八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

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72これから、白と黒の戦い

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 これから行う事について、黄白が皆んなに話す。
「魔物の姿に変わって操られている藍墨を元に戻す為に、僕が呪いを引き受けて解呪する」
 黄白の提案に皆が驚き慌てる。
「ダメだ」
「駄目です」
「浅葱とスイセン、心配してくれてありがとう」
 まるで予測していたように、ニッコリと笑って対応する黄白に、二人は意表を突かれた。
「話しを聞いて欲しいな。聞いてくれるよね」
 まだ言いたげな二人に、山吹とザクロが嗜めれば、大人しくなった。
 呪いを肩代わりすれば、黄白は黒烏と繋がる。それはつまり、魔神の黒烏を通してシロガネの心に意識に触れることが可能となる。
 シロガネを正気に戻して、黒烏の呪縛から解き放つ機会を作る。
「藍墨の解呪は確かに成功するのか」
 浅葱が確認すると、黄白は首を縦に振る。
「皇の呪縛は解けるのでしょうか」
 スイセンが問うと、黄白は首を横に振る。
「黒烏の神月に選ばれたシロガネが、今の状態で、白桜の神月の僕を受け入れてくれるのかは、分からない。でも黒烏とシロガネが、完全に一つになる前に呪縛を解くしかない」
「もし、叶わない場合はどうなる」
 ザクロが難しい表情をしている。
「顕現している黒烏に、シロガネは飲み込まれる」
「そうなったら、お前はどうする」
 山吹が心配そうに尋ねた。
「白桜に顕現してもらって、戦ってもらうよ」
 皆が、驚愕と困惑の表情を見せた。
 この場合、黄白が白桜と同化する前提なのだが、敢えて省いたのは理由は言うまでない。
「神同士の戦いになるから、世界の終焉を迎える場合もあり得る。だから、この世界とここを切り離すための結界が必要なんだ。今の結界では持たない。外から強力な結界を張って欲しいんだ。それには、呪力が膨大に必要で、ここにいる皆んなの量では足りない」
「ならぁ、どうするのぉ」
「ちょっと、たいへんよねぇ……」
 深刻で真剣な話し中だが、いつもと変わらない言葉で、カリンと孔雀が一緒に首を傾げた。
 柔らかな空気は、皆んなの気持ちに余裕をもたらす。
「うん、たいへんだ。けど、安心して。四神と麒麟に協力してもらうから」
 黄白が続けて話す。
 四神や麒麟との交流にて親睦を深めれば、それぞれがシロガネを心配をしていた。力になりたい思いは、コハクと同じだ。コハクの綺麗で質の高い呪力と引き換えに、万が一の時には力を貸す約束をしたのだ。四神や麒麟には、この未来が見えていたのかもしれない。何故なら彼らは、この世界を護る為の存在として創造された神たちなのだから。
「四神と麒麟が……力を貸して下さるのですね」
 ユリが胸に手をやり感慨深い様子だ。
「神とは恐れ入るじゃないか」
 青鈍がヒューっと口笛を吹いた。
 黄白の話しは続く。
「シロガネの式神たちは、四神の神使なので呪力の供給がある。だけど、僕の式神たちは、白桜の式神だから供給先がない。なので、今から僕との契約を破棄して、四神と契約を結んで眷属になってもらう」
「なるほど、考えましたね。黄白さんの呪力を供給していたので、相性問題は解決いたしますね。記憶が無かったというのに、コハクさんは冴えていらっしゃった、ご様子」
 緋色が感心を装っての揶揄いは、いつもの事だ。
「断るっ」
「悪いが俺もだ」
 浅葱と山吹が黄白の案を蹴った。
「二人はそれでいいよ。五行神の末席に属している浅葱と山吹は水と金の恩恵がある。結界の外なら、他の皆んなよりも集まりやすいから別に構わない」
 黄白が問題無いのだと朗らかに了承した。
 浅葱も山吹も、早とちりしたと居心地が悪い。
「他の皆んなは、了承してくれるね」
 封印を解いて暫くは、コハクの心に引っ張られていた黄白だったが、時が事が進むに連れて、次第に本来の黄白に戻ったようだ。
 冴えまくり余裕もある姿は心強い。
 なので、こういうのは時の黄白は、頼んでいるような素振りを見せても、確定であることを式神たちは知っている。
 しかも神月となった今は、絶対だ。
「仰せのままに」
 黄白の式神たちが首を垂れた。

