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第2話
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今日、6月のシーズンに降らなかった雨が一度に降ったね。
そんな文面のメールを打っては消しての繰り返しだった。
誰に送りたいメールでもなかった。
でも、誰かに送りたい。
その誰かは胸のなかでわかっていても気がつかないフリをした。
いつもはすれ違う道に彼の姿はなく。大学のキャンパス、バイト先のどこにもなかった。
彼のアパートのドアを叩くとサークルの先輩が顔を出した。
「先輩、俺、一週間いないんで、俺の家で留守番しててくださいよ」
そういい残してどこへ行くのか告げないままリュックを片手に行ってしまったそうだ。
「あれ?聞いてなかったの? 夏田には言ってるのかあと思ってたけど・・・」
曖昧な言葉と先輩の意味ありげな視線。
笑顔ですべてをごまかして「さよなら」を告げて帰ってきた。
つきあっているわけではない。
私の存在理由なんてそんなものだ。
簡単に無視してどこへでも飛んでいけるぐらいの存在。
友達・・・なんだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
少しは彼に近づいたと思っていた距離が急に遠くに感じられた。
携帯電話に電話をしたのは昨日。
バイトにも身が入らない。
メールが入ってきたのは、夕方になってからだった。
『何度も電話くれたんだろ? 今日戻ってきました』
バイトが終わるのがもどかしくケーキ屋さんのピンクの洋服をロッカーに脱ぎ捨てて走りだす。
待ち合わせの場所は、なごみ屋という甘味処も兼ねた和風の料理屋。
木枠の格子のついた窓、畳の部屋にちゃぶ台と座布団、猫の掛け軸に、もうかなり前に時間を止めてしまったであろう大きな古時計、塗りなおしのしてある箪笥からはかすかにニスのにおいがした。
家に戻ってきた。
ただいまって声をかけて帰りたくなるような場所。
お気に入りのお店のひとつだ。
彼が持って帰ってきたおみやげは、カラーの料理の写真がついた本だった。
どこの国の言葉かもわからないような文字がびっしり書かれてあり、何語なのだろうかと首をひねっていると、表紙に小さく「Espana」の文字。
スペインなのだと気がつくのにしばらくかかった。
「克之、スペインに行ってきたの?」
聞きたいことは山ほどあるのに、その十分の一も言葉にしないままに過ごしている毎日。
それが少し嫌になった瞬間だった。
「行ってきたよ」
彼は水を得た魚のように生き生きとして、満面の笑みを浮かべて言ったのだ。
「恋をしてしまった」
彼の口から出た言葉にぼんやりと立ち尽くした。
まだ、その言葉の衝撃が胸を撃ち、どうしたらよいかわからない心が涙を流した。
「サグラダファミリアを見て圧倒されたんだ」
サグラダファミリアに恋した彼。恋とは例えて彼が選んだ言葉だと気がつくのに三秒かかった。
泣き笑いする私の視線が彼に向くまで待っててくれたに違いなかった。
何かを決意した強い瞳。
視線をしっかりと合わせて彼は言った。
「スペインに留学するよ」
そんな文面のメールを打っては消しての繰り返しだった。
誰に送りたいメールでもなかった。
でも、誰かに送りたい。
その誰かは胸のなかでわかっていても気がつかないフリをした。
いつもはすれ違う道に彼の姿はなく。大学のキャンパス、バイト先のどこにもなかった。
彼のアパートのドアを叩くとサークルの先輩が顔を出した。
「先輩、俺、一週間いないんで、俺の家で留守番しててくださいよ」
そういい残してどこへ行くのか告げないままリュックを片手に行ってしまったそうだ。
「あれ?聞いてなかったの? 夏田には言ってるのかあと思ってたけど・・・」
曖昧な言葉と先輩の意味ありげな視線。
笑顔ですべてをごまかして「さよなら」を告げて帰ってきた。
つきあっているわけではない。
私の存在理由なんてそんなものだ。
簡単に無視してどこへでも飛んでいけるぐらいの存在。
友達・・・なんだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
少しは彼に近づいたと思っていた距離が急に遠くに感じられた。
携帯電話に電話をしたのは昨日。
バイトにも身が入らない。
メールが入ってきたのは、夕方になってからだった。
『何度も電話くれたんだろ? 今日戻ってきました』
バイトが終わるのがもどかしくケーキ屋さんのピンクの洋服をロッカーに脱ぎ捨てて走りだす。
待ち合わせの場所は、なごみ屋という甘味処も兼ねた和風の料理屋。
木枠の格子のついた窓、畳の部屋にちゃぶ台と座布団、猫の掛け軸に、もうかなり前に時間を止めてしまったであろう大きな古時計、塗りなおしのしてある箪笥からはかすかにニスのにおいがした。
家に戻ってきた。
ただいまって声をかけて帰りたくなるような場所。
お気に入りのお店のひとつだ。
彼が持って帰ってきたおみやげは、カラーの料理の写真がついた本だった。
どこの国の言葉かもわからないような文字がびっしり書かれてあり、何語なのだろうかと首をひねっていると、表紙に小さく「Espana」の文字。
スペインなのだと気がつくのにしばらくかかった。
「克之、スペインに行ってきたの?」
聞きたいことは山ほどあるのに、その十分の一も言葉にしないままに過ごしている毎日。
それが少し嫌になった瞬間だった。
「行ってきたよ」
彼は水を得た魚のように生き生きとして、満面の笑みを浮かべて言ったのだ。
「恋をしてしまった」
彼の口から出た言葉にぼんやりと立ち尽くした。
まだ、その言葉の衝撃が胸を撃ち、どうしたらよいかわからない心が涙を流した。
「サグラダファミリアを見て圧倒されたんだ」
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泣き笑いする私の視線が彼に向くまで待っててくれたに違いなかった。
何かを決意した強い瞳。
視線をしっかりと合わせて彼は言った。
「スペインに留学するよ」
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