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王宮での騒動
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王子との顔合わせは、それからすぐに組まれた。とびきりのドレスを着せられて馬車に乗りお城を目指す。
先日サンノールへ向かった馬車はあんなに楽しかったのに、立ち並ぶ色とりどりの店を眺めても、ただ憂鬱である。
「お嬢様。なんで俺まで連れてこられてるんですかね」
マーガレット以上の仏頂面で正面に座るギルバート。側近の護衛や使用人と共に同じ馬車へ押し込まれていた。ちなみに、父と母は別の馬車である。
「あら。お城に行けるなんて滅多にないことですわよ。良かったじゃない」
実際、ギルバートを連れてきたことは大して意味が無い。マーガレットですら緊張する場所でギルバートがどんな顔をするか、そのくらいの楽しみが欲しかっただけである。
***
「お初にお目にかかります。僕がアレクサンダー・ブライトウェルです」
紳士的な態度で丁寧にお辞儀をする少年は、12歳にして既にキラキラと輝きを放っていた。眩しすぎると目を逸らしたくなるマーガレットだったが、何とかこらえてスカートの裾を持ち、きちんと挨拶を返す。
「マーガレット・ルークラフトと申します。以後お見知り置きを」
やっとこ絞り出せた固い挨拶である。なんせ国王もいる席だ。もの凄い緊張感なのに加え、ここの兵士や王の側近は、悪い記憶を呼び起こすのだ。糾弾され、暴力すら振るわれ、ぶつけられた憎悪。
つ、と流れる冷汗を隠すため、しばらく顔があげられなかったほどである。
「そう畏まらずに表を上げてくれないか。せっかくの美しい顔なのだから」
そう。王子はこの歳にして既にこうなのだ。キラキラしたオーラに女殺しのセリフをポロリと吐く。天然なのか教育の賜物なのかは知らないが。
顔を上げてもまっすぐ王子を見ることが出来ず、視線が彷徨う。……が、王妃の足元でスカートを握り、ちょこんと立ってこちらを見上げる視線に目が行った。
王子の妹、オリビアである。
「……ふん!」
目が合うと、少しびくりとした後に可愛らしい瞳を細めて、ツンとそっぽを向いてしまう。マーガレットはその仕草に思わず笑みを漏らしてしまった。
「すまないマーガレット。気を悪くしないでくれ」
妹の態度を見て、困ったような笑顔で言うアレクサンダー。
「いえ、お兄さんが取られてしまうようで寂しいんですわよ、きっと」
ふふ、とマーガレットは小声で告げる。
「ああいう子が心を開いてくれる時なんて、格別に愛らしいんですのよね」
「へぇ、君にも妹がいるとは聞いていたが、他にも子どもと交流する機会が結構あったりするのか?」
「あ……いえ、あまりないからこそ、かしら?」
おほほ、と笑って誤魔化すマーガレット。
実の所マーガレット自身は子どもや小動物の類に興味はなかった。と、いうより苦手な方である。顔つきのキツさから、あまり近寄られないこともあってか、なんとなくマーガレットの方も子どもを可愛いと思えなかった。なんならうるさいし、汚いとすら思っていたのだ。だから、以前はオリビアに対しても生意気なガキと一蹴したものだった。
だが、立花メグは違う。両親は病気がちなメグのために犬や猫を飼っていて、一緒の生活はとても癒された。可愛らしく大切な家族である。
そして病棟ではたくさんの子どもと交流もした。色んな子どもがいたがみんな健気に頑張る愛らしい子達であった。
だから、今のマーガレットは子どもも動物も大好きなのである。
「あらあら、なんだかもう、仲睦まじいわね」
オリビアに聞こえないよう内緒話のようになっていたからか、すっかり王子との距離が近くなっており、王妃が微笑ましくそう言う。
「うむ。どうだ。食事の時間まで2人でゆっくり話してくるといい」
王様も頷き、そんな提案をしてくる。
「そうですね。行こうか、マーガレット」
当たり前のように手を差し出すアレクサンダー王子に、マーガレットは応じない訳には行かない。なんせ王様の提案なのである。
ちらりとギルバートを見てみると、素知らぬ顔で見送る体制である。
「え、ええ。よろしくお願いしますわ」
マーガレットは観念して、渋々その手をとった。
先日サンノールへ向かった馬車はあんなに楽しかったのに、立ち並ぶ色とりどりの店を眺めても、ただ憂鬱である。
「お嬢様。なんで俺まで連れてこられてるんですかね」
マーガレット以上の仏頂面で正面に座るギルバート。側近の護衛や使用人と共に同じ馬車へ押し込まれていた。ちなみに、父と母は別の馬車である。
「あら。お城に行けるなんて滅多にないことですわよ。良かったじゃない」
実際、ギルバートを連れてきたことは大して意味が無い。マーガレットですら緊張する場所でギルバートがどんな顔をするか、そのくらいの楽しみが欲しかっただけである。
***
「お初にお目にかかります。僕がアレクサンダー・ブライトウェルです」
紳士的な態度で丁寧にお辞儀をする少年は、12歳にして既にキラキラと輝きを放っていた。眩しすぎると目を逸らしたくなるマーガレットだったが、何とかこらえてスカートの裾を持ち、きちんと挨拶を返す。
「マーガレット・ルークラフトと申します。以後お見知り置きを」
やっとこ絞り出せた固い挨拶である。なんせ国王もいる席だ。もの凄い緊張感なのに加え、ここの兵士や王の側近は、悪い記憶を呼び起こすのだ。糾弾され、暴力すら振るわれ、ぶつけられた憎悪。
つ、と流れる冷汗を隠すため、しばらく顔があげられなかったほどである。
「そう畏まらずに表を上げてくれないか。せっかくの美しい顔なのだから」
そう。王子はこの歳にして既にこうなのだ。キラキラしたオーラに女殺しのセリフをポロリと吐く。天然なのか教育の賜物なのかは知らないが。
顔を上げてもまっすぐ王子を見ることが出来ず、視線が彷徨う。……が、王妃の足元でスカートを握り、ちょこんと立ってこちらを見上げる視線に目が行った。
王子の妹、オリビアである。
「……ふん!」
目が合うと、少しびくりとした後に可愛らしい瞳を細めて、ツンとそっぽを向いてしまう。マーガレットはその仕草に思わず笑みを漏らしてしまった。
「すまないマーガレット。気を悪くしないでくれ」
妹の態度を見て、困ったような笑顔で言うアレクサンダー。
「いえ、お兄さんが取られてしまうようで寂しいんですわよ、きっと」
ふふ、とマーガレットは小声で告げる。
「ああいう子が心を開いてくれる時なんて、格別に愛らしいんですのよね」
「へぇ、君にも妹がいるとは聞いていたが、他にも子どもと交流する機会が結構あったりするのか?」
「あ……いえ、あまりないからこそ、かしら?」
おほほ、と笑って誤魔化すマーガレット。
実の所マーガレット自身は子どもや小動物の類に興味はなかった。と、いうより苦手な方である。顔つきのキツさから、あまり近寄られないこともあってか、なんとなくマーガレットの方も子どもを可愛いと思えなかった。なんならうるさいし、汚いとすら思っていたのだ。だから、以前はオリビアに対しても生意気なガキと一蹴したものだった。
だが、立花メグは違う。両親は病気がちなメグのために犬や猫を飼っていて、一緒の生活はとても癒された。可愛らしく大切な家族である。
そして病棟ではたくさんの子どもと交流もした。色んな子どもがいたがみんな健気に頑張る愛らしい子達であった。
だから、今のマーガレットは子どもも動物も大好きなのである。
「あらあら、なんだかもう、仲睦まじいわね」
オリビアに聞こえないよう内緒話のようになっていたからか、すっかり王子との距離が近くなっており、王妃が微笑ましくそう言う。
「うむ。どうだ。食事の時間まで2人でゆっくり話してくるといい」
王様も頷き、そんな提案をしてくる。
「そうですね。行こうか、マーガレット」
当たり前のように手を差し出すアレクサンダー王子に、マーガレットは応じない訳には行かない。なんせ王様の提案なのである。
ちらりとギルバートを見てみると、素知らぬ顔で見送る体制である。
「え、ええ。よろしくお願いしますわ」
マーガレットは観念して、渋々その手をとった。
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