 藍墨の呪いの肩代わりする為の呪が響く。黄白と藍墨を繋ぐ術式が展開された。
 樹木で縛られている藍墨の体から、黒い影が溢れて一つの塊になった。
 黄白が影に手を伸ばす。それは、まるで、おいでと誘っているようだ。
 影が動き周りながら黄白に目掛け飛んでくると、黄白の伸ばし手に触れて、腕に巻きつくように絡む。
 そして、胸の中へと侵入すれば、黄白の体から魔素が溢れ出す。
 そして、優しく歌うように黄白が呪を口ずさむと、藍墨に展開している術式から浄化の光が立ち上がる。
 藍墨の姿が魔物から人へと戻った。
 樹木から解放された藍墨を、式神たちがいる結界の外へ転送した。

 続いて、シロガネの元へ急ぐ。
 ザクロの結界の中へに、コハクが入った。
 シロガネに触れて、自身の中にある魔と同調させて、シロガネの心に呼びかける。
「シロガネ。僕は、ここにいるよ」
 シロガネと黄白の胸の間に小さな光が現れた。溢れる魔素を集めて一緒に浄化しているようだ。
 シロガネの心に声をかけながら、ゆっくりと優しく浄化を施す。
 これだけは足りない。もっと深く同調したい。
 黄白がシロガネの頬に手を当てて、そっと、シロガネの唇に口づけた。
 憎しみに囚われていたシロガネの心が解れていく。意識が戻ってくれば、優しくて心地よくて懐かしい歌声が体中に響き渡る。
 愛しい想いが駆け巡る。
 その者の名を思い出したい。この想いを伝えたい。キミの名を叫びたい。
 そして、黄白とシロガネを光が包み込んだ。綺麗に輝き、眩しく光を放って弾けた。
「……コハクっ」
「シロガネっ」
 シロガネの意識は明瞭に戻っていた。
 見つめ合う二人。
 シロガネが黄白の頬に触れて、二人の唇が再び重り合う。
「無事で良かった。しかし、迷惑をかけたようで、すまない」
「違う。心配かけてごめんなさい。そして、ありがとう」
 黄白の瞳から涙が溢れた。
 姿は黄白であっても、シロガネの側にいれば、心はコハクに戻ってしまう。
 そして、シロガネにとって、どんな姿であっても、その魂がコハクである事が大切なのだ。
 だから、いつものようにシロガネはコハクの頭を撫でた。
 それは、コハクにとって、何よりも嬉しい事で、その心を伝えたくて暖かな胸に飛び込む。
「さて、あの魔神……。黒烏をどうしたものか」
「神には神を。白桜と話し合いをしてもらいたいけど、今はまだ無理かな。だから戦ってもらおう」
「なるほど。だが、黒烏が勝てば世界の滅亡。決着がつかなければ、九百年前の再来だな」
「この世界は美しい。愛おしいモノが溢れてる。大切な人たちがいる。それらは全て、シロガネが守ってくれたおかげなんだ。だから無にしたくない。滅亡は避けたい。だけどね、シロガネが一緒なら、どんな世界でもいいんだっ」
「コハク、ありがとう」
 そんな中、黒烏の結界が破れた。二人に方に、シロガネを取り込もうと襲いかかる。
 黄白が攻撃の術式で応戦する。
 シロガネは呪力が切れて発動が出来ない。
「ごめん、シロガネ」
「すまない、コハク」
 二人が揃って謝罪を口にする理由は、シロガネは黒烏の神月である限り闇から逃れられない。魔素を吸収し続けているので、黄白が常にシロガネを浄化している状態だった。
 そして、魔物の魔素が溢れる場所では、自身も浄化や結界をし続けなければならない。
 傷を負って、連戦が続く中では、いくら呪力が多いといっても限度がある。
 時間が惜しい。
 白桜を顕現させる為の呪を述べる。
「我名は黄白。神白桜の神月にて、その力を行使する者なり。全ての力を解放して顕現せよ」
 黄白の中から後光が広がる。
 白くて大きな人型の神獣が現れた。
「白桜、お願い」

 人の形を模した白い神と黒い神が、互いを殴り蹴り合う。格闘術で肉弾戦である。
 動く度に大きな地震となる。
 腕を振り回す度に大きな暴風となる。
 激しい戦闘で陰陽寮は倒壊している。
 呪術とは、言い難い力を発現させる。
 目から光線、口から火炎を放ったり、光の玉や闇の玉を生成してぶつけ合う。
 そられの威力も規模も桁違いだ。
 結界をしてなければ、中央国は地図から消えていただろう。
「白桜と黒烏を一つに戻せないのかな」
 黄白が神たちの戦いを見つめながらポツリと呟く。
「割れた物は元には戻らない」
「金綱ぎのように綺麗になればいいのに」
「なるほど。綱いだ傷跡は模様として器の魅力を増して、新たな景色になるか……」
 シロガネは、九百年前に見た同じ光景を間近で眺めていたことを思い出す。
 あの時、大切な者を失った悲しみから世界など終わって終えばいいと思った。
 人を憎しみ、人であることを否とした。
 その心に触れて、微かに残る創世神の意思がシロガネを神月に選んだ。この世界を護るモノとして神の力を託して、割れた心を封印する為に眠りに着いたのだ。
 そして、シロガネは人であって人でない存在となった。
 ビリっ、パッキっ、音がする。
 外にいる式神たちが結界を張り直していく。
 いくら強固な結界を何重にも重ねても時間と共に、いつかは壊れる。
 世界を全て飲み込む。
「コハクの言う通り、黒烏と白桜を一つに戻そう」
「でも、どうやって」
「元々、アレらは私の神だ。顕現している今なら、黒烏と白桜を私の中に取り込めるだろう」
「取り込むって、そんなことしたら……」
「闇の力が強いので、黒烏が創世神となり、この世界は滅びるだろう。だから、そうなる前に私ごと封印する」
「待って、シロガネを封印するって意味がわからない。僕はそんなつもりで言ったんじゃない」
「わかっているさ。私がこの世界を守って来たのは償いだった。でもコハクに出会って、この世界を守って来た意味を知ったんだ。コハクの大切なモノは私の大切なモノだ。コハクがいるから、この世界を守りたいのさ」
 シロガネが古代の呪術の封印の呪を述べる。
 聞いたことのない言葉を紡ぐ。
「嫌だ、やめて!」
 シロガネに触れようとして弾かれた。
 呪術は既に発動している。何人足りたも邪魔することが叶わない。
 それは、まるでシロガネに拒否されたような気がして黄白は戸惑う。何か他に方法が無いのか考えるが、心は焦るばかりで思考が上手く働かない。
 シロガネの周りに嵐が吹き荒ぶ。
 黒烏と白桜を竜巻が取り巻く。シロガネと一緒に飲み込んだ。
「シロガネ!」
 吹き荒ぶ嵐が黄白の声をかき消す。
 なんとかしなければと黄白は急く。
 結界の外で事の成り行きを見守っているシロガネの式神たちが心配そうだ。
 銘々にシロガネに声をかけていた。
「皇、主さま、シロガネ殿、主様、旦那様、我主、あるじ、シロガネ公、シロガネさま」
 式神たちの心を感じる。
 助けて欲しいと戻って来て欲しいと一緒にいたいと願っている。
 その願いは、僕も同じだ。
 願いを叶えたい。叶える。
 だって僕は、思い願う心を是とする白桜の神月だから。
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