HEAVEN B HELL【BL短編集】

野瀬 さと

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第四章 哀婉

緩やかな罰1

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租界の中の一際明るい区画。

そこに足を踏み入れるのは、何回目だろうか。
もう殆どの娼館には行った。
でもどこにも俺の抱ける女は居なかった。

日本人もたまにいたけど…

どれも学がなくて、話も面白くない。
下品で、媚ばかり売る。
嫌気がさして、抱くのをやめてしまう。

日本はこうじゃなかった…

毎夜、銀座のカフェで女給達と盛り上がったことを思い出す。
少なくとも、ここにいる女よりは学があった。
やっぱりここは外国で。

上海なんだ。


歩いているうちに、区画の外れまできてしまった。
見上げると、他とは違う妖しい輝きの娼館。


今日は、ここに入ってみよう。


中に入ると、蝶ネクタイの男が歩いてくる。

「いらっしゃい。初めて?」

カタコトの日本語。

「ああ。いい女いる?」
「いるよ。女も男もね」

そういうと俺に片目を瞑って見せた。

「よせ…そんな趣味ない」

男はにやりと笑うと、俺の先に立って歩き出した。

「ここに来る男、みんな夢中になる男がいるヨ」
「そんな馬鹿な…」

にやっとまた笑うと、一番奥の扉を開けた。

「お客さん、運がいい」

中を覗くと、しどけなく座る小柄な男が見えた。
漢服の裾がずり落ちて、床に落ちそうになっている。

「ユウ!」

蝶ネクタイが呼びかけると、その男はこちらを仰ぎ見た。

よだれが垂れてる…もしかして寝てた?

「なにしてる!お客さん!」
「うん…」

目を擦りながら、こちらに歩いてくる。
その身体よりも大きい漢服を着ているから、子供のように見える。

「いらっしゃい」

男にしては、高い声。
俺の傍まで来るとシャツの裾をぎゅっと掴んだ。

「今日はお客さんが、俺をかわいがってくれるの…?」
「あ…え?」
「ドウスル?」

蝶ネクタイに言われて、また男の顔をみた。

黒目が輝いて、宝石のようだった。
その瞳が閉じられたかと思うと、俺の唇に、男の唇が吸い付いてきた。

「あっ…」
「俺、お客さんに抱かれたいな…」

しどけなく寄りかかってきた。

さっき、子供のようだと思ったのに。
なんだこの変わりようは。

「わかった…」

興味が湧いた。
こいつ、どんな男なんだ?

ここに来る男みんな夢中になる男…

俺を夢中にさせられるのか?

上着の裾に手を突っ込むと、札束を蝶ネクタイに投げて渡した。

「それで買えるだけ買ってやる」
「ワーサイ!お客さんフトッパラね!」

三日。
俺はユウを買い切った。

「嬉しい。三日も一緒に居られるんだね」

ユウが俺の手を引いて、二階に上がる。

「こっちだよ…お客さん…」
みのる
「え?」
「俺の名前。実って呼べよ」
「うん…」

今度は赤くなって俯いた。
まるで竹久夢二の描く、乙女のようだった。


一体、どれが本当のお前なんだ…?
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