HEAVEN B HELL【BL短編集】

野瀬 さと

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第四章 哀婉

幻のひと2

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「ねえ、何飲む?」

清服の男が、壁際に置いてある棚の前ででこちらを振り返る。

「な、なんでもいい…」

勢いで、この男を一晩買ってしまった。





「ナンバーワン…って一番人気のこと?女も入れて?」
「ソウダヨ。あいつが人気ナンバーワンだヨ」

興味が湧いた。

女よりもイイって、どういうことなんだ?
一体どんな技が体験できるっていうんだ?


俺はなよっとしてるから、男色なんて全く興味なくて。

やっぱりって言われるし、どうせ女役をやらせられるに決まってる。
現に、村にいるとき夜這いを掛けられて、相手をぶん殴ったこともある。

絶対に足を踏み入れるもんかって思ってた。


でも…

好奇心に負けてしまった。

試してみたくなったんだ。


「ね…?どうしたの?」

いつの間にか男が俺の前に立ってた。

「あ…わりぃ…」
「緊張してるの?」
「いや…その…」

ふふっと男は笑った。

「名前、教えて?」
「ふ、舟橋ふなばし…」
「ちがう。下の名前」
「あ…功一こういち
「功一…」

じっと俺を見つめる。

透明な瞳が、眩しかった。

「やめろ…そんなに見るな…」
「ふふ…照れ屋なんだね…」

俺の頬を手で包むと、唇が降ってきた。

「俺、ユウっていうの。名前、呼んで?」
「ユウ…」

名前を呼ぶと、ご褒美みたいにまた唇を重ねてきた。

「男は初めて?」
「う…ん…」
「大丈夫だよ…抱かせてあげる…」

ふわりとユウが清服を脱いだ。

俺よりも華奢かと思った身体は、靭やかな筋肉に覆われていた。

少しだけ褐色の肌が、逆に艶めかしかった。

「行こ?」

俺の手を取ると、ベッドに連れていかれた。

「女を抱くのと、変わらないから…」

そういうと握っていた手を、ユウの尻へ持っていく。

「ここ…」

撫でると、ピクリと身体が震えた。

「気持ちいい…もっと触って?」
「あ、ああ…」

そろっと尻を撫でると、ユウの口から吐息が漏れた。

「ね…もっと…」

もっと触ると、鳥肌を立てる。

「優しいんだね…功一…」
「えっ…」

儚げに微笑むと、俺の手をとって自分の頬に寄せた。

「だって、こんなに手があったかい…」

目を閉じて、俺の手のひらのぬくもりを味わってる…

「ユウ…」


なんとなく、孤独を感じた。

俺と同じなのかもしれない。

ユウも淋しいのかな…


そっと身体に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。

「功一…?」

ユウの不思議そうな声が聴こえても、やめられなかった。

「どうしたの…?」

動かない俺の髪を撫でる。

そっと、抱きしめ返してそのまま動かない。

お互いのぬくもりをずっと感じてた。

ユウの手が頬に触れたのを合図に、俺達は快感の淵へ堕ちていった。

初めて抱く男の身体──

同じ男だから、どうすればいいのか手に取るようにわかる。

俺も、いつもよりも感じた。

俺が貫くと、背を反らして快感に浸る姿が、一層俺を熱くした。
何度も何度も責め立てて、ユウを果てさせた。


その体から、孤独を追い出してやりたかった。


孤独は俺だけが噛みしめていればいい。

そう思った。


荒い息をつきながら、俺を見上げる姿が消えそうで。

おもわず俺はまた抱きしめる。

まるで幻を抱くように。

「ユウ…本当に生きてる…?」
「なんだよ…俺、幽霊なの…?」

消え入りそうな声で、答えた。

「どこにもいかないで…ユウ…」
「ふふ…俺は、いつでもここにいるよ…」

笑いながら、俺の背中を撫でてくれた。


男を一人買うだけで、こんなに満たされるなんて…


「ユウ…俺…」

突然、ユウの身体が離れていった。

言いようのない孤独が、俺を襲った。

急に口にユウの手が伸びてきて、俺の口の中に何かを放り込んだ。


甘い…


「なに、これ…」
「金平糖…これ舐めると、幸せな気分になるよ…」

儚げに笑うと、きゅっと目を閉じた。

「功一にあげるよ…」

なにか、この金平糖は特別なものなのか…

それを俺にくれるなんて…

「ありがと…ユウ…」

きゅっと抱きしめると、ユウは涙を零した。




朝、その娼館を出る。

全部、夢だったんじゃないか…

なのに、俺の心の孤独はすっかり消えていて…


濡れてふにゃふにゃになった革靴を見つめる。

俺、どうしちゃったんだろ…

ユウのことばっかり、考えてた。




もう、傷つきたくないのに…






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