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第六章 調教師とイケメン教師
イケメン教師、調教師に電話で誘惑される
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職員室に戻っても、もう誰もいない。小坂は、鞄を持って電気を消し、職員室をあとにした。
教員用の昇降口で革靴に履き替えて、外へ出た。外は暗くなっていた。靴裏で砂利が踏みしめられ、ザクッザクッと軋んだ音を立てた。砂利は、小坂の足もとを不安定にし、歩みを妨げる。小坂は、開錠し、セダンに乗りこんだ。助手席に鞄を投げ出すと、ふうっとため息をついた。
鞄から飛び出たスマホが、助手席で振動しているのに気づいた。手に取って見てみると、着信履歴が連なっていた。麓戸からだった。
小坂は、あわてて折り返しの電話をした。数度の呼び出し音のあと、すぐに麓戸の声がした。
「何をしていた」
小坂は息を飲む。
「すみません。会議があって」
とっさに嘘を言った。
「すぐに来い。報告は、店で聞く」
あたりまえのように、麓戸は命ずる。
小坂は、ためらいののちに、答えた。
「今日は、行けないんです。ちょっと、体調が悪くて」
あながち、嘘ではない。村田とも、校長ともしたのだ。
「どうした。やりすぎでアナルでもいためたか?」
嘲るような調子で麓戸が聞いてきた。
「そんなところです……」
「いい機会だ。今日は口淫だけでイかせよう」
小坂の答えを、麓戸は鼻で笑って、そう言った。
「いえ……」
「唇も腫れているのか? だったら、ニップルクリップでいためつけてやろう」
「それも……」
「イくのが嫌なのか。貴様はすでに、乳首だけでイく身体だからな」
「はい……」
小坂は、麓戸に調教しつくされていた。
「だったら、拘束して、鞭で撫でまわして焦らしてやるよ」
「いや……それも……」
「鞭がほしいと言いだすんだろうな」
「はい……」
がまんできるわけがなかった。
麓戸とは、もう、会えないのだ。
「あの、麓戸さん……」
小坂は、思いきって告げた。
「生徒に、バレました……。僕が、麓戸さんの店を利用してることが……」
「なんだって」
麓戸は、何も、知らないようだった。
「生徒が、校長に告げ口して、僕は、校長から叱られました」
「それで、今日、来られないというんだな?」
小坂は、黙った。苦しかった。
「校長には、だいぶいためつけられたのか」
麓戸の声が聞いた。
「はい……」
結局、ほんとうのことを言わされていた。
「そうか。校長にやられて嬉しかったんだろう」
麓戸の声は笑っていたが、本当は怒っているのがわかった。
「違います……!」
小坂は即座に否定した。
「会議だなどと見えすいた嘘を言って。ついに、あの、変態校長とやったのか」
「ちがいます……」
「嘘を言っても無駄だ。動画の提出もしないで。今度会うときは、たっぷりお仕置きだ」
「お仕置き……ですか」
小坂は、つばを飲みこんだ。
「されたいんだろう」
「いえ……」
もう、望んではいけないことだった。
「それとも、甘いささやきでも、ほしくなったのか?」
電話の向こうで麓戸が皮肉な笑いを浮かべているのが想像できる。
「いいえ……」
「愛しているよ、愛出人……。愛出人に会いたくてたまらない。愛出人を思いきり喘がせてやりたい。なのに、会えないなんて」
受話口から聞こえる、麓戸の甘いささやきは、悪魔の誘惑だった。小坂は、よろめいた。
「すみません……」
「そうか、そんなに体調がよくないのか。心配だな……。大丈夫か?」
「はい……」
「愛出人は、一人暮らしだろう?」
麓戸の声は、いつになく優しかった。
「はい……」
「本当に具合が悪いようだったら、俺を呼ぶんだぞ」
小坂は麓戸に命を助けられたのだ。それからいつも、麓戸は小坂を気にかけてくれていた。ほかの男たちをも飼いながら、小坂は特別だと、麓戸は小坂に何度もささやいた。その言葉を小坂は信じたかった。
「わかってます」
「勝手に死ぬんじゃないぞ」
まるで、助けられたあの日のように、麓戸は言った。
