283 / 475
第十八章 生徒の村田とイケメン教師
イケメン教師、村田の家に連れこまれる
しおりを挟む
古い2DKのアパートが村田とその母の家だ。
「まあ、上がって」
担任の生徒にそう言われ、またもや上がってしまった。見覚えのあるその部屋の内部。
「ところで、話ってなんだ?」
小坂は生徒の村田に聞く。すすめられて座った椅子も居心地悪い。
「まあ、特に、これといってないんだけどさ。なんとなく、小坂と、ゆっくり話したいなっていうか、なんていうか」
村田は、のらりくらりとかわす。
「なんだ。特に用事がないなら僕は帰るぞ」
小坂は腰を上げかけた。
「待ってよ。用事がなければ話しちゃいけないのかよ。その、ほら、特に用事はないけど、なんでもないけど、話したいってことない? そういうのダメなのかよ」
村田は食い下がる。
「ああ、わかったよ」
小坂は引きとめられて仕方なく再び腰を下ろす。
このまま密室に二人きりでいたら流されてしまう。自分が話の主導権を握らなければ。
小坂は気を取り直した。
「そういえば、村田、お父さんと会うんだって?」
小坂は尋ねた。校長室で村田が校長に話していたことが、ずっと気になっていた。
「うん」
村田は、意外にも素直にうなずいた。しかも嬉しそうに、子どもっぽい笑顔を浮かべさえして。
いや、子どもっぽいわけじゃない。年相応なだけだ。
村田はいつも大人ぶっていた。実際、見た目は、というか体つきは、大人の男と遜色なかった。その上、村田は、カッコつけで表情や雰囲気を大人っぽく見せていた。
いや、大人っぽいわけでもない。
いつも、ふてくされた表情で、反抗的な村田。不良的行動の数々。そして、小坂への加害行動。
それが、珍しく高校生らしい無邪気な笑顔になったのだ。
加害者の村田に同情することはない。距離を取らなければ。境界線を引かなければ。
担任を続ける必要だってない。今年度は病気療養にして、来年度、他校へ転任させてもらうことだってできるかもしれない。
校長に言えば、何もかも思い通りになるかもしれない。
でも、そのためには、全てを話さなければならない。それを思うと気が重かった。そんなことは自分にはとてもできない気がした。
自分が責められそうだ。
非難されて、批判されて、反対意見を述べられて、なお自分の考えを述べる勇気はなかった。こと、自分のことに関しては。
自分が間違っていると言われるに違いない。
小坂が自分の傷に触れたくないために、回避行動をとっている間に、事態はどんどん悪くなっていったのだ。だが、誰が小坂を責められるだろう。
誰だって自分の傷には触れられたくないじゃないか。
村田に年相応の無邪気な笑顔を見せつけられて、小坂は、
「よかったな」
と言うほかなかった。
生徒の成長を助け、幸せを願うのが教師の役目だ。
よかったじゃないか。
口ではそう言ったが小坂の気持ちは複雑だった。
村田に慕われているような気がしたのに、実の父親には、かなわないのか、と寂しく思う。
自分を犠牲にして、いや、ないがしろにして、何をやっているんだ自分は。
勝手に幸せになった生徒を恨んでいる。
自分と共に、ずっと不幸に落ちていればいいと、生徒が幸せになることを阻もうとしている。
最低だな。
でも、捨てられたくなかった。
村田は加害者だ。自分に対して悪をなす。小坂を傷つける加害者だった。
なのに、その村田に、しがみついている自分。悲惨だな。
小坂は自分を責めて、自分の心をズタズタに引き裂いた。
「まあ、上がって」
担任の生徒にそう言われ、またもや上がってしまった。見覚えのあるその部屋の内部。
「ところで、話ってなんだ?」
小坂は生徒の村田に聞く。すすめられて座った椅子も居心地悪い。
「まあ、特に、これといってないんだけどさ。なんとなく、小坂と、ゆっくり話したいなっていうか、なんていうか」
村田は、のらりくらりとかわす。
「なんだ。特に用事がないなら僕は帰るぞ」
小坂は腰を上げかけた。
「待ってよ。用事がなければ話しちゃいけないのかよ。その、ほら、特に用事はないけど、なんでもないけど、話したいってことない? そういうのダメなのかよ」
村田は食い下がる。
「ああ、わかったよ」
小坂は引きとめられて仕方なく再び腰を下ろす。
このまま密室に二人きりでいたら流されてしまう。自分が話の主導権を握らなければ。
小坂は気を取り直した。
「そういえば、村田、お父さんと会うんだって?」
小坂は尋ねた。校長室で村田が校長に話していたことが、ずっと気になっていた。
「うん」
村田は、意外にも素直にうなずいた。しかも嬉しそうに、子どもっぽい笑顔を浮かべさえして。
いや、子どもっぽいわけじゃない。年相応なだけだ。
村田はいつも大人ぶっていた。実際、見た目は、というか体つきは、大人の男と遜色なかった。その上、村田は、カッコつけで表情や雰囲気を大人っぽく見せていた。
いや、大人っぽいわけでもない。
いつも、ふてくされた表情で、反抗的な村田。不良的行動の数々。そして、小坂への加害行動。
それが、珍しく高校生らしい無邪気な笑顔になったのだ。
加害者の村田に同情することはない。距離を取らなければ。境界線を引かなければ。
担任を続ける必要だってない。今年度は病気療養にして、来年度、他校へ転任させてもらうことだってできるかもしれない。
校長に言えば、何もかも思い通りになるかもしれない。
でも、そのためには、全てを話さなければならない。それを思うと気が重かった。そんなことは自分にはとてもできない気がした。
自分が責められそうだ。
非難されて、批判されて、反対意見を述べられて、なお自分の考えを述べる勇気はなかった。こと、自分のことに関しては。
自分が間違っていると言われるに違いない。
小坂が自分の傷に触れたくないために、回避行動をとっている間に、事態はどんどん悪くなっていったのだ。だが、誰が小坂を責められるだろう。
誰だって自分の傷には触れられたくないじゃないか。
村田に年相応の無邪気な笑顔を見せつけられて、小坂は、
「よかったな」
と言うほかなかった。
生徒の成長を助け、幸せを願うのが教師の役目だ。
よかったじゃないか。
口ではそう言ったが小坂の気持ちは複雑だった。
村田に慕われているような気がしたのに、実の父親には、かなわないのか、と寂しく思う。
自分を犠牲にして、いや、ないがしろにして、何をやっているんだ自分は。
勝手に幸せになった生徒を恨んでいる。
自分と共に、ずっと不幸に落ちていればいいと、生徒が幸せになることを阻もうとしている。
最低だな。
でも、捨てられたくなかった。
村田は加害者だ。自分に対して悪をなす。小坂を傷つける加害者だった。
なのに、その村田に、しがみついている自分。悲惨だな。
小坂は自分を責めて、自分の心をズタズタに引き裂いた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる