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第四章 哀婉
紙くず
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その日は、全然お客が来ない日で。
早い時間からずっと暇だった。
こんなこと滅多にないから、窓辺のカウチに座ってうつらうつらと眠ってた。
誰の腕にも抱かれないで眠る夜。
凍えそうに寒い。
誰か…温めて…
「正一郎…」
ふと、船乗りの名前が口をついて出た。
手に握った金平糖の瓶をカランと鳴らした。
また、あれからこない。
あんなに俺のこと傍に置きたいって言ったのに…
「うそつき…」
広い背中に、何度縋り付いたか。
あれは正一郎の背中だったのか…
もう、顔も思い出せない。
涙が伝っていく。
なんで…居なくなったの…?
俺のこと、愛してなかったの…?
「ひ…ろし…」
さらさらとした髪。
俺の上を滑るように動く、しなやかな身体。
弄ぶ指。
はっきりと思い出せるのに、顔が思い出せない。
誰でもいい。
忘れさせて。
喉にこみ上げてくる、熱い塊を飲み込んだ。
伝う涙は止らない。
彼は、去ったのだ。
俺のこと好きじゃなくなったんだ…
だから、来ない。
明日も、明後日も来ない。
永遠に、俺は…一人だ。
「ヒロシって誰…?」
意識を現実に引き戻される。
「え…?」
見上げると、実が立っていた。
「泣くほど…好きな男なの?」
「あ…ごめん…」
「なんで謝るんだよ…認めるのか…」
俺は答えなかった。
ただ、じっと実の瞳を見てた。
実はなにも答えない俺に苛立ち、懐から札束を出した。
「ほら…これで買えるだけ、ユウを買ってやるよ」
そういうと、札を部屋中に撒き散らした。
「ほら、来いよ…」
強引に手を引かれて、二階の部屋に連れていかれた。
部屋に入ると乱暴にベッドに押し倒された。
服を剥ぎ取ると、無理やり実を咥えさせられた。
「ホラ…仕事、しろよ」
ぎゅうぎゅうと押し込まれて、何度もえづいた。
でも実はやめてくれなくて。
涙が頬を伝っていっても、それを冷たく眺めるだけ…
「ユウ…そんなにヒロシって奴のこと好きなの…?」
実が額に汗を浮かべる。
「う…ぁ…そいつの、どこがいいんだよ…」
だんだん実が昂ぶってくる。
「ユウ…俺のものになれよ…」
首を横に振ると、悲しそうな目をする。
「ユウ…」
実が俺の口から出て行く。
切ない顔で俺をぎゅっと抱きしめた。
「もう…来ない…」
実は身支度を整えると、ドアに向かった。
「実っ…待って!」
ドアの前で実を後ろから抱き止める。
「行かないで…お願い…」
「そんなに金が欲しいのかよ…」
「違うっ…そんなもの、紙くずだ」
そうだよ
そんなもの、俺にとって価値はないんだ
「え…?」
「俺は…女達と違って、借金もない…好きでこの仕事やってんだ…」
「嘘だろ…」
「嘘じゃない…俺は、売られてなんてないんだ…」
「なんで…?なんでこんな仕事…」
「それは…」
上手く、説明できなかった。
愛が欲しいから。
ただ、それだけ。
でも愛されるのは、一晩でいい。
束の間。
永遠の愛なんて、ないんだから…
そんな前提の愛、いらない
「どうして…?ユウ…」
「実…俺は…こうやってたまに会いにきてくれるだけで、いいんだ…」
ぎゅっと実のシャツを握りしめた。
「もう…愛して、傷つきたくない…」
これが精一杯だった。
これ以上、説明できない。
「ユウ…どんな恋をしたの…?」
恋なんて、生易しいものじゃない。
愛なんて、綺麗なものじゃない。
ただ…
俺たちは肉塊だった。
博の残像が、まぶたに蘇った。
「今だけ愛せって……バカにしてんのか…」
そう言いながら、実の瞳は潤んでて…
「あの金で愛せる限り、愛してやるから…」
俺を引き寄せると、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「実…いいの…?」
「いい…お前のこと、好きだから…」
「実っ…」
広い胸板に顔を押し付けた。
「ごめんね…ごめんね…」
「謝るなよ…もう、いいから…」
そっと実の上着が、俺の肩にかけられた。
「話、しようか…」
ソファに腰掛けた実の膝の上。
ずっとなんでもない話をした。
昨日のお天気の話とか…
実は笑うと、少年みたいな顔をする。
普段は頑張って大人の顔してるけど、仮面を取ってしまったら子供と一緒だ。
話疲れると、沈黙が訪れた。
実が俺を引き寄せるから、胸に凭れた。
トクントクンと鳴る心臓の音を、ずっと聞いていた。
そのまま、実の腕に抱かれて眠った。
朝が来て、目が覚めるとまだ実は俺を抱いていた。
「実…」
「俺、待ってるから…」
「え…?」
「お前のこと、ずっと待ってる」
そう言うと唇に触れた。
「だから…今は、このまま…」
「実……」
ソファに倒れ込みながら、あの金平糖の瓶はどこへやったかと考えた。
早い時間からずっと暇だった。
こんなこと滅多にないから、窓辺のカウチに座ってうつらうつらと眠ってた。
誰の腕にも抱かれないで眠る夜。
凍えそうに寒い。
誰か…温めて…
「正一郎…」
ふと、船乗りの名前が口をついて出た。
手に握った金平糖の瓶をカランと鳴らした。
また、あれからこない。
あんなに俺のこと傍に置きたいって言ったのに…
「うそつき…」
広い背中に、何度縋り付いたか。
あれは正一郎の背中だったのか…
もう、顔も思い出せない。
涙が伝っていく。
なんで…居なくなったの…?
