頭を撫でた。
 まるで、それで良いと言うようで、コハクは頬を赤らめる。その様子にシロガネは満足そうだ。
 その後、二人はいつもと変わらない夕食の時間を過ごした。
 今日は森に入り、色々な事があった。
 コハクは寝床に入るなり、深い眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます

めがねあざらし
BL
死に場所は、薄暗い娼館の片隅だった。奪われ、弄ばれ、捨てられた運命の果て。けれど目覚めたのは、まだ“すべてが起きる前”の過去だった。 王国の檻に囚われながらも、静かに抗い続けた日々。その中で出会った“彼”が、冷え切った運命に、初めて温もりを灯す。 運命を塗り替えるために歩み始めた、険しくも孤独な道の先。そこで待っていたのは、金の瞳を持つ竜帝—— 「お前を、誰にも渡すつもりはない」 溺愛、独占、そしてトラヴィスの宮廷に渦巻く陰謀と政敵たち。死に戻ったΩは、今度こそ自分自身を救うため、皇妃として“未来”を手繰り寄せる。 愛され、試され、それでも生き抜くために——第二章、ここに開幕。

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...