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39刀と鍛治の過去
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今日は久しぶりの訓練日だ。
「ゲンゲっ!」
コハクは手を振り声をかけて近づいた。
「おぉ、久方ぶりじゃな」
「ごめん、待たせたかな」
「いや、約束の時間よりも早いぞ。急かしたようで、すまぬな」
ゲンゲが賑やかに笑った。
「今日は、よろしくねっ」
「こちらこそ、よろしく頼むぞ。そういえば、この間は、大変な事があったようじゃな」
挨拶もそこそこにゲンゲが、アヤメの怪我をした時の話しを振ってきた。
「あっ、うん。知っているんだね」
「ザクロ殿から聞いたゆえな」
「ザクロが魔物を倒したんだ。カッコいいよね」
「うむ、ザクロ殿の心意気には惚れ惚れするぞ」
「ゲンゲは、ザクロと仲良しなんだね」
「いやぁ、そうか仲良しかっ」
ゲンゲはハニカミながら大笑いをした。
「違った?」
勘違いなのだろうかと、コハクは首を傾げた。
「仲は良いぞ。だが、コハクどのが思う仲良しとは、ちと違うかと思っての」
「それって、ゲンゲもザクロにお世話になって慕っているってこと?」
「おぉ、それじゃ」
「なんだか。ザクロって式神のみんなのまとめ役ってな感じだね」
「そりゃそうじゃ。なんせ、シロガネ公と一番付き合いが長いからの。それに、ザクロどのは面倒見が良いからな、皆が頼りにしておる」
シロガネが最初に式神にしたのはザクロだという事は知っている。ならば、その次は誰なのか。シロガネが式神にした順をコハクは知りたくなる。
「ゲンゲは知っているの? ザクロの次に誰が式神になったのか、その順番を」
「うむ。知っておるぞ。ザクロどの、スイセンどの、アヤメどの、シオンどの。ナデシコどのとスミレどの。そしてワシで、次がカリンに最後がユリじゃ」
コハクの予想していた順番とぼぼ一致した。
カリンは思うより遅く。意外なのユリだった。ザクロと同じく、ユリもシロガネと付き合いが長いと思っていたからだ。
「教えてくれてありがとう。ねぇ、ゲンゲはどうしてシロガネの式神になったの?」
「コハクどのは皆に尋ねておいでのようじゃの。シロガネ公には聞かぬのか」
「だって、シロガネって秘密主義で誤魔化してはっきり言わないよ。もし話してくれても簡潔で、詳しく話ししてくれないと思う。それに、こういうのは本人じゃなくて、周りの皆んなから聞くのが楽しんだから」
コハクが悪戯な笑みを浮かべた。その笑顔に釣られてゲンゲも笑った。
「本に、その通りよ。コハクどのは、あの気難しいシロガネ公の事をよく理解しておるの」
「えっ、シロガネは優しいよ。気難しくないけど?」
「あぁ……。まぁ、それはなぁ。コハクどのだからじゃ。コハクどのだけだ」
「やっぱり……。ゲンゲも過保護だって思ってるんだよね」
「過保護か……。違うな。大切な人を護りたいという気持ちは理解出来る。だから、それを過保護で片付けたくはないな」
「そっ、だよね!」
ゲンゲが過保護でないと言った。コハクを子供扱いをせずに、一人者として見てくれたと思えた。それは嬉しくなる。
「ワシは盾として皆の力になる。大切な者たちを守りたいという思いは、今も昔も変わらぬ。無くしてからでは遅い。もう後悔はしたくないからな」
真剣な表情と言葉に、コハクは固唾を呑む。その口振から、シロガネの式神になった経緯に関わる事なのだと察した。
「さて、コハクどのが、ご所望のワシの話しをしようかの」
さっきまでの真剣さは失せて、ゲンゲの戯けた表情は穏やかだった。
成熟した世界が無になり。
人が生きるには苦しく辛い混沌が訪れる。過ぎさる時の流れの中、人の営みが根づく。
だが、より豊かな暮らしを求め欲せば、戦乱の混迷期を迎えた。
ゲンゲは、岩や石の山々に囲まれた小国に生まれた。
国は鉱石を採掘して他国へ輸出する。また、鉱石を利用した鍛治も盛んで、生活用品から武器や武具などを制作して他国に売っていた。
そして、ゲンゲの父親は腕の良い鍛治職人だった。ゆえに、ゲンゲも幼少の頃から鍛治に親しみ学んだ。
ゲンゲの武器を制作する意欲と探究心は人一倍だった。
良い武器を制作する為には、武器を使いこなせなければならないと考える。そして、ありとあらゆる剣術を習得した。
鍛治職人の腕はもちろんだが、剣術に置いても才があった。
ゲンゲの制作する武器は評判となる。
剣士たちが、こぞって依頼するようになって、鍛治職人として名を轟かせた。
また、剣術の腕をかわれて少年たちの指南役として多忙な日を過ごしていた。
国と国が争えば武器や武具の需要が増えてゲンゲの国は潤う。
だが、その争いの矛先が、ゲンゲの国へ向けられた。武器の供給を絶つ為だ。
戦禍に巻き込まれるのは逃れられない。いつかどこかの定めだろう。
ゲンゲは、守るために戦禍に飛び込む。そして目に映るは、己が作った武器を手にした敵が、己が剣術を教えていた少年たちを斬った姿だった。
怒りと哀しみと後悔をまとう鬼となり、敵を斬り倒していく。
ゲンゲの周りは血の海になり、歩く後ろには敵の死体の山が出来た。
戦いが終わり、ゲンゲの国は酷い有様となる。ゲンゲは、贖罪を胸に抱き、国の復興に尽力をつくした。
その後、国を離れて、ゲンゲは流浪の旅に出た。行く先々で鍛治職人として生計を立てるも、武器は作らず、生活用品のみを作った。そして剣を手にする事はなかった。
それでも、ゲンゲの風貌は知れ渡っていた為、多くの者から武器の制作の依頼を受ける。しかし、ゲンゲは首を縦に振らなかった。
幾つもの刻は流れて、森の奥へと引きこもるゲンゲの元に、ひとりの銀髪の男が訪れた。
落ち着いた雰囲気と物腰柔らかな優男だが、まとう覇気は並の者でないとわかる。
「何用かの」
「この短剣を修復して欲しい」
「その短剣は……生憎、もう刀は携わらぬ」
「その腕、そのまま腐らせるつもりか」
「其方には関係ない。その口を閉じよ」
「この短剣は、使い手と共に大切な者を守る為に戦った。使い手は、この短剣に感謝しているぞ。そして、役目を果たした後も護り刀として大切にしていた。共に眠りにつくにしても、このままでは不憫であろう」
「その者は……亡くなったのか」
「あぁ、天寿を全うした。だが、また大切な者たちを護る為に、再びこの短剣を振うだろうよ」
ゲンゲは銀髪の男の言う意味が理解出来ない。
死んだ者が、再びこの短剣を使うというのだ。ゲンゲは興味を持つが、訝しみながら尋ねた。
「死んでなお、剣を使うのか? ありえんよ。確かに、アンタの言うよに、この短剣を見ればわかる。如何に戦い。この刀を大切していたかな。この刀を愛用していた者の人となりが、刀から伝わってくる」
「ならば、修理するのは問題ないな。其方の刀に感謝していた者がいた。それが事実だ。その者はもういないが、死して尚もこの刀を手にして大切なものを守る為に戦う意思を持つ者だ。それほどの刀を其方が作ったのだ。責任を果たされよ」
「なっ!……」
銀髪の男の屁理屈のような、こじつけにゲンゲは声を上げた。
銀髪の男は端麗な顔の口角を上げた。
「刀は人の命を奪うが救いもする。なにもこれは刀だけの事ではない。使う者の意思によって、使う者の立場によって、どちらにでもなる。鍛治職人が刀を作らずにいたからといって、奪う者がいなくなるわけではない。ならば、然るべき者に刀を持たせて、護れる力と成せば良い。そうあるべきと思うならば、見極めろ。己の刀を持つに相応しい者であるかどうか。其方の剣の腕ならば可能であろう」
目から鱗であった。
今までのゲンゲは、優れた刀を求めるだけだった。使い手のことは考えてなかった。
だが、銀髪の男は使い手の力量、技量をその生き様を見て刀を作るように言っている。
それは、その使い手と刀の運命に責任を持つ事だ。
「其方は……何者だ」
「ただの旅人さ」
銀髪の男はゲンゲに短剣を渡してその場を後にした。
ゲンゲは預かった短剣を修復して、いずれ訪れるだろう銀髪の男を待った。
だが、生きている間に再び会うことはなかった。
ゲンゲは生涯を幕を閉じるまで、自身が作った刀を集めて修復した。そして修復した刀の全てに『守護剣活人』と彫る。
自身が死んだ後も後世に於いて、この誓いを記す事により、刀を使う者に問おう。
息を引きとる間際に、白虎の式神が現れた。
『銀髪の男に渡す物があるのではないのか』
この時、ゲンゲは全てを悟り、白虎の神使いになった。
銀髪の男こそ……。
「言うまでもなく、銀髪の男は、シロガネ公ぞ」
「うーん。皆んなの話しを聞いていくと、シロガネって、勝手だよね」
ガハハっとゲンゲが笑った。
「コハクどのに、そのように言われたと知ればシロガネ公はどんな顔をされるかの」
「涼しい顔をして、そうかなって惚けると思う」
「いやはや、ワシは慌てふためき誤解だと弁解すると思うぞ」
ゲンゲは楽しそうだ。
「白虎の式神になったのは、シロガネに会えるから?」
「そうじゃ。短剣を渡さずにはおれんからの」
「ゲンゲを仲間にするシロガネの作戦かもね」
「そうかもしれぬな。しかし、ワシがまた会いたいと思った。シロガネ公によってワシは鍛治職人として生きて死ねた。後悔がありつつ、後悔のない一生をおくれた」
「ねぇ、短剣はゲンゲが作った物だったんでしょう。でもシロガネのじゃなくて……」
ゲンゲがニヤリと笑った。
「ザクロどのの、短剣じゃ」
「やっぱり!」
「シロガネ公にとってザクロどのは、初めての式神じゃな。そして、ワシにとっても仲間として武器を初めて使ってくれた方じゃ」
「ザクロって、やっぱり凄いよね」
「あぁ、凄いお方じゃ。まぁ、それはコハクどのも、なのじゃがな」
コハクはキョトンとした。
素直で無垢。人の事を優先するゆえに自分がいかに特別なのか考えない。もしくは当然だと受け入れているからの思いもしないのか。
どちらにせよ。コハクのこういうところが、皆が心易くなるのだろう。
「ゲンゲっ!」
コハクは手を振り声をかけて近づいた。
「おぉ、久方ぶりじゃな」
「ごめん、待たせたかな」
「いや、約束の時間よりも早いぞ。急かしたようで、すまぬな」
ゲンゲが賑やかに笑った。
「今日は、よろしくねっ」
「こちらこそ、よろしく頼むぞ。そういえば、この間は、大変な事があったようじゃな」
挨拶もそこそこにゲンゲが、アヤメの怪我をした時の話しを振ってきた。
「あっ、うん。知っているんだね」
「ザクロ殿から聞いたゆえな」
「ザクロが魔物を倒したんだ。カッコいいよね」
「うむ、ザクロ殿の心意気には惚れ惚れするぞ」
「ゲンゲは、ザクロと仲良しなんだね」
「いやぁ、そうか仲良しかっ」
ゲンゲはハニカミながら大笑いをした。
「違った?」
勘違いなのだろうかと、コハクは首を傾げた。
「仲は良いぞ。だが、コハクどのが思う仲良しとは、ちと違うかと思っての」
「それって、ゲンゲもザクロにお世話になって慕っているってこと?」
「おぉ、それじゃ」
「なんだか。ザクロって式神のみんなのまとめ役ってな感じだね」
「そりゃそうじゃ。なんせ、シロガネ公と一番付き合いが長いからの。それに、ザクロどのは面倒見が良いからな、皆が頼りにしておる」
シロガネが最初に式神にしたのはザクロだという事は知っている。ならば、その次は誰なのか。シロガネが式神にした順をコハクは知りたくなる。
「ゲンゲは知っているの? ザクロの次に誰が式神になったのか、その順番を」
「うむ。知っておるぞ。ザクロどの、スイセンどの、アヤメどの、シオンどの。ナデシコどのとスミレどの。そしてワシで、次がカリンに最後がユリじゃ」
コハクの予想していた順番とぼぼ一致した。
カリンは思うより遅く。意外なのユリだった。ザクロと同じく、ユリもシロガネと付き合いが長いと思っていたからだ。
「教えてくれてありがとう。ねぇ、ゲンゲはどうしてシロガネの式神になったの?」
