HEAVEN B HELL【BL短編集】

野瀬 さと

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最終章 願わくば花の下にて恋死なむ

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椎葉教授のよくない噂は、今までたくさん聞いた。
だけどそれを証明するヤツなんて居なかった。

多分、椎葉教授は凄く遊んでたんだろうとは思う。
女子学生とも、男子学生ともよく飲みに行く姿を見かけたし。

でもいつもひっそりと影みたいに一緒にいる兼高准教授は、そんなこと関係ないみたいに清らかだった。

強引で押しが強く、それでいて繊細なところもある椎葉教授。
そんな教授をフォローして、しっかりと教授との共同研究を進める兼高准教授。


まるで小説の中の登場人物みたくて…

あの二人から目が離せなかったのに。



それから兼高准教授は、教授になって。
椎葉教授の持っていた研究室やらゼミやら、そのまま引き継いだ。
やっていたことは、同じ研究だったからどれもスムーズにいった。

年が若いと言われてたけど、椎葉教授と二人三脚でやってたものだから、誰もそれを阻止することはできなかったようだ。

夏期休暇の前には、だいぶ研究室も落ち着いていた。

「遠ちゃんは夏休みどうするの?」
「ああ…どうしよっかな…」

俺は実家が都心だったから、帰省するってこともなくて。
青木くんは千葉が実家だったし、中島さんちも東京の西の方だし。
結局3人でつるむことになりそうだな…

「バイトとかしないの?」
「え…そうだな…」

でも肉体労働なんて嫌いだし…向いてない。
接客業なんて面倒だ。

「いい話がある」




「おーい、そっち持ってくれー!」

青木くんのでかい声が響く。

「あーい!」

これじゃ肉体労働と変わらないじゃないか…

バイトというのは、夏休みに兼高教授の手伝いをすることだった。
あんまり拘束される日はないから、時給は凄く良かった。
だから中島さんと青木くんと3人でそれを引き受けたんだけど…

「やること結構あるんだな…」

研究室の掃除やらなにやら、手始めにやらされた。

「すまないね。これが終わったら、教授室の方も頼むよ」

兼高教授に変わってから、椎葉教授が姿を現すことはなかった。
だから、部屋の片付けは兼高教授が少しずつやっていたようだけど、これを機会にいろいろと整理するようだった。

午前の作業を終えて、お昼ご飯を学食に食べに行った。
作業がしんどかったから学食のテーブルに突っ伏していたら、青木くんが奢ってくれた。
中島さんは笑って遠慮してたけど、結構クタクタになってた。

「ごめんねぇ…しんどいの数日だけだと思うからさぁ…」
「青木くんはいいよね。馬鹿力だから…」
「ええっ!?そんなことないよ?」
「え…青ちゃん、気づいてなかったの?力加減、いつも馬鹿だよ?」
「力加減馬鹿…」

中島さんにまで言われて、青木くんは凹んでいた。

食べ終わって少し休憩してから教授室に顔を出すと、兼高教授が来客用のソファで横になってた。

「あ…邪魔しちゃ悪いかな…」

青木くんが言うから、俺達は研究室で片付けの続きをしてた。

1時間ほどして教授室にそっと様子を見に行くと、ソファで起き上がって兼高教授は電話をしていた。

「…だから…行けないってば…」

険しい顔をしている。

「どうしてそんな勝手なことばかり言うの…?」

声が震えてて…

聞くつもりはなかったんだけど、思わずドアの外で固まってしまった。
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