俺のこと、愛してなかったの…?
「ひ…ろし…」
さらさらとした髪。
俺の上を滑るように動く、しなやかな身体。
弄ぶ指。
はっきりと思い出せるのに、顔が思い出せない。
誰でもいい。
忘れさせて。
喉にこみ上げてくる、熱い塊を飲み込んだ。
伝う涙は止らない。
彼は、去ったのだ。
俺のこと好きじゃなくなったんだ…
だから、来ない。
明日も、明後日も来ない。
永遠に、俺は…一人だ。
「ヒロシって誰…?」
意識を現実に引き戻される。
「え…?」
見上げると、実が立っていた。
「泣くほど…好きな男なの?」
「あ…ごめん…」
「なんで謝るんだよ…認めるのか…」
俺は答えなかった。
ただ、じっと実の瞳を見てた。
実はなにも答えない俺に苛立ち、懐から札束を出した。
「ほら…これで買えるだけ、ユウを買ってやるよ」
そういうと、札を部屋中に撒き散らした。
「ほら、来いよ…」
強引に手を引かれて、二階の部屋に連れていかれた。
部屋に入ると乱暴にベッドに押し倒された。
服を剥ぎ取ると、無理やり実を咥えさせられた。
「ホラ…仕事、しろよ」
ぎゅうぎゅうと押し込まれて、何度もえづいた。
でも実はやめてくれなくて。
涙が頬を伝っていっても、それを冷たく眺めるだけ…
「ユウ…そんなにヒロシって奴のこと好きなの…?」
実が額に汗を浮かべる。
「う…ぁ…そいつの、どこがいいんだよ…」
だんだん実が昂ぶってくる。
「ユウ…俺のものになれよ…」
首を横に振ると、悲しそうな目をする。
「ユウ…」
実が俺の口から出て行く。
切ない顔で俺をぎゅっと抱きしめた。
「もう…来ない…」
実は身支度を整えると、ドアに向かった。
「実っ…待って!」
ドアの前で実を後ろから抱き止める。
「行かないで…お願い…」
「そんなに金が欲しいのかよ…」
「違うっ…そんなもの、紙くずだ」
そうだよ
そんなもの、俺にとって価値はないんだ
「え…?」
「俺は…女達と違って、借金もない…好きでこの仕事やってんだ…」
「嘘だろ…」
「嘘じゃない…俺は、売られてなんてないんだ…」
「なんで…?なんでこんな仕事…」
「それは…」
上手く、説明できなかった。
愛が欲しいから。
ただ、それだけ。
でも愛されるのは、一晩でいい。
束の間。
永遠の愛なんて、ないんだから…
そんな前提の愛、いらない
「どうして…?ユウ…」
「実…俺は…こうやってたまに会いにきてくれるだけで、いいんだ…」
ぎゅっと実のシャツを握りしめた。
「もう…愛して、傷つきたくない…」
これが精一杯だった。
これ以上、説明できない。
「ユウ…どんな恋をしたの…?」
恋なんて、生易しいものじゃない。
愛なんて、綺麗なものじゃない。
ただ…
俺たちは肉塊だった。
博の残像が、まぶたに蘇った。
「今だけ愛せって……バカにしてんのか…」
そう言いながら、実の瞳は潤んでて…
「あの金で愛せる限り、愛してやるから…」
俺を引き寄せると、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「実…いいの…?」
「いい…お前のこと、好きだから…」
「実っ…」
広い胸板に顔を押し付けた。
「ごめんね…ごめんね…」
「謝るなよ…もう、いいから…」
そっと実の上着が、俺の肩にかけられた。
「話、しようか…」
ソファに腰掛けた実の膝の上。
ずっとなんでもない話をした。
昨日のお天気の話とか…
実は笑うと、少年みたいな顔をする。
普段は頑張って大人の顔してるけど、仮面を取ってしまったら子供と一緒だ。
話疲れると、沈黙が訪れた。
実が俺を引き寄せるから、胸に凭れた。
トクントクンと鳴る心臓の音を、ずっと聞いていた。
そのまま、実の腕に抱かれて眠った。
朝が来て、目が覚めるとまだ実は俺を抱いていた。
「実…」
「俺、待ってるから…」
「え…?」
「お前のこと、ずっと待ってる」
そう言うと唇に触れた。
「だから…今は、このまま…」
「実……」
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