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第五章 あまのじゃくからの手紙
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「ちょっ…」
大樹は僕よりも背が高くて、運動なんてしていないのに筋肉だってちゃんとついてる細マッチョだ。
僕は運動しても全然だめで。その上病気になって治療してたから、今はほんとただのガリガリだ。
治療が終わってからちょっとは太るかと思ったけど、食べても食べても太れない体になってしまった。
だから振りほどくことができなかった。
「おまえ、そういう言い方はないだろ!?」
やっぱりというか、なんというか。
いくら普段、寡黙で温厚な大樹でも怒るよな。こんな言い方したら。
黙ってると怒ってるように見える整った顔が、一層迫力を増していた。
いつも優しく笑ってるタレ気味の目が、吊り上がってる。
「ごっ…ごめんなさいっ…」
「大体、いつもおまえはっ…」
強引に引き寄せられそうになった瞬間、スパーンと食堂側のふすまが開いた。
「はいさ~い!お茶どうぞ~」
ノリコさんがニコニコ顔で入ってきた。
いや、ニタニタ顔っていうの?これ。
「まあまあ、座って?」
机にトレーを置くと、立ち上がってた大樹の肩を片手で掴み座布団に引き戻した。
大の男なのに、大樹はあっさりと座布団に座らされた。
キョトン顔で、何が起きたかわかっていないようだ。
恐ろしい力…
「直人も、ね?」
顔は笑ってるけど、なんだか怖い。
ノリコさんに睨まれながら、すごすごと座敷に入った。
大人しく机を挟んで向かい側の座布団に座ると、ノリコさんは机に置いていたトレーからお茶を俺たちの前に置いてくれた。
丸い沖縄グラスのコップに入った薄い茶色のさんぴん茶。
カランと氷のいい音がした。
「ごゆっくり~」
去り際にニタリと僕に向かって笑うと、そそくさとふすまは閉じられた。
すぐに部屋の中はしんとした。
チリリンと縁側に吊るした風鈴の音が聞こえる。
大樹はしばらく呆然としていたが、なんとか立て直した。
改めて座布団に座り直すと、まっすぐに僕を見た。
「…身体は…大丈夫なのか?」
「探偵雇って調べたんだろ…?一応、完治してるよ…」
まただ…
なんでこんな言い方しかできないんだろ。
せっかくここまで来てくれたのに。
涙が出そうになる。
鼻の奥がツンとした。
また、チリリンと音がした。
ふと風鈴のぶら下がっている縁側の方を見ると、植栽の向こうにトサカ頭が見えた。
「…見てんじゃねえよ…」
「あ?」
「あっ…違う違う…大樹じゃ…ない…」
大樹って、久しぶりに呼んだ。
ふうっと大樹はため息を付いた。
「直人さ。なんで黙って居なくなったんだよ」
独り言のように呟くと、さんぴん茶を啜った。
またカランと氷のいい音がした。
「別に…僕がどうしようが、大樹には関係ないでしょ…」
もお…
本当になんでこんな言い方しかできないんだろ。
嬉しいのに。
顔を見れただけでも、嬉しくてしょうがないのに。
だって僕は、大樹のことが…
「関係、ない?」
案の定、ちょっと怒った声。
多分、大樹も僕のことが…
「あるだろ…」
わかってる…悪いのは僕…
勇気の出せなかった僕なんだ
「おまえ、俺の気持ちわかってなかったのかよ…」
違う…わかってた…
わかってたけど…
なんにも確証はなかった
そう。なんにも、言葉もなにも。
僕たちは伝え合っていなかったから。
「俺はおまえの気持ちも…」
「嘘だっ…」
びっくりした顔で僕を見上げた。
「大樹は…だって、あの時…逃げたじゃないか…」
”がんになった”
そう告げたとき、大樹はずっと黙ってた
別に何を期待してたわけじゃない。
…いや、本当は期待してた
一人ぼっちの僕に寄り添ってくれるんじゃないかって…
一緒に居てくれるんじゃないかって…
僕の気持ちも、大樹の気持ちも、一緒だって思ってた
でも何を約束したわけでもなく
同じ会社の同僚として、ただ日常を過ごしていた
だから、あの日…
本当のことを告げたんだ
でも大樹は…何も言わなかった
「逃げたんじゃない」
「嘘だ」
だから、僕も逃げた
大樹の気持ちを確かめることもしないで、黙って大樹の前から消えたんだ
怖かったから…
死ぬのも怖かった
でも、もっと怖かったのは大樹に拒絶されることだった
お金ならあるから経済的負担なんて掛けるつもりはなかった
ただ、寄り添っていて欲しかった
この世でたったひとりになった僕の傍に、居てほしかった
