緋色の風

月原 裕

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第 5 話 

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「毎日、E-mailを書くよ」

 8ヶ月前の彼が残した約束。
 1日の終わりに夜になると、流行る気持ちを抑えながら、パソコンの前に座る。
 日がたつにつれて1日おきのメールが2日、1週間、時の移りゆくさまを感じていた。
 メールが6通届きました。
 画面の文字に心躍るがいつものように、無料配信のメールばかり。
 本やタウンからの本の入荷のご案内から、20パーセントオフで買えるDVDのお知らせ。バルセロナのメールマガジン。
 毎日、いろいろな情報がネット上を飛び交っている。
 何を期待しているのだろうか。まだ何を彼に求めているのだろうか。
 インターネットのYahoo検索サイトを開く。
 3月11日、木曜日、21時19分に配信されているニュースに目が止まった。
 そこにはマドリード鉄道爆破事件の文字が躍っていた。
 詳しいことは何も書かれていないが、その映像は衝撃的だった。
 赤と白の列車が脱線していて、あちこち黒焦げになっている。屋根は爆破された箇所だろうか。あちこち穴があき、窓が黒く見えるのは、爆弾のせいだろう。近くにある鉄塔までもが原形を留めていない。
 胸が熱くなり、心臓の鼓動が早くなっていく。
 テーブルの上にあった手帳を急いでひったくるようにして持つと、手が震えているのがわかった。
 克之が行っている場所は同じスペインでも、バルセロナであって、マドリードではないと頭ではわかっていても安否を確認せずにはいられなかった。
 携帯電話がそのまま国際電話にも使えるように出発前にわざわざ機種変更したことを知っていた。
番号はそのまま。
 頭に010押して、国番号の34、あとは彼の登録している番号を回すだけのはずが、何度やっても失敗してしまい、うまくいかない。
 指が震えていてうまく打てない。
 国際電話番号がこのときほど恨めしく思ったことはない。

「早くでて・・・」

 呼び出し音が長くなっていくにつれて不安が広がっていく。

「Hola?」

 日本語で言うもしもしに当たる言葉なのだろうかと考えていたときに、出た人が女性だったことに気がつく。
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