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第四章 哀婉
欠片
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カラン…
どこからかガラス瓶の音が聞こえた。
男に組み敷かれながら、その方向を見ると、部屋の片隅に光るものが見えた。
あ…あった…金平糖…
あんなところに…
「おい…集中しろ…」
「あ…ごめんね」
そういうと思い切り中に入ってる男を締めあげた。
「ああっ…ユウっ…ユウっ…」
あっさりと男は精を放った。
…早くてよかった…今日は楽だったな…
「気持よかったよ…」
「ああ…ユウ…頼むよ…金なら払うから、俺のところに来てくれよ…」
…あんたは嫌だ。
しつこいし、汚い。
「ごめん…」
「ああっ…連れないな…でもそんなところがいい…」
あれが滾ってるのが見えた。
「ええっ…また?」
「頼むよ…溜まってるんだ」
種馬…
もう…しつこいんだよ…
手を伸ばして、枕を掴む。
嫌な客の時は、こうやって何も感じないようにする。
こうやってれば、忘れられた。
愛する人たちの、縋るような瞳を。
「ユウ…?」
真っ暗の中、俺を呼ぶ声がする。
懐かしい声…
正一郎なの…?
心臓がどくんと跳ねた。
カラン…
金平糖の瓶の音がする。
「これ…大事にしてくれてたんだ…」
なんで…来てくれなかったの…?
カウチの感触がだんだん現実になってくる。
正一郎の手が俺の髪を撫でた。
「少し…痩せた?」
うっすらと目を開けると、正一郎が微笑んでた。
「正一郎…?」
「ごめんね…ユウ。来られなくて…」
「どこに…行ってたの…?」
そう言うと、正一郎は寂しそうに笑った。
「満州…」
「え?」
正一郎の腕を掴んだ。
「正一郎…腕…」
「吹っ飛んじまった…」
正一郎の右手、なかった。
「どうして…」
「爆弾で吹っ飛んじまってな…」
「兵隊行ってたの…?」
「ああ…」
なんで…?
船に乗ってたのに急に…
日本のお家だってお金持ちだって聞いた。
なんで正一郎が兵隊に行ってたの?
「でも、これで二度と兵隊に行かなくてよくなったよ…船にも乗れなくなったけどな…」
「正一郎…」
「内地に帰らなきゃならない…」
「え…?」
もしかして…内地に帰らないために…?
俺に会いに来るために…
だから兵隊に行ったの…?
「だからユウ…俺と…」
ぎゅっと、正一郎が左手を握った。
「いや…なんでもない…」
立ち上がると、上着のポケットからガラス瓶を出した。
瓶いっぱいに綺麗な青の金平糖が入っていた。
「お別れだ」
正一郎の瞳から、綺麗な雫が溢れた。
ゆっくりと、それは床に落ちた。
それを見送って顔をあげたら、そこに正一郎は居なかった。
「正一郎…」
呼びかけると、ドアの前に正一郎は立っていた。
「さようなら」
正一郎
行かないで
声が出なかった。
正一郎の姿がドアから消えても、なにも言えない。
足音が遠ざかっても。
身体に力が入らない。
手の上の金平糖の瓶が、手から滑り落ちて…
床に、青い塊が散った。
「…いやだ…」
ふらふらと立ちあがった。
ドアに手を掛けた瞬間、駈け出した。
廊下の先に、背中が見えた。
その瞬間、正一郎が床に崩れ落ちた。
床に左手をついて、声を上げずに泣いた。
「ユウ……」
流れ出る涙を拭う右手は無くて…
正一郎には、右手が無くて…
そっと歩み寄る。
背中に手を添えると、正一郎が俺を見上げた。
「ユウ…」
正一郎を立ち上がらせると、二階の部屋へ誘った。
「ユウ…?」
正一郎は涙を流したまま、俺を見つめる。
「…抱いて…?」
「でも…俺、腕がない…」
「関係ない…正一郎に抱かれたい…」
服を、一枚一枚丁寧に脱がせて、最後に自分の服を脱いだ。
そのまま正一郎の上に跨った。
「…ちょうだい…?」
既に熱くなっている正一郎を後ろに押し当てた。
「俺に…あなたをちょうだい…」
「ユウ…」
正一郎の左手が俺の腰を掴んだ。
そのまま、ゆっくりと正一郎は動き出した。
正一郎からもたらされる快感に、俺は静かに絶頂を迎えた。
『有は頑固だからな…その癖、よくないぞ』
博…
『俺、立派な兵隊になって、お前のこと迎えに来るから』
そう…最後に会った時。
彼は軍服を着てた。
『じゃあな。待ってろよ』
そう微笑んで、博は旅立った。
そのまま、帰ってこなかった。
俺はいつまで経っても、博が死んだことを認められなかった。
『有は頑固だからな…』
通知が届いた時、信じられなくて。
内地から満州に渡った。
確認しようにも、当時の満州は混乱が酷く。
日本に帰る路銀も尽きてしまった。
流れに流れて行き着いたのが、日本租界のある上海だった。
借金こそしなくて済んだが、俺は博を失った喪失感から、立ち直れなかった。
なんで自分が生きているのか、わからなかった。
だから、自分を傷めつけた。
最初は酒を飲んで、ケンカをふっかけたりしてた。
でもいつまで経っても死ねなくて。
誰も殺してくれなくて。
でもある日、喧嘩に負けた相手に、犯された。
その時気づいた。
人肌に触れている瞬間だけは、博のこと忘れられるって。
俺は博が裏切って帰ってこない恋人だと思うことにした。
そうして身体を売っていたら、生きていこうって気になった。
生きていけるって、思ったんだ…
だって、博は生きているから。
俺の中では、生きてるから。
でももう、帰ってこない
俺を穿つ背中を抱きしめた。
「もっと欲しい…」
正一郎はいきてる
「ああ…もっと…」
正一郎は帰ってきた
「もっと…ちょうだい…」
正一郎はここにいる
もう…後悔したくない…
「ユウ…綺麗だ…」
正一郎の左手が俺の頬を包んだ。
…綺麗なのは、正一郎だよ…
「正一郎…俺を…」
頬を包む手に、俺の手を重ねる。
俺が、君の右手になるよ
君の足りない欠片
俺の足りない欠片
ふたりで、ひとつだよ
「連れて行って…」
どこからかガラス瓶の音が聞こえた。
男に組み敷かれながら、その方向を見ると、部屋の片隅に光るものが見えた。
あ…あった…金平糖…
あんなところに…
「おい…集中しろ…」
「あ…ごめんね」
そういうと思い切り中に入ってる男を締めあげた。
「ああっ…ユウっ…ユウっ…」
あっさりと男は精を放った。
…早くてよかった…今日は楽だったな…
「気持よかったよ…」
「ああ…ユウ…頼むよ…金なら払うから、俺のところに来てくれよ…」
…あんたは嫌だ。
しつこいし、汚い。
「ごめん…」
「ああっ…連れないな…でもそんなところがいい…」
あれが滾ってるのが見えた。
「ええっ…また?」
「頼むよ…溜まってるんだ」
種馬…
もう…しつこいんだよ…
手を伸ばして、枕を掴む。
嫌な客の時は、こうやって何も感じないようにする。
こうやってれば、忘れられた。
愛する人たちの、縋るような瞳を。
「ユウ…?」
真っ暗の中、俺を呼ぶ声がする。
懐かしい声…
正一郎なの…?
心臓がどくんと跳ねた。
カラン…
金平糖の瓶の音がする。
「これ…大事にしてくれてたんだ…」
なんで…来てくれなかったの…?
カウチの感触がだんだん現実になってくる。
正一郎の手が俺の髪を撫でた。
「少し…痩せた?」
うっすらと目を開けると、正一郎が微笑んでた。
「正一郎…?」
「ごめんね…ユウ。来られなくて…」
「どこに…行ってたの…?」
そう言うと、正一郎は寂しそうに笑った。
「満州…」
「え?」
正一郎の腕を掴んだ。
「正一郎…腕…」
「吹っ飛んじまった…」
正一郎の右手、なかった。
「どうして…」
「爆弾で吹っ飛んじまってな…」
「兵隊行ってたの…?」
「ああ…」
なんで…?
船に乗ってたのに急に…
日本のお家だってお金持ちだって聞いた。
なんで正一郎が兵隊に行ってたの?
