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第四章 哀婉
乾いた身体
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「ユウ!お客!どうする!?」
王さんがドアから顔を出す。
「今日…もう、無理って言ったろ…?」
「わかてる。確認しただけ…」
「誰が来たの…?」
「フナハシさんね」
「…あ…」
王さんは俺の顔を見て、動きを止めた。
「どする?」
功一…なら、会いたい…
「入れて」
「わかった」
にやにや笑う王さんが引っ込むと、カウチから気怠い身体を引き起こした。
さっきの客…
俺のこと、売女売女って言って、傷めつけて…
体中、痣だらけになってた。
唇も切れてる。
ぶん殴られたから…
痛む身体を引きずって、ドアの前に立つとドアが開けられた。
「あ…」
功一が、戸惑った表情で立っていた。
「あ、いらっしゃい…」
挨拶をしたのに、功一は返してくれない。
「どうしたの…それ…」
「ん…客にやられたんだ…」
「ユウ…」
「ごめんね…だからさ、今日はお茶だけ飲んでいってよ?ね?」
「いいよ…寝てなよ…そんな辛そうなのに…」
「いいの。せっかく来てくれたのに…ごめんね…?」
「ユウ…」
俺は功一の手を引いて、部屋へ上がった。
足が縺れて上手く歩けない。
功一は俺の横に立つと、肩に手を回して俺を支えてくれた。
部屋に入ると、俺をソファに座らせた。
「俺がお茶入れるから…」
功一がカウンターに立つ。
紅茶の缶を開けたかと思うと、匂いを嗅いで。
複雑な顔をした。
そのまま、途方に暮れている。
「何してんの…?功一…」
「これは…見たことないお茶で…どうやって飲むの?」
「ああ…紅茶、飲んだことないっけ?」
「緑茶と番茶しか飲んだことない…」
英国租界で買った紅茶が気に入って。
俺の部屋には紅茶しかない。
「じゃあ、俺が淹れるから…」
「待って。俺が淹れるから、そこに座ったまま教えて?ユウ」
優しく微笑むと、缶を開けた。
俺が教えてあげると、素直に手を動かして、紅茶を淹れていく。
頭がいいんだよな…功一。
勘が鋭いというか…
ひとつ言えば、十わかってくれる。
だから俺にも…
嫌なこと、言わない。
「後は、この布を被せればいいんだね?」
「そう。ちょっとだけ、蒸らすんだ」
そういうと功一はニッコリ微笑んだ。
「手間暇かけりゃあ、うまい茶が飲めるよなぁ?」
「そうだよ?わざわざそんなことするんだから、美味いに決まってる」
そう言うと、功一はくすくす笑った。
「ユウって…そういうこだわりあるんだ…」
「あっちゃ、だめ…?」
「ううん…だって、執着ってものがなさそうに見えるんだもん」
「そう…?俺、執念深いよ…?」
そう言うと、功一は真面目な顔を俺に向けた。
抱いて欲しくなった。
あんまり真面目な顔するから…
「金平糖…まだある…?」
「なくした…」
「え?」
実が来たあの日から…
どれだけ探しても見つからなかった。
「どっか…行っちゃった…」
「そっか…」
砂時計が、落ちきった。
功一は布を取って、カップに紅茶を注いだ。
「お…これが紅茶かあ…」
「いい匂いでしょ?」
「うん…ユウが好きなの、わかる気がする」
「そう?功一、俺のことわかるの?」
そう言うと、ちょっとだけ切ない顔をした。
「なんとなく、ね…」
でも、無理やり笑った。
なんで…そんな顔、するの…?