「コハクどのは皆に尋ねておいでのようじゃの。シロガネ公には聞かぬのか」
「だって、シロガネって秘密主義で誤魔化してはっきり言わないよ。もし話してくれても簡潔で、詳しく話ししてくれないと思う。それに、こういうのは本人じゃなくて、周りの皆んなから聞くのが楽しんだから」
コハクが悪戯な笑みを浮かべた。その笑顔に釣られてゲンゲも笑った。
「本に、その通りよ。コハクどのは、あの気難しいシロガネ公の事をよく理解しておるの」
「えっ、シロガネは優しいよ。気難しくないけど?」
「あぁ……。まぁ、それはなぁ。コハクどのだからじゃ。コハクどのだけだ」
「やっぱり……。ゲンゲも過保護だって思ってるんだよね」
「過保護か……。違うな。大切な人を護りたいという気持ちは理解出来る。だから、それを過保護で片付けたくはないな」
「そっ、だよね!」
ゲンゲが過保護でないと言った。コハクを子供扱いをせずに、一人者として見てくれたと思えた。それは嬉しくなる。
「ワシは盾として皆の力になる。大切な者たちを守りたいという思いは、今も昔も変わらぬ。無くしてからでは遅い。もう後悔はしたくないからな」
真剣な表情と言葉に、コハクは固唾を呑む。その口振から、シロガネの式神になった経緯に関わる事なのだと察した。
「さて、コハクどのが、ご所望のワシの話しをしようかの」
さっきまでの真剣さは失せて、ゲンゲの戯けた表情は穏やかだった。
成熟した世界が無になり。
人が生きるには苦しく辛い混沌が訪れる。過ぎさる時の流れの中、人の営みが根づく。
だが、より豊かな暮らしを求め欲せば、戦乱の混迷期を迎えた。
ゲンゲは、岩や石の山々に囲まれた小国に生まれた。
国は鉱石を採掘して他国へ輸出する。また、鉱石を利用した鍛治も盛んで、生活用品から武器や武具などを制作して他国に売っていた。
そして、ゲンゲの父親は腕の良い鍛治職人だった。ゆえに、ゲンゲも幼少の頃から鍛治に親しみ学んだ。
ゲンゲの武器を制作する意欲と探究心は人一倍だった。
良い武器を制作する為には、武器を使いこなせなければならないと考える。そして、ありとあらゆる剣術を習得した。
鍛治職人の腕はもちろんだが、剣術に置いても才があった。
ゲンゲの制作する武器は評判となる。
剣士たちが、こぞって依頼するようになって、鍛治職人として名を轟かせた。
また、剣術の腕をかわれて少年たちの指南役として多忙な日を過ごしていた。
国と国が争えば武器や武具の需要が増えてゲンゲの国は潤う。
だが、その争いの矛先が、ゲンゲの国へ向けられた。武器の供給を絶つ為だ。
戦禍に巻き込まれるのは逃れられない。いつかどこかの定めだろう。
ゲンゲは、守るために戦禍に飛び込む。そして目に映るは、己が作った武器を手にした敵が、己が剣術を教えていた少年たちを斬った姿だった。
怒りと哀しみと後悔をまとう鬼となり、敵を斬り倒していく。
ゲンゲの周りは血の海になり、歩く後ろには敵の死体の山が出来た。
戦いが終わり、ゲンゲの国は酷い有様となる。ゲンゲは、贖罪を胸に抱き、国の復興に尽力をつくした。
その後、国を離れて、ゲンゲは流浪の旅に出た。行く先々で鍛治職人として生計を立てるも、武器は作らず、生活用品のみを作った。そして剣を手にする事はなかった。
それでも、ゲンゲの風貌は知れ渡っていた為、多くの者から武器の制作の依頼を受ける。しかし、ゲンゲは首を縦に振らなかった。
幾つもの刻は流れて、森の奥へと引きこもるゲンゲの元に、ひとりの銀髪の男が訪れた。
落ち着いた雰囲気と物腰柔らかな優男だが、まとう覇気は並の者でないとわかる。
「何用かの」
「この短剣を修復して欲しい」
「その短剣は……生憎、もう刀は携わらぬ」
「その腕、そのまま腐らせるつもりか」
「其方には関係ない。その口を閉じよ」
「この短剣は、使い手と共に大切な者を守る為に戦った。使い手は、この短剣に感謝しているぞ。そして、役目を果たした後も護り刀として大切にしていた。共に眠りにつくにしても、このままでは不憫であろう」
