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66百年の帰還
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コハクの涙をシロガネが指で拭えば、コハクが微笑んだ。
「それにしても、一緒に行く約束だったというのに……、無茶をする」
「ごめんなさい……」
「まぁ、仕方ないか。神の声には逆らえない。その為に、今まで頑張って来たんだからね。その結果が示せて良かった」
シロガネが、優しくコハクの頭を撫でた。
黄白の姿になって、背が高くなっても、シロガネにとってコハクのままだ。
コハクとシロガネが、ゆっくりと見つめ合う。
周りを気にしない様子に浅葱が苛立っていた。シロガネを睨んでいる。
今にも飛びかかろうとしているのを、山吹が束縛して抑えていた。
コハクは本当に気にしてないだろうが、シロガネには、はっきりと浅葱の怒気が伝わってくる。
だが、シロガネは強く硬い意思を持って浅葱と目を合わせた。
「それでは、私たちこれで」
スイセンが、シロガネに声をかけた。
「皆、ご苦労であった。また頼むぞ」
シロガネが式神たちに労いの言葉をかければ、式神たちが頭を下げた。
コハクもシロガネの式神たちに向かって謝辞を述べた。
「皆んな、助けてくれてありがとう」
「我々は皆、其方の味方だ。どんな姿になろうともな。何も気にする必要はないぞ」
「えぇ、当然のことをしたまでですわ。大きくなっても可愛らしいですこと」
「そうです。私たちは味方なのです。何も変わってませんよ」
「ほんになぁ。大きくなっても、良い子じゃな」
コハクを労わる言葉とシロガネの挨拶を口々に伝えて、役目を終えたと消えていく。
「スイセン」
コハクが呼び止めた。
「またねっ」
手を大きく振ろうとして、小さく振った。
スイセンは目を細めて微笑んだ。
「皇に対して無礼な振る舞いは許しませんので、気をつけなさい」
チラリと浅葱を見てスイセンが物申す。
「それでは」
一言、挨拶をして消えた。
「今のは……。僕はスイセンを怒らせたのかな」
スイセンは、シロガネに対する浅葱の態度を威嚇したのだ。しかし、それに気がつかないコハクが戸惑っている。
「違うよ。心配ないさ。私もコハクも大切に思われているという事だよ」
優しい笑みをシロガネが浮かべた。
「それでコハク。記憶は戻ったのだろう。説明してくれないだろうか」
「僕は、この刻よりも未来の刻から来ているんだ。でも、はっきりと、どれぐらいなのかはわからない」
「陰陽寮が再建されて何年だった」
「三百年だよ」
「なら、今この刻は、コハクがいた刻よりも百年前だよ」
「百年……」
コハクの頭の中で、色々な事が入り混じって思考が上手くまとまらない。
「コハクは、今から百年後の元の刻へと戻って、封印した者と相まみえなければならない」
「僕、一人で……」
「一人じゃない。コハクには守ってくれる式神たちがいる。ここにいる二人以外にも、きっと他にいるだろうからね。それに神がいる」
「そうだね。一人じゃない」
「百年後なら、少しの猶予はあるか。呪詛が破られた事に気づかれたら、コハクが記憶と力を取り戻したと知られる。だから、その前に次の手は打つべきだろうね。念には念を入れるべきか」
「うん。反撃はくる。なら、百年後に向けて式神を飛ばそう。途中で邪魔が入って、迎撃されるはずだ。たくさん飛ばすよ」
力と記憶を取り戻したコハクは陰陽師だった。
コハクは桜の木に上空に向けて、風に舞い散る花弁に呪をのせて幾つもの式神に姿を変えた。
式神たちは桜の木の上空に、吸い込まれるように消えていった。
「我が名は黄白の命にて、火神の眷属にて名は緋色よ。我が元に参れ」