功一がカップに口をつけて、啜るように紅茶を飲む。
「お…美味い…」
「よかった…気に入った?」
「うん…気に入った」
ポットの紅茶がなくなるまで、俺と功一は黙ったまま、過ごした。
紅茶の温かさが、俺の心を溶かしていった。
暖かさが乾いた身体に染み込んでいくように。
紅茶を飲み終わる頃には、すっかり気持ちが解れていた。
「じゃあ…帰るね…」
「あっ…」
思わず、シャツの裾を掴んだ。
「ユウ…」
「嫌…帰らないで…?」
「でも…」
「金はいらない。一緒に眠って…?」
「いいの…?」
「抱けないけど、いい?」
「いいよ…そんなの。俺、お前に会いにきてんだから…」
そんなこと言う客…今までいなかった。
「功一…」
「じゃあ、寝るだけな?」
それでも、何もできないのは申し訳なくて…
服を全部脱ぐと、ベッドに入った。
「ユウ…そんなことしなくていいから」
「俺がこうしたいの…ね…功一も服、脱いで…?」
「うん…」
功一は服を脱ぐと、ベッドに入ってきて、そっと俺を抱きしめた。
「なんか…痛々しいよ…」
「あ。ごめん…服着たほうがいい…?」
「ううん…このまま…」
その晩は、ただ功一の腕に抱かれて眠った。
夢も見なかった。
朝方目が覚めたら、功一が俺を見てた。
「どうしたの…?」
「俺…お前のこと…好きだよ…」
「功一…」
「でも…誰か、他に好きな奴、いるの?」
心臓がぎゅっと音を立てた。
「そんなの…いないよ…」
「そっか…」
そっと、俺を抱きしめると功一の喉仏が動いた。
「じゃあ…俺、お前のこと好きになってもいいの…?」
「だめ…」
「なんでだよ…」
声が、泣いてるみたいで。
こんな声、初めて聞いた。
「ごめん…」
「わかった…」
功一が悲しそうな目をするから…
思わず抱きついた。
「嫌…行かないで…」
「お前…言ってることがメチャクチャだよ…」
「今だけでいいの…俺は…今、この瞬間だけ、愛されればいいから…」
「ユウ…」
「それだけで…生きていけるから…」
功一の手が俺を引き寄せた。
「わかった…俺、お前の嫌がることはしないから…」
涙が、落ちた。
功一の涙は俺の背中を滑っていく。
「ごめんね…功一…」
「ユウ…愛してる…」
その優しい手は、熱く俺を抱いた。
「功一…愛してる…」
今だけの、愛で一杯にして
王さんがドアから顔を出す。
「今日…もう、無理って言ったろ…?」
「わかてる。確認しただけ…」
「誰が来たの…?」
「フナハシさんね」
「…あ…」
王さんは俺の顔を見て、動きを止めた。
「どする?」
功一…なら、会いたい…
「入れて」
「わかった」
にやにや笑う王さんが引っ込むと、カウチから気怠い身体を引き起こした。
さっきの客…
俺のこと、売女売女って言って、傷めつけて…
体中、痣だらけになってた。
唇も切れてる。
ぶん殴られたから…
痛む身体を引きずって、ドアの前に立つとドアが開けられた。
「あ…」
功一が、戸惑った表情で立っていた。
「あ、いらっしゃい…」
挨拶をしたのに、功一は返してくれない。
「どうしたの…それ…」
「ん…客にやられたんだ…」
「ユウ…」
「ごめんね…だからさ、今日はお茶だけ飲んでいってよ?ね?」
「いいよ…寝てなよ…そんな辛そうなのに…」
「いいの。せっかく来てくれたのに…ごめんね…?」
「ユウ…」
俺は功一の手を引いて、部屋へ上がった。
足が縺れて上手く歩けない。
功一は俺の横に立つと、肩に手を回して俺を支えてくれた。
部屋に入ると、俺をソファに座らせた。
「俺がお茶入れるから…」
功一がカウンターに立つ。
紅茶の缶を開けたかと思うと、匂いを嗅いで。
複雑な顔をした。
そのまま、途方に暮れている。
「何してんの…?功一…」
「これは…見たことないお茶で…どうやって飲むの?」
「ああ…紅茶、飲んだことないっけ?」
「緑茶と番茶しか飲んだことない…」
英国租界で買った紅茶が気に入って。
俺の部屋には紅茶しかない。
