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第十九章 麓戸との再会
イケメン教師、女の話を麓戸に暴かれる
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「だが、お前は、俺の息子を犯した教師。責任をとれ」
麓戸の口調は冗談とも本気ともつかない。
麓戸の息子が犯したのであって小坂ではない。そこからして間違っている。
「責任?」
小坂は憤慨を心に押しとどめながら聞き返す。
「オテルと結婚しろ」
麓戸は息子の名を口にした。
「は?」
小坂はポカンとした。
麓戸は何を言っているのだろう。
男同士で結婚。できないわけではない。外国に行けば。だが日本では正式な同性婚は難しい。
それに、なぜ村田悪照と。
「絶対に、嫌です」
なんだって無理矢理犯した相手と。どんな地獄だ。いくら麓戸の息子とはいえ。いや、麓戸の息子だからこそ、嫌だ。
「オテルの半分は俺の遺伝子でできてるんだぞ」
そんな論理なら、麓戸のことだって嫌いになりかねない。自分を犯した人間の親なんて、と。
親子と言っても、麓戸と村田はそれぞれ別個の人間と思えばこそ、許せているというのに。
「オテルも、なかなかいい男だろ。俺と違って若いしな」
麓戸は、年齢に、コンプレックスを感じているのだろうか。いやにこだわる。
「僕は、麓戸さんが好きです」
いくら遺伝子半分が同じと言われても、いくら若くても、いくら変態プレイで毎日喘がされていても、快感を感じてしまっていても、村田のことは好きじゃない。嫌いだ。
そう。嫌いだ。
生徒だから、好き嫌いを考えないようにしていた。
好き嫌いで生徒を見るなんてできない。あってはならない。平等に。公平に接しなければいけない。
だから耐えていた。
だけど、嫌いだ。
いくら麓戸の息子だと言われても、嫌なものは嫌だ。
生徒として普通に接することは、できているつもりだった。
でも我慢の限界だ。こんな風に言われるなんて。
「だったら、俺の養子になれ」
それは、麓戸と結婚するということか? 同性同士で結婚したい場合、相手の養子になるという手がないわけではない。
麓戸とだったら。
小坂は、しばし夢想する。
麓戸とだったら結婚してもいいかもしれない。
甘い夢。
毎日、毎晩、好きな人がそばにいる。毎朝、好きな人の傍で目覚める。そんな幸せ。
そんなささやかな幸せを願ってはいけないだろうか。
はい。
小坂は、承諾の返事を口にしそうになった。
だが麓戸の思惑は違った。
「舅の俺と毎晩交われ」
麓戸はくちばしった。
「禁断の関係だ。どうだ嬉しいだろう」
「結婚って……」
やっぱり、息子、村田悪照との結婚なのか。
麓戸と結婚だったら、してみたい。
なのに、なぜ息子となんだ。
「校長の息子と結婚したいか? それとも他に好きな生徒でもいるのか?」
「いえ……」
だから、なぜ息子。
校長の息子なんて、会ったこともないのに。
誤解がすぎる。校長には、引きこもりの大学生の一人息子がいるということしか知らないのに。
「オテルは正式には女と結婚させる。あいつはバイセクシャルだから」
正式には、か。
結婚だなんていって、結局は、そんな扱いか。
本気で小坂のことを思っているとは思えない。
「僕だって、そうですよ」
小坂は、少しでも期待したことが悔しくて、負け惜しみのように主張した。
「へえ。好きな女がいるのか?」
「好きなわけはないですが……」
小坂は口ごもる。そんな風に、突っ込まれるとは思わなかった。
「どんな女だ」
あなたの元妻です……とは、さすがに言えない。誰とは言えない。
だが麓戸の前で、ごまかしは許されない。
「強姦されました」
小坂は、白状した。
「女に?」
麓戸は、いぶかしんだ。
「はい」
「バカだなお前」
麓戸は嘲った。
「どんな風に犯されたんだ?」
興味津々の様子で麓戸は聞いてきた。
「そんなこと言いたくありません」
麓戸の興味本位の態度に、さすがの小坂も腹が立った。
「ふうん。プライドが傷ついたらしい。どうせアナルに玩具でも挿れられたんだろう。それで無理やり勃起させられて挿入か」
さすが元旦那だ。当たっている。
「そんな感じです……」
「舐めてもらったんだろう?」
麓戸は小坂の髪を撫でた。
「そうですね……」
この人にも同じように……いや、あの行為も、この人が教えたのか……。
