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第2章 魔人どもの野望
回想の狂戦地ルドストン⑱
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“教率者暗殺未遂事件”の勃発は、まず主督空将チェザックの〈合同ミッション〉決行にあたっての簡潔な訓示の後、教率者畢生の方針演説を3セスタ(27分間)視聴後にブリーフィングに入る予定であった空軍&聖団の面々にも大きな衝撃を与えた。
特に、犯人と淡いながらも唯一、接点を持つ萩邑りさらが受けたショックは計り知れないものがあったと言えよう…。
「…本当にあれはユグマなの?
…だとしたら…どうして…?
一体、彼に何が起きたというの…!?」
正面に掲げられた巨大画面を呆然と見つめる美しき操獣師の横顔に、傍らの鄭 雅桃も動揺を隠せない。
「萩邑先輩、
知ってるんですか、彼の事…?」
“未成年”(17歳)を理由に夏月から〈パーティー〉への出席自体を禁じられていた雅桃がロゼムス公の嫡男の存在を知らぬのも当然であった…。
だが、身を挺して教率者を兇弾から庇い、護衛者の責務を全うした剛駕崇景に容赦なく再び銃口を向ける魔少年の眼光は、初対面時にりさらが受けた決して品行方正とは言えないまでも、それは一時的な心の曇りであり、むしろ純粋な余りに傷付くことを強いられて来た魂の慄きの発露とはまるで別人の凶々しさを放っていた。
「野獣…、
いや、狂獣の眼だよ、あれは…」
夏月の呟きに呼応するかのように、主督空将は慨嘆した。
「哀れなものだ…。
恐らくは教率者様が彼の父を神格化し過ぎた余り、自分に掛かる重圧が生まれ持った能力と余りに乖離している事実に悩み抜いた挙げ句、とうとう“元凶”に向かって殺意を爆発させたものだろう…」
だがこの見解に、安易に同調する殺戮姫ではなかった。
「動機としてはそれで通るかもしれないけどね、
それにしちゃ、あのガキの出で立ちは物々しすぎないか?
いくら親父が教界中枢に出入りしてるからって、あれだけゴツいフル装備を誂えられるもんかねえ?
それに、いくらパパのお供で海底宮殿の客だったからって、そもそもどうやって最高にセキュリティ堅固なはずの第7層に乗り込めたんだい?
…どう考えても、後ろで糸を引いてる奴がいるとしか考えられないんだけどね…!」
しかし総隊長の正論は、執務長の正確極まる短銃射撃を巧みに頭部をガードしつつ耐え抜く肉体の不死身ぶりへの驚嘆と、当の暗殺者が張り上げた大音声によってかき消され、再度の発砲によって“蒼き虎”が完全に活動不能に陥った事によって返答する者すら無かった。
結果として響き渡ったのは、何とも不快な響きの、多分に嘲りを含んだ失笑だったのである…。
「何でわざわざ、自分から銃口に飛び込んだのだ?
殺し屋が乱入した瞬間に火器で反撃すれば簡単にカタが付いていたはずだ!」
「御自慢の錬装磁甲とやらは、機敏な執務長に着用願ったほうが良かったんじゃないのかね?
そもそもが、我が軍が誇る最強の携行兵器の威力を見くびりすぎるからこうなるのだ!」
「それもそうだが、何よりも責められるべきは、股肱の統衞軍を差し置いて、あろうことか“無知なる部外者”に身辺警備を委ねた教率者様御自身と、無謀な試みを諌めなかった新米執務長なのではないか!?」
「全く…!
確かにライネット殿は軍史に燦然と輝く名狙撃手ではあろうが、赫々たる勲功もその殆んどが単独行の特殊任務、元より他者の戦闘能力を吟味する眼力など持ち合わせておらぬはずなのだ!」
「それもあろうが、逆に考えればこうとも取れるぞ…、
即ち、あくまでこのブザマな錬装者の無能ぶりを承知の上でいわば“引き立て役”として傍らに立たせ、イザとあらば自身の卓越した射撃技術のダシに使おうとしたのではなかったか?」
「大いにあり得る!
だが唯一の誤算は、問題の暗殺者が一筋縄では行かぬ強者であったということだろう…。
本人としてはスタイリッシュに殲敵短銃で殺めたかったのだろうが、どうやら犯人は神牙教軍か或いは海龍党に何らかの“生体強化措置”を受けたものと見えて全く効かなかったようだ。
やはりここは仲良しのロゼムスに改造させたというスペシャルな戮弾電銃を用意しておくべきだったな!」
「おいおい、それじゃあ親父が作った銃が倅を射殺することになっちまって、麗しい友情にヒビが入っちまうぞ!
天才技術者の方は知らんが、噂ではネクラの執務長にとってはたった一人のお友達らしいから、たとえ持参してたとしてもとても使用出来んだろ!」
冷酷な哄笑がどっと沸き起こり、それはユグマが画面から消えても持続した…どうやら、大の字となった“蒼き虎”…剛駕崇景の失神姿が、パイロット達にとってはこの上なく痛快らしい。
そして錬装者と操獣師の違いはあれど、彼なりに必死に任務を全うした聖団員への心無い嘲笑に耐えかねた萩邑りさらが強く抗議すべく立ち上がろうとしたまさにその瞬間、彼女は右隣の席から、微かながらも信じられない声を聴いた。
鄭 雅桃が、遂に堪えきれず漏らした嗤い声を…!
殆ど聞き取れぬほどではあったものの、その響きはある意味誰よりも酷烈な悪意と蔑みに震え、雅桃の崇景に対する憎悪と嫌悪の深さを痛烈に感得させるものであった…。
だが内心で叫ぶ快哉をどうしても抑えきれず漏らしてしまい、慌てて蒼白となった貌を背けたものの時既に遅く、華奢な両肩は先程まではこの上なく優しく包んでくれた最愛の存在によって激しく揺すぶられたのである!
「雅桃…!
今、あなた、嗤ったの…?
信じられない…!
仲間が撃たれたのよ!?
同じ聖団員が…地上世界の同胞が…!!
…確かに、あなたが崇景くんを嫌ってるのは私にも分かってた…。
でも…いくら何でも、
これほどとは思ってなかったわ…!
あなた一体、どういう神経してるのよ!?
恥を知りなさい!!」
美しき操獣師が、可憐な後輩に向けて初めて放った怒声…、
そしてそれに飽き足らず、数え切れぬほど慰撫して来た白い頬を右掌で打とうとした次の刹那、その手首は何者かによって強く掴まれていた。
だが、その人物を瞬時に覚ったりさらは振り向こうともしない。
「やめときな。
ゲスっちゃあゲスだが、ここは雅桃をはじめ、観衆の反応が正しいよ…、
そもそも戦士が嗤われちゃ、その時点でソイツはおしまいさ…!
この取り返しの付かない醜態は間違いなくルドストンに留まらずラージャーラ中に拡散する…、
ということは、錬装者はもちろんだが操獣師にも…
…つまり絆獣聖団全体のとてつもなく大きなイメージダウンに繋がるって事さね!
何とも厄介な不始末をやらかしてくれたもんだ。
しかも玉朧が横にいながら…
現役から退いて5年も経つと、“武神の本能”もここまで衰えてしまうもんかねえ…」
“伝説の殺戮姫”の非情さは骨身に染みているとはいえ、竹澤夏月の物言いは萩邑りさらにとっては到底受け容れかねるものであった。
「総隊長まで、そんな…」
縋る様な視線をその傍らのC-キャップに向けると、哀しげな延吉道子の眼差しが受け止めてくれたものの、微かに首が振られてこれ以上の抗弁が無駄であることも告げ知らされた。
「…萩邑、いい機会だから忠告させてもらうけどね…、
…アンタ、そろそろその甘っちょろい性根を叩き直しておかないと…
…いずれ、死ぬよ…!」
白い美貌を紅潮させ、憤然たる表情で俯く愛弟子の手を放り出すように離し、壇上脇に特別に用意させた豪奢な群青色の鱗椅子に着座していた主督空将を振り返った夏月は、未だ収まらぬ喧騒をかき消さんばかりに大音声を張り上げた。
「聴こえるかい大将さん!?
教率者様の大演説も中断されちまった以上、
そんな負け犬がだらしなくノビてるだけの映像をいつまでも眺めてたって時間の無駄だよ!
