職も住処もなくした私が訳ありアパートの管理人にスカウトされました。何やら事情があるようです。

ピヨピヨ

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癒される

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「まあ、可哀そうに。どうしたの、葵ちゃん。警察呼ぼうか」

 松子が大声で騒ぐと人が集まってきた。

「はい、ぜひ!」

 葵が松子に縋りつく。

 それを見ていた慎吾が慌てて逃げ出す。彼は勤め人なので捕まるわけにはいかないのだろう。後に取り残されて幸田が舌打ちし、愛美を連れて立ち去った。その瞬間、葵は膝から、崩れ落ちる。

「葵ちゃん、大丈夫?」

 松子が慌てて葵の体を支えた。

「怖かった」

 今更ながら、震えがくる。



 その晩は集会場で松子が芋煮を作ってくれた。いつの間にか集まった住人達と鍋を囲むだけで、心が解けていくようだ。安心する。ここの人達は葵を傷つけたりしない。

「その、佐々木ってやつひどいだね」
 
 今日は休みだという金髪碧眼の美女イリーナが怒っている。

「しかし、なんでお前そんな奴に騙されたんだ」

 強面の鬼頭が呆れたように言う。

「今なら分かるけれど、あの頃は騙されたとか、ぜんぜん思っていなくて……」

 葵が情けさなそうに言う。今思うと本当にひどい男だった。

「ねえ、お金だけでも取り戻したら?」

 イリーナは慎吾に腹を立てている。。

「もう、関わり合いになりたくないです。なんだか、半ぐれだとかいう変な人達と付き合いがあるようで、すごく怖いです」

 葵は今更ながら、ぶるりと震えた。

「ああ、確かにあの幸田とか言う男、目つきが尋常じゃなかったね」

 本当に蛇ににらまれたカエルのように体が竦んでしまった。あの時松子が来てくれなかったら、どうなっていたのだろう。

「その佐々木ってやつは、まっとうな会社員なんだろう。なんでそんな奴らと知り合いなんだ?」

 重さんこと重村が首を傾げる。

「あの人、合コンや、賭け事が好きなんで、そこらへんで知り合ったのだと思います

「全く最低の男だね。別れたっていうのにどうつもりだろうね。しかも二股」
と松子が怒りをあらわにする。

「そういう男に騙される方もどうかしてるぞ」
 
 容赦のない言葉だが、鬼頭の言う通りだ。

「騙されやすいって、社長に言われました」
 
 ポツリと葵が言う。

「ああ、ここの大家ね」

 そうここは社長の持ち物なんだ。本人は住んでいないが。そう言えば社長の住まいはどこなのだろう。

「あの佐々木とか言う男に、付きまとわれたら迷惑だよね。葵ちゃん、大丈夫?」
 
 松子が心配してくれる。

「大丈夫だと思います。さすがにあそこまでやれば。もう来ないかなと。プライドの高い人なので」
「まあ、せいぜい気をつけろよ」

 鬼頭の言う通りだ。職場に食べ物、住まいに恵まれ、ぼうっとしている場合ではない。

 それにしても慎吾はどうしてあんなになってしまったのかと思う。付き合っている頃の彼はもっときちんとしていたような気がする。しかし、今となっては分からないし、わかりたくもない。

 彼は顔も良かったので、社内でもてた。付き合って貰えた時は天にも昇る気持ちだったが、今思うとあの頃から葵を利用する気満々だったのだろう。資金源として。

 何が悲しく金のない派遣社員から搾り取るのだろう。騙しやすいからだろうか。そうならば、ちょっと辛い。

 美味しい芋荷を食べ、ビールに熱燗を飲んで、地下の風呂につかって忘れてしまおう。

 最近ではあの素晴らしい岩風呂を想像するだけでリラックスできる。
 
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