でももしも…はっきりと拒絶されたら…
それが怖くて、僕も逃げたんだ
大樹は僕よりも背が高くて、運動なんてしていないのに筋肉だってちゃんとついてる細マッチョだ。
僕は運動しても全然だめで。その上病気になって治療してたから、今はほんとただのガリガリだ。
治療が終わってからちょっとは太るかと思ったけど、食べても食べても太れない体になってしまった。
だから振りほどくことができなかった。
「おまえ、そういう言い方はないだろ!?」
やっぱりというか、なんというか。
いくら普段、寡黙で温厚な大樹でも怒るよな。こんな言い方したら。
黙ってると怒ってるように見える整った顔が、一層迫力を増していた。
いつも優しく笑ってるタレ気味の目が、吊り上がってる。
「ごっ…ごめんなさいっ…」
「大体、いつもおまえはっ…」
強引に引き寄せられそうになった瞬間、スパーンと食堂側のふすまが開いた。
「はいさ~い!お茶どうぞ~」
ノリコさんがニコニコ顔で入ってきた。
いや、ニタニタ顔っていうの?これ。
「まあまあ、座って?」
机にトレーを置くと、立ち上がってた大樹の肩を片手で掴み座布団に引き戻した。
大の男なのに、大樹はあっさりと座布団に座らされた。
キョトン顔で、何が起きたかわかっていないようだ。
恐ろしい力…
「直人も、ね?」
顔は笑ってるけど、なんだか怖い。
ノリコさんに睨まれながら、すごすごと座敷に入った。
大人しく机を挟んで向かい側の座布団に座ると、ノリコさんは机に置いていたトレーからお茶を俺たちの前に置いてくれた。
丸い沖縄グラスのコップに入った薄い茶色のさんぴん茶。
カランと氷のいい音がした。
「ごゆっくり~」
去り際にニタリと僕に向かって笑うと、そそくさとふすまは閉じられた。
すぐに部屋の中はしんとした。
チリリンと縁側に吊るした風鈴の音が聞こえる。
大樹はしばらく呆然としていたが、なんとか立て直した。
改めて座布団に座り直すと、まっすぐに僕を見た。
「…身体は…大丈夫なのか?」
「探偵雇って調べたんだろ…?一応、完治してるよ…」
まただ…
なんでこんな言い方しかできないんだろ。
せっかくここまで来てくれたのに。
涙が出そうになる。
鼻の奥がツンとした。
また、チリリンと音がした。
ふと風鈴のぶら下がっている縁側の方を見ると、植栽の向こうにトサカ頭が見えた。
「…見てんじゃねえよ…」
「あ?」
「あっ…違う違う…大樹じゃ…ない…」
大樹って、久しぶりに呼んだ。
ふうっと大樹はため息を付いた。
「直人さ。なんで黙って居なくなったんだよ」
独り言のように呟くと、さんぴん茶を啜った。
またカランと氷のいい音がした。
「別に…僕がどうしようが、大樹には関係ないでしょ…」
もお…
本当になんでこんな言い方しかできないんだろ。
嬉しいのに。
顔を見れただけでも、嬉しくてしょうがないのに。
だって僕は、大樹のことが…
「関係、ない?」
案の定、ちょっと怒った声。
多分、大樹も僕のことが…
「あるだろ…」
わかってる…悪いのは僕…
勇気の出せなかった僕なんだ
「おまえ、俺の気持ちわかってなかったのかよ…」
違う…わかってた…
わかってたけど…
なんにも確証はなかった
そう。なんにも、言葉もなにも。
僕たちは伝え合っていなかったから。
「俺はおまえの気持ちも…」
「嘘だっ…」
びっくりした顔で僕を見上げた。
「大樹は…だって、あの時…逃げたじゃないか…」
”がんになった”
そう告げたとき、大樹はずっと黙ってた
別に何を期待してたわけじゃない。
…いや、本当は期待してた
一人ぼっちの僕に寄り添ってくれるんじゃないかって…
一緒に居てくれるんじゃないかって…
僕の気持ちも、大樹の気持ちも、一緒だって思ってた
でも何を約束したわけでもなく
同じ会社の同僚として、ただ日常を過ごしていた
だから、あの日…
本当のことを告げたんだ
でも大樹は…何も言わなかった
「逃げたんじゃない」
「嘘だ」
だから、僕も逃げた
大樹の気持ちを確かめることもしないで、黙って大樹の前から消えたんだ
怖かったから…
死ぬのも怖かった
でも、もっと怖かったのは大樹に拒絶されることだった
お金ならあるから経済的負担なんて掛けるつもりはなかった
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でももしも…はっきりと拒絶されたら…
それが怖くて、僕も逃げたんだ
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