1 / 13
第1話 午前2時のコンビニ
しおりを挟む
《登場人物》
芹沢 智也(せりざわ ともや)
年齢:27歳
職業:会社員(IT関連の事務職)
性格:几帳面で穏やか。誰にでも丁寧に
接するが、どこか距離を置く。
人付き合いが苦手というより、
“疲れてしまう”側。
外見:黒髪短め・前髪が少し落ちる整った
顔立ち。
メガネをかけていることが多く、
スーツ姿ではきっちりした印象。
休日は無頓着で、くたびれたシャツを
好んで着る。
成瀬 海(なるせ かい)
年齢:22歳
職業:大学生(教育学部・夜勤バイト)
性格:一見明るくて人懐っこい。
根はとても繊細で、人の寂しさに
敏感。
誰かを放っておけない性分。
笑っているのに、どこか影のある
笑みを浮かべることがある。
外見:やや長めの髪を後ろで軽く結ぶこと
もある。
黒髪に近い焦げ茶で、目元は優しい
印象。
笑うと頬にえくぼが出る。
制服の下に私服の白Tを着ていて、
清潔感がある。
午前2時、外はすっかり風が止んでいた。アスファルトは冷えきっていて、歩くたびに靴底が小さく鳴る。
街路樹の影が伸び、夜の静けさがまるで息を潜めるように張り詰めていた。
その中を芹沢智也は、ひとり歩いていた。
会社から帰宅しても、眠るべき時間をとうに過ぎても、目は冴えたままだ。
この数年、眠れない夜が増えた。仕事のストレスというよりは、生活のリズムそのものがどこか壊れている。
家に帰っても誰もいない。
冷蔵庫にはペットボトルの水と、賞味期限を過ぎた食パン。
テレビをつけても内容は入ってこない。ニュースキャスターの声が、ただのノイズに聞こえる。
眠れないなら歩けばいい──そう思って外に出た。
無意識に足が向かうのは、いつものコンビニだ。
白い灯りが遠くからでも見える。
この時間に光を放っているのは、街でここだけだ。
その明るさが好きなわけではない。ただ、孤独を忘れさせてくれる“存在”のように感じるのだ。
自動ドアが音を立てて開く。
冷たい空気が肌にまとわりつく外とは対照的に、店内はほんのりと温かかった。
湯気混じりの肉まんケース、コーヒーマシンの音、電子レンジのピピッという合図。
静かだけれど、人の気配が確かにある空間。
「いらっしゃいませー」
その声が、やけにやさしく響いた。
低すぎず、高すぎず、耳に残る柔らかな声。
智也は思わずそちらを見た。
レジの奥で、ひとりの青年が立っていた。
黒髪に近い焦げ茶の髪、眠たげなのにどこか透き通った目。
年の頃は20歳そこそこだろう。黒いエプロンの下から覗く白いTシャツが、店の蛍光灯に淡く照らされている。
見慣れた店員ではなかった。
たぶん、夜勤の新しいバイトなのだろう。
そう思いながらも、智也の足は自然と店内をゆっくり回り始めた。
目的があるわけでもない。ただ、棚を眺める。
冷凍食品、スナック菓子、カップ麺。
仕事帰りに立ち寄る人、夜勤明けの人、眠れない人──この店には、そんな人たちが何人も訪れている。
けれど今夜は、客は智也ひとりだった。
湯気が立つおでん鍋の前で立ち止まり、智也は思考を止めるようにしてコーヒーを取った。
温かい缶を握ると、手のひらが少しだけ安心する。
そのままレジに向かうと、青年がゆるやかに微笑んだ。
「寒いですね。あったかいの、助かりますよね」
当たり障りのない一言が、智也の胸に妙に深く刺さった。
ただの接客マニュアルではない、何かがあるような気がして。
「……そうですね」
そう返すのがやっとだった。
声が少し掠れていることに、自分で気づく。
何かを話したいわけでもない。ただ、この温度を壊したくなかった。
ピッ、とレジの音が鳴る。
受け取ったレシートをポケットに入れようとした瞬間、智也の指先が青年の手に触れた。
ほんの一瞬。
それだけなのに、驚くほどあたたかい。
冬の夜、誰かの手に触れるのはいつぶりだろう。
恋人と別れてから、もう2年近く経つ。
誰かと過ごす時間が面倒になり、孤独がいつの間にか“慣れ”に変わった。
でも──。
今、その“慣れ”が少しだけ崩れた気がした。
「お気をつけて」
海の声に顔を上げる。
真正面から目が合った。
店の蛍光灯が彼の瞳に反射して、きらりと光る。
その瞳は、眠たげな印象とは違って、どこか真剣だった。
智也は軽く会釈して、外に出た。
ドアのベルが小さく鳴り、冷たい夜気がまた頬を撫でる。
振り返ると、ガラス越しに青年が棚を整えていた。
背中越しのその姿を見ながら、智也は思った。
たった一言で、空気の温度が変わる。
そんな感覚が、まだ自分にも残っていたんだ、と。
缶コーヒーを口に含む。
少し苦くて、でも確かに温かい。
灯りの向こうで、青年がふとこちらに顔を上げた。
目が合った気がして、智也は慌てて視線を逸らす。
どうしてだろう。
見知らぬ青年の声や仕草が、こんなにも心に残るなんて。
夜道を歩きながら、智也は自分に言い聞かせる。
「疲れてるだけだ」
「誰にでもあることだ」
でも、胸の奥は妙に温かく、そして少し寂しかった。
この時間にしか会えない誰か。
