140 / 475
第十二章 電車編
イケメン教師、電車は苦手だと校長に告げる
しおりを挟む
懇親会をここで断るのは難しそうだった。校長のメンツをつぶすことになる。
仕方がない、参加ということにしておいて、乾杯だけして、いざとなったら体調を理由に引き上げればいい、と小坂は考えた。
だが、小坂には、酒席のほかに、もう一つ苦手なものがあった。
「酒席はセクハラされるから参加したくない」と言い難いように、こちらを苦手とする理由もまた、はなはだ言いにくかった。言いづらいが、ここは言わねばならぬ。小坂は意を決して小声でおずおずと言いかけた。
「実は私、電車は……苦手で……」
すると校長は、小坂の表情を見てとったのか、小坂がしまいまで言い切らぬうちに、すぐさま返してきた。
「痴漢にあうからか?」
図星だった。校長の、あたりをはばからぬ腹から出す大声と「痴漢」の言葉に、小坂の顔は熱くなった。仕事をしていた職員たちも、それぞれに、顔を上げ、手を止め、振り向いて、小坂の方をいっせいに注目した。
「小坂君のような美男子は、女性専用車両に女性が避難して、逆に、ますます危なくなったな」
校長は、あっはっはと腹の底から笑った。校長のセクハラ発言を、周囲の男性教諭たちもとがめずに、いっしょになって、にやにやして聞いている。
「ちがいます……単に電車に乗り慣れていないだけで……」
恥ずかしくなり誤魔化そうと、しどろもどろになる小坂の背中を、
「だったら心配ない」
と校長は、勇気づけるようにポンと叩いた。
「私が、しっかりエスコートしてやるから」
校長に耳もとで優しくささやかれ、小坂は、断ることができなくなった。
仕方がない、参加ということにしておいて、乾杯だけして、いざとなったら体調を理由に引き上げればいい、と小坂は考えた。
だが、小坂には、酒席のほかに、もう一つ苦手なものがあった。
「酒席はセクハラされるから参加したくない」と言い難いように、こちらを苦手とする理由もまた、はなはだ言いにくかった。言いづらいが、ここは言わねばならぬ。小坂は意を決して小声でおずおずと言いかけた。
「実は私、電車は……苦手で……」
すると校長は、小坂の表情を見てとったのか、小坂がしまいまで言い切らぬうちに、すぐさま返してきた。
「痴漢にあうからか?」
図星だった。校長の、あたりをはばからぬ腹から出す大声と「痴漢」の言葉に、小坂の顔は熱くなった。仕事をしていた職員たちも、それぞれに、顔を上げ、手を止め、振り向いて、小坂の方をいっせいに注目した。
「小坂君のような美男子は、女性専用車両に女性が避難して、逆に、ますます危なくなったな」
校長は、あっはっはと腹の底から笑った。校長のセクハラ発言を、周囲の男性教諭たちもとがめずに、いっしょになって、にやにやして聞いている。
「ちがいます……単に電車に乗り慣れていないだけで……」
恥ずかしくなり誤魔化そうと、しどろもどろになる小坂の背中を、
「だったら心配ない」
と校長は、勇気づけるようにポンと叩いた。
「私が、しっかりエスコートしてやるから」
校長に耳もとで優しくささやかれ、小坂は、断ることができなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる