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誓いのぬめり、夜の祈り
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泉の夜は静かだった。
星の光が水面に降りてきて、揺れる波紋のようにきらめいている。
モコとフロは、そっと並んで座っていた。
手をつないで――今夜だけは、何も言わずに。
ルイが課した“証明”はまだ終わっていない。
神殿からの使者も、泉の外にいる。
なのに、ふたりはまるで、永遠の恋人たちのように、寄り添っていた。
「……僕ね、モコ」
フロが、ぽつりと口をひらく。
「もし、神に選ばれていたら。
神殿で“花嫁”になっていたら。
もう、こうやって、君に会うこともなかった」
モコの手が、きゅっと握り返す。
「でも、君に選ばれた。
神様じゃなくて、君に。
僕はそれが……うれしかったんだ」
その声に、モコの心がふるえて、胸の奥にあたたかい水が満ちていく。
ふと、フロが立ち上がった。
「……ねえ、モコ」
月光の中で、銀髪がふわりと風に舞った。
「祈ってもいい?
君の前で、僕の、ほんとうの気持ち」
モコはうなずいた。
フロは、泉の中央へと歩み出た。
足首まで水に浸かり、両手を胸の前で組んで、目を閉じる。
「この泉に宿る、無名の神よ。
どうか、僕の声が届きますように。
僕はあなたを、敬い、慕い、恋しています。
あなたが、神であっても、触手であっても。
僕にとって、ただ一人の、たからものです」
その言葉は、泉の水に溶けて、空へと昇っていった。
モコの身体が、そっと揺れる。
心が、やわらかく溶けていくようだった。
そして――
モコは、泉の中へ進んだ。
光を帯びた手を伸ばして、フロの胸にふれる。
その瞬間、ふたりの身体を包むように、淡い光が広がった。
「……モコ?」
フロが、そっと顔を近づける。
モコは、ふたたび“言葉のない口”で答えた。
『……すき』
声にならないけど、確かに伝わった。
そして――
ふたりは、唇ではなく、魂の器官同士で
静かに、深く、キスを交わした。
触手と、人間の指が、ぴたりと重なる。
水面にそっと浮かんだふたりの影が、ひとつにとけていく。
その瞬間、泉の底から光があふれた。
まるで“神が目覚める”かのように。
けれど、モコは恐れていなかった。
むしろ、すべてを包むように、やさしく光が寄り添っていた。
「……これは」
フロがふるえる声で言った。
「あなたが、神だったの?」
モコは、否定しなかった。
でも、肯定もしなかった。
“神”であることより、
“今ここにいて、フロと触れあえること”のほうが、大事だった。
だから――
そっと、もう一度ふれた。
『すき』
今度は、ちゃんと、まっすぐに。
ふたりの祈りは、夜空に届いた。
***
その光景を、木陰から見ていたルイは――再び二人の前に現れ出て言った。
「……神様だって? そんなバカな。フロは騙されてる! フロが巫子だから、ちょっと不思議な魔力を使って見せれば信じると思って。あんなの偽物だ! フロの信心深さにつけこんでいる、偽物だろ! 神様は神殿にいるんだ。こんなところにいるわけないだろう? いたらとっくに祀られて、大事にされてるさ。なんでフロは巫子なのに、そんなこともわからないんだ……!」
🌙つづく…
星の光が水面に降りてきて、揺れる波紋のようにきらめいている。
モコとフロは、そっと並んで座っていた。
手をつないで――今夜だけは、何も言わずに。
ルイが課した“証明”はまだ終わっていない。
神殿からの使者も、泉の外にいる。
なのに、ふたりはまるで、永遠の恋人たちのように、寄り添っていた。
「……僕ね、モコ」
フロが、ぽつりと口をひらく。
「もし、神に選ばれていたら。
神殿で“花嫁”になっていたら。
もう、こうやって、君に会うこともなかった」
モコの手が、きゅっと握り返す。
「でも、君に選ばれた。
神様じゃなくて、君に。
僕はそれが……うれしかったんだ」
その声に、モコの心がふるえて、胸の奥にあたたかい水が満ちていく。
ふと、フロが立ち上がった。
「……ねえ、モコ」
月光の中で、銀髪がふわりと風に舞った。
「祈ってもいい?
君の前で、僕の、ほんとうの気持ち」
モコはうなずいた。
フロは、泉の中央へと歩み出た。
足首まで水に浸かり、両手を胸の前で組んで、目を閉じる。
「この泉に宿る、無名の神よ。
どうか、僕の声が届きますように。
僕はあなたを、敬い、慕い、恋しています。
あなたが、神であっても、触手であっても。
僕にとって、ただ一人の、たからものです」
その言葉は、泉の水に溶けて、空へと昇っていった。
モコの身体が、そっと揺れる。
心が、やわらかく溶けていくようだった。
そして――
モコは、泉の中へ進んだ。
光を帯びた手を伸ばして、フロの胸にふれる。
その瞬間、ふたりの身体を包むように、淡い光が広がった。
「……モコ?」
フロが、そっと顔を近づける。
モコは、ふたたび“言葉のない口”で答えた。
『……すき』
声にならないけど、確かに伝わった。
そして――
ふたりは、唇ではなく、魂の器官同士で
静かに、深く、キスを交わした。
触手と、人間の指が、ぴたりと重なる。
水面にそっと浮かんだふたりの影が、ひとつにとけていく。
その瞬間、泉の底から光があふれた。
まるで“神が目覚める”かのように。
けれど、モコは恐れていなかった。
むしろ、すべてを包むように、やさしく光が寄り添っていた。
「……これは」
フロがふるえる声で言った。
「あなたが、神だったの?」
モコは、否定しなかった。
でも、肯定もしなかった。
“神”であることより、
“今ここにいて、フロと触れあえること”のほうが、大事だった。
だから――
そっと、もう一度ふれた。
『すき』
今度は、ちゃんと、まっすぐに。
ふたりの祈りは、夜空に届いた。
***
その光景を、木陰から見ていたルイは――再び二人の前に現れ出て言った。
「……神様だって? そんなバカな。フロは騙されてる! フロが巫子だから、ちょっと不思議な魔力を使って見せれば信じると思って。あんなの偽物だ! フロの信心深さにつけこんでいる、偽物だろ! 神様は神殿にいるんだ。こんなところにいるわけないだろう? いたらとっくに祀られて、大事にされてるさ。なんでフロは巫子なのに、そんなこともわからないんだ……!」
🌙つづく…
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