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第4話 お隣さんが優しすぎる
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朝、目を開けた瞬間から体が重かった。
(う~、やば……寒気する)
昨日の夜、少し肌寒かったのに薄着で寝たのがまずかったのかもしれない。
「陽向?起きてるか?」
「……う~、寒気する」
声がするドアに向かって、布団の中からかすれた声でそう言った。
「陽向?」
躊躇いなく部屋に入ってきた湊がベッド脇にしゃがみ、陽向の額に手を置く。
「熱があるな」
額に触れる大きな手がひやりとして気持ちいい。
「……う、大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ」
それだけ言うと、湊は立ち上がり、タオルを濡らして戻ってきた。
「今日は休め」
「でも、今日出席点……」
「そう思うなら、早く治せ」
ぴしゃりと言い切り、冷たいタオルを額に置く。
その後も湊は黙々と動き、ポットでお湯を沸かし、マグカップにスポーツドリンクの粉末を溶かして差し出した。
「ほら、飲め」
「……ありがと」
少し飲むと、体の中に温かさが広がっていく。
「着替えるぞ。汗かいてる」
「うん……でも、動くとしんどい」
「手伝うから、大丈夫だ」
そう言ってタンスからパジャマを取り出し、ためらいもなく陽向の服のボタンを外していく。
「わ、ちょ、湊!」
「うるせぇ。さわぐな」
真顔のまま手際よく着替えさせられ、抵抗する気力も失せた。
布団をかけ直され、湊はそのままベッドの縁に腰を下ろす。
「寝ろ」
「……湊は?」
「今日はオンラインで受ける。陽向を一人にはできないからな」
その言い方がやけに優しくて、胸がじんとした。
「……湊、過保護すぎ」
「まぁ、そうだな」
あっさり肯定され、陽向は小さくえへへと笑った。
眠りに落ちる直前、頭をそっと撫でる感触と、低い声での「おやすみ」が耳に残った。
風邪から回復した日の夜、シェアハウスのリビングはすでに静まり返っていて、廊下には住人たちの部屋から漏れる小さな明かりだけが点いていた。
陽向は、そっと部屋を抜け出す。
(……湊にお礼、ちゃんと言ってなかったし)
風邪の看病だけじゃなく、講義の資料まで取ってきてくれた湊に、何かしてあげたくて仕方なかった。
キッチンの冷蔵庫を開けると、ちょうど卵と牛乳があった。
(よし、これなら夜食にいいかも)
湊が夜遅くまで課題をやっているのは知っている。コーヒーと一緒に食べてもらえるよう、フレンチトーストを作ることにした。
卵を割りながら、陽向はふと笑う。
(湊は昔から俺のこと、気にしてくれる……久しぶりに会っても変わらなくて、嬉しいな)
湊を追いかけるように同じ大学にして、どうにか会えないかなぁなんて思っていたら、こんなところで一緒になるなんて奇跡かもしれない。
(また、このまま一緒にいられたらいいな)
手際よく卵をかき混ぜ、牛乳と砂糖を加え、パンを浸していく。
フライパンにバターを溶かし、卵液に浸したパンをこんがり焼いていく。
完成したフレンチトーストを皿に乗せ、コーヒーと共にお盆に乗せた。
静かな廊下を進み、湊の部屋の前で一瞬だけためらう。
(……迷惑じゃないよな)
ノックを二回。
「はい」
中から低い声が返ってきて、陽向はお盆を抱えたままドアを開ける。
机に向かっていた湊が、こちらを見て目を細める。
「……何してんだ」
「湊にお礼したくて。夜食作ってみたんだけど……」
お盆を差し出すと、湊は少し驚いた顔をして受け取った。
「わざわざ作ってくれたのか」
「うん。この間ね、風邪ひいたとき、ずっと一緒にいてくれて嬉しかったから」
下を向き、少し照れたようにぼそぼそ言う陽向を、湊はしばらく黙って見ていたが、やがて小さく息をついた。
片手でお盆を持ち、陽向の頭を優しく撫でる。
「……入って座れ」
指示されるままベッドに腰を下ろすと、湊はフレンチトーストを一口かじり、わずかに口角を上げた。
「うまいな」
「ほんと?」
よかった~と安心したように言う陽向に
「……ありがとな」
その低い声に、カっと顔が熱くなる。
「……お礼になったかな」
思わず呟くと、湊がゆっくり近づいてきた。陽向の前にしゃがみ、陽向の頬に手を添える。
「お前が俺のために何かしてくれるのは何でも嬉しいよ」
いつも以上に優しい声に、心臓が跳ねる。
「……そ、そか」
精一杯な陽向はそう返すと、湊はわずかに笑って頬から手を離す。
湊は机に戻り、課題を再開した。
そのまま机に向かっている湊の横顔をなんとなく眺めていた。
「湊、なんか……大人になった」
「お前は変わらないな」
「え、それって褒められてないよね?」
湊は少しだけ笑って、「褒めてるよ」と答えた。
その笑顔を見て、陽向は落ち着かない気持ちになった。
(……やっぱり、なんか、湊がカッコいい……気がする)
湊が食べ終わって、片付けをするために立つと、湊が陽向を見て「陽向、おやすみ」と声を掛けた。
