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最終話 もう離さない
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カインが怪我から完全に回復した夜。
明日は珍しく公務もなく、丸一日自由に過ごせると聞いたリオネルは、少年のように目を輝かせた。
「ねぇ、今日は僕の部屋に泊まって」
「……殿下」
咎めるように呼ぶと、即座に訂正が入る。
「リオ、でしょ」
青い瞳に見上げられると、どんな理屈も意味を失う。
「……リオ」
口にした瞬間、甘くも嫌な予感が胸をよぎった――この方は、手がかかる。
夜半、王子の私室の扉を叩くと、内側から弾む声が返る。
「入っていいよ!」
扉を開ければ、リオネルは既に寝間着姿でベッドに腰掛けていた。
膝に毛布をかけ、ぱたぱたと叩きながら子どもが遊びに誘うような笑顔を浮かべる。
「ほら、こっち」
「私は床で……」
「駄目。せっかくの初お泊まりなのに」
理屈も何もない。だが、押し切られるのも時間の問題だとカインは悟っていた。
案の定、毛布の端を掴まれ、半ば引き込まれる形でベッドに腰を下ろす。
リオネルは満足げに枕を二つ並べ、頬を緩ませる。
「こうして隣で眠れるなんて、ずっと夢だった」
「……殿下」
「恋人なんだからいいでしょ?」
即答に言葉を失い、毛布を掛けられるがまま横になる。
窓の外からは夜警の足音がかすかに響き、部屋の中は穏やかに暖かかった。
リオネルは寝転ぶとすぐに、カインの腕に頭を預ける。
「……重い?」
「いえ。重くはありません」
心臓が近すぎて、重さなど感じる余裕がなかった。
しばらくすると、リオネルは正面から抱きついてきた。
「……!? 何を」
「だって、もう離れたくないから」
言葉は子どもじみているのに、腕の力は真剣だった。
胸元に顔を埋めながら、小さな声で続ける。
「カイン、起きてる?」
「……はい」
「じゃあ、もう一回名前呼んで」
「……リオ」
小さく名を呼べば、耳元でくすりと笑う。
「ふふ、やっぱり好き」
甘すぎる声に、カインは反射的に額に手を当てた。
(……これでは眠れるはずがない)
しならくすると、リオネルの呼吸は落ち着き、寝息に変わった。
胸元で無防備に眠る姿を見下ろし、カインは小さく息を吐く。
「……本当に、手がかかる」
その顔を撫でる手つきは誰よりも優しい。
今夜だけは、公務も立場も忘れて――ただ恋人として彼の隣にいる。
***
翌朝、目を覚ましたリオネルは、まだ隣にいるカインを見て嬉しそうに微笑んだ。
「おはよう、カイン。……今日も泊まっていくでしょう?」
「……殿下。恋人を甘やかすにも限度があります」
「ふーん、本当に?」
無邪気な笑顔に、カインは苦笑しながら「冗談です」と答えるしかなかった。
***
その夜、軽装で部屋に入ると、リオネルは既にベッドに腰掛けて待っていた。
月明かりが金の髪を照らし、柔らかな輝きを宿している。
「カイン、早くこっち来て」
毛布をめくり、当然のように招き入れる。
横になった瞬間、リオネルは迷いなく腕を回して抱きついてきた。
「……リオ?」
「こうしてると、落ち着くなって思って」
(自分は落ち着かないのだが……)
指先が熱を帯び、胸の奥がざわめく。
「……近すぎます」
「もっと近くてもいい」
「リオ」
「近くないと嫌だ」
無邪気な一言が、最後の防波堤を揺らす。
さらにリオネルは小さく呟いた。
「……カインの匂い、好き」
理性の糸が、ぷつりと切れる。
「……リオ」
「ん?」
「もう……抑えられそうにない」
囁きと共に、カインは強く抱き寄せた。
視線が絡み、唇が重なる。
これまでの確かめるような口づけではない。熱を帯びた、恋人としての口づけだった。
リオネルは驚いたように目を見開き、次第に瞼を閉じて受け入れる。
息遣いが混ざり合い、体温が毛布の中で溶け合っていく。
「……んっ……はぁ、カイ……ン……」
「っ……リオ」
「……ずっと、こうしてほしかった」
涙に似た笑みで告げられ、カインの喉が熱く鳴る。
その夜、二人は何度も名前を呼び合い、互いを確かめ続けた。
指先も髪も、頬も唇も――すべてを大切に、愛おしむように。
***
朝日が差し込む頃、リオネルは眠たげに微笑む。
「ねえ、カイン」
「はい」
「これからは、遠慮なんてしないで」
真っ直ぐな言葉に、カインは深く息を吐き、答えた。
「……仰せのままに」
その返事は、護衛の誓いではなく、恋人としての約束。
