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海鳴り
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「どこかで勉強したの?マッサージ」
「いんや…親とか、ばあちゃんとか…あと、姉貴とか?散々やらされたからかな」
「お姉さんいるんだ」
「ああ…もう、嫁に行っちゃったけどね」
「へえ…」
「まあこいつがスパルタで。容赦ねえんだ」
「ふふ…怖いの?」
「弟は永遠の奴隷だと思っているタイプだな。ありゃ」
「ぶっ…」
「春田家とは大違いだよ…」
「え?そんなことないよ?」
鏡の中の直也くんが、目を開けてくすっと笑った。
「優也はほんと、単純だから…」
「え……」
邪悪な笑みを浮かべた。
「な、直也くん…?」
「ぶっ…冗談だよお…」
破顔すると、ケタケタと笑い出した。
こんな笑い方もするんだ…
なんか意外。
「優也にはいつも感謝してるんだ…ちびたちも…」
「お、おう…だよなあ」
「あいつらがいるから、俺、生きていられる」
どきっとした。
急に直也くんが俺を見上げた。
少し目が赤い。
涙も溜まってる…?
「秋津さん……」
「さあ!前向いて!」
なんか。
これ以上話したら、まずい気がした。
これ以上見てたら、まずい気がした。
総合的にまずいと判断した。
だから無理やり話を終わらせた。
それから5分くらい、直也くんにマッサージを施した。
もうこれ以上は悪いからって、無理やり直也くんに止められてしまった。
あんまり揉むと揉み返しがくるから、この程度でよかったかもしれない。
「ありがとう。秋津さん…だいぶ楽になった」
「うん。本当は毎日したほうがいいから…明日もするよ?」
「だめだよ。お客様なのに、そんなことさせられません」
くすっと笑うと、また極上の顔してる
ああ…いいなあ。
こんな顔、毎日見てたら悩みなんて消し飛ぶのかな…。
「ルアーの、お礼」
「え?」
「だから俺の気の済むまでやるからな?」
「あ、秋津さん…」
「じゃあ、おやすみ。直也くん」
「お、おやすみなさい……」
なにか言われる前に、背中を向けた。
ぺたぺた廊下を歩いて行くと、厨房から灯りが漏れてた。
そっとガラス戸を開けると、優也が茶碗を洗ってた。
「優也」
「あ、秋津さん」
「なんか飲むもんちょうだい」
「あ、はーい」
優也は手を拭くと、冷蔵庫からファンタの瓶を取り出した。
「オレンジでいい?」
「おう」
栓を抜いて、俺に差し出す。
「ごめんね。海人と陸人の世話してもらって…」
「いいんだって…お前も忙しいし、直也くんだって身体弱いんだから…気にすんなよ」
「だって、お客さんなのに…」
「10日居たら客じゃねえってお前が言ったんだろ?」
笑いながら言うと、頭を掻いた。
「明日、釣り行こうよ?秋津さん」
「ん…」
「折角来たんだからさ、ね?」
俺の手に握ってる箱を、優也はじっと見てる。
「うん…」
折角二人がそう言ってくれるから、翌朝早く俺は釣りに出た。
優也の操る船は危なげなく進む。
凪いだ海を見ながら、俺はまた別世界に来たと思った。
朝日が当たって、きらきら光る海面。
空と海の境目のブルーが本当に綺麗で。
心の中にあるドロドロとしたものが溶けていくようだった。
「イカ、今日はこの辺だよー!」
潮風に吹かれながら、優也が船を停めた。
錨を下ろしながら、レーザーを確認してる。
「じゃあ今日はここからスタートね!」
何個かポイントを回ってくれるらしい。
俺は優也の用意してくれた餌を準備しながら、ひたすら続く海と空をぼんやりと眺めた。
手の止まってる俺の横に来て、苦笑いした優也は俺の代わりに、準備をしてくれた。
その間も、ぼけっと空と海を眺めていた。
「秋津さん、はい」
優也が俺の手に釣り竿を握らせる。
「釣り竿持って、ぼーっとしてなよ。せっかくだから」
にこっと笑うと、俺の隣に腰掛けた。
タバコに火をつけると、紫煙を吐き出す。
日に焼けた顔は、満足そうに微笑んだ。
ホルダーに竿を差すと、俺もタバコに火を点けた。
優也が灰皿をこちらに押しやる。
「さんきゅ」
そう言うと煙を深く吸い込んで吐き出した。
「うめえな…」
「そう?」
「海の上で吸うと、いつもより旨く感じる」
「そっかあ…」
優也がタバコを指で挟み込んで、眺めた。
「そんなもんかなあ…俺、毎日海に出てるから…」
「そっか…ここ、お前の職場だもんな…」
「いんや…親とか、ばあちゃんとか…あと、姉貴とか?散々やらされたからかな」
「お姉さんいるんだ」
「ああ…もう、嫁に行っちゃったけどね」
「へえ…」
「まあこいつがスパルタで。容赦ねえんだ」
「ふふ…怖いの?」
「弟は永遠の奴隷だと思っているタイプだな。ありゃ」
「ぶっ…」
「春田家とは大違いだよ…」
「え?そんなことないよ?」
鏡の中の直也くんが、目を開けてくすっと笑った。
「優也はほんと、単純だから…」
「え……」
邪悪な笑みを浮かべた。
「な、直也くん…?」
「ぶっ…冗談だよお…」
破顔すると、ケタケタと笑い出した。
こんな笑い方もするんだ…
なんか意外。
「優也にはいつも感謝してるんだ…ちびたちも…」
「お、おう…だよなあ」
「あいつらがいるから、俺、生きていられる」
どきっとした。
急に直也くんが俺を見上げた。
少し目が赤い。
涙も溜まってる…?