その存在が、明日の朝にはもう遠ざかってしまうような気がして、眠れぬ夜が、また少し長引きそうだった。
──それでも、次の金曜日も同じ時間にこの道を歩くだろう。
コンビニの灯りが、そこにある限り。
芹沢 智也(せりざわ ともや)
年齢:27歳
職業:会社員(IT関連の事務職)
性格:几帳面で穏やか。誰にでも丁寧に
接するが、どこか距離を置く。
人付き合いが苦手というより、
“疲れてしまう”側。
外見:黒髪短め・前髪が少し落ちる整った
顔立ち。
メガネをかけていることが多く、
スーツ姿ではきっちりした印象。
休日は無頓着で、くたびれたシャツを
好んで着る。
成瀬 海(なるせ かい)
年齢:22歳
職業:大学生(教育学部・夜勤バイト)
性格:一見明るくて人懐っこい。
根はとても繊細で、人の寂しさに
敏感。
誰かを放っておけない性分。
笑っているのに、どこか影のある
笑みを浮かべることがある。
外見:やや長めの髪を後ろで軽く結ぶこと
もある。
黒髪に近い焦げ茶で、目元は優しい
印象。
笑うと頬にえくぼが出る。
制服の下に私服の白Tを着ていて、
清潔感がある。
午前2時、外はすっかり風が止んでいた。アスファルトは冷えきっていて、歩くたびに靴底が小さく鳴る。
街路樹の影が伸び、夜の静けさがまるで息を潜めるように張り詰めていた。
その中を芹沢智也は、ひとり歩いていた。
会社から帰宅しても、眠るべき時間をとうに過ぎても、目は冴えたままだ。
この数年、眠れない夜が増えた。仕事のストレスというよりは、生活のリズムそのものがどこか壊れている。
家に帰っても誰もいない。
冷蔵庫にはペットボトルの水と、賞味期限を過ぎた食パン。
テレビをつけても内容は入ってこない。ニュースキャスターの声が、ただのノイズに聞こえる。
眠れないなら歩けばいい──そう思って外に出た。
無意識に足が向かうのは、いつものコンビニだ。
白い灯りが遠くからでも見える。
この時間に光を放っているのは、街でここだけだ。
その明るさが好きなわけではない。ただ、孤独を忘れさせてくれる“存在”のように感じるのだ。
自動ドアが音を立てて開く。
冷たい空気が肌にまとわりつく外とは対照的に、店内はほんのりと温かかった。
湯気混じりの肉まんケース、コーヒーマシンの音、電子レンジのピピッという合図。
静かだけれど、人の気配が確かにある空間。
「いらっしゃいませー」
その声が、やけにやさしく響いた。
低すぎず、高すぎず、耳に残る柔らかな声。
智也は思わずそちらを見た。
レジの奥で、ひとりの青年が立っていた。
黒髪に近い焦げ茶の髪、眠たげなのにどこか透き通った目。
年の頃は20歳そこそこだろう。黒いエプロンの下から覗く白いTシャツが、店の蛍光灯に淡く照らされている。
見慣れた店員ではなかった。
たぶん、夜勤の新しいバイトなのだろう。
そう思いながらも、智也の足は自然と店内をゆっくり回り始めた。
目的があるわけでもない。ただ、棚を眺める。
冷凍食品、スナック菓子、カップ麺。
仕事帰りに立ち寄る人、夜勤明けの人、眠れない人──この店には、そんな人たちが何人も訪れている。
けれど今夜は、客は智也ひとりだった。
湯気が立つおでん鍋の前で立ち止まり、智也は思考を止めるようにしてコーヒーを取った。
温かい缶を握ると、手のひらが少しだけ安心する。
そのままレジに向かうと、青年がゆるやかに微笑んだ。
「寒いですね。あったかいの、助かりますよね」
当たり障りのない一言が、智也の胸に妙に深く刺さった。
ただの接客マニュアルではない、何かがあるような気がして。
「……そうですね」
そう返すのがやっとだった。
声が少し掠れていることに、自分で気づく。
何かを話したいわけでもない。ただ、この温度を壊したくなかった。
ピッ、とレジの音が鳴る。
受け取ったレシートをポケットに入れようとした瞬間、智也の指先が青年の手に触れた。
ほんの一瞬。
それだけなのに、驚くほどあたたかい。
冬の夜、誰かの手に触れるのはいつぶりだろう。
恋人と別れてから、もう2年近く経つ。
誰かと過ごす時間が面倒になり、孤独がいつの間にか“慣れ”に変わった。
でも──。
今、その“慣れ”が少しだけ崩れた気がした。
「お気をつけて」
海の声に顔を上げる。
真正面から目が合った。
店の蛍光灯が彼の瞳に反射して、きらりと光る。
その瞳は、眠たげな印象とは違って、どこか真剣だった。
智也は軽く会釈して、外に出た。
ドアのベルが小さく鳴り、冷たい夜気がまた頬を撫でる。
振り返ると、ガラス越しに青年が棚を整えていた。
背中越しのその姿を見ながら、智也は思った。
たった一言で、空気の温度が変わる。
そんな感覚が、まだ自分にも残っていたんだ、と。
缶コーヒーを口に含む。
少し苦くて、でも確かに温かい。
灯りの向こうで、青年がふとこちらに顔を上げた。
目が合った気がして、智也は慌てて視線を逸らす。
どうしてだろう。
見知らぬ青年の声や仕草が、こんなにも心に残るなんて。
夜道を歩きながら、智也は自分に言い聞かせる。
「疲れてるだけだ」
「誰にでもあることだ」
