冷徹社長と完璧秘書、二人きりの“業務報告”は蜜の味

どえろん

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第33話:胎動する未来と、本家からの招待状

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 箱根への旅行から数週間。『ネオ・フロンティア』は、かつてないほどの繁栄の時を迎えていた。イザベラの一件で名を上げた同社には、世界中からオファーが殺到し、オフィスは連日、熱気に包まれていた。だが、その喧騒の中にあって、COOである水瀬雫の様子が、どこか違っていた。

「……雫?」
「あ、はい。何でしょうか、CEO」

 昼下がりのキングスルーム。蓮が声をかけると、雫はハッとしたように顔を上げた。その顔色は少し蒼白く、いつもの切れ味鋭い覇気が薄れているように見える。蓮はデスクを回り込み、彼女の額に手を当てた。

「顔色が悪い。……少し熱っぽいんじゃないか?」
「いえ、大丈夫です。ただの貧血気味で……」
「無理をするな。今日はもう上がれ」
「ですが、午後の会議が……」
「王の命令だ。……大事な身体なんだぞ」

 蓮の真剣な眼差しに、雫は観念したように小さく頷いた。その瞳の奥には、不安と、それを上回る“ある予感”が揺らめいていた。

 その夜。早めに帰宅していた雫を追って、蓮がペントハウスに戻ると、リビングの空気は張り詰めていた。雫はソファに座り、ローテーブルの上に置かれた“白いスティック”を、祈るように見つめていた。

「……雫?」

 蓮が恐る恐る近づくと、雫はゆっくりと顔を上げた。その目には、大粒の涙が溜まっている。

「……蓮さん」
「どうした。何かあったのか」
「……できました」
「え?」
「わたくしの中に……あなたの、赤ちゃんが」

 雫は震える手で、テーブルの上の検査薬を差し出した。そこには、陽性を示す鮮明なラインが浮かび上がっていた。蓮は息を呑み、言葉を失った。箱根でのあの夜。二人が魂を込めて願った未来が、今、現実に宿ったのだ。

「……本当か」
「はい。……まだ、豆粒のような大きさですけれど」

 蓮は膝から崩れ落ちるようにして、雫の目の前に跪いた。そして、彼女の腹部に、まだ膨らみさえ感じられないその場所に、震える手で触れた。温かい。この中に、俺と雫の、命の続きがある。

「ありがとう……雫……!ありがとう……!」

 蓮は、雫の腹に顔を埋め、男泣きした。会社を追われた時も、イザベラに追い詰められた時も、決して弱音を吐かなかった男が、歓喜に肩を震わせている。雫は、そんな彼の頭を優しく抱きしめ、共に涙を流した。

「……蓮さん。お願いがあります」
「なんだ。何でも言え。世界中の果物でも、宝石でも、今すぐ持ってきてやる」
「違います」

 雫は、濡れた瞳で、しかし熱っぽい視線で蓮を見つめた。

「……愛してください。今すぐ」
「だ、だが、身体は……」
「大丈夫です。……ただ、確かめたいのです。パパとママになる前に……もう一度だけ、男と女として、愛し合いたい」

 その切実な願いを、蓮が拒めるはずがなかった。蓮は雫を姫抱きにして、ベッドルームへと運んだ。その扱いは、まるで壊れやすいガラス細工に触れるように慎重だった。

「……愛している。世界で一番、愛している」

 ベッドの上で、蓮は雫の衣服を一枚ずつ、丁寧に解いていく。露わになった彼女の身体は、母になる準備を始めたせいか、以前よりも丸みを帯び、神々しいほどの柔らかさを放っていた。蓮は、彼女の乳房に顔を埋め、慈しむように舌を這わせた。

「んぁ……っ……優し、すぎます……蓮さん……っ」
「当然だ。お前は今、聖域なんだからな」

 蓮の指が、秘所へと滑り込む。濡れそぼったそこは、命を受け入れる準備ができているかのように、熱く脈打っていた。蓮は、自身の剛直をゆっくりと、センチ単位で確かめるように沈めていった。

「あ……っ、はいってる……っ、蓮さんの、命が……っ」
「雫……っ、感じるか……俺たちの、結晶を……」

 激しいピストンなど必要なかった。ただ深く、繋がっていること。互いの体温と魂を、胎内の小さな命に注ぎ込むような、静かで濃密な交わり。蓮は、雫の腹部を手で覆いながら、その奥にいる我が子に語りかけるように腰を動かした。

「俺が、守るからな……。お前も、ママも……絶対に」
「はい……っ、嬉しい……っ、幸せです……っ!」

 クライマックスの瞬間、蓮は雫の最奥に、新たな誓いと共に熱いものを注ぎ込んだ。それは快楽の果てというよりも、生命への祈りに近かった。

 事後、二人は幸福な余韻に浸りながら、寄り添っていた。だが、その静寂を破るように、蓮のスマートフォンが、無機質な着信音を響かせた。こんな時間に、誰だ。蓮が画面を見ると、そこには表示されていない番号。嫌な予感を覚えながら通話ボタンを押すと、聞こえてきたのは、懐かしくも冷徹な、あの声だった。

『……久しぶりね、蓮さん。随分と、ご活躍のようじゃない』

 蓮の背筋が凍りついた。母、橘靜子だった。

「……何のご用ですか、母さん」
『用がなければ、親が子に電話をしてはいけないのかしら?……まあいいわ。単刀直入に言うわね』

 靜子の声は、千里眼のように全てを見透かしているかのように響いた。

『その秘書……妊娠したそうね』

「……ッ!?」
「え……?」

 隣で聞いていた雫も、息を呑んで硬直した。まだ誰にも、病院にさえ行っていない事実を、なぜ。

『驚くことはないわ。橘家の情報網を甘く見ないことね。……おめでとう、と言っておくわ』

 祝いの言葉なのに、そこには氷のような冷たさしか感じられない。

『つきましては、明日の夜、本家へいらっしゃい。二人でね』
「断ると言ったら?」
『あら、いいのかしら?そのお腹の子……“橘家の直系”として、正しく認知してあげなくても』

 靜子は、愉悦を含んだ声で続けた。

『逃げれば、その子は一生“日陰者”よ。……父親であるあなたが、それでいいと言うなら止めないけれど』

 プツン、と通話が切れた。蓮は、携帯を握りしめたまま、歯噛みした。このタイミングでの接触。母は、最初からこの時を待っていたのだ。俺たちが築いた城も、名声も、そして新たに宿った命さえも、橘家に取り込むために。

「……蓮さん」

 雫が、不安そうに蓮の袖を掴む。蓮は、彼女の手を力強く握り返した。

「大丈夫だ。……行こう、本家へ」

 蓮の目に、決意の炎が灯る。

「あの子は、俺たちの子だ。橘家の道具にはさせない。……俺が、守り抜いてみせる」

 新たな命の胎動と共に、最強にして最後の敵、“家”との戦争が始まろうとしていた。

【続く】
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