天然くんは無自覚に手強い

結衣可

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最終話 先輩、幸せですね

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仕事を終えて帰宅すると、真壁の部屋に佐倉が来て、夕飯を一緒に食べ、ソファで並んでテレビを見ていた。
お互いの家を自由に行き来するくらいには、この二人での生活に慣れてきたようだ。
「先輩~、このドラマ面白いですね」
「……お前、笑い声でセリフ聞こえねえ」
「え~、そんなこと言って~、先輩も笑ってましたよ!」
くだらない会話。けれど、そんな時間が妙に心地いい。

佐倉がシャワーを浴びて出てくる。髪が少し濡れて、ゆるい部屋着姿。
それを見た瞬間、真壁の心臓が跳ねた。
「先輩、ドライヤー借りてもいいですか?」
「貸す。……ほら座れ」
ソファに座らせ、真壁がドライヤーで髪を乾かす。
温風にくすぐったそうに目を細める佐倉。
「……こういうの、恋人っぽいですね」
「もう恋人だろ」
「……っ、そうでした」
赤くなった耳に思わず口づけると、佐倉がびくっと肩を震わせた。
「せ、先輩!? 耳は……だめです」
「……そんな可愛い反応されると、余計したくなるだろ」
ドライヤーを止め、そのまま佐倉をソファに押し倒す。
驚く佐倉の喉元に、真壁が唇を落とした。
「……っ」
「大丈夫だ。キスだけだ」
首筋から鎖骨、肩へと、ひとつひとつ確かめるように口づけていく。
佐倉は息を詰め、顔を真っ赤にしながら必死に耐えている。
「せ、先輩……そんなとこ……っ」
「本当可愛い」
胸元に軽く唇を触れ、腕に、手の甲に、指先に。
触れられるたびにの体が小さく跳ねる。
「……全部、俺のだって印をつけてぇ」
「……っ、もう……恥ずかしっ……」
真壁は最後に唇を重ね、ゆっくりと甘く噛んだ。
「これからは——俺が存分に甘やかしてやるからな」
「……っ」
涙が浮かびながらも、佐倉はふにゃっと笑って、真壁の首に腕を回した。
「……僕、先輩のものですから」
その一言に、真壁の理性は危うく崩れそうになった。
——夜の部屋に、二人だけの甘い時間が長く流れていった。


カーテンの隙間から差し込む光で、佐倉が目を覚ますと、自分が真壁の腕に抱き込まれていることに気づいた。
「……っ、あ、あれ……」
頬に熱が上がり、思い出す。
昨夜、体中にキスされて、名前を何度も呼ばれて——。
(うわぁ……思い出すだけで死にそう……!)
もぞもぞと抜け出そうとしたが、腕の力は緩まない。
低い声が耳元で囁いた。
「……起きたのか」
「せ、先輩……」
「まだ朝だ。もう少し寝ろ」
「……」
色々思い出して寝れる気はしないですけどと思いながら、小さくうなずいた。

朝食を取ろうとキッチンに立ったが、気まずさに何も言えず沈黙が続く。
バターを塗る佐倉の手が小さく震えている。
「……先輩」
「ん」
「昨日の……僕、変じゃなかったですか?」
「変どころか、可愛すぎて困ったわ」
「……っ!」
それを聞いて、佐倉は顔を真っ赤にして固まった。
仕掛けておいて、自滅しそうになった自分を思い出し、真壁は苦笑しながら、パンをかじった。

その後、寝室に服を片づけに行こうとした佐倉が、ふと立ち止まった。
そして振り返り、少し潤んだ瞳で言った。
「……先輩」
「なんだ」

「僕……もっと、されてもいい……かも」
——とどめの一撃。

真壁の理性が音を立てて崩れた。
「……言ったな?」
「え? あ、あの、今のナシ——」
佐倉が言い終える前に、真壁は一気に距離を詰めて押し倒した。
「もう遅い。責任取れよ?」
「ひゃっ……せ、先輩……!」
キスが雨のように降り注ぎ、再び体中に触れられる。
佐倉は声を詰まらせながらも、抗うことなく受け入れていった。

何度も重ねられる熱と甘さ。
気づけば外はもう昼を過ぎていて、二人はシーツの中でぐったりと寄り添っていた。
「……先輩……動けません……」
「まぁ、そうだろうな」
「……」
「今日は土曜だ。ずっとベッドにいればいいさ」
「……先輩のせいですよ」
「いや、お前だろ」
「……でも、幸せですね」
佐倉が布団で顔を隠そうとしたので、真壁はまた口づけを落とした。

——1日中ベッドから出られない、甘い甘い時間。
二人だけの新生活は、ますます深く、濃くなっていく。
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