でも、胸の奥は妙に温かく、そして少し寂しかった。
この時間にしか会えない誰か。
その存在が、明日の朝にはもう遠ざかってしまうような気がして、眠れぬ夜が、また少し長引きそうだった。
──それでも、次の金曜日も同じ時間にこの道を歩くだろう。
コンビニの灯りが、そこにある限り。
31
あなたにおすすめの小説
優等生αは不良Ωに恋をする
雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。
そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。
「うっせーよ。俺に構うな」
冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。
自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。
番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。
それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。
王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開!
優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。
【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。
キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。
声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。
「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」
ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。
失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。
全8話
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!
白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。
現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、
ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。
クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。
正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。
そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。
どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??
BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です)
《完結しました》
ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!?
「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??
隣の大学院生は、俺の癒しでした。
結衣可
BL
仕事に追われ、残業ばかりの日々を送るサラリーマン・斎藤悠真(32)。
感情を表に出すことも減り、「今日も誰ともしゃべらなかったな」と思いながら帰宅する毎日。
そんなある夜、隣の部屋から漂ってきたカレーの香りとともに、インターホンが鳴る。
「作りすぎちゃって……よかったらどうぞ」
そう微笑んで皿を差し出したのは、隣に住む大学院生・風間緒人(25)。
栄養学を学びながら料理好きの緒人は、気づけば週に一度は“おすそ分け”をするようになる。
最初は戸惑いながら受け取っていた悠真だったが、温かい食事と緒人のさりげない気遣いに、
長い間感じたことのなかった「人の温もり」に心が揺らいでいく。
雨の日に差し出されるタオルや、疲れた体に沁みる味噌汁。
やがて二人で食卓を囲む夜、体調を崩したときの看病……。
少しずつ距離が近づくたびに、悠真は自分でも驚くほど笑顔を見せ、心を許してしまう。
逃げ腰のサラリーマンと、世話焼きの年下院生。
すれ違いと優しさの間で揺れる二人の関係は、いつしか「癒し」から「恋」へと変わっていく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる