HEAVEN B HELL【BL短編集】

野瀬 さと

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最終章 願わくば花の下にて恋死なむ

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「…そういうことは奥さんに言ってよ…」

相手は…椎葉教授…?

「もう、俺に関わらないで…荷物送るから…」

最後は泣いているようだった。



ドアの外で、俺は立ち尽くしているしかなかった。



とても…綺麗だったんだ…

一年前、桜の花びらが舞う夜の構内。
二人はただ立ち尽くして、桜を見上げてた。
とても絵になっていたんだ。

しあわせそうで…あたたかそうで…

そして、儚い風景だった。



電話が終わって、兼高教授が動く気配がした。
ドアをノックして中に入ると、教授は窓辺に立っていた。

「遠藤…?」

こちらを振り返ってる兼高教授の目は、あの時みたいに赤かった。

何も言わず歩み寄ると、兼高教授の隣に立った。

「なに…」
「誰にも言いません…」
「え…?」
「だから…泣いていいですよ」

少し息を飲んだ。
それから眉を歪めて目を窓の外に向けた。

こんなこと言って…よかったのかな。
そう思ったけど、しばらくすると静かに兼高教授は涙を零した。

首にかかってたタオルを差し出すと、受け取って目元を押さえた。

「ごめん…」


少しだけ…兼高教授と俺の距離が近づいた気がした。



次のバイト日から、教授室の片付けは俺と兼高教授がやることになった。
研究室のほうの掃除と模様替えは、中島さんと青木くんが引き受けて二手に分かれる事になった。

この方が効率がいいからね。

…なんていうのは言い訳で…

ちょっとでも兼高教授と一緒にいたかったんだ。


この頃には、自分の気持ちにはとっくに気づいていたんだと思う。



俺は…兼高教授のことが…



「え…遠藤って20歳超えてるの…?」
「いい加減にしてくださいよ…俺、3年ですよ…?」
「あ、ああ…そうだったね…そうだった…」

兼高教授がずり下がったメガネを上げた。

「いや、だって…遠藤、おさな……若く見えるから…」

悪かったな。童顔で。
成長期だって、中学の時に来て止まったさ。

「わかってますよ…時々おまわりさんが声かけてくるから…」
「へ!?」
「居酒屋とかでも、止められます」
「ぶっ…」
「今だに17歳くらいに間違われます」
「ぶふぉっ…」

ダンボールに本を詰めながら、笑いを堪えてる。

「ちびで童顔なのはわかってます」
「いや…そんな事はっ…」
「気を使わないでください。だから運転免許は手放せないんですよ」
「そ…そう、なんだ…」

ちょっと涙まで流してじゃないか…
色白の頬が、紅潮してる。

「…思い切り笑えばいいでしょう…?」
「で、でも…悪い…」
「俺がいいって言ってるんだから、遠慮なくどうぞ」
「ぶはっ…」

この人…笑い上戸だったんだ…
まあいいけど。


笑った顔が、とても可愛いから。


暫く止まらない笑いをBGMに黙々と作業をしていく。

「はぁ…笑った…」
「それはよかった」

ふっと、兼高教授は微笑んで立ち上がった。

「喉、乾かない?」
「あ、はい…」
「なんか、飲もうか。奢るよ」

一緒に教授室を出て、自販機に向かった。
適当に冷たい飲み物を買って、二人で隅っこにあるベンチに座った。

「後で、研究室の二人にも差し入れしよう」
「はい」


ここは、初めて兼高教授を見た場所だ。

ふと教授を見ると、遠くを見つめていた。



何を…見ているんですか…?

誰を…思っているんですか…?


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