触手ちゃんは綺麗な巫子さんがお好き

リリーブルー

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君と、ひとつの形になる

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フロと僕は、泉のそばで静かに暮らしていた。

人と触手――言葉も姿も違うけど、想いが通じ合ってからの日々は、あたたかくてやさしくて、まるで夢のようだった。

フロは、毎晩ぼくの身体を撫でて、たくさん話をしてくれた。

「今日の君、ぬめりがしっとりしてるね。雨が降る前かな?」

「ねえ、モコ。この間の“ぷくっ”って、あれ、笑ったんでしょ? ふふ、可愛い」

僕も、触手でフロの髪を梳いたり、頬をつついたりして応えた。

そのたびに、フロは笑ってくれる。

それが、嬉しくてしかたなかった。

でも――その夜、森に異変が起きた。

***

「――フロ・リーヴァ様」

月明かりの下、荘厳な白い装束の男が立っていた。

背後には、神殿の紋章を背負った衛兵たち。

「神の命により、あなたを迎えに上がりました」

フロの手が震える。

「……戻らない。僕は、もう“選ばれなかった”巫子だ」

「それは、過去の話です」

使者の声は淡々としていた。

「神は再びあなたを“必要”とされました。
神の花嫁として、正式に――神との交わりの儀式を行うよう命じられています」

モコの身体がびくりと震えた。

“神との交わり”…?

それって、きっと――フロが、誰かに、触れられるってことだ。

(……いやだ)

胸の奥が、ぐちゃっと、苦しくなる。

(フロを、誰にも、渡したくない)

でも、言えなかった。

フロは目を伏せたまま、言葉を失っていた。

***

その夜――

泉のほとりで、フロと僕はふたりきりで座っていた。

「ねえ、モコ。……どうしたらいいのかな」

フロの手が、そっと僕の触手を握る。

「僕は、“神”に選ばれたら、“巫子”としての役目を果たさなきゃいけない。
でも……本当は、君といたい。
君と、もっと触れ合いたい。
人と人外とか、関係ない。
僕、あなたに、ちゃんと……触れて、
“好き”を伝えたいんだ」

その言葉に、僕の身体がぶわっと熱くなった。

(フロ……)

どうしたら、もっと「好き」が伝わるんだろう。

触手じゃ、全部を包みきれない。

ぬめりだけじゃ、フロのぬくもりを抱きしめられない。

(僕も……ちゃんと、触れたい)

そう、思ったその瞬間だった。

泉が、静かに揺れた。

――チャプン。

水面に、銀の光がきらめく。

泉の底から、何かが呼んでいる。

それは、かつてフロが神殿で感じていた“神ではない何か”――
そう、たぶん、モコの奥にある“本当の力”だった。

そのとき――

「……モコ?」

フロが驚いたように僕を見た。

僕の触手のひとつが、光を帯びはじめていた。

“変化”が起きていた。

(……これが、フロに、ちゃんと触れられる身体?)

僕は知らなかった。
でも、泉の底で願った。

“フロに、ふつうの手で触れたい”と。

泉の水が、僕の身体にまとわりつき、かたちを変えていく。

フロが僕の手を見つめて、そっと言った。

「……モコ、これ、君の“こころ”なの?」

うん。

ぬめりでもなく、泡でもなく。

今、はじめて――

“ほんとうの形”で、触れられた気がした。

***

しかし、その様子を、遠くから見つめる瞳があった。

――ルイだった。

木陰で息を潜め、彼はふたりの姿を見ていた。

「……アイツ、変わってきてる。ただの“人外”じゃない」

モコの中には、“もっと大きな何か”が眠っている。

そしてそれは――“フロの命”にも関わるかもしれない。

「……もしアイツがフロを壊すような存在だったら――」

ルイの瞳に、再び剣の光が宿る。


 🌙次章予告「水底の愛、運命の剣」

* モコは「人のかたち」を少しずつ手に入れていく…でも、それは“何かの代償”と引き換え?
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