「じゃあ、俺が淹れるから…」
「待って。俺が淹れるから、そこに座ったまま教えて?ユウ」
優しく微笑むと、缶を開けた。
俺が教えてあげると、素直に手を動かして、紅茶を淹れていく。
頭がいいんだよな…功一。
勘が鋭いというか…
ひとつ言えば、十わかってくれる。
だから俺にも…
嫌なこと、言わない。
「後は、この布を被せればいいんだね?」
「そう。ちょっとだけ、蒸らすんだ」
そういうと功一はニッコリ微笑んだ。
「手間暇かけりゃあ、うまい茶が飲めるよなぁ?」
「そうだよ?わざわざそんなことするんだから、美味いに決まってる」
そう言うと、功一はくすくす笑った。
「ユウって…そういうこだわりあるんだ…」
「あっちゃ、だめ…?」
「ううん…だって、執着ってものがなさそうに見えるんだもん」
「そう…?俺、執念深いよ…?」
そう言うと、功一は真面目な顔を俺に向けた。
抱いて欲しくなった。
あんまり真面目な顔するから…
「金平糖…まだある…?」
「なくした…」
「え?」
実が来たあの日から…
どれだけ探しても見つからなかった。
「どっか…行っちゃった…」
「そっか…」
砂時計が、落ちきった。
功一は布を取って、カップに紅茶を注いだ。
「お…これが紅茶かあ…」
「いい匂いでしょ?」
「うん…ユウが好きなの、わかる気がする」
「そう?功一、俺のことわかるの?」
そう言うと、ちょっとだけ切ない顔をした。
「なんとなく、ね…」
でも、無理やり笑った。
なんで…そんな顔、するの…?
功一がカップに口をつけて、啜るように紅茶を飲む。
「お…美味い…」
「よかった…気に入った?」
「うん…気に入った」
ポットの紅茶がなくなるまで、俺と功一は黙ったまま、過ごした。
紅茶の温かさが、俺の心を溶かしていった。
暖かさが乾いた身体に染み込んでいくように。
紅茶を飲み終わる頃には、すっかり気持ちが解れていた。
「じゃあ…帰るね…」
「あっ…」
思わず、シャツの裾を掴んだ。
「ユウ…」
「嫌…帰らないで…?」
「でも…」
「金はいらない。一緒に眠って…?」
「いいの…?」
「抱けないけど、いい?」
「いいよ…そんなの。俺、お前に会いにきてんだから…」
そんなこと言う客…今までいなかった。
「功一…」
「じゃあ、寝るだけな?」
それでも、何もできないのは申し訳なくて…
服を全部脱ぐと、ベッドに入った。
「ユウ…そんなことしなくていいから」
「俺がこうしたいの…ね…功一も服、脱いで…?」
「うん…」
功一は服を脱ぐと、ベッドに入ってきて、そっと俺を抱きしめた。
「なんか…痛々しいよ…」
「あ。ごめん…服着たほうがいい…?」
「ううん…このまま…」
その晩は、ただ功一の腕に抱かれて眠った。
夢も見なかった。
朝方目が覚めたら、功一が俺を見てた。
「どうしたの…?」
「俺…お前のこと…好きだよ…」
「功一…」
「でも…誰か、他に好きな奴、いるの?」
心臓がぎゅっと音を立てた。
「そんなの…いないよ…」
「そっか…」
そっと、俺を抱きしめると功一の喉仏が動いた。
「じゃあ…俺、お前のこと好きになってもいいの…?」
「だめ…」
「なんでだよ…」
声が、泣いてるみたいで。
こんな声、初めて聞いた。
「ごめん…」
「わかった…」
功一が悲しそうな目をするから…
思わず抱きついた。
「嫌…行かないで…」
「お前…言ってることがメチャクチャだよ…」
「今だけでいいの…俺は…今、この瞬間だけ、愛されればいいから…」
「ユウ…」
「それだけで…生きていけるから…」
功一の手が俺を引き寄せた。
「わかった…俺、お前の嫌がることはしないから…」
涙が、落ちた。
功一の涙は俺の背中を滑っていく。
「ごめんね…功一…」
「ユウ…愛してる…」
その優しい手は、熱く俺を抱いた。
「功一…愛してる…」
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