うちらとしても、あんなのが絆獣聖団の代表だと思われるのも業腹なんだよねえ、
だからさっさと本来の目的に入ろうじゃないか!!」
「…了解した。
それでは画面を諸君がこれから赴くべき教界各地の退避施設のマップに切り替えよう…」
…かくてブリーフィングが開始されたが、聴衆の耳目のおよそ8割が壇上以外に向けられていた。
即ち、机上に伏して慟哭する鄭 雅桃に…。
必死に抑えた啜り泣きではじまった最年少特級操獣師の悲嘆は、今や誰憚らぬ号泣と化していた。
果たして世界の終わりを前にしても、一人の少女がここまで異界の人々の…しかも豪気な軍人の胸を揺るがすほどの悲痛な響きを嗚咽に込められるものか?
…殆どの者は傍らの年長者に叱責されたことが原因であることを理解していたが、15名の中には画面の錬装者に恋している少女が悲愁のあまり慟哭しているという、とんでもない錯誤を冒しているロマンチストも僅かながら存在していた!
…だが一刻も早く本来の慈悲深き女神に立ち返り、その胸に悲涙に塗れる妹分を無言のままにかき抱くべき萩邑りさらはあたかも先程の彫像の如き総隊長を再現するかの如く、両腕を固く組み合わせたまま黒瞳を巨大画面に固定したまま微動だにしない…。
たまりかねた延吉道子が立ち上がろうとしたまさにその時、背後から若い男の声が挙がった。
「これ以上、この悲しい泣き声を聴くことは耐えられない…!
美しき操獣師よ、
若気の過ちというものです、どうか彼女を赦してあげて下さい。
非はあくまでも、教率者護衛という重大使命を全う出来ず、否、そもそも心構えの段階から真剣に取り組む事を怠った結果、ブザマな醜態を晒すに至った錬装者にあります。
あの失神姿は、たとえ同志といえども嘲笑されて当然の情けなさでした。
…まあそんな事はともかく、何よりも操獣師勢の教界における重要性は錬装者勢とは比較にならぬほど大きい…、
頼もしき絆獣抜きのミッションなど、もはや考えられないのです。
どうか、仲直りなさって下さい、
そのきっかけを作るため、あえて私達が泥を被りましょう!」
この、何らかの覚悟を固めたかの如き叫びと同時に、信じられない光景が一同の目を撃った!
あろうことか、反射的に組む腕を弛めたりさらと僅かに身を起こした雅桃の背後に着座する2人の部隊長が操獣師たちの乳房を鷲掴みにしたのである!!
特に、犯人と淡いながらも唯一、接点を持つ萩邑りさらが受けたショックは計り知れないものがあったと言えよう…。
「…本当にあれはユグマなの?
…だとしたら…どうして…?
一体、彼に何が起きたというの…!?」
正面に掲げられた巨大画面を呆然と見つめる美しき操獣師の横顔に、傍らの鄭 雅桃も動揺を隠せない。
「萩邑先輩、
知ってるんですか、彼の事…?」
“未成年”(17歳)を理由に夏月から〈パーティー〉への出席自体を禁じられていた雅桃がロゼムス公の嫡男の存在を知らぬのも当然であった…。
だが、身を挺して教率者を兇弾から庇い、護衛者の責務を全うした剛駕崇景に容赦なく再び銃口を向ける魔少年の眼光は、初対面時にりさらが受けた決して品行方正とは言えないまでも、それは一時的な心の曇りであり、むしろ純粋な余りに傷付くことを強いられて来た魂の慄きの発露とはまるで別人の凶々しさを放っていた。
「野獣…、
いや、狂獣の眼だよ、あれは…」
夏月の呟きに呼応するかのように、主督空将は慨嘆した。
「哀れなものだ…。
恐らくは教率者様が彼の父を神格化し過ぎた余り、自分に掛かる重圧が生まれ持った能力と余りに乖離している事実に悩み抜いた挙げ句、とうとう“元凶”に向かって殺意を爆発させたものだろう…」
だがこの見解に、安易に同調する殺戮姫ではなかった。
「動機としてはそれで通るかもしれないけどね、
それにしちゃ、あのガキの出で立ちは物々しすぎないか?
いくら親父が教界中枢に出入りしてるからって、あれだけゴツいフル装備を誂えられるもんかねえ?
それに、いくらパパのお供で海底宮殿の客だったからって、そもそもどうやって最高にセキュリティ堅固なはずの第7層に乗り込めたんだい?
…どう考えても、後ろで糸を引いてる奴がいるとしか考えられないんだけどね…!」
しかし総隊長の正論は、執務長の正確極まる短銃射撃を巧みに頭部をガードしつつ耐え抜く肉体の不死身ぶりへの驚嘆と、当の暗殺者が張り上げた大音声によってかき消され、再度の発砲によって“蒼き虎”が完全に活動不能に陥った事によって返答する者すら無かった。
結果として響き渡ったのは、何とも不快な響きの、多分に嘲りを含んだ失笑だったのである…。
「何でわざわざ、自分から銃口に飛び込んだのだ?
殺し屋が乱入した瞬間に火器で反撃すれば簡単にカタが付いていたはずだ!」
「御自慢の錬装磁甲とやらは、機敏な執務長に着用願ったほうが良かったんじゃないのかね?
そもそもが、我が軍が誇る最強の携行兵器の威力を見くびりすぎるからこうなるのだ!」
「それもそうだが、何よりも責められるべきは、股肱の統衞軍を差し置いて、あろうことか“無知なる部外者”に身辺警備を委ねた教率者様御自身と、無謀な試みを諌めなかった新米執務長なのではないか!?」
「全く…!
確かにライネット殿は軍史に燦然と輝く名狙撃手ではあろうが、赫々たる勲功もその殆んどが単独行の特殊任務、元より他者の戦闘能力を吟味する眼力など持ち合わせておらぬはずなのだ!」
「それもあろうが、逆に考えればこうとも取れるぞ…、
即ち、あくまでこのブザマな錬装者の無能ぶりを承知の上でいわば“引き立て役”として傍らに立たせ、イザとあらば自身の卓越した射撃技術のダシに使おうとしたのではなかったか?」
「大いにあり得る!
だが唯一の誤算は、問題の暗殺者が一筋縄では行かぬ強者であったということだろう…。
本人としてはスタイリッシュに殲敵短銃で殺めたかったのだろうが、どうやら犯人は神牙教軍か或いは海龍党に何らかの“生体強化措置”を受けたものと見えて全く効かなかったようだ。
やはりここは仲良しのロゼムスに改造させたというスペシャルな戮弾電銃を用意しておくべきだったな!」
「おいおい、それじゃあ親父が作った銃が倅を射殺することになっちまって、麗しい友情にヒビが入っちまうぞ!
天才技術者の方は知らんが、噂ではネクラの執務長にとってはたった一人のお友達らしいから、たとえ持参してたとしてもとても使用出来んだろ!」
冷酷な哄笑がどっと沸き起こり、それはユグマが画面から消えても持続した…どうやら、大の字となった“蒼き虎”…剛駕崇景の失神姿が、パイロット達にとってはこの上なく痛快らしい。
そして錬装者と操獣師の違いはあれど、彼なりに必死に任務を全うした聖団員への心無い嘲笑に耐えかねた萩邑りさらが強く抗議すべく立ち上がろうとしたまさにその瞬間、彼女は右隣の席から、微かながらも信じられない声を聴いた。
鄭 雅桃が、遂に堪えきれず漏らした嗤い声を…!
殆ど聞き取れぬほどではあったものの、その響きはある意味誰よりも酷烈な悪意と蔑みに震え、雅桃の崇景に対する憎悪と嫌悪の深さを痛烈に感得させるものであった…。
だが内心で叫ぶ快哉をどうしても抑えきれず漏らしてしまい、慌てて蒼白となった貌を背けたものの時既に遅く、華奢な両肩は先程まではこの上なく優しく包んでくれた最愛の存在によって激しく揺すぶられたのである!
「雅桃…!
今、あなた、嗤ったの…?
信じられない…!
仲間が撃たれたのよ!?
同じ聖団員が…地上世界の同胞が…!!
…確かに、あなたが崇景くんを嫌ってるのは私にも分かってた…。
でも…いくら何でも、
これほどとは思ってなかったわ…!
あなた一体、どういう神経してるのよ!?
恥を知りなさい!!」
美しき操獣師が、可憐な後輩に向けて初めて放った怒声…、
そしてそれに飽き足らず、数え切れぬほど慰撫して来た白い頬を右掌で打とうとした次の刹那、その手首は何者かによって強く掴まれていた。
だが、その人物を瞬時に覚ったりさらは振り向こうともしない。
「やめときな。
ゲスっちゃあゲスだが、ここは雅桃をはじめ、観衆の反応が正しいよ…、
そもそも戦士が嗤われちゃ、その時点でソイツはおしまいさ…!
