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第十八章 生徒の村田とイケメン教師
イケメン教師、駐車場で村田につかまる
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「お先に失礼します」
小坂は、まだ居残っている同僚たちに挨拶をして、職員室を後にした。
見回りの任を解かれたので、もう校内の見回りも、校外の見回りも、する必要がなくなった。
請け負った業務が一つなくなったのはいいことだ。なにせ教員の仕事は多い。多岐にわたる。業務が一つでも減れば、本来の教科指導に専念できるというものだ。
なのに、なぜか物足りない。
見回りは校長から直々に頼まれた仕事だった。その業務の任を解かれたのは寂しくもあった。見放されたのかと不安にもなった。
見回りの後は、チェック簿を上司である校長に毎日提出していた。放課後、校長室に提出に行くたびにされるセクハラまがいの行為。信頼されている証ならばと受け入れた矢先だったのに。
だが、研修に参加して、その不安も消えた。権力者である校長に庇護され、信頼され、愛されている。そう確信できた。
だから、これでいいはずだ。これ以上、何が欲しいというのだろう。これ以上、何かを求めるなんて。
駐車場の車を解錠し運転席に乗りこもうとした時だった。
「小坂せんせ」
生徒の村田が、そう言って車の陰から現れた。
小坂は立ちすくんだ。
固まる小坂をよそに、村田は勝手に助手席に乗り込んで、
「どうしたの? 早く行こうよ」
と、車の中から急かした。悪辣な笑みを浮かべ、小坂を悪の道に誘う担任の生徒。村田悪照。
もう、きっぱり誘いは断ろうと小坂は思っていた。
研修で、そう指導されたではないか。
なのに、本人を前にすると、断る言葉が出なかった。
村田は秘密ごとのように言う。
「学校ではダメなんでしょ? だから俺の家で」
素行が悪いことで評判の村田。そんな生徒を指導しなければいけない立場なのに、自分は毎度、流されている。
さっさと家に送り届けてしまおう。
小坂は腹を括り、そう決めると運転席に乗りこんだ。
小坂は村田のアパートの駐車場に車を停めた。
「着いたぞ。降りないのか」
小坂は村田の顔も見ずに言う。早く降りてほしい。自分が流されないうちに。
なのに村田は助手席から動こうともしない。
それどころか、いつものように馴れ馴れしく、
「小坂せんせーは、彼氏にいつもしてもらってるの?」
などと聞いてきた。
「何のことだ」
小坂が突き放しても、
「わかってるくせに。とぼけちゃって」
と、村田は一向に引き下がる気配もない。
「ねえねえ、彼氏がいるんでしょ? 違うの?」
小坂は返事ができなかった。
校長は彼氏といえるだろうか。いや違う。単なる上司だ。高校時代の恩師でもある。校長は既婚者だ。妻とは別居中だなどと言っているが、別れるつもりはないようだ。
校長にしてみれば若い小坂を利用しているだけだろう。多少は愛されているかもしれないが。恋人だなどと自惚れるつもりはない。そんな風に思ってしまったら、傷つくのは自分なのだ。
それに引き換え、調教師の麓戸は独身だった。結婚歴はあるが、はっきり離婚していた。その上、麓戸は校長より若い。
といっても、麓戸のことは小坂自身も、よく知らなかった。仕事だって、アダルトショップを経営しているなんて、いかにもあやしげだ。公立高校の教師である小坂が、大手を振って付き合っていいような相手でないことは明白だった。
だいたい麓戸のことを恋人と思っていたのは自分だけだ。麓戸にとっては、小坂は、たくさんいる調教者のうちの一人にすぎないのだ。結局、その他大勢なのだ。
小坂が離れようとすると、その場、その場で、耳触りのよい甘い言葉を投げてくる。が、真実の言葉だとは思えない。小坂を引きとめるために言っているにすぎないことは、小坂も薄々わかっていた。
そんな麓戸とも別れた。苦しい関係を精算したつもりだった。連絡もしていない。向こうからも連絡は来なかった。
自分がそう望んだのだ。だが、そんなにあっさりと引き下がられると、所詮その程度だったのかと悲しくも思う。
麓戸の言うように自分は「校長を選んだ」というわけでもない。果たしてこれでよかったのか。
小坂は、とつおいつ思案した。
「おーい、先生、小坂せんせー」
生徒の質問から、もの思いに耽ってしまった小坂を、生徒は現実に呼び戻す。
「やだなぁ、どんなやらしいこと思い出してたの?」
村田は、そう言って小坂の手を取った。
「俺は、小坂せんせーみたいに、いっぱい相手がいないからさぁ、どうしても、溜まっちゃうんだよねぇ」
つかんだ小坂の手を村田の股間に持っていった。
「こんなになっちゃった」
と村田は固くなったモノを触らせた。小坂は、ビクッとした。
こんなことに、いつまでも脅迫されるがままに付き合う必要などない。断らないから、なめられる。断れないでいるから誤解される。むしろ付き合ってはいけない。断るべきなのだ。相手は未成年の、しかも自分が担任する生徒なのだから。断らなければいけない。断るの一択。帰らなければ。
「今の小坂ってさ、駐車場の車の中で、制服着た生徒の股間を触ってるヤバい教師にしか見えないよね」
村田はクスッと笑って、小坂の顔を見る。
小坂は慌てて手を引っこめようとした。その手をすかさず握って村田は言う。
「家に上がってよ。いろいろ話したいことがあるし」
じっと目を見つめられる。
「話?」
小坂は釣られた。
ああ。今回だけだぞ。
小坂はため息をついた。フロントガラスから夕暮れの空が見えた。
小坂は、まだ居残っている同僚たちに挨拶をして、職員室を後にした。
見回りの任を解かれたので、もう校内の見回りも、校外の見回りも、する必要がなくなった。
請け負った業務が一つなくなったのはいいことだ。なにせ教員の仕事は多い。多岐にわたる。業務が一つでも減れば、本来の教科指導に専念できるというものだ。
なのに、なぜか物足りない。
見回りは校長から直々に頼まれた仕事だった。その業務の任を解かれたのは寂しくもあった。見放されたのかと不安にもなった。
見回りの後は、チェック簿を上司である校長に毎日提出していた。放課後、校長室に提出に行くたびにされるセクハラまがいの行為。信頼されている証ならばと受け入れた矢先だったのに。
だが、研修に参加して、その不安も消えた。権力者である校長に庇護され、信頼され、愛されている。そう確信できた。
だから、これでいいはずだ。これ以上、何が欲しいというのだろう。これ以上、何かを求めるなんて。
駐車場の車を解錠し運転席に乗りこもうとした時だった。
「小坂せんせ」
生徒の村田が、そう言って車の陰から現れた。
小坂は立ちすくんだ。
固まる小坂をよそに、村田は勝手に助手席に乗り込んで、
「どうしたの? 早く行こうよ」
と、車の中から急かした。悪辣な笑みを浮かべ、小坂を悪の道に誘う担任の生徒。村田悪照。
もう、きっぱり誘いは断ろうと小坂は思っていた。
研修で、そう指導されたではないか。
なのに、本人を前にすると、断る言葉が出なかった。
村田は秘密ごとのように言う。
「学校ではダメなんでしょ? だから俺の家で」
素行が悪いことで評判の村田。そんな生徒を指導しなければいけない立場なのに、自分は毎度、流されている。
さっさと家に送り届けてしまおう。
小坂は腹を括り、そう決めると運転席に乗りこんだ。
小坂は村田のアパートの駐車場に車を停めた。
「着いたぞ。降りないのか」
小坂は村田の顔も見ずに言う。早く降りてほしい。自分が流されないうちに。
なのに村田は助手席から動こうともしない。
それどころか、いつものように馴れ馴れしく、
「小坂せんせーは、彼氏にいつもしてもらってるの?」
などと聞いてきた。
「何のことだ」
小坂が突き放しても、
「わかってるくせに。とぼけちゃって」
と、村田は一向に引き下がる気配もない。
「ねえねえ、彼氏がいるんでしょ? 違うの?」
小坂は返事ができなかった。
校長は彼氏といえるだろうか。いや違う。単なる上司だ。高校時代の恩師でもある。校長は既婚者だ。妻とは別居中だなどと言っているが、別れるつもりはないようだ。
校長にしてみれば若い小坂を利用しているだけだろう。多少は愛されているかもしれないが。恋人だなどと自惚れるつもりはない。そんな風に思ってしまったら、傷つくのは自分なのだ。
それに引き換え、調教師の麓戸は独身だった。結婚歴はあるが、はっきり離婚していた。その上、麓戸は校長より若い。
といっても、麓戸のことは小坂自身も、よく知らなかった。仕事だって、アダルトショップを経営しているなんて、いかにもあやしげだ。公立高校の教師である小坂が、大手を振って付き合っていいような相手でないことは明白だった。
だいたい麓戸のことを恋人と思っていたのは自分だけだ。麓戸にとっては、小坂は、たくさんいる調教者のうちの一人にすぎないのだ。結局、その他大勢なのだ。
小坂が離れようとすると、その場、その場で、耳触りのよい甘い言葉を投げてくる。が、真実の言葉だとは思えない。小坂を引きとめるために言っているにすぎないことは、小坂も薄々わかっていた。
そんな麓戸とも別れた。苦しい関係を精算したつもりだった。連絡もしていない。向こうからも連絡は来なかった。
自分がそう望んだのだ。だが、そんなにあっさりと引き下がられると、所詮その程度だったのかと悲しくも思う。
麓戸の言うように自分は「校長を選んだ」というわけでもない。果たしてこれでよかったのか。
小坂は、とつおいつ思案した。
「おーい、先生、小坂せんせー」
生徒の質問から、もの思いに耽ってしまった小坂を、生徒は現実に呼び戻す。
「やだなぁ、どんなやらしいこと思い出してたの?」
村田は、そう言って小坂の手を取った。
「俺は、小坂せんせーみたいに、いっぱい相手がいないからさぁ、どうしても、溜まっちゃうんだよねぇ」
つかんだ小坂の手を村田の股間に持っていった。
「こんなになっちゃった」
と村田は固くなったモノを触らせた。小坂は、ビクッとした。
こんなことに、いつまでも脅迫されるがままに付き合う必要などない。断らないから、なめられる。断れないでいるから誤解される。むしろ付き合ってはいけない。断るべきなのだ。相手は未成年の、しかも自分が担任する生徒なのだから。断らなければいけない。断るの一択。帰らなければ。
「今の小坂ってさ、駐車場の車の中で、制服着た生徒の股間を触ってるヤバい教師にしか見えないよね」
村田はクスッと笑って、小坂の顔を見る。
小坂は慌てて手を引っこめようとした。その手をすかさず握って村田は言う。
「家に上がってよ。いろいろ話したいことがあるし」
じっと目を見つめられる。
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小坂はため息をついた。フロントガラスから夕暮れの空が見えた。
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