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第5話 可愛い人
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放課後の生徒会室では大きな窓から射し込む夕陽が、長い影を床に落としていた。
机の上には行事関係の書類が山のように積まれ、羽ペンとインク壺が整然と並んでいる。
カリカリと紙を走る音だけが、静かな部屋を満たしていた。
副会長セオドアは黙々と筆を動かしながらも、ちらりと隣に座る人物を盗み見る。
第三王子にして生徒会長――クリストフ・フォン・グランツ。
普段と変わらぬ冷静な横顔。
だが、よく見ればその口元にはわずかに柔らかな色が差している。
完璧な石像のように無表情で知られる彼にしては、珍しいことだった。
(……随分と、ご機嫌だな)
セオドアは目を伏せ、書類を一枚めくる。
けれど気になって仕方がなく、つい口を開いた。
「……会長。最近、どこに行かれているんですか?」
ペン先を止めずに投げかけた問い。
すると隣から低い声が返る。
「あぁ」
羽ペンを指先でくるりと回し、クリストフはわずかに意地悪げな笑みを浮かべる。
「執務の合間に、よく姿を消すじゃないですか……どこに行ってるんです?」
「――可愛い人に会いに」
「……へぇ?」
思わずペンを止め、セオドアは顔を上げた。
光に照らされたクリストフの横顔は、いつも通り整っている。
だが、その瞳には熱の影が潜んでいた。
「珍しいですね。会長が“可愛い”なんて。……人を褒めることすら滅多にないのに」
クリストフは椅子に背を預け、視線を天井に向ける。
淡々とした声音で、それでもわずかな笑みを浮かべた。
「とても、可愛いんですよ」
胸に秘めた何かを肯定するように。
その姿に、セオドアの眉がわずかに動いた。
「……気になるなぁ。今度会ってみたいですね」
冗談めかして言ったつもりだった。
だが、返ってきた答えは冗談にはならなかった。
「セオドアも、すでに会っていますよ」
「え?」
「授業を受けているはずですから」
静かに告げられた言葉に、一拍遅れてセオドアの眉が跳ね上がる。
「……先生、なのか?」
「ええ」
迷いのない口調。
冷静そのものの声なのに、その奥に隠された熱は否応なく伝わってくる。
「会長……それはさすがに――」
「私は今年度で卒業ですから」
淡々と書類を束ねながら、低く言い放つ。
「かまわないでしょう?」
その言葉は理路整然としている。
だが、そこには個人としての願いが色濃く滲んでいた。
セオドアは思わず口をつぐみ、しばし会長の横顔を見つめる。
夕陽が差し込む窓辺で、いつも冷徹な生徒会長が――
特定の人間を“可愛い”と評して微笑む姿。
(……本当に、驚かされる)
完璧で、何もかもを卒なくこなす少年が見せた初めての隙。
その隙が、誰か一人の存在によって生まれている。
「……これは面白い」
心の中で呟きながら、セオドアは再び羽ペンを走らせた。
だが、耳の奥にはまだ“とても可愛いんです”という言葉が残響のように響いていた。
机の上には行事関係の書類が山のように積まれ、羽ペンとインク壺が整然と並んでいる。
カリカリと紙を走る音だけが、静かな部屋を満たしていた。
副会長セオドアは黙々と筆を動かしながらも、ちらりと隣に座る人物を盗み見る。
第三王子にして生徒会長――クリストフ・フォン・グランツ。
普段と変わらぬ冷静な横顔。
だが、よく見ればその口元にはわずかに柔らかな色が差している。
完璧な石像のように無表情で知られる彼にしては、珍しいことだった。
(……随分と、ご機嫌だな)
セオドアは目を伏せ、書類を一枚めくる。
けれど気になって仕方がなく、つい口を開いた。
「……会長。最近、どこに行かれているんですか?」
ペン先を止めずに投げかけた問い。
すると隣から低い声が返る。
「あぁ」
羽ペンを指先でくるりと回し、クリストフはわずかに意地悪げな笑みを浮かべる。
「執務の合間に、よく姿を消すじゃないですか……どこに行ってるんです?」
「――可愛い人に会いに」
「……へぇ?」
思わずペンを止め、セオドアは顔を上げた。
光に照らされたクリストフの横顔は、いつも通り整っている。
だが、その瞳には熱の影が潜んでいた。
「珍しいですね。会長が“可愛い”なんて。……人を褒めることすら滅多にないのに」
クリストフは椅子に背を預け、視線を天井に向ける。
淡々とした声音で、それでもわずかな笑みを浮かべた。
「とても、可愛いんですよ」
胸に秘めた何かを肯定するように。
その姿に、セオドアの眉がわずかに動いた。
「……気になるなぁ。今度会ってみたいですね」
冗談めかして言ったつもりだった。
だが、返ってきた答えは冗談にはならなかった。
「セオドアも、すでに会っていますよ」
「え?」
「授業を受けているはずですから」
静かに告げられた言葉に、一拍遅れてセオドアの眉が跳ね上がる。
「……先生、なのか?」
「ええ」
迷いのない口調。
冷静そのものの声なのに、その奥に隠された熱は否応なく伝わってくる。
「会長……それはさすがに――」
「私は今年度で卒業ですから」
淡々と書類を束ねながら、低く言い放つ。
「かまわないでしょう?」
その言葉は理路整然としている。
だが、そこには個人としての願いが色濃く滲んでいた。
セオドアは思わず口をつぐみ、しばし会長の横顔を見つめる。
夕陽が差し込む窓辺で、いつも冷徹な生徒会長が――
特定の人間を“可愛い”と評して微笑む姿。
(……本当に、驚かされる)
完璧で、何もかもを卒なくこなす少年が見せた初めての隙。
その隙が、誰か一人の存在によって生まれている。
「……これは面白い」
心の中で呟きながら、セオドアは再び羽ペンを走らせた。
だが、耳の奥にはまだ“とても可愛いんです”という言葉が残響のように響いていた。
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