その夜、陽向の顔は部屋に戻ってもしばらく熱いままだった。
(う~、やば……寒気する)
昨日の夜、少し肌寒かったのに薄着で寝たのがまずかったのかもしれない。
「陽向?起きてるか?」
「……う~、寒気する」
声がするドアに向かって、布団の中からかすれた声でそう言った。
「陽向?」
躊躇いなく部屋に入ってきた湊がベッド脇にしゃがみ、陽向の額に手を置く。
「熱があるな」
額に触れる大きな手がひやりとして気持ちいい。
「……う、大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ」
それだけ言うと、湊は立ち上がり、タオルを濡らして戻ってきた。
「今日は休め」
「でも、今日出席点……」
「そう思うなら、早く治せ」
ぴしゃりと言い切り、冷たいタオルを額に置く。
その後も湊は黙々と動き、ポットでお湯を沸かし、マグカップにスポーツドリンクの粉末を溶かして差し出した。
「ほら、飲め」
「……ありがと」
少し飲むと、体の中に温かさが広がっていく。
「着替えるぞ。汗かいてる」
「うん……でも、動くとしんどい」
「手伝うから、大丈夫だ」
そう言ってタンスからパジャマを取り出し、ためらいもなく陽向の服のボタンを外していく。
「わ、ちょ、湊!」
「うるせぇ。さわぐな」
真顔のまま手際よく着替えさせられ、抵抗する気力も失せた。
布団をかけ直され、湊はそのままベッドの縁に腰を下ろす。
「寝ろ」
「……湊は?」
「今日はオンラインで受ける。陽向を一人にはできないからな」
その言い方がやけに優しくて、胸がじんとした。
「……湊、過保護すぎ」
「まぁ、そうだな」
あっさり肯定され、陽向は小さくえへへと笑った。
眠りに落ちる直前、頭をそっと撫でる感触と、低い声での「おやすみ」が耳に残った。
風邪から回復した日の夜、シェアハウスのリビングはすでに静まり返っていて、廊下には住人たちの部屋から漏れる小さな明かりだけが点いていた。
陽向は、そっと部屋を抜け出す。
(……湊にお礼、ちゃんと言ってなかったし)
風邪の看病だけじゃなく、講義の資料まで取ってきてくれた湊に、何かしてあげたくて仕方なかった。
キッチンの冷蔵庫を開けると、ちょうど卵と牛乳があった。
(よし、これなら夜食にいいかも)
湊が夜遅くまで課題をやっているのは知っている。コーヒーと一緒に食べてもらえるよう、フレンチトーストを作ることにした。
卵を割りながら、陽向はふと笑う。
(湊は昔から俺のこと、気にしてくれる……久しぶりに会っても変わらなくて、嬉しいな)
湊を追いかけるように同じ大学にして、どうにか会えないかなぁなんて思っていたら、こんなところで一緒になるなんて奇跡かもしれない。
(また、このまま一緒にいられたらいいな)
手際よく卵をかき混ぜ、牛乳と砂糖を加え、パンを浸していく。
フライパンにバターを溶かし、卵液に浸したパンをこんがり焼いていく。
完成したフレンチトーストを皿に乗せ、コーヒーと共にお盆に乗せた。
静かな廊下を進み、湊の部屋の前で一瞬だけためらう。
(……迷惑じゃないよな)
ノックを二回。
「はい」
中から低い声が返ってきて、陽向はお盆を抱えたままドアを開ける。
机に向かっていた湊が、こちらを見て目を細める。
「……何してんだ」
「湊にお礼したくて。夜食作ってみたんだけど……」
お盆を差し出すと、湊は少し驚いた顔をして受け取った。
「わざわざ作ってくれたのか」
「うん。この間ね、風邪ひいたとき、ずっと一緒にいてくれて嬉しかったから」
下を向き、少し照れたようにぼそぼそ言う陽向を、湊はしばらく黙って見ていたが、やがて小さく息をついた。
片手でお盆を持ち、陽向の頭を優しく撫でる。
「……入って座れ」
指示されるままベッドに腰を下ろすと、湊はフレンチトーストを一口かじり、わずかに口角を上げた。
「うまいな」
「ほんと?」
よかった~と安心したように言う陽向に
「……ありがとな」
その低い声に、カっと顔が熱くなる。
「……お礼になったかな」
思わず呟くと、湊がゆっくり近づいてきた。陽向の前にしゃがみ、陽向の頬に手を添える。
「お前が俺のために何かしてくれるのは何でも嬉しいよ」
いつも以上に優しい声に、心臓が跳ねる。
「……そ、そか」
精一杯な陽向はそう返すと、湊はわずかに笑って頬から手を離す。
湊は机に戻り、課題を再開した。
そのまま机に向かっている湊の横顔をなんとなく眺めていた。
「湊、なんか……大人になった」
「お前は変わらないな」
「え、それって褒められてないよね?」
湊は少しだけ笑って、「褒めてるよ」と答えた。
その笑顔を見て、陽向は落ち着かない気持ちになった。
(……やっぱり、なんか、湊がカッコいい……気がする)
湊が食べ終わって、片付けをするために立つと、湊が陽向を見て「陽向、おやすみ」と声を掛けた。
その夜、陽向の顔は部屋に戻ってもしばらく熱いままだった。
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