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55青龍の聖域
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明るく眩しい青い空には大きな雲が浮かんでいた。
陽は燃えて輝けば、体は灼ける痛さを感じる。
「あつくて、溶けそうぉ」
「こう暑くては、外で出るのは難しいな」
「涼しいところに行きたぁーい」
すでにシロガネが、家に結界を張って、呪術で氷の冷気を漂わせていた。
その効果が、切れかけているのである。
呪術によって、状況を変える一手として自然現象を覆すことは可能である。
だが、それは、一瞬か数分の話しだ。
その状況を維持には、莫大な呪力が必要であるからして、つまり、不可能である。
それを数時間も可能なのは、シロガネだからこそである。
これは、完全にシロガネの呪力の無駄遣いである。
だから、通常ならば、意味のない愚行だと行わないだろうが……。
そこは、コハク可愛さに、己の信念を曲げて目を瞑るのは致し方がないだろう。
どこからか「あまいっ! 過保護です」と叱る声が聞こえて来そうだ。
そんなわけで、節度と限度からコハクが、我慢できなくなった時に行っていた。
だが、連日の暑さに、焼石に水な状態であった。
どうにかして、コハクの望みを叶えたい。
シロガネは顎に手をやり考える。
「そうだな……。良い場所を思い出した。涼みに行こうか」
「ほんとっ!」
コハクは、先程までのぐったりしていた様子が嘘のようだ。元気よく声を出して嬉しそうである。
いつもの如く、光の道を通り目的の場所へと向かう。
出口の光を潜れば、そこは紺碧の空に清浄な水の世界が広がっていた。
「わぁーー! きれいーー。ううーん、涼しいー」
コハクは、気持ちよくて、背伸びをするように手を上げて体を伸ばした。
澄んだ空気と水の音、穏やかな風が吹いて水鏡の水面が揺れる。
大きな飛び石が連なり、奥へと続く道になっていた。その遥か先に緑が繁る島が見える。
コハクが、トントンと飛び跳ねるように石の上を歩く。
「シロガネ、早くぅー」
少し先の石の上でコハクが手を振る。
シロガネは、ゆっくりと石をまたいで進んで行く。
コハクが待つ場所に、シロガネが着いた。
「ねぇ、この先も飛んで歩くのは大変だ」
「何も飛ばなくてもいいんだけどね」
シロガネは苦笑する。
「なんだか、飛びたくなっちゃうんだ」
「しかし、滑って転んでは危ない。それに、着くまで体力が持つかな」
「そうだね。まだまだ先は長そうだ」
コハクは手を丸くして望遠鏡のようにして、遠くの島を見た。
「さて、先に進みやすいようにしようか」
シロガネが呪を唱えた。
すると、飛び石の間から石が現れて、繋がり、一つの道になる。
「すごーい。道になった」
「これで安全だ。歩きやすくなった」
「うんっ。飛ばなくていいね」
コハクは、悪戯な笑顔を浮かべて楽しそうだ。シロガネも釣られて笑う。
石の道を二人は話しながら歩く。
たくさんの魚が泳いでいるのが見えるほど、水は清らかだ。
先に進みほど、少しずつ水深は深くなっていけば、透明度が濃くなる。
遠くの水面から大きな魚が飛んだ。
バッシャーンと大きな音がする。
立て続けに水面から飛び跳ねる雄姿に圧倒される。
「す、すごっいよぉ!」
「コハクは海の生物を見るのは初めてのようだね」
「うん。初めてだと思う。あれ?」
「どうしたのかな」
「最初に見た魚は川魚だったよ」
「ここは全ての水の源が集まる場所さ。川であり海である。川でなく海でない」
「あっ、神域だから」
「そうだね」
あと少しで島に着く。
「ねぇ、あそこに誰かいるよ」
コハクは、ぼんやりと見つめながらシロガネに伝えた。
「到着っ!」
コハクは最後の一歩を飛んで島の砂浜に立った。続いてシロガネも島に立つ。
二人を待っていた者が頭を下げた。