この取り返しの付かない醜態は間違いなくルドストンに留まらずラージャーラ中に拡散する…、
ということは、錬装者はもちろんだが操獣師にも…
…つまり絆獣聖団全体のとてつもなく大きなイメージダウンに繋がるって事さね!
何とも厄介な不始末をやらかしてくれたもんだ。
しかも玉朧が横にいながら…
現役から退いて5年も経つと、“武神の本能”もここまで衰えてしまうもんかねえ…」
“伝説の殺戮姫”の非情さは骨身に染みているとはいえ、竹澤夏月の物言いは萩邑りさらにとっては到底受け容れかねるものであった。
「総隊長まで、そんな…」
縋る様な視線をその傍らのC-キャップに向けると、哀しげな延吉道子の眼差しが受け止めてくれたものの、微かに首が振られてこれ以上の抗弁が無駄であることも告げ知らされた。
「…萩邑、いい機会だから忠告させてもらうけどね…、
…アンタ、そろそろその甘っちょろい性根を叩き直しておかないと…
…いずれ、死ぬよ…!」
白い美貌を紅潮させ、憤然たる表情で俯く愛弟子の手を放り出すように離し、壇上脇に特別に用意させた豪奢な群青色の鱗椅子に着座していた主督空将を振り返った夏月は、未だ収まらぬ喧騒をかき消さんばかりに大音声を張り上げた。
「聴こえるかい大将さん!?
教率者様の大演説も中断されちまった以上、
そんな負け犬がだらしなくノビてるだけの映像をいつまでも眺めてたって時間の無駄だよ!
うちらとしても、あんなのが絆獣聖団の代表だと思われるのも業腹なんだよねえ、
だからさっさと本来の目的に入ろうじゃないか!!」
「…了解した。
それでは画面を諸君がこれから赴くべき教界各地の退避施設のマップに切り替えよう…」
…かくてブリーフィングが開始されたが、聴衆の耳目のおよそ8割が壇上以外に向けられていた。
即ち、机上に伏して慟哭する鄭 雅桃に…。
必死に抑えた啜り泣きではじまった最年少特級操獣師の悲嘆は、今や誰憚らぬ号泣と化していた。
果たして世界の終わりを前にしても、一人の少女がここまで異界の人々の…しかも豪気な軍人の胸を揺るがすほどの悲痛な響きを嗚咽に込められるものか?
…殆どの者は傍らの年長者に叱責されたことが原因であることを理解していたが、15名の中には画面の錬装者に恋している少女が悲愁のあまり慟哭しているという、とんでもない錯誤を冒しているロマンチストも僅かながら存在していた!
…だが一刻も早く本来の慈悲深き女神に立ち返り、その胸に悲涙に塗れる妹分を無言のままにかき抱くべき萩邑りさらはあたかも先程の彫像の如き総隊長を再現するかの如く、両腕を固く組み合わせたまま黒瞳を巨大画面に固定したまま微動だにしない…。
たまりかねた延吉道子が立ち上がろうとしたまさにその時、背後から若い男の声が挙がった。
「これ以上、この悲しい泣き声を聴くことは耐えられない…!
美しき操獣師よ、
若気の過ちというものです、どうか彼女を赦してあげて下さい。
非はあくまでも、教率者護衛という重大使命を全う出来ず、否、そもそも心構えの段階から真剣に取り組む事を怠った結果、ブザマな醜態を晒すに至った錬装者にあります。
あの失神姿は、たとえ同志といえども嘲笑されて当然の情けなさでした。
…まあそんな事はともかく、何よりも操獣師勢の教界における重要性は錬装者勢とは比較にならぬほど大きい…、
頼もしき絆獣抜きのミッションなど、もはや考えられないのです。
どうか、仲直りなさって下さい、
そのきっかけを作るため、あえて私達が泥を被りましょう!」
この、何らかの覚悟を固めたかの如き叫びと同時に、信じられない光景が一同の目を撃った!
あろうことか、反射的に組む腕を弛めたりさらと僅かに身を起こした雅桃の背後に着座する2人の部隊長が操獣師たちの乳房を鷲掴みにしたのである!!
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