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50双子とシロガネ前編
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それから二人は、毎日会って色んな話しをした。
カリンには、ハイハイと這うようなった赤子の頃からの記憶があった。
赤子のカリンの世話をしていたのは、人の形をしたモノたちだった。それが何なのかは、カリンには分からなかった。
そして、カリンの側には、いつも一緒にいて、守ってくれる心強い相棒がいた。
額に三日月のような傷がある、白と灰色の大きな熊だ。
カリンが立てるようになり、行動範囲が広がると、光の中も大きく広くなった。
カリンの成長と共に、人の形をしたモノたちが言葉やこの世界の理について教えた。
そして、カリンは相棒の名前をルーンと名付けた。
光の中で不自由なくスクスクとカリンは育った。ルーンがいた、人の形をしたモノたちがいた、森の動物たちがいた。
カリンは寂しくなかったし、自由気ままに楽しく過ごしていた。
そして、光の中から外に出ることはしなかった。それは、必要がなかったからだ。そして、出来なかったのだった。
エレンは王子として、何不自由なく暮らしていた。だが母親は、エレンが五歳の時に流行り病で死亡する。
国王であるエレンの父親は、新しい妃を娶った。そして、男の子が生まれた。
エレンは弟が出来て喜んだが、新しい王妃はエレンを疎み、自身の子と会うことを嫌がった。エレンの仲良くしたい思いは叶わない。
まだ幼かったエレンには、その理由がわからなかった。
しかし成長するにつれて、周りの者たちの話しから察する。
そして、エレンの知らないところで、王位継承権を争う派閥が出来ていたのだった。
益々、普通の兄弟として接する事が難しくなる。そんな環境の中でエレンは育った。
「弟でなく妹ならば、仲良く出来たのだろうか」
エレンの呟きに、母親代わりの侍女が驚いた顔をする。
彼女はエレンを取り上げた助産師で、そのまま侍女としてエレンの世話をしていた。
「なぜ、そんなに驚くのだ。僕の妹とならば、さぞ可愛いだろうなぁ」
エレンは、心の憂いを隠して戯けてみた。
「申し訳ございません」
突然、侍女が深々と頭を下げると、涙を浮かべて立ち去った。
その後は、何も無かった様に、変わらない侍女の姿に違和感を抱くも、エレンは心に蓋をして、知らないふりをした。
カリンと会ってから、その事を思い出したエレンは、留学中の学校の長期休暇を利用して一時帰国する。
すぐに、母親の遺品が整理されている部屋に向かった。
自分の生まれた時の事を知る、手がかりになる物がないのかと探す為だった。
日記があればと思うがなさそうだ。本の中に何か書いたり、メモを挟んだりしてないかと手当たり次第に確認していく。
目ぼしい場所は探した。
あとは、関係が無さそうな服や宝石などだ。一つ一つと箱を開けて調べていく。
今までの雰囲気と違う小さな箱があった。開けてみると、赤ん坊の服が入っていた。
青色と桃色のお揃いの服だ。
青色はエレンの物だとすれば、桃色の物は……。
箱の底には封筒があった。送り主は母親の母、エレンの祖母からだった。
エレンは封筒から取り出して手紙を広げた。
書かれている内容にエレンは震えた。
『私の夢見が当たっているならば、男の子と女の子の双子が生まれるわ。双子が不吉だなんて、大昔の迷信を惑わされては駄目よ。生まれて来る子に罪はないのだから』
エレンの祖母には予知夢の能力があった。
祖母の血筋には不思議な力を持つ者が多かったと母親が話していた。そして、その能力が自分にもあればと嘆いていたのを思い出した。
エレンは確信した。
カリンはエレンの双子の妹で、生まれてすぐに、あの森に捨てられたのだ。
エレンの胸は悲しさで張り裂けそうになる。だけど、カリンに出会えた事に歓喜した。
その後、エレンは育ての従女に、この事実を突きつけた。