「秋津さん……」
「さあ!前向いて!」
なんか。
これ以上話したら、まずい気がした。
これ以上見てたら、まずい気がした。
総合的にまずいと判断した。
だから無理やり話を終わらせた。
それから5分くらい、直也くんにマッサージを施した。
もうこれ以上は悪いからって、無理やり直也くんに止められてしまった。
あんまり揉むと揉み返しがくるから、この程度でよかったかもしれない。
「ありがとう。秋津さん…だいぶ楽になった」
「うん。本当は毎日したほうがいいから…明日もするよ?」
「だめだよ。お客様なのに、そんなことさせられません」
くすっと笑うと、また極上の顔してる
ああ…いいなあ。
こんな顔、毎日見てたら悩みなんて消し飛ぶのかな…。
「ルアーの、お礼」
「え?」
「だから俺の気の済むまでやるからな?」
「あ、秋津さん…」
「じゃあ、おやすみ。直也くん」
「お、おやすみなさい……」
なにか言われる前に、背中を向けた。
ぺたぺた廊下を歩いて行くと、厨房から灯りが漏れてた。
そっとガラス戸を開けると、優也が茶碗を洗ってた。
「優也」
「あ、秋津さん」
「なんか飲むもんちょうだい」
「あ、はーい」
優也は手を拭くと、冷蔵庫からファンタの瓶を取り出した。
「オレンジでいい?」
「おう」
栓を抜いて、俺に差し出す。
「ごめんね。海人と陸人の世話してもらって…」
「いいんだって…お前も忙しいし、直也くんだって身体弱いんだから…気にすんなよ」
「だって、お客さんなのに…」
「10日居たら客じゃねえってお前が言ったんだろ?」
笑いながら言うと、頭を掻いた。
「明日、釣り行こうよ?秋津さん」
「ん…」
「折角来たんだからさ、ね?」
俺の手に握ってる箱を、優也はじっと見てる。
「うん…」
折角二人がそう言ってくれるから、翌朝早く俺は釣りに出た。
優也の操る船は危なげなく進む。
凪いだ海を見ながら、俺はまた別世界に来たと思った。
朝日が当たって、きらきら光る海面。
空と海の境目のブルーが本当に綺麗で。
心の中にあるドロドロとしたものが溶けていくようだった。
「イカ、今日はこの辺だよー!」
潮風に吹かれながら、優也が船を停めた。
錨を下ろしながら、レーザーを確認してる。
「じゃあ今日はここからスタートね!」
何個かポイントを回ってくれるらしい。
俺は優也の用意してくれた餌を準備しながら、ひたすら続く海と空をぼんやりと眺めた。
手の止まってる俺の横に来て、苦笑いした優也は俺の代わりに、準備をしてくれた。
その間も、ぼけっと空と海を眺めていた。
「秋津さん、はい」
優也が俺の手に釣り竿を握らせる。
「釣り竿持って、ぼーっとしてなよ。せっかくだから」
にこっと笑うと、俺の隣に腰掛けた。
タバコに火をつけると、紫煙を吐き出す。
日に焼けた顔は、満足そうに微笑んだ。
ホルダーに竿を差すと、俺もタバコに火を点けた。
優也が灰皿をこちらに押しやる。
「さんきゅ」
そう言うと煙を深く吸い込んで吐き出した。
「うめえな…」
「そう?」
「海の上で吸うと、いつもより旨く感じる」
「そっかあ…」
優也がタバコを指で挟み込んで、眺めた。
「そんなもんかなあ…俺、毎日海に出てるから…」
「そっか…ここ、お前の職場だもんな…」
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