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第二十六章 麓戸と校長の邂逅
麓戸、神崎のとんでもない企みを知る
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そんな風に話していると、「しっ」と神崎が指を立てた。
隣の部屋から話し声がする、と思ったら、ナイトテーブルの上に置かれたスピーカーからだった。
「隣室の声が、聞こえるようにしてある」
神崎は説明して、モニターのスイッチを入れた。
「えっ」
そこには小坂とともに中年の女性が映っていた。
「この女性は?」
ここは神崎の自宅なのだから、普通に考えて、神崎の妻だろう。しかし、二人の様子がただごとでない親密な様子だったので、問いただしたのだ。小坂のために、神崎が、商売女でも呼んだのだろうか。
「まあ、いいから、しばらく大人しく見ていたまえ」
「変な趣味ですね。覗き見みたいで嫌だなあ。こんなことが何になるんですか?」
麓戸は、そう言って反対の意思を示したつもりだったが、神崎は意に介さないようで、
「小坂くんが女性とやっているところを、麓戸君は、まだ、見たことないだろう」
と言ってきた。
「まあ、そうですけど、特に見たいとも思わないですからね」
麓戸は、つっけんどんに言い返した。
「そうかい? へえ、麓戸君の、小坂くんに対する想いは、その程度のものなのか。独占欲が強いようなことを言っていたけれど、大したことないのだな。幸せだね。それなら私もほっとしたよ。今日は、君と果し合いになるかと覚悟していたからね。その程度の執着ならありがたい。私は、小坂くんのあらゆることを知っておきたくてね」
挑発するように神崎が言うので、麓戸はのせられた。
「は? 俺だって、オデトの事は、何だって知ってるさ。ただ、女性とやっているところを覗くだなんて、下卑た真似をしたくないだけだ」
麓戸がそう怒ると、神崎は麓戸の怒りを煽るように笑った。
「ははは。そうか、そうか。さすが、よいご家庭で育っただけあって、君はお上品だね」
神崎の嫌味に麓戸はカッとなった。
「なに!?」
麓戸は、よいご家庭のご子息だなどと言われるのが大嫌いだったので、むきになって神崎に食ってかかった。
「だったら、ババアが喘いでいるところなんて見たくないと本音を言えばいいのか?」
「あはは、ほんとに君は、昔から口が悪いなあ。まあ、君からしたら、そうかもしれんな。だが、その熟女と、あの美青年の小坂くんが、どんなことになるのか、見ものじゃないかい? 退廃美といおうか。エロチシズムをそそられてわくわくするじゃないか」
と神崎がただのスケベ心を高尚そうに言うのに、麓戸は虫唾が走った。
「そんなグロテスクなものに興味なんかない。気色悪いだけだ。気味が悪い。俺は女なんか嫌いだ」
麓戸は吐き捨てた。学生時代のような反発心と今まで押し殺していた教師や自分を押さえ込もうとする親兄弟や世間への怒りが神崎の前だと抑えられなかった。
「わかった、わかった。そんなに怒らずに。これも小坂くんのためだと思って、しばらく見ていてあげたまえ」
「オデトのため? どこが」
神崎のいうことは無茶苦茶だ。恩着せがましい言い草だ。オデトのためとかなんとか言って自分の支配欲を満たしたいだけだろ、と怒りがわいた。
「小坂くんは、女性と練習する必要があるんだ。ほら、小坂くんは……」
「女性と結婚して子どもを作って、家庭を持ちたい、んだろう? バカバカしい。柄にもない。あいつにそんなことできるわけないのに」
オデトもオデトだ。こんなうさんくさい神崎に心酔して、丸めこまれている。洗脳されて、いいようにエロ行為をさせられている。少しは気づけよ、と腹が立つ。
「はなから、そう決めつけるもんじゃないよ。小坂くんは、あんなにいい男なんだ。遺伝子を残さないのも、もったいないじゃないか」
「容姿はいい男かもしれないけれど、中身はめちゃくちゃじゃないか。あんな淫乱で性依存の遺伝子なんて、残す方が不幸だ」
オデトの悪口を言っているようだが違う。そんなオデトを誰よりも愛しているのは自分だけ。そんなオデトであるのは事実だが、それでも俺はオデトを愛している。神崎は自分の理想の、自分に忠実で都合のいい美青年に、オデトを仕立て上げたいだけじゃないか。と言いたかったのだ。
麓戸は心の中で自分を擁護し、神崎を罵倒した。そんな麓戸の心をなだめすかすように神崎は言う。
「そんなことを言うもんじゃないよ。麓戸君はそれでも小坂くんを愛しているのかい? 彼の希望をかなえてあげたいじゃないか」
「希望を叶えるだけが、いいことじゃない、って、池井のことで学んだんじゃなかったのか? 余計なお世話だろ。そんなの、本人のためにならない、余計なおせっかいだ」
麓戸は神崎の考え方を否定した。
隣の部屋から話し声がする、と思ったら、ナイトテーブルの上に置かれたスピーカーからだった。
「隣室の声が、聞こえるようにしてある」
神崎は説明して、モニターのスイッチを入れた。
「えっ」
そこには小坂とともに中年の女性が映っていた。
「この女性は?」
ここは神崎の自宅なのだから、普通に考えて、神崎の妻だろう。しかし、二人の様子がただごとでない親密な様子だったので、問いただしたのだ。小坂のために、神崎が、商売女でも呼んだのだろうか。
「まあ、いいから、しばらく大人しく見ていたまえ」
「変な趣味ですね。覗き見みたいで嫌だなあ。こんなことが何になるんですか?」
麓戸は、そう言って反対の意思を示したつもりだったが、神崎は意に介さないようで、
「小坂くんが女性とやっているところを、麓戸君は、まだ、見たことないだろう」
と言ってきた。
「まあ、そうですけど、特に見たいとも思わないですからね」
麓戸は、つっけんどんに言い返した。
「そうかい? へえ、麓戸君の、小坂くんに対する想いは、その程度のものなのか。独占欲が強いようなことを言っていたけれど、大したことないのだな。幸せだね。それなら私もほっとしたよ。今日は、君と果し合いになるかと覚悟していたからね。その程度の執着ならありがたい。私は、小坂くんのあらゆることを知っておきたくてね」
挑発するように神崎が言うので、麓戸はのせられた。
「は? 俺だって、オデトの事は、何だって知ってるさ。ただ、女性とやっているところを覗くだなんて、下卑た真似をしたくないだけだ」
麓戸がそう怒ると、神崎は麓戸の怒りを煽るように笑った。
「ははは。そうか、そうか。さすが、よいご家庭で育っただけあって、君はお上品だね」
神崎の嫌味に麓戸はカッとなった。
「なに!?」
麓戸は、よいご家庭のご子息だなどと言われるのが大嫌いだったので、むきになって神崎に食ってかかった。
「だったら、ババアが喘いでいるところなんて見たくないと本音を言えばいいのか?」
「あはは、ほんとに君は、昔から口が悪いなあ。まあ、君からしたら、そうかもしれんな。だが、その熟女と、あの美青年の小坂くんが、どんなことになるのか、見ものじゃないかい? 退廃美といおうか。エロチシズムをそそられてわくわくするじゃないか」
と神崎がただのスケベ心を高尚そうに言うのに、麓戸は虫唾が走った。
「そんなグロテスクなものに興味なんかない。気色悪いだけだ。気味が悪い。俺は女なんか嫌いだ」
麓戸は吐き捨てた。学生時代のような反発心と今まで押し殺していた教師や自分を押さえ込もうとする親兄弟や世間への怒りが神崎の前だと抑えられなかった。
「わかった、わかった。そんなに怒らずに。これも小坂くんのためだと思って、しばらく見ていてあげたまえ」
「オデトのため? どこが」
神崎のいうことは無茶苦茶だ。恩着せがましい言い草だ。オデトのためとかなんとか言って自分の支配欲を満たしたいだけだろ、と怒りがわいた。
「小坂くんは、女性と練習する必要があるんだ。ほら、小坂くんは……」
「女性と結婚して子どもを作って、家庭を持ちたい、んだろう? バカバカしい。柄にもない。あいつにそんなことできるわけないのに」
オデトもオデトだ。こんなうさんくさい神崎に心酔して、丸めこまれている。洗脳されて、いいようにエロ行為をさせられている。少しは気づけよ、と腹が立つ。
「はなから、そう決めつけるもんじゃないよ。小坂くんは、あんなにいい男なんだ。遺伝子を残さないのも、もったいないじゃないか」
「容姿はいい男かもしれないけれど、中身はめちゃくちゃじゃないか。あんな淫乱で性依存の遺伝子なんて、残す方が不幸だ」
オデトの悪口を言っているようだが違う。そんなオデトを誰よりも愛しているのは自分だけ。そんなオデトであるのは事実だが、それでも俺はオデトを愛している。神崎は自分の理想の、自分に忠実で都合のいい美青年に、オデトを仕立て上げたいだけじゃないか。と言いたかったのだ。
麓戸は心の中で自分を擁護し、神崎を罵倒した。そんな麓戸の心をなだめすかすように神崎は言う。
「そんなことを言うもんじゃないよ。麓戸君はそれでも小坂くんを愛しているのかい? 彼の希望をかなえてあげたいじゃないか」
「希望を叶えるだけが、いいことじゃない、って、池井のことで学んだんじゃなかったのか? 余計なお世話だろ。そんなの、本人のためにならない、余計なおせっかいだ」
麓戸は神崎の考え方を否定した。
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