炎が渦を巻く中から、美男子が膝をついて現れた。
「遅いですね。全く、待ちくたびれましたよ」
「えっ、あっ、ごめん。ちょっとね……」
「いえいえ、ご説明は要りませんよ。間抜けな主が、私との契約完了後、早々に力を奪われしまう。しかも隣に控えている両翼に、記憶を封じられた等と、口が裂けても言えませんね」
「ちょっ、と、緋色。合ってるけど言い方!」
「何を繕っても無駄でしょう。さて、心得ていますよ。式神に紛れて込んで、一足先に百年後って……。百年後から、百年前に呼ばれているんでしたね。そして、また百年後に行く。これが初任務なんて、全くもって酷い扱いですよ。ちゃんと対価を請求しますからね。では、行って参ります、黄白さん」
「ちょっと、主人が言う前に全て理解して勝手に行動するなんて、式神としてどうなんだっ」
コハクの悪態を聞く間もなく、一方的に話しをして、この場から消え去る手際の良さ。見た目から想像出来ない性格である。
何も聞かずとも、全てを把握して動ける速さは感心せざる得ない。
白桜の式神として守護されていた時から変わらない黄白に対するぞんざい態度は、黄白の式神となっても変わらない。
眷属なのに、どうなのだとコハクは思う。
しかし、白桜の神使は皆、自由で頼りになる。白桜が是としているならばコハクも是なのだ。
「後ほど、締めておくので、心配するな」
「いつもの事だが、今回は助太刀するぜ」
「あっ、お手柔らかにね……浅葱、山吹」
真顔の浅葱は怖いし、悪い顔の山吹まで参戦するようだ。緋色が飄々と逃げる姿が目に浮かぶ。
シロガネは、コハクの式神たちの個性的な様子に、自身と重ねた。
そして、コハクと式神たちとの仲の良さに、親近感を湧きながらも、心が波立った。
ほらね、嫉妬しているよ。
シロガネは、心の中で呟いた。
これから乗り込む事になる。相手の力を考えると戦いは優しくないだろう。
小細工は緋色に任せたが、直ぐに暴かれる。
そして、向こうは待ち構えて罠を張っているはずだ。
なら、後は正々堂々と立ち向かうしかない。
コハクの考えにシロガネも同じだった。
「それで、コハクの相手をする者は誰なんだい」
「陰陽寮の取締役……。僕は陰陽寮の陰陽師なんだ」
「なるほど、大物だな」
陰陽寮の者だと知って、シロガネは心苦しくなる。眉間に皺を寄せた。
憂うシロガネを確認して、おもむろにコハクが話しを始めた。
「以前、陰陽寮にいたのかって尋ねたよね。陰陽寮の書庫には陰陽道の文献がたくさんある。僕は調べ事が好きで、陰陽道の全てに関する事や昔と今の違い。それに陰陽寮の歴史ついて、たくさん調べたよ」
コハクの記憶は明瞭だ。
五百年前。
魔物が多く蔓延るようになって、人たちは怯えて暮らすことを余儀なくされていた。
呪力があり呪術があることを知っていても、それを扱えるのは一部の者だ。
しかし、日々の暮らしの中で使えるだけだった。
だが、各地で魔物を退治する者の噂が流れる。そして、呪力を有効に使う為の呪術について、陰陽道が学べる場所を創ったという。
呪力を持つ者たちが、こぞって集まれば次第に施設の規模は大きくなる。いつの間にか、陰陽寮と呼ばれるようになった。
そして、呪術を学んだ者たちを陰陽師と呼んだ。
陰陽師によって魔物は退治されるようになり、人々の暮らしは平穏となる。
だが戦争が起きると、陰陽寮は縮小された。
そして、創設者が退くと陰陽寮は衰退する。
百年続いた戦いが終戦となり平和が訪れた。
人々の安寧の為に中央の国が陰陽寮を再建した。その初代取締役となった術者こそ、たった一人の特級陰陽師だ。
「陰陽寮の創設者は、神がかりな呪術で魔物を討伐する逸話が幾つも残っている。再建された陰陽寮の初代取締役となった術者も、創設者を彷彿させる呪術の使い手だったと記されている。僕はずっと、彼と彼は同一人物だと考えていたんだ」
