ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてます

夢月 なぞる

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5章 迷走(ダイジェスト)

31. 真夜中の密談

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 カシャリと小さな音が聞こえた。
 なんだろう、と思って目を開けようとするが、なかなかまぶたが開かない。
 そのうちパタンと別の音がした頃、ようやく目が開くが、開けても辺りは暗く、まだ夜なのだとわかる。
 目をこすりながら、状態を起こせば、旅館の部屋のような和室が見えた。
 ここはどこだと、思えば、途端寝る前の記憶が蘇る。
 ああ、そうだ。
 そういえばあたし、黄土家に今日は泊まることになったんだっけ。

 なんとか黄土の当主を退けたあと、あたしは統瑠に黄土家の館に招かれた。
 正直、さらわれた先に戻るのは遠慮したいところだったが、帰るにしても大分乾いていたとはいえ、全身濡れたままで気持ち悪かったし、お風呂だけ使わせてもらうことになったのだ。
 ハンカチを見せた効果か、本当に賓客の扱いで、女中さんらしき人が入浴の手伝いもしてくれるというのを必死で断った。
 入浴が終われば終われば、適当に服を借りて学園に帰れればいいと思っていたのに、何故か用意されていたのはきれいな浴衣で、ジャージの姿もない。
 唖然とすれば、突然天城さんが出てきて、今日はお詫びに館に泊まっていってくれと深々と頭を下げられた。
 当然、断ったが、いつになく天城さんは引かなかった。

 なぜか彼女はあたしがここにさらわれたことに対して、ひどく責任を感じている様子だった。
 彼女は直接事件に関しては知らなかったらしいし、そんな感情を抱く必要な無いと言ったのだが、全然受け入れてくれなかった。
 終いには泣き落としにもかかられ、すでに紅原と蒼矢会長も帰ってもらったとも言われて、しぶしぶ頷くしかなかったのだ。
 黄土の当主がすでにここにいないとも、言われ、ジャージも返してもらわないと、替えが無いのもあった。
 あたしが頷くやいなや、天城さんのそれまで真っ青だった顔がぱあっと明るくなったので、まあそこだけが救いか。

 浴衣の着付けはできるので、お手伝いに来た女中さんは断り、手足の怪我の手当をしてもらった。
 その後、食事ができるまで、と通された部屋で座椅子に座って以降の記憶が無い。
 どうやら、食い気より眠気が勝ったようだ。
 おそらくそこで眠り込んだまま、起こさないでいてくれたのだろう。
 体を見れば、きちんとした布団が敷かれてそこに寝かされていた。
 それにしても、状況が変わったとはいえ、こんな敵地のどまんなかでぐーすか寝るとか、自分もなかなか神経が図太くなってきたな。
 緊張感がないとも言えるが、なんとも悲しくなってきたので考えるのをやめた。
 とりあえず眠っていても扱いが変わらなかったのだから、とりあえず今、この場は安全なのだろう、と思い込む。

 周囲を見回せば暗く、障子の隙間から月明かりが見えた。
 室内に時計はなく、時間は分からないが、室内は暗く、まだ夜明けが遠い事を思わせる。
 しかし、目を再び閉じても、眠気は訪れない。
 理由はなんとなくしれた。先程からお腹がなっているのだ。
 食べる前に寝てしまったわけだが、少し寝て睡眠欲を満たしたら今度は食欲が顔を出したというわけか。
 しかし、深夜にまさか他人の家に、食料をあさりに行くわけにもいかない。
 目を閉じて、気づかぬふりをしたが、眠気は訪れない。
 十分ほど頑張ってみたが、無理だと思ってムクリと体を起こす。
 せめて水道水でも飲んでお腹を膨らませないとなんとも出来ない気がする。
 布団から出て、そっと月明かりを映す障子を開ければ、闇に沈む日本庭園が見えた。
 それでも明かり取り用の灯籠に照らされた庭園は美しく、それに誘われるように縁側にでれば、そこで障子のそばに人がいることに、更にはそれが知った顔であることに気付いてぎょっとする。
 裏戸学園の制服姿で縁側に倒れるようにしているのは天城さんだ。
 その姿に慌てて確認すれば、呼吸は正常で寝ているだけだとわかる。
 ホッとするものの、どうして天城さんが、と疑問を浮かべていたら、軽い足音が聞こえた。

「あれ? 環ちゃん? 起きたんだ?」
「統瑠様」

 建物の角から現れたのは統瑠だった。
 彼はあたしの足元に寝ている天城さんの姿を見るなりに、訳知り顔で「ああ、やっぱりここにいた」と頷く。
 天城さんに近づいて、その横に膝を着く統瑠に、あたしは恐る恐る尋ねた。

「統瑠様、あの、天城さんは……?」
「ああ、寝ているだけだから心配しないで」

 統瑠が説明するには天城さんは今回の黄土家のあたしに対する仕打ちにかなり責任を感じているらしい。
 さらには騒ぎを聞きつけ、別宅に来た時には全てが終わったあとで、何もできなかった彼女は、眠ってしまったあたしの護衛と、ずっと部屋の前で門番の代わりをしていたらしい。