リオネルは満足そうに目を閉じ、カインの胸に頬を寄せた。
――もう離れる理由なんて、どこにもなかった。
明日は珍しく公務もなく、丸一日自由に過ごせると聞いたリオネルは、少年のように目を輝かせた。
「ねぇ、今日は僕の部屋に泊まって」
「……殿下」
咎めるように呼ぶと、即座に訂正が入る。
「リオ、でしょ」
青い瞳に見上げられると、どんな理屈も意味を失う。
「……リオ」
口にした瞬間、甘くも嫌な予感が胸をよぎった――この方は、手がかかる。
夜半、王子の私室の扉を叩くと、内側から弾む声が返る。
「入っていいよ!」
扉を開ければ、リオネルは既に寝間着姿でベッドに腰掛けていた。
膝に毛布をかけ、ぱたぱたと叩きながら子どもが遊びに誘うような笑顔を浮かべる。
「ほら、こっち」
「私は床で……」
「駄目。せっかくの初お泊まりなのに」
理屈も何もない。だが、押し切られるのも時間の問題だとカインは悟っていた。
案の定、毛布の端を掴まれ、半ば引き込まれる形でベッドに腰を下ろす。
リオネルは満足げに枕を二つ並べ、頬を緩ませる。
「こうして隣で眠れるなんて、ずっと夢だった」
「……殿下」
「恋人なんだからいいでしょ?」
即答に言葉を失い、毛布を掛けられるがまま横になる。
窓の外からは夜警の足音がかすかに響き、部屋の中は穏やかに暖かかった。
リオネルは寝転ぶとすぐに、カインの腕に頭を預ける。
「……重い?」
「いえ。重くはありません」
心臓が近すぎて、重さなど感じる余裕がなかった。
しばらくすると、リオネルは正面から抱きついてきた。
「……!? 何を」
「だって、もう離れたくないから」
言葉は子どもじみているのに、腕の力は真剣だった。
胸元に顔を埋めながら、小さな声で続ける。
「カイン、起きてる?」
「……はい」
「じゃあ、もう一回名前呼んで」
「……リオ」
小さく名を呼べば、耳元でくすりと笑う。
「ふふ、やっぱり好き」
甘すぎる声に、カインは反射的に額に手を当てた。
(……これでは眠れるはずがない)
しならくすると、リオネルの呼吸は落ち着き、寝息に変わった。
胸元で無防備に眠る姿を見下ろし、カインは小さく息を吐く。
「……本当に、手がかかる」
その顔を撫でる手つきは誰よりも優しい。
今夜だけは、公務も立場も忘れて――ただ恋人として彼の隣にいる。
***
翌朝、目を覚ましたリオネルは、まだ隣にいるカインを見て嬉しそうに微笑んだ。
「おはよう、カイン。……今日も泊まっていくでしょう?」
「……殿下。恋人を甘やかすにも限度があります」
「ふーん、本当に?」
無邪気な笑顔に、カインは苦笑しながら「冗談です」と答えるしかなかった。
***
その夜、軽装で部屋に入ると、リオネルは既にベッドに腰掛けて待っていた。
月明かりが金の髪を照らし、柔らかな輝きを宿している。
「カイン、早くこっち来て」
毛布をめくり、当然のように招き入れる。
横になった瞬間、リオネルは迷いなく腕を回して抱きついてきた。
「……リオ?」
「こうしてると、落ち着くなって思って」
(自分は落ち着かないのだが……)
指先が熱を帯び、胸の奥がざわめく。
「……近すぎます」
「もっと近くてもいい」
「リオ」
「近くないと嫌だ」
無邪気な一言が、最後の防波堤を揺らす。
さらにリオネルは小さく呟いた。
「……カインの匂い、好き」
理性の糸が、ぷつりと切れる。
「……リオ」
「ん?」
「もう……抑えられそうにない」
囁きと共に、カインは強く抱き寄せた。
視線が絡み、唇が重なる。
これまでの確かめるような口づけではない。熱を帯びた、恋人としての口づけだった。
リオネルは驚いたように目を見開き、次第に瞼を閉じて受け入れる。
息遣いが混ざり合い、体温が毛布の中で溶け合っていく。
「……んっ……はぁ、カイ……ン……」
「っ……リオ」
「……ずっと、こうしてほしかった」
涙に似た笑みで告げられ、カインの喉が熱く鳴る。
その夜、二人は何度も名前を呼び合い、互いを確かめ続けた。
指先も髪も、頬も唇も――すべてを大切に、愛おしむように。
***
朝日が差し込む頃、リオネルは眠たげに微笑む。
「ねえ、カイン」
「はい」
「これからは、遠慮なんてしないで」
真っ直ぐな言葉に、カインは深く息を吐き、答えた。
「……仰せのままに」
その返事は、護衛の誓いではなく、恋人としての約束。
リオネルは満足そうに目を閉じ、カインの胸に頬を寄せた。
――もう離れる理由なんて、どこにもなかった。
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