前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可

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最終話 朝の光、三人のぬくもり

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 窓の外に、柔らかな光が射しこんでいた。
 雪はもう跡形もなく、屋根から滴る雫がきらめいている。
 遠くの森では、小鳥たちが春を告げるようにさえずっていた。

 ミカが目を覚ました。
 すぐ隣、ダリウスが穏やかな寝息を立てていた。
 片腕でミカを抱き寄せたまま、まるで大切なものを守るように。

 その腕の重みに、顔が熱くなる。
 昨夜のことが夢ではないと、ようやく実感が湧いた。

(……本当に、貴方のそばにいるんだ)

 ゆっくりと息を整えながら、ミカはダリウスの指先を見つめた。
 無骨で大きな手。
 それが自分を優しく包んでくれた夜を思い出し、頬が赤く染まる。

 不意に、彼の胸の鼓動が少し早まった。
 ミカが動いたせいだろうか。
 眠っていると思っていたダリウスが、ゆっくりと瞼を開いた。

「……おはよう、ゆう」

「……おはようございます、ダリウス様」

 朝の光が二人のあいだに差しこむ。
 ダリウスの瞳は、昨夜よりもずっと柔らかかった。

「眠れたか?」

「はい……ダリウス様の腕が、あたたかくて」

 その言葉に、ダリウスの唇がわずかにほころぶ。

「そうか」

 窓の外で風が揺れ、春の匂いが入り込んでくる。
 ミカはその匂いに胸いっぱいの息を吸い込み、そっと笑った。

「冬にここへ来たときは……自分がこんな朝を迎えるなんて、思いもしませんでした」

 ダリウスがミカの髪を指先で梳いた。
 ゆるく触れるたび、指先に温もりが伝わる。

「そうだな。お前がこの地に迷い込んでくれて、本当に良かった」

「はい……ダリウス様に出会わなければ、こんな幸せ、知ることはなかったと思います」

「俺もだ」

「はい」

「ゆう、愛してる」

 その静かな言葉に、ミカの胸がまた震えた。
 頬が熱くなり、目を逸らすと、ダリウスが小さく笑う。

「……顔が真っ赤だな」

「ち、違います……!」

「嘘をつくと、耳まで赤くなる」

「な、なんでそんなところまで見るんですか……!」

 ふっと、笑い声が重なった。
 その音は、冬の名残をすっかり溶かしていくようだった。

 やがて、廊下の向こうから小さな足音が近づく。
 ノックの音とともに、元気な声が響いた。

「ミカ先生ー! パパー!」

 ミカはハッとして身を起こす。
 ダリウスが慌てずに肩を軽く押さえ、微笑んだ。

「落ち着け。……入っておいで、リアム」

 扉が開き、リアムがぴょこんと顔を出した。
 寝ぼけ眼のまま、両手に何かを抱えている。

「ミカ、パパ、おはよう!」

 ジェスが後ろから「坊ちゃま、まだお着替えを……!」と困った声を上げるが、
 リアムは笑顔のままベッドのそばに駆け寄った。

「おはよう、リアムくん」

 リアムはベッドに登ってミカの手を握った。

「ねぇねぇ、今日ね、ミカとお花見に行こうってジェスが言ってた!」

「お花見?」

「うん!きっと、いっぱい咲いてるよ!」

 ミカが笑うと、ダリウスも静かに頷いた。

「いいな、それは俺も行こう」

「ほんと!? じゃあ、みんなで行こう!」

 リアムのはじけるような笑顔に、ミカの胸がまた熱くなった。

(……あぁ、これが“幸せ”なんだ)

 小さな手。
 大きな手。
 そして、朝の光。

 三つの温もりが重なって、一つの家族を形づくっていた。

 ダリウスがミカの肩を抱き寄せ、リアムの髪を撫でた。

「……お前たちが笑ってくれるなら、それが何よりの朝だ」

 ミカは目を細めて、その言葉を胸に刻む。

 春の光が差し込み、カーテンの向こうで風がやさしく舞った。

 その光の中で、ミカは思った。
 ――この館に来て、本当によかった。
 寒い雪の日も、孤独も、すべてはこの朝に続いていたのだ。

 ダリウスの肩にもたれながら、ミカは静かに笑った。

「……ダリウス様」

「うん?」

「おはようございます。今日も、いい日になりそうです」

「あぁ。……お前がそう言うなら、間違いない」

 リアムが嬉しそうに両手を広げる。

「みんなで朝ごはん食べよう!」

 その声にふたりが笑い、
 穏やかな朝の館に、春の音が満ちていった。
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みんなの感想(1件)

あい0502
2025.12.02 あい0502

心温まる作品を読ませて頂きありがとうございます😊一気に読み進めました。他の作品を読ませて頂きます。これから本格的に寒くなります。体調に気をつけてお過ごしください🍀

解除

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