コハクが、シロガネにうかがうように尋ねた。
「そうだとしたら、彼は人ではないね」
「そうだとしても、僕は会いたかった」
コハクとシロガネに風が吹き抜ける。
「ねぇ。百年後にシロガネと会えるのかな」
「大丈夫だよ、会えるさ」
「ほんとう……に、良かった……」
「私はコハクに嘘はつかないさ」
「約束して。僕と一緒に、たたか……ううん。僕を守ってよ」
「一緒にいよう。私は君を守る。だけどコハク。忘れてはいけないよ、これは君の戦いだ」
「そうだね。ありがとう」
コハクは真剣な表情で頷いた。
「それでは、シロガネ。今から百年後に戻るよ。そして百年後、この場所で待っていて欲しい」
「わかったよ」
これまでの二人の話しを、浅葱と山吹が静かに見守っていた。
多々にして浅葱の視線が、シロガネを突き刺さすのは諦めるしかないだろう。
コハクが、シロガネの手を離した。一歩下がって後ろを降り向く。一瞬の間、前に進んだ。
シロガネが、コハクの手を掴んで引っ張った。
後ろを向かされたコハクは、涙を流していた。
シロガネは勢いよくコハクを腕の中に納めた。
「泣かないでおくれ」
「だって……。百年だよ。忘れない、寂しくない、嫌にならない、かな」
「忘れるわけがない。寂しくてたまらないさ。嫌になるはずなどあり得ないよ」
「待っててね」
「待ってるよ」
コハクとシロガネが微笑みあう。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
今度こそ、前を向く。ハクが呪を唱えた。
「我が名は黄白。神名、白桜の名に於いて、理を司る。刻の道、風の道、星の道、流れはとめどなく続き、その先に連なる刻に我に導き給え」
桜の木の幹に黒い空間が出現した。
ここを通ってコハクは百年後に帰還する。
帰るのは一瞬だろう。
その一瞬でコハクは再び、シロガネと再会するのだが、シロガネは百年待ってコハクに会うことになる。
「それにしても、一緒に行く約束だったというのに……、無茶をする」
「ごめんなさい……」
「まぁ、仕方ないか。神の声には逆らえない。その為に、今まで頑張って来たんだからね。その結果が示せて良かった」
シロガネが、優しくコハクの頭を撫でた。
黄白の姿になって、背が高くなっても、シロガネにとってコハクのままだ。
コハクとシロガネが、ゆっくりと見つめ合う。
周りを気にしない様子に浅葱が苛立っていた。シロガネを睨んでいる。
今にも飛びかかろうとしているのを、山吹が束縛して抑えていた。
コハクは本当に気にしてないだろうが、シロガネには、はっきりと浅葱の怒気が伝わってくる。
だが、シロガネは強く硬い意思を持って浅葱と目を合わせた。
「それでは、私たちこれで」
スイセンが、シロガネに声をかけた。
「皆、ご苦労であった。また頼むぞ」
シロガネが式神たちに労いの言葉をかければ、式神たちが頭を下げた。
コハクもシロガネの式神たちに向かって謝辞を述べた。
「皆んな、助けてくれてありがとう」
「我々は皆、其方の味方だ。どんな姿になろうともな。何も気にする必要はないぞ」
「えぇ、当然のことをしたまでですわ。大きくなっても可愛らしいですこと」
「そうです。私たちは味方なのです。何も変わってませんよ」
「ほんになぁ。大きくなっても、良い子じゃな」
コハクを労わる言葉とシロガネの挨拶を口々に伝えて、役目を終えたと消えていく。
「スイセン」
コハクが呼び止めた。
「またねっ」
手を大きく振ろうとして、小さく振った。
スイセンは目を細めて微笑んだ。
「皇に対して無礼な振る舞いは許しませんので、気をつけなさい」
チラリと浅葱を見てスイセンが物申す。
「それでは」
一言、挨拶をして消えた。