彼女は涙を流しながら、事の顛末を話した。
『男の子ならエレン、女の子ならカリンよ』
双子であると知りながらも、エレンの母親は生まれてくる子は一人だと立ち振る舞った。
助産師だった女は、双子が生まれたならば、王命に従って、女の子の命を奪わなければならなかった。
しかし、直接手を下すなど無理な話しだ。だから、隣国の魔物がいる森に置き去りする事にしたのだ。そして、せめて……と思い。母親が付けた名を残してその場を去ったのだ。
「どうか、この事を公にしてはなりません。エレン様も妹君も危のうございます」
確かに、カリンが生きていたと知れば命が狙われるだろう。それを知るエレンに、育ててくれた彼女もだ。
エレンは一刻も早く、カリンに伝えたくて、予定よりも早くに隣国へと戻った。
「カリンは僕の妹で、動物と意思の疎通が出来る不思議な力を持っているのは、祖母の力を受け継いでいるからなんだ」
「エレンは、ぼくのお兄ちゃんなのぉ」
「そうだよ! こんなに良く似ているんだ。兄妹でないわけがないよ」
「そっかぁー。ぼく、嬉しい」
「うん。僕も、嬉しいよ」
エレンが、これからの話しをする。
留学が終われば、エレンは自国へ帰らなくてはならない。カリンと離れ離れになる。
一国の王子が、隣国にそうそう訪れる事はできない。だから、一緒にエレンの国に行って、安全な場所で身を隠すことを提案する。
「ダメだよぉ」
「どうして」
「ぼくがここから出ちゃうとねぇ、消えちゃうだって。そしてね、魔物の森の境がなくなるだってぇ」
「誰がそんな事いったんだ」
「あるじぃ」
「あるじ? カリンとそいつは、どういう関係なんだ」
「ぼくをこの世に留めているヒト」
カリンの言い回し、話し方が独特なのは、話し相手がいなかったからだと、エレンは思っていた。
それでも今まで問題なく理解出来ていた。
しかし、今回の言葉の意味を理解するのが難しかった。
「留めている……。その、あるじは何処にいるの」
「わかんない」
「どんな人なんだ」
「会ったことないのぉ」
「なんだって!」
エレンは二人の関係が理解出来ない。
ただ、この結界を張っているのは、その者で。カリンをここに留めている者。何としても会って話しをしなければならない。だが、手がかりが……。
「ルーン……。ルーンは、そのあるじについて何か知らないかな」
「ルーンはね。あるじの式神なの」
それを早く言ってくれっと、エレンは心の中で叫んだ。
「カリン。ルーンを呼んでくれないかな」
いつもならば、カリンを通じてルーンと交流するが、今回は直接、話しをしてみることにした。
「ルーン。大切な話しだ。あるじという者がカリンをここに留めているって聞いた。僕はカリンと一緒にいたい。もう離れ離れは嫌なんだ」
ルーンは大人しく最後までエレンの話しを聞いていた。
そして突然、咆哮を上げた。
それは、とても大きく、この世の果てまで届くのではないだろうか。まるで魔物のようだ。
エレンもカリンもあまりの大きさに驚き、耳を塞いだ。
咆哮が終わるとルーンが、静かに座って何かを待っているようだ。
すると、エレンとカリンの目の前に光が出現した。光輝く中から人の姿が見えた。
姿を現した者にルーンが小さく鼻を鳴らして伏せた。
「あるじぃ?」
カリンが確かめるように尋ねる。
「今はそうじゃないが。君がそう呼んでいたことは知ってるよ」
男からは並々ならない覇気を感じて、エレンはたじろいだ。
男とエレンの目があった。エレンに緊張が走る。
「お会い出来て光栄です。お呼びだてした形になり申し訳ございません。私の名はエレン。隣国の王子です」
エレンは王子だ。常に最大限の敬意を払らわれる立場だが、この男から溢れる威圧に威厳には敵わない。
「知っている」
静かに深い声色。この一言で、エレンは男の全てを信頼した。
「まずはカリンを助けて頂き、またはカリンと会わせて頂きありがとうございます。そして、どうか。カリンと一緒にいることをお許し願いたい」
「それは難しい」
「なぜですかっ!」
「昔話しをしようか」
男が話しを始めた。
カリンには、ハイハイと這うようなった赤子の頃からの記憶があった。
赤子のカリンの世話をしていたのは、人の形をしたモノたちだった。それが何なのかは、カリンには分からなかった。
そして、カリンの側には、いつも一緒にいて、守ってくれる心強い相棒がいた。
額に三日月のような傷がある、白と灰色の大きな熊だ。
カリンが立てるようになり、行動範囲が広がると、光の中も大きく広くなった。
カリンの成長と共に、人の形をしたモノたちが言葉やこの世界の理について教えた。
そして、カリンは相棒の名前をルーンと名付けた。
光の中で不自由なくスクスクとカリンは育った。ルーンがいた、人の形をしたモノたちがいた、森の動物たちがいた。
カリンは寂しくなかったし、自由気ままに楽しく過ごしていた。
そして、光の中から外に出ることはしなかった。それは、必要がなかったからだ。そして、出来なかったのだった。
エレンは王子として、何不自由なく暮らしていた。だが母親は、エレンが五歳の時に流行り病で死亡する。
国王であるエレンの父親は、新しい妃を娶った。そして、男の子が生まれた。
エレンは弟が出来て喜んだが、新しい王妃はエレンを疎み、自身の子と会うことを嫌がった。エレンの仲良くしたい思いは叶わない。
まだ幼かったエレンには、その理由がわからなかった。
しかし成長するにつれて、周りの者たちの話しから察する。
そして、エレンの知らないところで、王位継承権を争う派閥が出来ていたのだった。
益々、普通の兄弟として接する事が難しくなる。そんな環境の中でエレンは育った。
「弟でなく妹ならば、仲良く出来たのだろうか」
エレンの呟きに、母親代わりの侍女が驚いた顔をする。
彼女はエレンを取り上げた助産師で、そのまま侍女としてエレンの世話をしていた。
「なぜ、そんなに驚くのだ。僕の妹とならば、さぞ可愛いだろうなぁ」
エレンは、心の憂いを隠して戯けてみた。
「申し訳ございません」
突然、侍女が深々と頭を下げると、涙を浮かべて立ち去った。
その後は、何も無かった様に、変わらない侍女の姿に違和感を抱くも、エレンは心に蓋をして、知らないふりをした。
カリンと会ってから、その事を思い出したエレンは、留学中の学校の長期休暇を利用して一時帰国する。
すぐに、母親の遺品が整理されている部屋に向かった。
自分の生まれた時の事を知る、手がかりになる物がないのかと探す為だった。
日記があればと思うがなさそうだ。本の中に何か書いたり、メモを挟んだりしてないかと手当たり次第に確認していく。
目ぼしい場所は探した。
あとは、関係が無さそうな服や宝石などだ。一つ一つと箱を開けて調べていく。
今までの雰囲気と違う小さな箱があった。開けてみると、赤ん坊の服が入っていた。
青色と桃色のお揃いの服だ。
青色はエレンの物だとすれば、桃色の物は……。
箱の底には封筒があった。送り主は母親の母、エレンの祖母からだった。
エレンは封筒から取り出して手紙を広げた。
書かれている内容にエレンは震えた。
『私の夢見が当たっているならば、男の子と女の子の双子が生まれるわ。双子が不吉だなんて、大昔の迷信を惑わされては駄目よ。生まれて来る子に罪はないのだから』
エレンの祖母には予知夢の能力があった。
祖母の血筋には不思議な力を持つ者が多かったと母親が話していた。そして、その能力が自分にもあればと嘆いていたのを思い出した。
エレンは確信した。
カリンはエレンの双子の妹で、生まれてすぐに、あの森に捨てられたのだ。
エレンの胸は悲しさで張り裂けそうになる。だけど、カリンに出会えた事に歓喜した。
その後、エレンは育ての従女に、この事実を突きつけた。
彼女は涙を流しながら、事の顛末を話した。
『男の子ならエレン、女の子ならカリンよ』
双子であると知りながらも、エレンの母親は生まれてくる子は一人だと立ち振る舞った。
助産師だった女は、双子が生まれたならば、王命に従って、女の子の命を奪わなければならなかった。
しかし、直接手を下すなど無理な話しだ。だから、隣国の魔物がいる森に置き去りする事にしたのだ。そして、せめて……と思い。母親が付けた名を残してその場を去ったのだ。
「どうか、この事を公にしてはなりません。エレン様も妹君も危のうございます」
確かに、カリンが生きていたと知れば命が狙われるだろう。それを知るエレンに、育ててくれた彼女もだ。
エレンは一刻も早く、カリンに伝えたくて、予定よりも早くに隣国へと戻った。
「カリンは僕の妹で、動物と意思の疎通が出来る不思議な力を持っているのは、祖母の力を受け継いでいるからなんだ」
「エレンは、ぼくのお兄ちゃんなのぉ」
「そうだよ! こんなに良く似ているんだ。兄妹でないわけがないよ」
「そっかぁー。ぼく、嬉しい」
「うん。僕も、嬉しいよ」
エレンが、これからの話しをする。
留学が終われば、エレンは自国へ帰らなくてはならない。カリンと離れ離れになる。
一国の王子が、隣国にそうそう訪れる事はできない。だから、一緒にエレンの国に行って、安全な場所で身を隠すことを提案する。
「ダメだよぉ」
「どうして」
「ぼくがここから出ちゃうとねぇ、消えちゃうだって。そしてね、魔物の森の境がなくなるだってぇ」
「誰がそんな事いったんだ」
「あるじぃ」
「あるじ? カリンとそいつは、どういう関係なんだ」
「ぼくをこの世に留めているヒト」
カリンの言い回し、話し方が独特なのは、話し相手がいなかったからだと、エレンは思っていた。
それでも今まで問題なく理解出来ていた。
しかし、今回の言葉の意味を理解するのが難しかった。
「留めている……。その、あるじは何処にいるの」
「わかんない」
「どんな人なんだ」
「会ったことないのぉ」
「なんだって!」
エレンは二人の関係が理解出来ない。
ただ、この結界を張っているのは、その者で。カリンをここに留めている者。何としても会って話しをしなければならない。だが、手がかりが……。
「ルーン……。ルーンは、そのあるじについて何か知らないかな」
「ルーンはね。あるじの式神なの」
それを早く言ってくれっと、エレンは心の中で叫んだ。
「カリン。ルーンを呼んでくれないかな」
いつもならば、カリンを通じてルーンと交流するが、今回は直接、話しをしてみることにした。
「ルーン。大切な話しだ。あるじという者がカリンをここに留めているって聞いた。僕はカリンと一緒にいたい。もう離れ離れは嫌なんだ」
ルーンは大人しく最後までエレンの話しを聞いていた。
そして突然、咆哮を上げた。
それは、とても大きく、この世の果てまで届くのではないだろうか。まるで魔物のようだ。
エレンもカリンもあまりの大きさに驚き、耳を塞いだ。
咆哮が終わるとルーンが、静かに座って何かを待っているようだ。
すると、エレンとカリンの目の前に光が出現した。光輝く中から人の姿が見えた。
姿を現した者にルーンが小さく鼻を鳴らして伏せた。
「あるじぃ?」
カリンが確かめるように尋ねる。
「今はそうじゃないが。君がそう呼んでいたことは知ってるよ」
男からは並々ならない覇気を感じて、エレンはたじろいだ。
男とエレンの目があった。エレンに緊張が走る。
「お会い出来て光栄です。お呼びだてした形になり申し訳ございません。私の名はエレン。隣国の王子です」
エレンは王子だ。常に最大限の敬意を払らわれる立場だが、この男から溢れる威圧に威厳には敵わない。
「知っている」
静かに深い声色。この一言で、エレンは男の全てを信頼した。
「まずはカリンを助けて頂き、またはカリンと会わせて頂きありがとうございます。そして、どうか。カリンと一緒にいることをお許し願いたい」
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「昔話しをしようか」
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