「しかも、双葉の裏切りも聞かせれてショックだっただろうに、ずっと気を張ってたから疲れて寝ちゃったんだろうね」

 そういえば双葉は天城さんの兄だということだったが、仲がよかったのだろうか。
 そう思えば、身を丸めて眠る天城さんの肩をいとおしそうに撫でる統瑠にあたしは咎める視線を送った。

「天城さんに今回の責任は全くないんじゃないですか?」
「そうだね。今回は僕が全面的に悪いだろうね」

 思ったより素直に罪を認めた、統瑠は普段よりも大人びた表情で笑う。

「そういえば、環ちゃん。ありがとね?」

 突然の統瑠の礼にきょとんとする。

「会長たちに僕がしたこと話さないでいてくれたでしょ?」

 もし、話していたら統瑠たちが当主を止めたとしても、蒼矢会長は彼等を信じず、囲みを突破されて大変なことになっていたかもしれない、と彼はいう。
 まあ、確かに純血である彼が本気を出したら人間などひとたまりもない。
 一方的な暴力となるだろうが、黄土家の被害は大きい物だっただろう。

「でも、二人を帰すのには難儀したよぉ。環ちゃんをここには置いていけないって、二人してうるさいのなんのって……」
「え? なんですか、その話。天城さんからは、あっさり帰ったみたいなことを聞きましたけど」

 すると、何故か統瑠はちらっと天城さんの寝顔を見下ろし、深い溜息を吐いた。

「ああ、確かに美香ちゃんからの説得で会長たちは帰っていったようなものだもんね。女の子の怖さを見せつけられた気分だね」

 なんだ、それ。
 なにがあったんだ? だがそれを聞いても統瑠は答えなかった。

「まあ、実際君は眠り込んじゃったし、この館は二人には居心地悪いだろうから良かったんだけどね。蒼矢と紅原は当主の妹が嫁いでるお陰で仲が良いみたいだけど、普通は僕らの家同士は険悪な場合が多いし」

 確かに、寝る前の記憶を思っても、あまり関係のない家に居座るのは吸血鬼の家の中ではあまり良いことではないのだろう。
 聖さんのためとはいえ、彼等にも家の事情などいろいろ事情がある中、あたしを庇ってくれたことに感謝する。
 統瑠に他に質問はないかと促され、少し気になっていたことを聞いた。

「あの、統瑠様。その頬は……」

 統瑠の頬には大きな湿布が貼ってあったのだ。
 しかも両頬だ。

「ああ、これ? 右はお父様から、左は美香ちゃんからだね」

 あと、しばらく本家への出入りを禁止された、と統瑠は笑っているが、それって笑い事ではないと思うのだが。

「大丈夫ですか?」
「あれ、環ちゃん、心配してくれるの?」
「まあ、なんか痛そうなので」

 目の前に怪我している人がいたら、一応聞くのが社交辞令かと思う。

「まあ、見た目派手だけど、この程度で済んで僕としてはかなり拍子抜けしてるんだよ」

 統瑠としては、それこそ命取られることも覚悟していたという。
 それはさすがに、冗談だろと思ったが、ここはゲームの世界だ。
 そんなこともありえるかもしれないと思えば背中が寒くなる。

「そんな怯えないでよ。さすがにそれは冗談だから。でも、命は何とかなっても、全てを失うかもしれない位は覚悟していた」

 それには天城さんや翔瑠も含まれている気がする。
 そういえば、彼は翔瑠と少しは話し合えたのだろうか。

「あの、統瑠さま。翔瑠様とは……?」
「ああ、君に言われたとおりにするの癪だったけど、……話した」

 言葉はしぶしぶの様子を見せるが、その表情には清々しい物があり、彼にとって成功だったのだったのだとわかってホッとした。

「その様子だと、悪い感触じゃなかったんですね」
「うん、僕は一体何を恐れていたんだろうね」

 ずっと、一人で抱えて、一人で怖がって。
 最後にはそれに堪えられなくなって、壊れるくらいなら自分で壊してしまえって自暴自棄な考えに犯された。
 そんなことを淡々と語る、統瑠にあたしは首を横に振った。

「それはしかたないですよ。誰だって誰かに嫌われる可能性があることは怖い」

 それが自分にとって大事な人ならなおさら尻込みしてしまうのは仕方がない。

「それでも、統瑠様はちゃんと話せたんでしょ? 結果が良かったんだから、自分の勇気を褒めてあげるべきところですよ、そこは」

 あたしには到底出来ない。 
 この世界がゲームの世界、なんて情報を誰であっても告げられない。
 まあ、あたしの場合情報の質があまりにも異端であるのが問題なのだろうけれど。
 あたしもできる得るなら相談できる人がほしい。正直統瑠が羨ましかった。
 すでに事態はあたし個人で防げるレベルじゃなくなっている気がする。
 まさか体育祭の最中に学園でさらわれるなど、どうやって防げばいいというのだろう。
 これからますます激しくなるだろう、死亡フラグの来襲に頭をいためていたら、統瑠の静な声が聞こえた。

「……環ちゃんってさあ」

 しかし何事かを統瑠が言い終える前に、突然彼との間に影が割り込んできて、ぎょっとした。
 全身黒ずくめの黄土の隠密だった。
 一体いきなり現れて、何なのだろう。
 先ほど、囲まれた時の記憶が蘇り、恐怖に体がすくんだあたしは声も出せなかった。
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