転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー

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後日譚・番外編

レオナルトと黒猫ラセル「ぬくもりの夜」

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 秋の夜。冷え込んだ山の野営地で、ラセルは焚き火のそばで黒猫の姿に戻っていた。

レオナルトは、外套を一枚脱いで猫を包みこむように抱えた。

「寒くないか?」

ラセルは小さく「にゃ」と鳴いたあと、そのまま、ぴとっとレオナルトの胸元に顔をうずめる。

「……おまえ、本当に猫だな」

指先でふわふわの毛並みを撫でながら、レオナルトは少しだけ笑う。

「ずっとこのままでも、俺は構わんぞ」

ラセルは、ちらりと金の瞳を向ける。
その瞳には、どこか切ないような、でも嬉しそうな色が浮かんでいた。

しばらくして。

「……あのさ」

不意にラセルが言葉を発した。人の言葉で。猫の姿のままで。

「明日の朝になったら、人間に戻るけど――今夜は、もうちょっとこうしてていい?」

レオナルトは、何も言わず、ただその体を抱きしめ直した。

そして耳元で、そっと囁く。

「好きにしろ。……俺も、もう少しこうしていたい」

焚き火の火が静かに揺れ、ふたりの影をゆらゆらと重ねていた。





ラセル視点・レオナルト×黒猫ラセル

 

 夜の空気は、思ったよりも冷たかった。

 野営地の焚き火を囲むように張られた幕の内側で、僕は黒猫の姿で、レオナルトの膝の上にいた。

 ……いや、自分から乗ったわけじゃない。
 勝手に拾い上げられて、ぐるぐるにマントでくるまれたのだ。

「……くすぐったい」

 僕が言うと、レオナルトは微笑んだ。

「猫なのに、寒がりで神経質でわがままだ。
 ……だが、そういうところが嫌いじゃない」

 そのまま、彼の大きな手が、僕の背中をやさしく撫でる。

「ふわぁ……」

 レオナルトは、敵国の将だった。
 かつては、冷酷で知られた“鋼鉄の公爵”。今は王様。

 ……だけど、黒猫の僕の前では、なぜかいつも、こんなにもやさしい。

「……レオナルト」

「なんだ」

「このままじゃ、……ずっと猫のまま甘えたがってると思われそう」

「事実だろう」

「ちがうし……!」

 むくれて顔を背けると、彼の腕がきゅっと強くなった。
 猫の体では抗えないくらい、あたたかくて、つかまれたらもう逃げられない。

「今日はもう、人間に戻らなくていい」

「えっ……?」

「その姿のほうが、ずっと近くにいられるだろう」

(そう言われたら……)

 冷たい夜風が吹く。けれど、マントの中はぬくもりに満ちていた。
 僕は、彼の胸のあたりに顔をうずめて、小さく息をついた。

「ねえ、レオナルト」

「なんだ」

「もし、僕がただの猫だったら、……どうしてた?」

「“ただの猫”が、そんな声で俺の名前を呼ぶはずがない。ただの猫には、この間、引っかかれた」

「ふふっ……そっか」

「おまえはラセルだ。俺が好きになった黒猫は、“おまえ”なんだ」

 あたたかい声に包まれて、目を閉じる。

 世界のどこかに、僕のことを“ただのキャラ”じゃなくて、“誰か”として見てくれる人がいた。

 その人に、いま、こうして抱きしめられている。

「ありがとう……レオナルト」

 彼の胸に、そっとほほをすり寄せる。

「僕、いま、すごく幸せだよ」

 焚き火のはぜる音だけが、そっと静かに、夜を見守っていた。
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