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第二十八章 変わりゆく関係
イケメン教師、村田悪照の進路相談をする
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進路相談室。午後の陽射しが、ブラインドの隙間から細く射している。
小坂が机に資料を広げていると、ノックもなしにドアが開いた。
「……失礼しまーす。小坂先生、います?」
村田悪照の声だった。くたびれたジャージに鞄を背負ったまま、飄々と入ってくる。
「話、って言ってたんで来ましたけど。大丈夫です?」
「ええ。大丈夫です。どうぞ」
できるだけ平静を装って言う。
「……てか、進路の話、ぶっちゃけそんなないんすけど」
椅子にだらりと腰掛けながら、悪照は言う。
「部活ばっかやってたら、今さら何やろうとか、わかんねえっていうか」
悪照は、自慢げに言う。以前は部活をさぼっていたのに、今は部活が楽しいらしい。サラリーマンの忙しい自慢みたいなものだろう。
小坂は黙って資料を閉じ、ペンを置いた。
「でも、何か考え始める時期ですよ」
麓戸は、息子の悪照の進学資金を出すと言っているが、本人が、大学に進学したいのかどうかは、まだ不明なようだ。
「っすよねえ」
悪照はあくびをひとつ。
「いや、最近さ……俺、父さんと住んでるじゃないですか。麓戸の」
小坂の指が一瞬、反応しそうになる。
「……最初は、“かっこいい”とは思ったんですよ。正直。金持ちだし。オーラあるし。
でも、無理っすね。祖父さんにも会ったけど、ピンと張りつめた空気っていうか、
従兄弟とか、伯父さんとか、“超エリート”みたいで。全然ついてけない」
「……そうですか」
「で、結局、俺、母ちゃんと再婚相手の方が気が楽っすわ。あの人、若いし、ノリ合うし。
今まで母ちゃんと二人きりだったから、ちょっと男っぽい人が家にいるのも、案外悪くないっす」
小坂は、何も言えなかった。
悪照が続ける。
「でもさ――小坂先生って、麓戸の父さんと、どういう関係?」
急に、核心を突く。
「……付き合ってるんすか? 付き合ってた?
最初さ、校長とそういう関係かと思ってたけど、今って……どっち?」
沈黙が落ちた。
小坂は、表情を崩さなかった。
「――それは、生徒に話すことじゃありません」
淡々と返す。
悪照は「マジか」と笑いながら、手を上げて「すみません」と言う。
「まあ、でもさ。父さんって、案外一途っぽいし。
小坂先生も……なんか、こっち側の人って感じだし」
小坂は静かに立ち上がった。
「今日はここまでにしましょう」
悪照が椅子を引く。
「ま、また来ます。どうせ担任だし。
……先生、あんま無理しないでくださいね」
その言葉だけ残して、彼は部屋を出て行った。
ドアが閉まったあと、小坂は椅子に沈み、静かに深呼吸をひとつ落とした。
ーーー
作者の新作『君の声しか届かない』公開中。
高校が舞台、無口で毒舌な美形同級生×元女優の母を持つ可愛い演劇部男子。
R18なしですが、心理描写とじれじれ感、切なさはこちらと同様です。こちらより穏やかで癒し系です。
※作品ページ下部のリンク欄から飛べます。
小坂が机に資料を広げていると、ノックもなしにドアが開いた。
「……失礼しまーす。小坂先生、います?」
村田悪照の声だった。くたびれたジャージに鞄を背負ったまま、飄々と入ってくる。
「話、って言ってたんで来ましたけど。大丈夫です?」
「ええ。大丈夫です。どうぞ」
できるだけ平静を装って言う。
「……てか、進路の話、ぶっちゃけそんなないんすけど」
椅子にだらりと腰掛けながら、悪照は言う。
「部活ばっかやってたら、今さら何やろうとか、わかんねえっていうか」
悪照は、自慢げに言う。以前は部活をさぼっていたのに、今は部活が楽しいらしい。サラリーマンの忙しい自慢みたいなものだろう。
小坂は黙って資料を閉じ、ペンを置いた。
「でも、何か考え始める時期ですよ」
麓戸は、息子の悪照の進学資金を出すと言っているが、本人が、大学に進学したいのかどうかは、まだ不明なようだ。
「っすよねえ」
悪照はあくびをひとつ。
「いや、最近さ……俺、父さんと住んでるじゃないですか。麓戸の」
小坂の指が一瞬、反応しそうになる。
「……最初は、“かっこいい”とは思ったんですよ。正直。金持ちだし。オーラあるし。
でも、無理っすね。祖父さんにも会ったけど、ピンと張りつめた空気っていうか、
従兄弟とか、伯父さんとか、“超エリート”みたいで。全然ついてけない」
「……そうですか」
「で、結局、俺、母ちゃんと再婚相手の方が気が楽っすわ。あの人、若いし、ノリ合うし。
今まで母ちゃんと二人きりだったから、ちょっと男っぽい人が家にいるのも、案外悪くないっす」
小坂は、何も言えなかった。
悪照が続ける。
「でもさ――小坂先生って、麓戸の父さんと、どういう関係?」
急に、核心を突く。
「……付き合ってるんすか? 付き合ってた?
最初さ、校長とそういう関係かと思ってたけど、今って……どっち?」
沈黙が落ちた。
小坂は、表情を崩さなかった。
「――それは、生徒に話すことじゃありません」
淡々と返す。
悪照は「マジか」と笑いながら、手を上げて「すみません」と言う。
「まあ、でもさ。父さんって、案外一途っぽいし。
小坂先生も……なんか、こっち側の人って感じだし」
小坂は静かに立ち上がった。
「今日はここまでにしましょう」
悪照が椅子を引く。
「ま、また来ます。どうせ担任だし。
……先生、あんま無理しないでくださいね」
その言葉だけ残して、彼は部屋を出て行った。
ドアが閉まったあと、小坂は椅子に沈み、静かに深呼吸をひとつ落とした。
ーーー
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