HEAVEN B HELL【BL短編集】

野瀬 さと

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第二章 約束

1

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軋むような音を立ててドアが少し開いた。
でも、誰の姿も見えない。

そのうち低い声が漏れ聞こえてきた。
警察官の声だろうか。
何と言っているかは聞き取れない。

やがて、そこから入ってきたのは小柄な男性だった。
薄手の白のコットンシャツにジーパン。
白のスニーカーは新品なのか、まだ真っ白だった。

長めの髪にふわりとしたパーマをかけている。
でも、折角のそのパーマも長い拘留でペタリと元気がなさそうに見える。

ひと目見ただけでわかる色の白さ。
猫背の肩はがっしりしているのに、首が細く。
いや、肩以外の全体の線が細いんだ。

…少しアンバランス。俺も人のこと言えないけど。

自分のコンプレックスである、必要以上な撫で肩をジャケット越しに少し擦った。

彼は俺と目が合うと微笑んだ。

酷く、その笑顔が透明に見えた。

「どうも。私、弁護士のさかきと申します」

金属音を立てて軋む椅子から立ち上がって頭を下げてから、名刺入れを懐から出した。
目の前のアクリルの壁に名刺を一枚押し付けて、彼によく見えるよう提示した。

部屋の中には、俺とこの男…
被疑者、新居 和之にい かずゆきしかいない。

留置場の接見室は、秘密交通権が認められているため、警察官等の立会はない。

「どうも…新居です」

ぺこりと頭を下げると、彼は椅子に座った。
ギシリと金属の軋む音が響いた。

「あなたのご両親より依頼を受けて、本日からあなたの弁護を担当することになりました。よろしくお願いいたします」
「…よろしく。榊先生」

少し高い甘めの声で言うと、にこりと微笑む。


…本当にこの男が…?


俺も椅子に腰掛けるとジャケットを脱いで背もたれに掛けた。
シャツの袖ボタンを外し、袖を折り曲げてまくりあげた。
それから、手の下にハンカチを敷いてシャーペンを握った。
広げてあるノートから目を上げ、彼の顔を再度見つめた。

「では…お話を聞かせてください…包み隠さず。いいですね?」
「はい」


事件は、一週間前に起こった。

新居が住居の最寄りの警察署に自首して、事件は発覚した。
彼は「恋人を殺してしまった」と自白した。

警官が現場に急行すると、見つかったのは絞殺死体だった。

男の名前は、岡野 護おかの まもる

彼が、新居の恋人だった。

痴情のもつれ───
新居は、そう殺した動機を説明した。

警察の取り調べでは、新居は素直に動機やら話しているそうだから、この事件はそんなに揉めることなく行くだろう。
だが、新居の両親は「少しでも減刑を」と願っており、俺の所属する事務所に弁護を依頼してきた。
ちょうどポッカリと予定の空いていた俺が、刑事事件は専門ではないんだが何事も経験だと、ボス弁から担当に指名された。

小さい事務所だから、なんでもできないといけないし…。
踏ん張ってなんとかこの事件をやりきろうと、下調べから入念にしてここまでやってきた。


「…痴情のもつれと言っても、いろいろあります」

弁護のいとぐちを探そうと、少し踏み込んだ。

「その状況を、説明していただけませんか?」
「…榊先生…?」
「はい」
「気持ち悪くないの?」
「は?」
「だって、俺、同性愛者だよ?こんなのの弁護なんて引き受けて気持ち悪くないの?…免疫、あるの?」

最後の言葉は、心底俺のことを心配しているように聞こえた。
気の毒そうに俺の顔を覗き込んでくる目は、ちょっと潤んで子犬のようだった。

「…人の性癖を云々言えるほど、私は立派な人間じゃないですからね…」
「ええ…?でも弁護士先生でしょ。立派じゃん」

ころころと笑いだした。

「あなたみたいな若くて立派な弁護士先生に、俺の弁護してもらうのなんて申し訳ないよ…」
「…仕事なんで…」
「え?」
「新居さんのご両親から、もう手付金も頂いております。これは仕事なんで、僕の好悪なんて関係ありませんよ」

そう言い切ると、新居は目を丸くした。
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