「今のは……。僕はスイセンを怒らせたのかな」
スイセンは、シロガネに対する浅葱の態度を威嚇したのだ。しかし、それに気がつかないコハクが戸惑っている。
「違うよ。心配ないさ。私もコハクも大切に思われているという事だよ」
優しい笑みをシロガネが浮かべた。
「それでコハク。記憶は戻ったのだろう。説明してくれないだろうか」
「僕は、この刻よりも未来の刻から来ているんだ。でも、はっきりと、どれぐらいなのかはわからない」
「陰陽寮が再建されて何年だった」
「三百年だよ」
「なら、今この刻は、コハクがいた刻よりも百年前だよ」
「百年……」
コハクの頭の中で、色々な事が入り混じって思考が上手くまとまらない。
「コハクは、今から百年後の元の刻へと戻って、封印した者と相まみえなければならない」
「僕、一人で……」
「一人じゃない。コハクには守ってくれる式神たちがいる。ここにいる二人以外にも、きっと他にいるだろうからね。それに神がいる」
「そうだね。一人じゃない」
「百年後なら、少しの猶予はあるか。呪詛が破られた事に気づかれたら、コハクが記憶と力を取り戻したと知られる。だから、その前に次の手は打つべきだろうね。念には念を入れるべきか」
「うん。反撃はくる。なら、百年後に向けて式神を飛ばそう。途中で邪魔が入って、迎撃されるはずだ。たくさん飛ばすよ」
力と記憶を取り戻したコハクは陰陽師だった。
コハクは桜の木に上空に向けて、風に舞い散る花弁に呪をのせて幾つもの式神に姿を変えた。
式神たちは桜の木の上空に、吸い込まれるように消えていった。
「我が名は黄白の命にて、火神の眷属にて名は緋色よ。我が元に参れ」
炎が渦を巻く中から、美男子が膝をついて現れた。
「遅いですね。全く、待ちくたびれましたよ」
「えっ、あっ、ごめん。ちょっとね……」
「いえいえ、ご説明は要りませんよ。間抜けな主が、私との契約完了後、早々に力を奪われしまう。しかも隣に控えている両翼に、記憶を封じられた等と、口が裂けても言えませんね」
「ちょっ、と、緋色。合ってるけど言い方!」
「何を繕っても無駄でしょう。さて、心得ていますよ。式神に紛れて込んで、一足先に百年後って……。百年後から、百年前に呼ばれているんでしたね。そして、また百年後に行く。これが初任務なんて、全くもって酷い扱いですよ。ちゃんと対価を請求しますからね。では、行って参ります、黄白さん」
「ちょっと、主人が言う前に全て理解して勝手に行動するなんて、式神としてどうなんだっ」
コハクの悪態を聞く間もなく、一方的に話しをして、この場から消え去る手際の良さ。見た目から想像出来ない性格である。
何も聞かずとも、全てを把握して動ける速さは感心せざる得ない。
白桜の式神として守護されていた時から変わらない黄白に対するぞんざい態度は、黄白の式神となっても変わらない。
眷属なのに、どうなのだとコハクは思う。
しかし、白桜の神使は皆、自由で頼りになる。白桜が是としているならばコハクも是なのだ。
「後ほど、締めておくので、心配するな」
「いつもの事だが、今回は助太刀するぜ」
「あっ、お手柔らかにね……浅葱、山吹」
真顔の浅葱は怖いし、悪い顔の山吹まで参戦するようだ。緋色が飄々と逃げる姿が目に浮かぶ。
シロガネは、コハクの式神たちの個性的な様子に、自身と重ねた。
そして、コハクと式神たちとの仲の良さに、親近感を湧きながらも、心が波立った。
ほらね、嫉妬しているよ。
シロガネは、心の中で呟いた。
これから乗り込む事になる。相手の力を考えると戦いは優しくないだろう。
小細工は緋色に任せたが、直ぐに暴かれる。
そして、向こうは待ち構えて罠を張っているはずだ。
なら、後は正々堂々と立ち向かうしかない。
コハクの考えにシロガネも同じだった。
「それで、コハクの相手をする者は誰なんだい」