「その者は……亡くなったのか」
「あぁ、天寿を全うした。だが、また大切な者たちを護る為に、再びこの短剣を振うだろうよ」
ゲンゲは銀髪の男の言う意味が理解出来ない。
死んだ者が、再びこの短剣を使うというのだ。ゲンゲは興味を持つが、訝しみながら尋ねた。
「死んでなお、剣を使うのか? ありえんよ。確かに、アンタの言うよに、この短剣を見ればわかる。如何に戦い。この刀を大切していたかな。この刀を愛用していた者の人となりが、刀から伝わってくる」
「ならば、修理するのは問題ないな。其方の刀に感謝していた者がいた。それが事実だ。その者はもういないが、死して尚もこの刀を手にして大切なものを守る為に戦う意思を持つ者だ。それほどの刀を其方が作ったのだ。責任を果たされよ」
「なっ!……」
銀髪の男の屁理屈のような、こじつけにゲンゲは声を上げた。
銀髪の男は端麗な顔の口角を上げた。
「刀は人の命を奪うが救いもする。なにもこれは刀だけの事ではない。使う者の意思によって、使う者の立場によって、どちらにでもなる。鍛治職人が刀を作らずにいたからといって、奪う者がいなくなるわけではない。ならば、然るべき者に刀を持たせて、護れる力と成せば良い。そうあるべきと思うならば、見極めろ。己の刀を持つに相応しい者であるかどうか。其方の剣の腕ならば可能であろう」
目から鱗であった。
今までのゲンゲは、優れた刀を求めるだけだった。使い手のことは考えてなかった。
だが、銀髪の男は使い手の力量、技量をその生き様を見て刀を作るように言っている。
それは、その使い手と刀の運命に責任を持つ事だ。
「其方は……何者だ」
「ただの旅人さ」
銀髪の男はゲンゲに短剣を渡してその場を後にした。
ゲンゲは預かった短剣を修復して、いずれ訪れるだろう銀髪の男を待った。
だが、生きている間に再び会うことはなかった。
ゲンゲは生涯を幕を閉じるまで、自身が作った刀を集めて修復した。そして修復した刀の全てに『守護剣活人』と彫る。
自身が死んだ後も後世に於いて、この誓いを記す事により、刀を使う者に問おう。
息を引きとる間際に、白虎の式神が現れた。
『銀髪の男に渡す物があるのではないのか』
この時、ゲンゲは全てを悟り、白虎の神使いになった。
銀髪の男こそ……。
「言うまでもなく、銀髪の男は、シロガネ公ぞ」
「うーん。皆んなの話しを聞いていくと、シロガネって、勝手だよね」
ガハハっとゲンゲが笑った。
「コハクどのに、そのように言われたと知ればシロガネ公はどんな顔をされるかの」
「涼しい顔をして、そうかなって惚けると思う」
「いやはや、ワシは慌てふためき誤解だと弁解すると思うぞ」
ゲンゲは楽しそうだ。
「白虎の式神になったのは、シロガネに会えるから?」
「そうじゃ。短剣を渡さずにはおれんからの」
「ゲンゲを仲間にするシロガネの作戦かもね」
「そうかもしれぬな。しかし、ワシがまた会いたいと思った。シロガネ公によってワシは鍛治職人として生きて死ねた。後悔がありつつ、後悔のない一生をおくれた」
「ねぇ、短剣はゲンゲが作った物だったんでしょう。でもシロガネのじゃなくて……」
ゲンゲがニヤリと笑った。
「ザクロどのの、短剣じゃ」
「やっぱり!」
「シロガネ公にとってザクロどのは、初めての式神じゃな。そして、ワシにとっても仲間として武器を初めて使ってくれた方じゃ」
「ザクロって、やっぱり凄いよね」
「あぁ、凄いお方じゃ。まぁ、それはコハクどのも、なのじゃがな」
コハクはキョトンとした。
素直で無垢。人の事を優先するゆえに自分がいかに特別なのか考えない。もしくは当然だと受け入れているからの思いもしないのか。
どちらにせよ。コハクのこういうところが、皆が心易くなるのだろう。
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