「遠路遥々。足をお運び頂きありがとうございます」
「出迎えご苦労様」
「スイセンも来てたんだねっ」
「神使いとして当然です。皇が訪ねるというに同行しないわけがありません」
相変わらずの硬さに、コハクはこっそりと笑った。
スイセンの案内で、島の中へと進む。
木々が繁げる森を歩く。
パラパラっと雨が降ったり、止んだりするので、森は冷んやりとして心地よい。
大きな湖が見えた。ここが目的地のようだ。
「皇が来られた。姿を現せよ」
スイセンが湖に向かって問いかけた。
湖の水面から泡が浮かんで来た。
グルグルと渦巻く。段々と大きくなって渦の中心から飛び出したのは、青龍だった。
長い体は円を描くように、ゆったりと空を舞う。陽の光を浴びた鱗が輝いて美しい。まるで、キラキラと音が聴こえて来るかのようだ。
優美で優雅な雄姿に目が離せない。
青龍は、ゆっくりと湖を一周してからコハクたちがいる場所へと戻って来た。
そしてコハクたちの目の前に、その美しい姿を晒した。その麗しくも雄大さにコハクは圧倒される。
「突然すまないね、青龍」
シロガネが青龍を見上げる。
「皇よ。謝る必要などございません。いつでも好きな時に来られれば良いのです」
スイセンは四神の神使いなのだから、四神を崇め敬うべきだ。
しかし、第一にシロガネを敬うことを許されているからの態度である。
知っていたとはいえ、目の当たりすれば、コハクは大丈夫なのかとハラハラした。
「スイセンの言う通りかな」
「ありがとう、青龍」
シロガネが返事をした。
「そちらの可愛らしい子が、シロガネのお気に入りなのかな」
青龍に『お気に入り』なんて事を言われて、コハクは反応に困りつつ緊張しながら応えた。
「は、初めましてコハクです。今日はお邪魔します」
「緊張しないで、いつも通りの君でいいから」
「あっ、うん。ありがとう青龍」
「君のおかげで、久方ぶりにシロガネに会えてうれしいの」
「そうなの?」
コハクはチラリとシロガネを見て確認すれば、苦笑いをしているので、本当に来てないのだと分かった。
「こんなに綺麗で気持ちのいい場所なのに……」
「気に入ったなら、いつでも来ればいいから」
「ほんとっ」
「君を守護している水属性の式神にも良い影響があると思うの」
「そうなの!」
「私の神使はスイセンしかいないから、君の式神なら神使として申し分ないかな」
「青龍」
「別にとって食おうなんて思ってないから」
シロガネが気に入らなさそうに嗜めるが、青龍は悪びる様子はない。
「そういえば、他の四神や麒麟は二人ずつなのに、青龍の神使いはスイセンだけだね。何か理由があるの」
「神使に値する者は少ないからね」
青龍の代わりにシロガネが答えた。
「なら、神使いの人数は決まっているの」
「右と左。人も神も振り向ける数は同じだ。己の代わりに動く者が神使いなら、差し伸べる手の数は決まってくるさ」
「そっかあ」
「神使の資格と人数はシロガネの言う通りかな。でもね、私の式神がスイセンだけである一番の理由は、スイセンと渡り合える者がいないってことかな」
コハクは驚く様子をみせながら、納得して頷いた。シロガネも当然だろうという雰囲気だ。
そんな二人を確認したスイセンは深い溜め息をついた。
「二人とも何を納得しているのですか。青龍も馬鹿な事を言わないで頂きたい。冗談にしては笑えませんね」
「冗談ではないかな。もう一人の神使を選ぶなら、本気でスイセンと気が合うか。渡り合えるかになるの」
「ボクを守護している式神はどっちなの?」
コハクは式神について知りたいと青龍に尋ねた。
「どっちともなの。とても貴重な存在だから考えてほしいかな」
「あっ、うん……」
守護する式神のひとりがスイセンのような性格だと思えば、コハクは少し不安になった。
記憶が戻ったら、色々と言われるのではないだろうかと心配になる。
「大丈夫だよ。コハクを一番に大切に思っている者たちなのだから」