「大丈夫です」
小坂は自分に言い聞かせるように答えた。
「心配だな……。ちゃんと食べてるのか?」
麓戸の声は、本当に小坂を思っているように聞こえた。疑いたくはなかった。
「職場に学食がありますから」
小坂は、麓戸の優しさに負けまいとした。
「夕飯は」
「食べなくても平気です」
小坂は強がった。
「平気じゃない。そんなんだから……。よし、飯でも行くか?」
麓戸は、フランクな調子で言った。
「え?」
小坂は驚いた。
「連れてってやる」
そんなことを言われたのは、麓戸と関係ができてから初めてのことだった。麓戸が食事に誘ってくれるだなんて。
「でも……」
信じられなかった。正直、嬉しかった。
「遠慮するな。新しい店だ。愛出人を連れていってやりたい」
いつも冷たい麓戸の声が、今日は明るく優しかった。そして、自分を店に連れていきたいと言うのだ。
「そうですか……」
心ひかれる誘いだが、ついさっき、校長と、もう麓戸とは会わないと約束したばかりなのだ……。
「今日は具合が悪いなら、明日でもいい。明日だったら、来れそうか?」
麓戸が、小坂を気づかうように聞くのも珍しかった。
「それが……」
言葉を濁してばかりの小坂に、業を煮やしたように、麓戸は聞いた。
「校長に、俺と会うなと言われたのか?」
「はい……」
結局、小坂は、麓戸に、正直なところを、全て答えさせられていた。
麓戸の舌打ちが聞こえた。麓戸の苦虫を噛み潰したような表情が目に浮かぶ。
「そうか。そういうことか」
麓戸が、深いため息をついた。沈鬱な沈黙が続いた。
「つまり、『俺とは、もう会わない。別れる』ということだな?」
それなら仕方ない。麓戸がそう言って電話を切る気配がした。
小坂は追いすがった。
「……麓戸さん……! 僕は……僕は、やっぱり、麓戸さんに、もう一度、会いたいです……!」
麓戸と、もう会わないなど、やっぱり、無理だと思った。せめてもう一度だけ。
あらざらん この世のほかの思い出に 今ひとたびの あうこともがな
電話は、切れていた。
今はただ 思い耐えなん とばかりを 人づてならで 言うよしもがな
今なら、まだ間に合う。もう後悔したくなかった。ただ、会って、別れの言葉を告げるだけ……。それだけでいいから……。せめて、それだけ。それくらい、許されるはずだ。
教員用の昇降口で革靴に履き替えて、外へ出た。外は暗くなっていた。靴裏で砂利が踏みしめられ、ザクッザクッと軋んだ音を立てた。砂利は、小坂の足もとを不安定にし、歩みを妨げる。小坂は、開錠し、セダンに乗りこんだ。助手席に鞄を投げ出すと、ふうっとため息をついた。
鞄から飛び出たスマホが、助手席で振動しているのに気づいた。手に取って見てみると、着信履歴が連なっていた。麓戸からだった。
小坂は、あわてて折り返しの電話をした。数度の呼び出し音のあと、すぐに麓戸の声がした。
「何をしていた」
小坂は息を飲む。
「すみません。会議があって」
とっさに嘘を言った。
「すぐに来い。報告は、店で聞く」
あたりまえのように、麓戸は命ずる。
小坂は、ためらいののちに、答えた。
「今日は、行けないんです。ちょっと、体調が悪くて」
あながち、嘘ではない。村田とも、校長ともしたのだ。
「どうした。やりすぎでアナルでもいためたか?」
嘲るような調子で麓戸が聞いてきた。
「そんなところです……」
「いい機会だ。今日は口淫だけでイかせよう」
小坂の答えを、麓戸は鼻で笑って、そう言った。
「いえ……」
「唇も腫れているのか? だったら、ニップルクリップでいためつけてやろう」
「それも……」
「イくのが嫌なのか。貴様はすでに、乳首だけでイく身体だからな」
「はい……」
小坂は、麓戸に調教しつくされていた。
「だったら、拘束して、鞭で撫でまわして焦らしてやるよ」
「いや……それも……」
「鞭がほしいと言いだすんだろうな」
「はい……」
がまんできるわけがなかった。
麓戸とは、もう、会えないのだ。
「あの、麓戸さん……」
小坂は、思いきって告げた。
「生徒に、バレました……。僕が、麓戸さんの店を利用してることが……」
「なんだって」