「でも、これで二度と兵隊に行かなくてよくなったよ…船にも乗れなくなったけどな…」
「正一郎…」
「内地に帰らなきゃならない…」
「え…?」
もしかして…内地に帰らないために…?
俺に会いに来るために…
だから兵隊に行ったの…?
「だからユウ…俺と…」
ぎゅっと、正一郎が左手を握った。
「いや…なんでもない…」
立ち上がると、上着のポケットからガラス瓶を出した。
瓶いっぱいに綺麗な青の金平糖が入っていた。
「お別れだ」
正一郎の瞳から、綺麗な雫が溢れた。
ゆっくりと、それは床に落ちた。
それを見送って顔をあげたら、そこに正一郎は居なかった。
「正一郎…」
呼びかけると、ドアの前に正一郎は立っていた。
「さようなら」
正一郎
行かないで
声が出なかった。
正一郎の姿がドアから消えても、なにも言えない。
足音が遠ざかっても。
身体に力が入らない。
手の上の金平糖の瓶が、手から滑り落ちて…
床に、青い塊が散った。
「…いやだ…」
ふらふらと立ちあがった。
ドアに手を掛けた瞬間、駈け出した。
廊下の先に、背中が見えた。
その瞬間、正一郎が床に崩れ落ちた。
床に左手をついて、声を上げずに泣いた。
「ユウ……」
流れ出る涙を拭う右手は無くて…
正一郎には、右手が無くて…
そっと歩み寄る。
背中に手を添えると、正一郎が俺を見上げた。
「ユウ…」
正一郎を立ち上がらせると、二階の部屋へ誘った。
「ユウ…?」
正一郎は涙を流したまま、俺を見つめる。
「…抱いて…?」
「でも…俺、腕がない…」
「関係ない…正一郎に抱かれたい…」
服を、一枚一枚丁寧に脱がせて、最後に自分の服を脱いだ。
そのまま正一郎の上に跨った。
「…ちょうだい…?」
既に熱くなっている正一郎を後ろに押し当てた。
「俺に…あなたをちょうだい…」
「ユウ…」
正一郎の左手が俺の腰を掴んだ。
そのまま、ゆっくりと正一郎は動き出した。
正一郎からもたらされる快感に、俺は静かに絶頂を迎えた。
『有は頑固だからな…その癖、よくないぞ』
博…
『俺、立派な兵隊になって、お前のこと迎えに来るから』
そう…最後に会った時。
彼は軍服を着てた。
『じゃあな。待ってろよ』
そう微笑んで、博は旅立った。
そのまま、帰ってこなかった。
俺はいつまで経っても、博が死んだことを認められなかった。
『有は頑固だからな…』
通知が届いた時、信じられなくて。
内地から満州に渡った。
確認しようにも、当時の満州は混乱が酷く。
日本に帰る路銀も尽きてしまった。
流れに流れて行き着いたのが、日本租界のある上海だった。
借金こそしなくて済んだが、俺は博を失った喪失感から、立ち直れなかった。
なんで自分が生きているのか、わからなかった。
だから、自分を傷めつけた。
最初は酒を飲んで、ケンカをふっかけたりしてた。
でもいつまで経っても死ねなくて。
誰も殺してくれなくて。
でもある日、喧嘩に負けた相手に、犯された。
その時気づいた。
人肌に触れている瞬間だけは、博のこと忘れられるって。
俺は博が裏切って帰ってこない恋人だと思うことにした。
そうして身体を売っていたら、生きていこうって気になった。
生きていけるって、思ったんだ…
だって、博は生きているから。
俺の中では、生きてるから。
でももう、帰ってこない
俺を穿つ背中を抱きしめた。
「もっと欲しい…」
正一郎はいきてる
「ああ…もっと…」
正一郎は帰ってきた
「もっと…ちょうだい…」
正一郎はここにいる
もう…後悔したくない…
「ユウ…綺麗だ…」
正一郎の左手が俺の頬を包んだ。
…綺麗なのは、正一郎だよ…
「正一郎…俺を…」
頬を包む手に、俺の手を重ねる。
俺が、君の右手になるよ
君の足りない欠片
俺の足りない欠片
ふたりで、ひとつだよ
「連れて行って…」
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