触手ちゃんは綺麗な巫子さんがお好き

リリーブルー

文字の大きさ
5 / 9

それでも、好きと言いたくて

しおりを挟む

剣の刃が月光にきらりと光った。

「フロから離れろ!」

ルイの声が森に響いた。
その手に握られた剣。
モコの身体が本能的に縮こまる。

「やめて、ルイ!」
フロが間に立った。

けれどルイの目には、怒りと――その底びある悲しみが宿っていた。
ルイは、止めに入ったフロにさとすように言う。
「……なあ、フロ。お前、本当にわかってるのか?
そいつは、喋りもできない。意思疎通もできない。
もし“それ”が、お前に何かしたら――」

「もう、してるよ」
フロの声が、静かにルイの言葉を断ち切った。
「私は……モコと、触れ合った。
言葉はなくても、ぬくもりがあった。
思いやりも、優しさも。私が神殿で感じられなかったもの、
全部、モコの中にあった」

「……っ!」
ルイの剣が、少しだけ下がる。
「お前、神殿にいた頃は“選ばれなかった”って泣いてたくせに。
今度は化け物にすがるのかよ……!
それって本当に、愛なのか?」

フロの目が、ふるえていた。
「……わからないよ。怖いよ。
でも、モコといると、
“僕は、ここにいてもいいんだ”って、そう思えるの」
フロは言葉を続ける。
「ルイ、あなたは私を“守る”って言うけど……
僕は、守られるだけじゃ、満たされない」

ルイの目に、わずかに涙が浮かんだ。
「そんな……俺は、フロが傷つくのを見たくないだけだよ」

フロは言う。
「モコは、僕を“見て”くれる。
僕の強さも、弱さも、全部――そのぬめりで包んでくれるんだ」

フロの言葉に、モコの胸がきゅうっと締め付けられた。
人間に直接語り掛けられる言葉がない僕に、こんなにもたくさんのことを感じてくれていたんだ。

フロが振り返って、僕の身体にそっと手を添える。
「モコ、ありがとう。あなたに出会えて、本当によかった」
そのぬくもりが、僕の身体の中心に灯をともす。

好き。

どうしても――言いたかった。

この気持ちを、ちゃんと伝えたかった。

僕は――

水面を泡立たせ、ぷくりぷくりと、何度も鳴らした。

ぷ、ぷ、ぷ。

ぷくり。

ぷく。

「す……き……」

――聞こえたかな?

かすかな、小さな、鳴き声?音?だった。

でも、たしかに人に聞こえる“言葉”になっていた……と思う。

フロの目が、大きく見開かれる。

「……モコ?」

僕は、もう一度、水面に音を立てた。

「すき」

今度は、はっきりと。
フロの名前を呼ぶように。

「……!」

フロが、僕の身体をぎゅっと抱きしめた。

「うん、僕も。僕も、モコのこと、好きだよ……!」

月を隠していた雲が取り払われて、森の世界が、満月の光に包まれる。

その瞬間――

ルイは、そっと剣を鞘におさめていた。

「……勝てねえな」

彼は、ぽつりとそう言って、ゆっくりと背を向けた。

「……でも、覚えてろ。モコ。
フロを泣かせたら、次は容赦しない」

そう言い残して、ルイは夜の森へと消えていった。

そして――フロと僕は、泉のほとりで、しばらくのあいだ、寄り添っていた。

言葉はまだ、うまく話せないけれど。

もう、伝わっている。

この“好き”は、ちゃんと届いてる。

それだけで――僕のぬめりは、今夜も、あたたかかった。



 💫つづく…

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

復讐のゲームで少年は淫獄に堕とされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...