「陰陽寮の取締役……。僕は陰陽寮の陰陽師なんだ」
「なるほど、大物だな」
陰陽寮の者だと知って、シロガネは心苦しくなる。眉間に皺を寄せた。
憂うシロガネを確認して、おもむろにコハクが話しを始めた。
「以前、陰陽寮にいたのかって尋ねたよね。陰陽寮の書庫には陰陽道の文献がたくさんある。僕は調べ事が好きで、陰陽道の全てに関する事や昔と今の違い。それに陰陽寮の歴史ついて、たくさん調べたよ」
コハクの記憶は明瞭だ。
五百年前。
魔物が多く蔓延るようになって、人たちは怯えて暮らすことを余儀なくされていた。
呪力があり呪術があることを知っていても、それを扱えるのは一部の者だ。
しかし、日々の暮らしの中で使えるだけだった。
だが、各地で魔物を退治する者の噂が流れる。そして、呪力を有効に使う為の呪術について、陰陽道が学べる場所を創ったという。
呪力を持つ者たちが、こぞって集まれば次第に施設の規模は大きくなる。いつの間にか、陰陽寮と呼ばれるようになった。
そして、呪術を学んだ者たちを陰陽師と呼んだ。
陰陽師によって魔物は退治されるようになり、人々の暮らしは平穏となる。
だが戦争が起きると、陰陽寮は縮小された。
そして、創設者が退くと陰陽寮は衰退する。
百年続いた戦いが終戦となり平和が訪れた。
人々の安寧の為に中央の国が陰陽寮を再建した。その初代取締役となった術者こそ、たった一人の特級陰陽師だ。
「陰陽寮の創設者は、神がかりな呪術で魔物を討伐する逸話が幾つも残っている。再建された陰陽寮の初代取締役となった術者も、創設者を彷彿させる呪術の使い手だったと記されている。僕はずっと、彼と彼は同一人物だと考えていたんだ」
コハクが、シロガネにうかがうように尋ねた。
「そうだとしたら、彼は人ではないね」
「そうだとしても、僕は会いたかった」
コハクとシロガネに風が吹き抜ける。
「ねぇ。百年後にシロガネと会えるのかな」
「大丈夫だよ、会えるさ」
「ほんとう……に、良かった……」
「私はコハクに嘘はつかないさ」
「約束して。僕と一緒に、たたか……ううん。僕を守ってよ」
「一緒にいよう。私は君を守る。だけどコハク。忘れてはいけないよ、これは君の戦いだ」
「そうだね。ありがとう」
コハクは真剣な表情で頷いた。
「それでは、シロガネ。今から百年後に戻るよ。そして百年後、この場所で待っていて欲しい」
「わかったよ」
これまでの二人の話しを、浅葱と山吹が静かに見守っていた。
多々にして浅葱の視線が、シロガネを突き刺さすのは諦めるしかないだろう。
コハクが、シロガネの手を離した。一歩下がって後ろを降り向く。一瞬の間、前に進んだ。
シロガネが、コハクの手を掴んで引っ張った。
後ろを向かされたコハクは、涙を流していた。
シロガネは勢いよくコハクを腕の中に納めた。
「泣かないでおくれ」
「だって……。百年だよ。忘れない、寂しくない、嫌にならない、かな」
「忘れるわけがない。寂しくてたまらないさ。嫌になるはずなどあり得ないよ」
「待っててね」
「待ってるよ」
コハクとシロガネが微笑みあう。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
今度こそ、前を向く。ハクが呪を唱えた。
「我が名は黄白。神名、白桜の名に於いて、理を司る。刻の道、風の道、星の道、流れはとめどなく続き、その先に連なる刻に我に導き給え」
桜の木の幹に黒い空間が出現した。
ここを通ってコハクは百年後に帰還する。
帰るのは一瞬だろう。
その一瞬でコハクは再び、シロガネと再会するのだが、シロガネは百年待ってコハクに会うことになる。
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