シロガネが、コハクの気持ちを察して心を配る。それはコハクを嬉しくさせる。
「そうだね。ありがとうシロガネ」
見つめ合って笑い合う二人の様子に、スイセンも青龍も静かに見守っていた。
その後は、森の中にある小屋でコハクとシロガネは過ごす。しばらくは避暑地として滞在する予定だ。
「ちゃんと朝昼晩ってあるんだね」
コハクは小屋の窓から外を眺めている。
「あるといえばある。ないといえばない。私たちが滞在しているので、青龍が気を効かせてくれたんだろうね」
「そっかー」
「こんな星空は見たことない」
「何処かの場所で見える星空なのだろうね」
「どこかって、どこ」
「私たちが生きる世界と異なる世界」
コハクは驚きはしたが素直に受け入れた。
「それはどんな世界なの?」
「そうだね。四神とは異なる神々が存在するようだ」
「それって、陰陽道がないの?」
「ないよ」
「魔物は?」
「いるよ」
「じゃあ、そこで生きる人たちはどうやって魔物と戦っているの」
「陰陽道ではない力だね」
「シロガネは、その場所に行った事がある?」
「あるといえばある。ないといえばないかな」
「もう、そればっかりだ」
「ここもそこも、私たちの場所も元をは一つということだよ」
コハクの脳裏にある本が浮かんだ。二つの世界。表と裏。光と闇。これは世の理なのだ。
「ボクも……」
うかがうようにシロガネを見つめたが、コハクは続く言葉を飲み込んだ。
記憶がなくて、自身の事が曖昧なままでは何も出来ないと思うからだ。
全てが白日になった後でないと動けないだろう。シロガネと一緒にいたいと思う願いさえも叶うのか分からないままなのだから。
「いつか、一緒に行けるさ」
「シロガネっ」
「言葉は言霊。思いは願い。望みを叶える為に信じて動く事が大切だよ」
「うんっ。一緒に行きたいね!」
コハクの憂いなんてシロガネの言葉で消え去ってしまう。
迷子にならないように手を繋いでくれる。歩く道を記して伝えてくれる。
嘘偽りのない心は、わがままではないと許してくれる。
この先へ続く物語となる。
陽は燃えて輝けば、体は灼ける痛さを感じる。
「あつくて、溶けそうぉ」
「こう暑くては、外で出るのは難しいな」
「涼しいところに行きたぁーい」
すでにシロガネが、家に結界を張って、呪術で氷の冷気を漂わせていた。
その効果が、切れかけているのである。
呪術によって、状況を変える一手として自然現象を覆すことは可能である。
だが、それは、一瞬か数分の話しだ。
その状況を維持には、莫大な呪力が必要であるからして、つまり、不可能である。
それを数時間も可能なのは、シロガネだからこそである。
これは、完全にシロガネの呪力の無駄遣いである。
だから、通常ならば、意味のない愚行だと行わないだろうが……。
そこは、コハク可愛さに、己の信念を曲げて目を瞑るのは致し方がないだろう。
どこからか「あまいっ! 過保護です」と叱る声が聞こえて来そうだ。
そんなわけで、節度と限度からコハクが、我慢できなくなった時に行っていた。
だが、連日の暑さに、焼石に水な状態であった。
どうにかして、コハクの望みを叶えたい。
シロガネは顎に手をやり考える。
「そうだな……。良い場所を思い出した。涼みに行こうか」
「ほんとっ!」
コハクは、先程までのぐったりしていた様子が嘘のようだ。元気よく声を出して嬉しそうである。
いつもの如く、光の道を通り目的の場所へと向かう。
出口の光を潜れば、そこは紺碧の空に清浄な水の世界が広がっていた。
「わぁーー! きれいーー。ううーん、涼しいー」
コハクは、気持ちよくて、背伸びをするように手を上げて体を伸ばした。
澄んだ空気と水の音、穏やかな風が吹いて水鏡の水面が揺れる。
大きな飛び石が連なり、奥へと続く道になっていた。その遥か先に緑が繁る島が見える。
コハクが、トントンと飛び跳ねるように石の上を歩く。
「シロガネ、早くぅー」
少し先の石の上でコハクが手を振る。
シロガネは、ゆっくりと石をまたいで進んで行く。
コハクが待つ場所に、シロガネが着いた。
「ねぇ、この先も飛んで歩くのは大変だ」
「何も飛ばなくてもいいんだけどね」
シロガネは苦笑する。
「なんだか、飛びたくなっちゃうんだ」
「しかし、滑って転んでは危ない。それに、着くまで体力が持つかな」
「そうだね。まだまだ先は長そうだ」
コハクは手を丸くして望遠鏡のようにして、遠くの島を見た。
「さて、先に進みやすいようにしようか」
シロガネが呪を唱えた。
すると、飛び石の間から石が現れて、繋がり、一つの道になる。
「すごーい。道になった」
「これで安全だ。歩きやすくなった」
「うんっ。飛ばなくていいね」
コハクは、悪戯な笑顔を浮かべて楽しそうだ。シロガネも釣られて笑う。
石の道を二人は話しながら歩く。
たくさんの魚が泳いでいるのが見えるほど、水は清らかだ。
先に進みほど、少しずつ水深は深くなっていけば、透明度が濃くなる。
遠くの水面から大きな魚が飛んだ。
バッシャーンと大きな音がする。
立て続けに水面から飛び跳ねる雄姿に圧倒される。
「す、すごっいよぉ!」
「コハクは海の生物を見るのは初めてのようだね」
「うん。初めてだと思う。あれ?」
「どうしたのかな」
「最初に見た魚は川魚だったよ」
「ここは全ての水の源が集まる場所さ。川であり海である。川でなく海でない」
「あっ、神域だから」
「そうだね」
あと少しで島に着く。
「ねぇ、あそこに誰かいるよ」
コハクは、ぼんやりと見つめながらシロガネに伝えた。
「到着っ!」
コハクは最後の一歩を飛んで島の砂浜に立った。続いてシロガネも島に立つ。
二人を待っていた者が頭を下げた。
「遠路遥々。足をお運び頂きありがとうございます」
「出迎えご苦労様」
「スイセンも来てたんだねっ」
「神使いとして当然です。皇が訪ねるというに同行しないわけがありません」
相変わらずの硬さに、コハクはこっそりと笑った。
スイセンの案内で、島の中へと進む。
木々が繁げる森を歩く。
パラパラっと雨が降ったり、止んだりするので、森は冷んやりとして心地よい。
大きな湖が見えた。ここが目的地のようだ。
「皇が来られた。姿を現せよ」
スイセンが湖に向かって問いかけた。
湖の水面から泡が浮かんで来た。
グルグルと渦巻く。段々と大きくなって渦の中心から飛び出したのは、青龍だった。
長い体は円を描くように、ゆったりと空を舞う。陽の光を浴びた鱗が輝いて美しい。まるで、キラキラと音が聴こえて来るかのようだ。
優美で優雅な雄姿に目が離せない。
青龍は、ゆっくりと湖を一周してからコハクたちがいる場所へと戻って来た。
そしてコハクたちの目の前に、その美しい姿を晒した。その麗しくも雄大さにコハクは圧倒される。
「突然すまないね、青龍」
シロガネが青龍を見上げる。
「皇よ。謝る必要などございません。いつでも好きな時に来られれば良いのです」
スイセンは四神の神使いなのだから、四神を崇め敬うべきだ。
しかし、第一にシロガネを敬うことを許されているからの態度である。
知っていたとはいえ、目の当たりすれば、コハクは大丈夫なのかとハラハラした。
「スイセンの言う通りかな」
「ありがとう、青龍」
シロガネが返事をした。
「そちらの可愛らしい子が、シロガネのお気に入りなのかな」
青龍に『お気に入り』なんて事を言われて、コハクは反応に困りつつ緊張しながら応えた。
「は、初めましてコハクです。今日はお邪魔します」
「緊張しないで、いつも通りの君でいいから」
「あっ、うん。ありがとう青龍」
「君のおかげで、久方ぶりにシロガネに会えてうれしいの」
「そうなの?」
コハクはチラリとシロガネを見て確認すれば、苦笑いをしているので、本当に来てないのだと分かった。
「こんなに綺麗で気持ちのいい場所なのに……」
「気に入ったなら、いつでも来ればいいから」
「ほんとっ」
「君を守護している水属性の式神にも良い影響があると思うの」
「そうなの!」
「私の神使はスイセンしかいないから、君の式神なら神使として申し分ないかな」
「青龍」
「別にとって食おうなんて思ってないから」
シロガネが気に入らなさそうに嗜めるが、青龍は悪びる様子はない。
「そういえば、他の四神や麒麟は二人ずつなのに、青龍の神使いはスイセンだけだね。何か理由があるの」
「神使に値する者は少ないからね」
青龍の代わりにシロガネが答えた。
「なら、神使いの人数は決まっているの」
「右と左。人も神も振り向ける数は同じだ。己の代わりに動く者が神使いなら、差し伸べる手の数は決まってくるさ」
「そっかあ」
「神使の資格と人数はシロガネの言う通りかな。でもね、私の式神がスイセンだけである一番の理由は、スイセンと渡り合える者がいないってことかな」
コハクは驚く様子をみせながら、納得して頷いた。シロガネも当然だろうという雰囲気だ。
そんな二人を確認したスイセンは深い溜め息をついた。
「二人とも何を納得しているのですか。青龍も馬鹿な事を言わないで頂きたい。冗談にしては笑えませんね」
「冗談ではないかな。もう一人の神使を選ぶなら、本気でスイセンと気が合うか。渡り合えるかになるの」
「ボクを守護している式神はどっちなの?」
コハクは式神について知りたいと青龍に尋ねた。
「どっちともなの。とても貴重な存在だから考えてほしいかな」
「あっ、うん……」
守護する式神のひとりがスイセンのような性格だと思えば、コハクは少し不安になった。
記憶が戻ったら、色々と言われるのではないだろうかと心配になる。
「大丈夫だよ。コハクを一番に大切に思っている者たちなのだから」
シロガネが、コハクの気持ちを察して心を配る。それはコハクを嬉しくさせる。
「そうだね。ありがとうシロガネ」
見つめ合って笑い合う二人の様子に、スイセンも青龍も静かに見守っていた。
その後は、森の中にある小屋でコハクとシロガネは過ごす。しばらくは避暑地として滞在する予定だ。
「ちゃんと朝昼晩ってあるんだね」
コハクは小屋の窓から外を眺めている。
「あるといえばある。ないといえばない。私たちが滞在しているので、青龍が気を効かせてくれたんだろうね」
「そっかー」
「こんな星空は見たことない」
「何処かの場所で見える星空なのだろうね」
「どこかって、どこ」
「私たちが生きる世界と異なる世界」
コハクは驚きはしたが素直に受け入れた。
「それはどんな世界なの?」
「そうだね。四神とは異なる神々が存在するようだ」
「それって、陰陽道がないの?」
「ないよ」
「魔物は?」
「いるよ」
「じゃあ、そこで生きる人たちはどうやって魔物と戦っているの」
「陰陽道ではない力だね」
「シロガネは、その場所に行った事がある?」
「あるといえばある。ないといえばないかな」
「もう、そればっかりだ」
「ここもそこも、私たちの場所も元をは一つということだよ」
コハクの脳裏にある本が浮かんだ。二つの世界。表と裏。光と闇。これは世の理なのだ。
「ボクも……」
うかがうようにシロガネを見つめたが、コハクは続く言葉を飲み込んだ。
記憶がなくて、自身の事が曖昧なままでは何も出来ないと思うからだ。
全てが白日になった後でないと動けないだろう。シロガネと一緒にいたいと思う願いさえも叶うのか分からないままなのだから。
「いつか、一緒に行けるさ」
「シロガネっ」
「言葉は言霊。思いは願い。望みを叶える為に信じて動く事が大切だよ」
「うんっ。一緒に行きたいね!」
コハクの憂いなんてシロガネの言葉で消え去ってしまう。
迷子にならないように手を繋いでくれる。歩く道を記して伝えてくれる。
嘘偽りのない心は、わがままではないと許してくれる。
この先へ続く物語となる。
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