麓戸は、何も、知らないようだった。
「生徒が、校長に告げ口して、僕は、校長から叱られました」
「それで、今日、来られないというんだな?」
小坂は、黙った。苦しかった。
「校長には、だいぶいためつけられたのか」
麓戸の声が聞いた。
「はい……」
結局、ほんとうのことを言わされていた。
「そうか。校長にやられて嬉しかったんだろう」
麓戸の声は笑っていたが、本当は怒っているのがわかった。
「違います……!」
小坂は即座に否定した。
「会議だなどと見えすいた嘘を言って。ついに、あの、変態校長とやったのか」
「ちがいます……」
「嘘を言っても無駄だ。動画の提出もしないで。今度会うときは、たっぷりお仕置きだ」
「お仕置き……ですか」
小坂は、つばを飲みこんだ。
「されたいんだろう」
「いえ……」
もう、望んではいけないことだった。
「それとも、甘いささやきでも、ほしくなったのか?」
電話の向こうで麓戸が皮肉な笑いを浮かべているのが想像できる。
「いいえ……」
「愛しているよ、愛出人……。愛出人に会いたくてたまらない。愛出人を思いきり喘がせてやりたい。なのに、会えないなんて」
受話口から聞こえる、麓戸の甘いささやきは、悪魔の誘惑だった。小坂は、よろめいた。
「すみません……」
「そうか、そんなに体調がよくないのか。心配だな……。大丈夫か?」
「はい……」
「愛出人は、一人暮らしだろう?」
麓戸の声は、いつになく優しかった。
「はい……」
「本当に具合が悪いようだったら、俺を呼ぶんだぞ」
小坂は麓戸に命を助けられたのだ。それからいつも、麓戸は小坂を気にかけてくれていた。ほかの男たちをも飼いながら、小坂は特別だと、麓戸は小坂に何度もささやいた。その言葉を小坂は信じたかった。
「わかってます」
「勝手に死ぬんじゃないぞ」
まるで、助けられたあの日のように、麓戸は言った。
「大丈夫です」
小坂は自分に言い聞かせるように答えた。
「心配だな……。ちゃんと食べてるのか?」
麓戸の声は、本当に小坂を思っているように聞こえた。疑いたくはなかった。
「職場に学食がありますから」
小坂は、麓戸の優しさに負けまいとした。
「夕飯は」
「食べなくても平気です」
小坂は強がった。
「平気じゃない。そんなんだから……。よし、飯でも行くか?」
麓戸は、フランクな調子で言った。
「え?」
小坂は驚いた。
「連れてってやる」
そんなことを言われたのは、麓戸と関係ができてから初めてのことだった。麓戸が食事に誘ってくれるだなんて。
「でも……」
信じられなかった。正直、嬉しかった。
「遠慮するな。新しい店だ。愛出人を連れていってやりたい」
いつも冷たい麓戸の声が、今日は明るく優しかった。そして、自分を店に連れていきたいと言うのだ。
「そうですか……」
心ひかれる誘いだが、ついさっき、校長と、もう麓戸とは会わないと約束したばかりなのだ……。
「今日は具合が悪いなら、明日でもいい。明日だったら、来れそうか?」
麓戸が、小坂を気づかうように聞くのも珍しかった。
「それが……」
言葉を濁してばかりの小坂に、業を煮やしたように、麓戸は聞いた。
「校長に、俺と会うなと言われたのか?」
「はい……」
結局、小坂は、麓戸に、正直なところを、全て答えさせられていた。
麓戸の舌打ちが聞こえた。麓戸の苦虫を噛み潰したような表情が目に浮かぶ。
「そうか。そういうことか」
麓戸が、深いため息をついた。沈鬱な沈黙が続いた。
「つまり、『俺とは、もう会わない。別れる』ということだな?」
それなら仕方ない。麓戸がそう言って電話を切る気配がした。
小坂は追いすがった。
「……麓戸さん……! 僕は……僕は、やっぱり、麓戸さんに、もう一度、会いたいです……!」
麓戸と、もう会わないなど、やっぱり、無理だと思った。せめてもう一度だけ。
あらざらん この世のほかの思い出に 今ひとたびの あうこともがな
電話は、切れていた。
今はただ 思い耐えなん とばかりを 人づてならで 言うよしもがな
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