「そんなのは女が好きなうちに入らない。まあ、俺も別に女が嫌いなわけじゃない。ガキもこしらえたくらいだからな」
「僕だって、普通に女性と結婚したいです」
「へえ。その強姦された女と?」
「違います。誰か……僕に合いそうな人と」
優しくて物静かな人。知的で穏やかな、笑顔のきれいな人。小坂は勝手に想像する。
麓戸は小坂の夢を嘲笑う。
「こんな淫乱アナルを満足させられるのは、男しかいないよ。まあ、でも女をつくってもかまわない。自由にさせるよ。オデトは女にはモテるだろうからね。ただし、その性癖がバレるまでは、だな。お前、本当に女とセックスできるのか?」
麓戸はニヤニヤ笑って小坂を見る。
小坂の顔はカッと熱くなる。
「本当にできるのかどうか、俺の目の前で見せてもらわないと信じられないな」
「そんな……なんてこと言うんです」
「おい、今度その女を連れてこいよ」
「いやです」
相手が麓戸の元妻だとバレたら、所有欲の強い麓戸のことだ、どんなことになるかわからない。
今だって息子が小坂を犯したのに、小坂が息子を犯したことにされている。
「元妻を犯した」小坂をどんなにいたぶるかわからない。
「随分と反抗的になったじゃないか。でもそういうお前も悪くない」
麓戸の指が小坂の首筋を撫でる。
「僕は、ちゃんと女性と結婚したいんです。それで家庭を持って……」
小坂が主張すると麓戸がいらだったようにさえぎった。
「なぜ、それに執着するんだ? こんなアナルで我慢できるわけがないのに。男と浮気するのを許容してくれる女を探すのか?」
「僕は結婚したら、浮気なんてしません」
「へえ。今だって、校長やら生徒やらと浮気しまくっている身体がねえ」
麓戸はクスクスと笑った。
「それは僕の意思じゃないです。あなたが他の人と寝ろと命じたんじゃないですか」
小坂は反論した。
「俺はお前の淫乱性を見抜いていたからね。性処理係でその後、まっとうに生きられたやつはいない。俺の一つ下の後輩は耐えきれずに高校生の時に屋上から飛び降りて死んだ」
「やめてくださいそんな話」
「それでも事件はもみ消された。俺は彼を愛していたのに。あいつは神崎を好きだった。神崎に捨てられて死んだ。俺のような人間はまれだ。俺は反抗的だったからな。一つ上の性処理係の先輩は、大物政治家の愛人として生きている。オデトは俺の愛人兼教師。それでいいだろう?」
「嫌です。僕は、女性と結婚して幸せな家庭を作ります」
麓戸の口調は冗談とも本気ともつかない。
麓戸の息子が犯したのであって小坂ではない。そこからして間違っている。
「責任?」
小坂は憤慨を心に押しとどめながら聞き返す。
「オテルと結婚しろ」
麓戸は息子の名を口にした。
「は?」
小坂はポカンとした。
麓戸は何を言っているのだろう。
男同士で結婚。できないわけではない。外国に行けば。だが日本では正式な同性婚は難しい。
それに、なぜ村田悪照と。
「絶対に、嫌です」
なんだって無理矢理犯した相手と。どんな地獄だ。いくら麓戸の息子とはいえ。いや、麓戸の息子だからこそ、嫌だ。
「オテルの半分は俺の遺伝子でできてるんだぞ」
そんな論理なら、麓戸のことだって嫌いになりかねない。自分を犯した人間の親なんて、と。
親子と言っても、麓戸と村田はそれぞれ別個の人間と思えばこそ、許せているというのに。
「オテルも、なかなかいい男だろ。俺と違って若いしな」
麓戸は、年齢に、コンプレックスを感じているのだろうか。いやにこだわる。
「僕は、麓戸さんが好きです」
いくら遺伝子半分が同じと言われても、いくら若くても、いくら変態プレイで毎日喘がされていても、快感を感じてしまっていても、村田のことは好きじゃない。嫌いだ。
そう。嫌いだ。
生徒だから、好き嫌いを考えないようにしていた。
好き嫌いで生徒を見るなんてできない。あってはならない。平等に。公平に接しなければいけない。
だから耐えていた。
だけど、嫌いだ。
いくら麓戸の息子だと言われても、嫌なものは嫌だ。
生徒として普通に接することは、できているつもりだった。
でも我慢の限界だ。こんな風に言われるなんて。
「だったら、俺の養子になれ」
それは、麓戸と結婚するということか? 同性同士で結婚したい場合、相手の養子になるという手がないわけではない。
麓戸とだったら。
小坂は、しばし夢想する。
麓戸とだったら結婚してもいいかもしれない。
甘い夢。
毎日、毎晩、好きな人がそばにいる。毎朝、好きな人の傍で目覚める。そんな幸せ。
そんなささやかな幸せを願ってはいけないだろうか。
はい。
小坂は、承諾の返事を口にしそうになった。
だが麓戸の思惑は違った。
「舅の俺と毎晩交われ」
麓戸はくちばしった。
「禁断の関係だ。どうだ嬉しいだろう」
「結婚って……」
やっぱり、息子、村田悪照との結婚なのか。
麓戸と結婚だったら、してみたい。
なのに、なぜ息子となんだ。
「校長の息子と結婚したいか? それとも他に好きな生徒でもいるのか?」
「いえ……」
だから、なぜ息子。
校長の息子なんて、会ったこともないのに。
誤解がすぎる。校長には、引きこもりの大学生の一人息子がいるということしか知らないのに。
「オテルは正式には女と結婚させる。あいつはバイセクシャルだから」
正式には、か。
結婚だなんていって、結局は、そんな扱いか。
本気で小坂のことを思っているとは思えない。
「僕だって、そうですよ」
小坂は、少しでも期待したことが悔しくて、負け惜しみのように主張した。
「へえ。好きな女がいるのか?」
「好きなわけはないですが……」
小坂は口ごもる。そんな風に、突っ込まれるとは思わなかった。
「どんな女だ」
あなたの元妻です……とは、さすがに言えない。誰とは言えない。
だが麓戸の前で、ごまかしは許されない。
「強姦されました」
小坂は、白状した。
「女に?」
麓戸は、いぶかしんだ。
「はい」
「バカだなお前」
麓戸は嘲った。
「どんな風に犯されたんだ?」
興味津々の様子で麓戸は聞いてきた。
「そんなこと言いたくありません」
麓戸の興味本位の態度に、さすがの小坂も腹が立った。
「ふうん。プライドが傷ついたらしい。どうせアナルに玩具でも挿れられたんだろう。それで無理やり勃起させられて挿入か」
さすが元旦那だ。当たっている。
「そんな感じです……」
「舐めてもらったんだろう?」
麓戸は小坂の髪を撫でた。
「そうですね……」
この人にも同じように……いや、あの行為も、この人が教えたのか……。
「そんなのは女が好きなうちに入らない。まあ、俺も別に女が嫌いなわけじゃない。ガキもこしらえたくらいだからな」
「僕だって、普通に女性と結婚したいです」
「へえ。その強姦された女と?」
「違います。誰か……僕に合いそうな人と」
優しくて物静かな人。知的で穏やかな、笑顔のきれいな人。小坂は勝手に想像する。
麓戸は小坂の夢を嘲笑う。
「こんな淫乱アナルを満足させられるのは、男しかいないよ。まあ、でも女をつくってもかまわない。自由にさせるよ。オデトは女にはモテるだろうからね。ただし、その性癖がバレるまでは、だな。お前、本当に女とセックスできるのか?」
麓戸はニヤニヤ笑って小坂を見る。
小坂の顔はカッと熱くなる。
「本当にできるのかどうか、俺の目の前で見せてもらわないと信じられないな」
「そんな……なんてこと言うんです」
「おい、今度その女を連れてこいよ」
「いやです」
相手が麓戸の元妻だとバレたら、所有欲の強い麓戸のことだ、どんなことになるかわからない。
今だって息子が小坂を犯したのに、小坂が息子を犯したことにされている。
「元妻を犯した」小坂をどんなにいたぶるかわからない。
「随分と反抗的になったじゃないか。でもそういうお前も悪くない」
麓戸の指が小坂の首筋を撫でる。
「僕は、ちゃんと女性と結婚したいんです。それで家庭を持って……」
小坂が主張すると麓戸がいらだったようにさえぎった。
「なぜ、それに執着するんだ? こんなアナルで我慢できるわけがないのに。男と浮気するのを許容してくれる女を探すのか?」
「僕は結婚したら、浮気なんてしません」
「へえ。今だって、校長やら生徒やらと浮気しまくっている身体がねえ」
麓戸はクスクスと笑った。
「それは僕の意思じゃないです。あなたが他の人と寝ろと命じたんじゃないですか」
小坂は反論した。
「俺はお前の淫乱性を見抜いていたからね。性処理係でその後、まっとうに生きられたやつはいない。俺の一つ下の後輩は耐えきれずに高校生の時に屋上から飛び降りて死んだ」
「やめてくださいそんな話」
「それでも事件はもみ消された。俺は彼を愛していたのに。あいつは神崎を好きだった。神崎に捨てられて死んだ。俺のような人間はまれだ。俺は反抗的だったからな。一つ上の性処理係の先輩は、大物政治家の愛人として生きている。オデトは俺の愛人兼教師。それでいいだろう?」
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