八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

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51双子とシロガネ後編

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 素材集めと魔物退治を兼ねて魔物の蔓延る森の奥に男がいた。
 人が入って来る気配がしたが、すぐに消えた。だが微か気配が残っていた。
 式神を飛ばして偵察をさせると、その気配が赤子であることが判明した。
 男は放っておくのも忍びなく、その場所に赴く。布に包まれて赤子は泣くことせずに微かな息をしているだけだった。
 生まれてすぐに母親から離されて、乳も飲まずに、魔素の漂うこのような場所に置き去りされれば、すぐさま命の灯火は消えるだろう。
 あと数分か。
 男は慌てることもなく、じっと見つめて、せめて弔ってやろうと考えた。
 すると暗闇の森の中から白っぽい大きなモノが現れた。
 それは、この森の主である魔物だった。自分の目の前に現れるなど通常ではあり得なかった。
 現れたのは灰色の大きな獣の魔物だ。
 半獣の魔物なのか……。
 魔素が濃い森の中には魔素がない場所がある。そこは普通の動物たちが生きている。
 その動物が、その場所から何らかに理由で魔素のあるところで生きていく内に魔物になったモノだ。通常ならば、すぐに魔物の餌食になるがならなかったというのは、それだけ呪力を持っているという事だ。
 半獣の魔物が男を無視して赤子に近づく。そして赤子から魔素を吸収した。
 助けて、いるだと……。
 今まで魔物を退治して来た。半獣も然り。
 男に目もくれず、赤子を助けている半獣の魔物など、稀の稀。
 魔素を完全に吸い取った後は、赤子を守る為の結界を張ったのだ。そして、初めて半獣の魔物は男を見て、男の前に座り、ひれ伏した。
 男は全てを把握して、その心に応える。
 契約の呪文を高らかに唱える。
「我が眷属となる事を許そう。我が式神となる事を許そう。我が命にて、その赤子に一生仕えることを許そう。我が命は絶対。赤子の命も絶対。その心に免じてその心に従うことを許そう」
 男が宙にて指を切ると呪法陣が現れて、半獣の体の中へと吸い込まれるように消えた。
 灰色の体は白くなり、額には契約の証が刻まれた。
 半獣の姿は魔物ではなくなった。

「……そんなことが。ルーンありがとう」
 エレンがルーンを撫でて泣いている。
「ルーン。ありがとう」
 カレンがルーンを撫でて笑っている。
「しかし、難しいのはどういうことでしょうか」
「カリンの命は魔素を吸っている間に尽きた」
 カリンもエレンも驚く。
「でもっ」
 エレンがカリンの姿を存在を確かめるように見つめた。
「魔素を取り除いた後、結界によって時間が停止した。魂はまだ留まっていたので、私の結界内で生きられるようにした」
「そんな……」
 エレンは哀しさで項垂れた。
「一緒にいる方法が無いとも限らない」
 男の言葉に、エレンは期待の眼差しで顔を上げて男を見つめる。
「それは、どういう意味でしょうか」
「ここを出れば、カリンの身体は消滅する。だが、魂は別だ。ルーンとの強い絆が結ばれているからな。カリンに合う器があれば良いのだが」
 男は静かに佇み、じっとエレンを見つめている。
 エレンはゴクリと唾を飲んだ。
「私、の身体。なら、カリンの器として適しているのではないでしょうか……」
「そうだろうな」
 男がニヤリと笑う。
 あり得ない事を言葉にした自身と、それを是とした男に、エレンは震えた。
「かまいません。この身体をカリンの為に使ってください」
「その心に偽りなし、その心を承諾せし」
「あるじぃー。カリンとエレンは、いっしょがいいの。エレンが、いなくなったらダメなんだよぉ」
 男とエレンの話しを聞いていたカリンが、心配そうに尋ねるように男に声をかけた。
「心配ない。二人一緒に、エレンの身体を使うが良い」
「この身体に、私の魂とカリンの魂が……」
 そんな事が可能なのか。だが、この男ならばあり得るのだ。
 全てを見通す。全てを覆す。全てを統べるその力。
 エレンは、カリンの意思を確認したくて、カリンを見た。
 カリンが、真っ直ぐな眼差しで満面の笑みをエレンに向けた。
 エレンは跪いて首を垂れた。
「どうか、この身で許されるならば、お使いください。そして貴方様にお仕えすることをお許し願いたい」
「その心、然り。ただし、次期王となり国を正しく導けよ。その道は困難にて、二人で乗り越えて、今生を謳歌せよ。その後、我に仕えよ」
「ありがとうございます、我が主。名をお尋ねする事をお許し頂けますでしょうか」
「我が名はシロガネ」

 全てを話し終えてエレンは一息つく。
「ってなわけで、僕とカリンは二人で一人なんだ」
「二人は、いつも一緒で、いつでも話しが出来るんだね」
「うん。何でも相談したり。やりたくない事をしてもらったり、してあげたりだね」
「今回、エレンが出て来たのは……」
「カリンじゃ、上手く説明出来ないからねぇ。それに、僕もコハクと仲良くなりたかったんだ。そろそろ紹介してもらわないとさ」
 エレンが悪戯な笑顔を向ける。
「ねぇ、エレンの存在は他の式神のみんなは知っているの?」
「一応、知っているけど、覚えているかなぁ。僕は、人と接する時や日常生活において前に出るようにしているから。式神としては、カリンの方が適しているよ」
「そんな気がする」
 コハクの同意にエレンは笑う。
「さて、そろそろカリンと交代しようかな。たくさん話しが出来て良かったよ。コハク、カリンと仲良くしてあげてね」
「うん。エレン、また話ししようね」
「うん、またぁ」
「いつか、三人で話しができたら……。ボクがしたいから、何かできる事を考えるっ」
 エレンが目を開いて輝かさせる。
「いつか。楽しみにしているよ」
 エレンが目を閉じて、開いた。
「びっくりしたぁー?」
「カリンっ」
「ただいまぁー」
「おかえりぃ」
 この後、コハクとカリンはエレンについて話しをして過ごした。

 カリンの獣使いの力は生まれ持った能力だ。式神になって、その影響で植物と風が操られるようになった。
 学べば呪術も使えるだろうが、直感的なカリンには未だ無縁であった。
 魔獣との戦いは、ルーンのような半獣を使役して戦闘に参加する。
 皆の援護や補助にて活躍していた。
 難しい戦いの曲面では、エレンが表にでる事もあるが、他の式神たちは、カリンと入れ替わっている事を知らなかったりする。
 それは、二人だけの秘密のようでカリンもエレンも愉しんでいた。
 今のところコハクが、学べるものはなかった。
 だが、呪術と違う技を目にして体感する事は学びになる。
 そして、いつかコハクは、呪術として習得するだろう。
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